「娘共々助けて頂きありがとうございます。私は母親のルリムです」
そう言ってアナのお母さんことルリムさんは深々と頭を下げた。
実年齢は分からないが、見た目は二十歳そこそこと若々しい。
地球の日本なら若いお母さんかもしれないが、寿命の短いこちらの世界では普通か。
ああでも彼女は寿命の長い(と思われる)闇森人なので、そもそも若くない可能性もあるのだった。
異種族間の結婚は結構大変そうだ。
同じ人間でも価値観や生活習慣の違いから不和に発展することがあるのに、そこに種族差が加わるのだから。
特に寿命の差は絶対的だ。
片方が老い衰え死んでいくのを、もう片方は若々しい姿のまま見送ることになる。
同じ時間を生きられないというのは辛いものだ。
まあゆるキャラの中の人にそんな相手は居ないので、全部想像なんだけどね。
いや、画面から出てこないタイプの嫁なら居るぞ……おっと目から汗が。
「あ、あの」
「ああすまない、どちらも無事でよかった」
正面から話しかけているのにゆるキャラが無反応だったので、ルリムが不安げにこちらを見上げている。
頭を下げた姿勢のままこちらを見上げているので、ぼろぼろのローブで隠し切れていない大きい胸元が強調されていた。
健全な男なら目のやり場に困るところだが、今のゆるキャラの中の人にはそういう感情は生まれない。
やっぱり目から汗が……あれ、そういえば闇森人には頭を下げて礼をする文化があるんだな。
「母さん!」
またもやどうでもいい思考の渦にのまれかけていたゆるキャラの横を、アナが駆け抜けルリムに抱きついた。
「アナ!よかった。どこか痛いところはない?」
「うん大丈夫」
ルリムは自分の大きな胸に飛び込んできた娘を数秒強く抱きしめてから、体のあちこちを触って無事を確かめている。
アナはそんな母の手がくすぐったいようだが、嬉しそうに我慢していた。
実際は忍者男に腹を蹴られたり首を締め上げられたりしていたが、治癒魔術で完治しているのでノーカウント、ということにしておこう。
「うまく犯人を無力化したな」
「ん、うるさかった」
いつぞやの姉妹の再会を見た時のように、シンクは母子に羨望の眼差しを向けている。
ゆるキャラが褒めると、ふんすと鼻息を荒らげてからエゾモモンガの腹に抱き付いて顔を埋めた。
……早く姉に会わせてやりたいな。
「ねえねえトージ、こんなんでいい?」
フィンに呼ばれて視線をやれば、そこには地面に転がる簀巻きが二つ。
忍者女と魔術師の男だ。
さて二人をどうやって拘束しようかと悩んでいたら、フィンがやると言い出したので、任せた結果こうなった。
大地の精霊にお願いして蔦を使って拘束したのだが、その量が半端ない。
足首から首元までぐるぐる巻きになっているので、まるで丸太から人間の足と頭が生えているみたいだ。
フィンの詠唱という名の説明が適当だったからか、それとも精霊に支払われる
フィンが内包する魔力は、ゆるキャラが提供する饅頭や羊羹を食べるようになってから、量も質も良くなっている。
そしてその魔力は精霊魔術で使役される精霊にとって、他では味わえないとても美味な報酬だそうだ。
原因はまあ両方だな。
しかも縛り方が相当乱暴だったようで、気を失っていた忍者女が痛みで目を覚ました。
「お前たち、こんなことをして無事に逃げれると思ってるのか?私らの応援が来ないうちに開放するなら見逃してやってもいいぞ」
顎の骨が砕けていて可哀想だったので、治療してやった途端騒ぎ出した。
一方で魔術師の男は蔦で拘束されて、両肩が背中側でくっつきそうなくらい締め付けられたが起きなかった。
フィンが治癒魔術をかけても起きない……生きてるよな?
「ほほう、周囲には何もない原っぱが続いてるみたいだが、こんな辺鄙な所に応援が来るのか。お前らの黒幕がどこか知りたいから、あえて待ってみるのもありだな。他国に闇の眷族を差し向けるなんて悪行、犯人はいったい何帝国なんだ」
「……ちっ」
などと言い返すと黙りこくる忍者女。
あーこれは応援なんて無いパターンですわ。
素直に白状する気も無いようなので、このまま城塞都市ガスターに連れて戻ろう。
二人とも首元を確認したが茨の刺青は無かったので、急に炎上することは無いはずだ。
やっぱり丸太のように重たい簀巻きを、廃屋の中心まで引きずる。
最後に廃屋周辺を調べてみたが、だだっ広い野原が続くだけでこの建物以外は何も無かった。
屋内にも帝国ものと分かるような物証は無い。
これはゆるキャラの予想だが、忍者女と魔術士は何も知らされていないのではないだろうか。
忍者男と比べるとかなり格下な雰囲気を醸し出している。
まあ取り調べはゆるキャラたちの仕事ではないので、戻ったらレンに丸投げしてやろう。
「それじゃあ頼む」
「うん、わかった」
全員で廃屋の中心に寄せ集まると、アナが《長距離転移》を唱えた。
手にした禍々しい杖に嵌め込まれた黒い宝石の輝きが失われると同時に、ゆるキャラたち御一行は廃屋から姿を消した。