ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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65話:ゆるキャラと狐少女

 狐耳の少女といっても、ゆるキャラたちの知るメディルやアディナではない。

 

「〈神獣〉様、お初にお目にかかります。狐人族のトードリと申します。以後お見知りおきを」

 

 年の頃はアディナちゃんと同じか少し上だろうか。

 

 仕立ての良さそうな白いシャツと紺のロングスカート姿で、手入れの行き届いた艶のある、赤みがかった茶髪が腰まで真っすぐに伸びている。

品のある微笑を浮かべながらスカートをつまんで一礼する姿は、見紛うことなきいいとこのお嬢さんだ。

 

 これに対するゆるキャラサイドの反応は様々だ。

 

「はあ、どうも」

 

 お嬢様オーラに押されてマヌケな返事を返すのが精一杯な毛皮のかたまりと、途端に人見知りが発動して、もじもじしだす尻尾と角の生えた紅い幼女。

 

 翅の生えている緑の小さい少女は、新たな興味の対象を見つけて突撃しそうになっていたが、ゆるキャラがそれを阻止する。

 フィンがたすき掛けにしている〈コラン君パスケース(緑)〉をゆるキャラが掴むと、ネックストラップ部分が首に食い込んで「ぐえ」という可愛くない声が漏れた。

 

「ちょっと、何するのよ!」

「そうやってすぐ人様に抱き付こうとしないの。失礼でしょうが」

「大丈夫よ、相手は選んでやってるから」

 

 確かに王族とかには突撃していなかったけれども、この上品なお嬢さんも駄目じゃないか?

 頭についている狐耳を引っ張ったりしたら困惑させてしまうだろう。

 

「うー、久しぶりにもふもふしたかったのに」

「良かったら触ってみますか?」

 

 フィンが突撃しようとした理由に気付いたようで、意外にもお嬢さん側から申し出があった。

 その場で屈んで狐耳をぴくぴくと動かす。

 

「やったー新しいもふもふだー!おおっ、これはメディルとアディナより手触りがいい」

「尻尾もありますよ」

 

 ロングスカートを手で押さえて、裾から尻尾をひょっこりさせるトードリ。

 なんだろう、お嬢様かと思いきや意外ととっつきやすい。

 

 ふさふさの尻尾に抱き付いて恍惚の表情を浮かべているフィンを見て、もじもじがうずうずに変化したのがシンクだ。

 自分も触りたいが人見知りモードが邪魔をしていた。

 

「守護竜様もいかがですか?」

 

 トードリがフィンを尻尾にくっ付けたままシンクに歩み寄る。

 しゃがみ込んで目線の高さをシンクに合わせると優しく微笑む。

 

 するとなんということでしょう。

 樹海の外ではどんな相手でも慣れるのに最低丸一日は要していたシンクが、おずおずとトードリの尻尾を触ったではありませんか。

 

「へえ~、子どもの扱いが上手いな」

「普段は孤児院で働いていますから」

 

「はーい、ふれあいコーナーはそのくらいにして、話を進めますよー」

「えー!まだ、まだよ」

「ん、まだたりない」

 

 結局トードリのもふもふを堪能する二人の激しい抵抗にあい、ふれあいコーナーは終わらなかった。

 仕方なく場所をソファーに移してから改めて自己紹介を再開する。

 

 トードリは王都エルセルから南下した位置にある、カナートという街に住んでいた。

 今回彼女が呼ばれた理由は、三年前に先輩異邦人と思われる人物に命を救われていたからである。

 

「私が持っている加護は少し特殊でして、小さい頃からこの加護を利用したい商人たちの間で、私は〈取引〉されていました」

 

 加護についての詳しい言及はなかったが、トードリは商人たちの間で〈商品〉として扱われていたそうだ。

 

 そして三年前とある商人が別の商人へトードリ嬢を売るため、馬車で街道を移動していた時に魔獣に襲われた。

 その魔獣は人里には滅多に現れないような強い個体で、護衛の冒険者を殺戮して商隊を全滅に追い込む。

 

 トードリも殺されそうになったが、偶然通りかかった先輩異邦人に助けられたというわけだ。

 

「討伐するには第二位階冒険者のパーティーが必要と言われている〈影狼〉を、ニール様は一太刀で倒してしまいました」

 

 ニールというのが先輩異邦人の名前である。

 黒髪黒瞳の美少年と聞いていたので、勝手に日本人だと思っていたのだが違うのかもしれない。

 

 それにしても先輩異邦人は強いとは聞いていたが、在野最強の第二位階の冒険者パーティーが相手にするような魔獣を一撃ですか。

 当時の守護竜を倒してしまうくらいなので、そのくらい朝飯前なのだろう。

 

 美少年で強いとか……〈天は二物を与えず〉とかいうことわざは、ちゃんと仕事をして欲しいものだ。

 

「助けて頂いた後もニール様は私の〈商品〉として扱われる境遇を不憫に思ってくださり、グインドルチェ家の後ろ盾を用意してくださいました。それからはカナートの街で平穏に暮らしています」

 

 グインドルチェ家というのは、カナートの街及び周辺を統治する領主貴族の名前だ。

 レヴァニア王国には領地を持つ貴族が十二家存在し、〈十二貴族〉と呼ばれていた。

 

 なんだが魔の世界(アビス)からゲートをくぐって、こちらの世界に侵略してきそうなネーミングセンスで格好いいな。

 

 ニールはカナートの冒険者ギルドで登録していて、その麗しい見た目と強さから相当目立っていたようだ。

 おかげでエドワーズの問い合わせですぐ手掛かりが掴めて、トードリへとたどり着いたというわけだ。

 

「ニール様は私の居場所を作った後は、すぐに南へと旅立ってしまいました」

「南?」

「はい、南にある自由都市キールにて元の世界に帰る方法を探すそうです」

 

 自由都市キールというのは、レヴァニア王国よりずっと南に下がって、他の国を三つほど通過した辺りにある都市だ。

 

 どこの国にも属していない独立都市で、国の法律や関税、宗教や倫理といったしがらみが無いため、多くの学者や研究者が集う街だという。

 ということはつまり大陸最先端の技術や魔術、研究施設が整っている環境でもある。

 

 ニールが元の世界に帰る手がかりを求める先としては最善手か。

 

 異邦人がこのアトルランと呼ばれている世界へやってくる理由や方法、及び帰還方法は分かっていない。

 ゆるキャラの場合は〈混沌の女神〉の介入があったわけだが、全ての異邦人がそうというわけでもなかった。

 

 もしニールが元の世界への帰還方法を見つけたなら、ゆるキャラも日本に帰れるのだろうか。

 いや、まずは猫に会って人の姿に戻してもらう交渉をしなければ。

 

 この姿のまま戻ってしまったら、胡蘭市のマスコットとして永久就職する羽目になってしまう。

 その前に謎の珍獣として捕獲され、研究対象として解剖(バラ)されてしまうかもしれないが……。

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