同じ問答が繰り返され、首が更に三つ飛ぶ頃には静寂が戻っていた。
木造の家が燃えるパチパチという音だけが聞こえる。
「ちっ、気色悪い邪教徒どもだ」
覚悟を決めた闇森人たちからは表情が抜け落ち、崇める神への祈りの言葉を唱え始めていた。
「これからはいちいち聞かないから、深淵魔術が使えるなら死ぬ前に言えよ」
そう言って黒装束の男は処刑を再開する。
祈りながら闇森人が殺されていく光景は悪夢そのもので、アナの心が自らを守るために逃避を始める。
きっとこれは神聖な儀式なんだ。
だって、みんな深淵魔術を使えるのに黙っている。
深淵魔術は外に漏らしてはいけないと教えられてきたが、さすがに命がかかっていれば言うはずだ。
つまりみんな実は生きているに違いない。
それか夢だ。
だって父さんが殺されたなんて信じられない。
そんなアナの支離滅裂の思考を、一撃で現実に引き戻すものがあった。
集落
見上げると彼女の表情は他の大人たちと違い、恐怖に怯え震え、そして何かを必死に考えていようだった。
処刑は粛々と進み、アナと母親が最後になったのは果たして運命だったのか。
アナは考える。
もしこれが現実なら、このままだと母さんも自分も殺されてしまう。
深淵魔術が使えると告白すれば、もしかしたら殺されないかもしれない。
そう思った瞬間、同時に発した母親の声を遮るように叫んでいた。
「使える!僕は深淵魔術が使える!」
深淵魔術とは創造神に生み出された存在でありながら、外様の神を信奉する闇森人が操る魔術である。
外様の神はこのアトルランと呼ばれている世界を侵略しようとしているが、自身は創造神によって張られた結界〈世界網〉によって近づくことができない。
そこで世界網を掻い潜れる大きさの闇の眷属を侵略の先兵として送り込んでいた。
深淵魔術には近くと遠くを繋げる転移魔術や召喚魔術が存在し、外様の神の侵略の一助となっている。
もはや異世界あるあると化している、人生ハードモードのアナの話を聞いて、ある程度状況が掴めてきた。
どこかの国に所属する忍者男と兵士たちにより、アナの集落は滅ぼされた。
目的は深淵魔術の使い手を探すこと。
アナたち闇森人はほぼ全員が深淵魔術を使えたが、外部に漏らすのは禁忌とされていたため、命を賭けてそれを守った。
しかし子どものアナは母親の命を庇うため禁忌を破る。
アナの自白のあとに慌てて母親も自らが使えることを白状したが、幸か不幸かアナには大人顔負けの深淵魔術の才能があり、それも暴露してしまう。
それなら子どもも使い潰してやろうということで、アナと母親が互いに人質になる形で深淵魔術の使いとして使役されることになったそうだ。
「なんだか人種と闇森人、どっちが邪悪なんだか分からない話だな」
「まさか邪人が人里から隠れてひっそりと暮らしていたとは……」
闇森人の慎ましい生活ぶりにアナが驚く。
外様の神を信仰する人種を邪人と呼ぶらしいが、知恵を付けた闇の眷族といった認識で、姿を現す場所は常に殺し合いの場であった。
意外と邪人も人種と敵対しているのは少数で、その大半は静かに暮らしてたりするのかもな。
ネットの世界でもよくある、少数派なのに大声で騒ぐから、それがまるで多数派のように錯覚するあれだ。
「それじゃあアナのお母さんも、どこかで似たようなことをさせられてるのか。直接の連絡手段はあるのか?」
「ううん、無い……」
今回の襲撃について詳しく聞いたところ、ラムール大河の向こう側、すなわち国外に仮拠点があるそうだ。
そこからアナと忍者男は転移でこの結界までやってきていた。
結界を張ったのはアナとは別の魔術師で、手順としてはまずアナと忍者男を含めた三人が短距離転移でこの林まで侵入。
林で魔術師が結界を張り、一旦長距離転移で撤退。
結界が安定、発見されていないことを確認してからアナと忍者男で再度やって来て、サハギンを川に放流したのだ。
それが昨晩の話で、今日ゆるキャラたちが結界を発見したの術者が察知した。
そこで今晩実行予定だった闇蜘蛛による奇襲を、急遽前倒ししたというわけだ。
「転移を察知したり防いだりはできないのか?」
「できないこともないが、かけた労力に対して成果が少なすぎますな。転移魔術は希少で使い手もごく僅かです。いつ使われるか分からない魔術を察知して防ぐことに費用をかけるよりも、転移してきたものをすぐに発見できるように巡回を増やすほうが効率的でしょう」
費用対効果が低いというやつか。
「人種が邪人や闇の眷属を使役するなど聞いたことがありません。この結界や転移魔術も含めてまだ実験段階なのかもしれん」
「サハギンも本来は軍事施設を狙わせるつもりだったが、目の前の川を上って街に出てしまったのでしょう」
「その辺はどうなんだ?邪人は闇の眷属を使役できないのか?」
「少なくとも僕はできないし、できると聞いたことはない。人種と魔獣の関係と同じだと思う」
なるほど、確かに人種と魔獣は捕食者と非捕食者であったり、縄張りに侵入して排除されそうになったりはするが、接触しなければ基本的には互いに非干渉である。
つまり現時点で忍者男どもは闇の眷属を放って適当に襲わせるのが精々というわけか。
実際にサハギンは思惑から外れて鮭のように川を上ると、すすきの通りに出没した。
そこにゆるキャラが居たのは不幸中の幸いだ。
だがもし敵対している他国が、邪人と闇の眷属を完全に統率するようなことがあれば、それは相当な脅威ではなかろうか。
敵の敵が味方どころかタッグを組んで襲ってくるようなものだ。
「それでアナたちを利用した連中は何者なんだ?」
「今のところ物証はありませんが十中八九、帝国でしょうな」