〈商品〉一覧から選んで吐き出したのは〈コラン君メタルストラップ〉である。
手首に通す用の赤く短いストラップに、〈コラン君〉のデフォルメされた顔が刻印された小さなメダルチャームが付いている。
顔のデザインは〈コラン君饅頭(八個入り)〉の焼き印として使用されているものと同じ見慣れたものだ。
〈隷属の円環〉の端に意匠の一環として小さい穴が空いているのを発見したのだが、これと先ほど懐古していたプラ板の穴のイメージが重なり、ストラップ用の穴に段々と見えてきたのだ。
早速ルリムの〈隷属の円環〉にストラップを通してみると、うーん、赤いストラップがちょっと長いか。
ならばと結んで短くしてみると、おお、これなら飾り紐に見えなくもないな。
「〈神獣〉様の聖印入りですか。分かり易くて良いですね」
ゆるキャラの顔を聖印呼ばわりするのはやめて、さすがに恥ずかしいから……。
なにはともあれレンにもOKをもらったので、アナの〈隷属の円環〉にもストラップを取付けて完了だ。
一仕事終えて振り返るゆるキャラの視界に入ったのは、新たなグッズのお披露目で目を輝かせているフィンとシンクの姿である。
「「ふああああああ」」
はいはい、君たちにもあげるから。
ストラップの色は各種取り揃えてあるから、身に着けているパスケースの色に合わせたやつを付けてやる。
こんなことを続けていると、そのうち二人のパスケースはストラップだらけになるかもな。
一昔、いや二昔前の女子高生の携帯みたいに、本体がどっちかわからなくなるやつだ。
さてこれで一件落着……とはいかない。
まだ結界の処理が残っているからだ。
詳細は魔術師の男から聴取済みで、指定した場所に結界の核となる魔術具が地面に埋まっているそうだ。
しかしここで問題が発生する。
結界の解除も解体も魔術師の男にはできないというのだ。
できるのは魔力供給による保守作業のみ。
〈結界師〉とか呼ばれてた癖に名前負けも甚だしい。
魔術具にある程度精通した者なら解除は可能なのだが、結界内は濃密な魔力の圧で侵入者を拒んでいる。
ラズウェル老ですら圧に負ける結界に入れて、且つ結界を解除できるような者はいなかった。
指定した者は魔力の圧の影響を受けないのだが、設置する前の事前登録しか受け付けないらしい。
クローズドβのネトゲかな?
結界内への侵入者及び登録者の反応は、結界の核と繋がっている指輪で大雑把に把握できるのだとか。
なんとも扱いにくい代物だが、その認識阻害と魔力圧の性能は非常に優れていた。
ゆるキャラの存在がなければ襲撃実験は成功していただろう。
「一応〈結界師〉は残しておいたほうが良かったんじゃないか?」
「いいえ、ラズウェル老が魔術で頭の中の情報は全て引き出しましたので問題ありません」
「あっそう……」
「幸いにも結界は一週間ほど魔力供給を絶てば消失するそうなので、その間は包囲して監視するとしましょう。その間〈神獣〉様たちにこの地に残って頂くことは可能でしょうか?何か問題があった時、結界内に入れる者が必要なので」
「むう、それはだめ。トウジはいそがしい」
ゆるキャラよりもシンクが先に返事をした。
自分の赤いパスケースに付いた新たなストラップを、指で突っついて揺らして遊んでいたのだが、レンを見上げる表情は眉をハの字にして不満げだ。
「さすがに一週間足止めは長いなあ。あれ、誰か一人結界に入れる心当たりがあるんじゃなかったっけ。ラズウェル老の師匠だかなんだか」
「先代ですな。しかしあのお方は現役を引退して今は領内で隠居生活を送っておられる」
「城塞都市の危機なのだから協力してもらったほうが良くないか?」
「そうなんだが、わざわざ御足労願うのは少し……ううむ」
なんだかラズウェル老の歯切れが悪い。
その様子を見てレンが口元を押さえて、くすくすと上品に笑った。
「ラズウェル老は先代、私のおじい様に頭が上がらないのです。なんでも若い頃に相当しごかれたそうで、側にいるだけで鼓動が早くなるそうですよ」
やはりその人は師匠なのか、てかレンのお爺さんなのか。
ラズウェル老のようなご老体の心拍数を上げるのは心苦しいが、ゆるキャラたちにも事情があるのでそこは妥協してもらおう。
「大丈夫ですよ。おじい様もさすがに歳なので昔のような無理はできませんから」
「ところがだな、少し前に用事があって訊ねたのだがまだまだ健在だったのだよ。腰は更に曲がっていたが魔術の腕はひとつも衰えておらん。まさか野菜を乗せた荷車に杖を忍ばせてあるとは、不意を突かれたわ」
「領内の巡回を密にしているとはいえ、魔獣の出没が全く無くなるわけではありませんからね。おじい様程の魔術師なら例え衰えていたとしても、魔獣に遅れを取ることはないでしょう。ただ魔術はともかく体のほうは心配ですね。一人で畑仕事をさせるのも危ないので部下をやったことがあるのですが、「他人に畑は触らせん」と断られてしまいました」
へー、レンのお爺さんは腰が曲がっていて荷車に杖を忍ばせていて畑仕事をしているのかー。
「ねえねえトージ。レンのおじい様ってあのおじいちゃんかな」
「皆さんおじい様をご存じなのですか?」
「どうだろう?聞く限り特徴は一致しているが……」
フィンが言っているおじいちゃんとは、城塞都市ガスターに入る手前のあぜ道のぬかるみで、荷車が動かせなくなって立往生していた所を助けた爺さんのことである。
どちらにせよレンのおじい様を頼るしかないので、一同揃って訪ねることになった。
ガスター伯爵家の馬車に揺られながら、向かった先にあったのは見覚えのあるあばら家だ。
「なんじゃ、もうわしを頼って来たのか」
出てきたのもやっぱり見覚えのあるガスター爺さんである。
なんでもガスター家はこの爺さんが初代当主で、その魔術の腕で平民からのし上がったんだそうだ。
ガスター爺さんは今から四十年ほど昔、ヨルドラン帝国の最初の侵略である第一次侵攻の防衛戦の際に獅子奮迅の活躍をした。
そして見事MVPを獲得したガスター爺さんには副賞として貴族の位と、当時は簡易拠点だったこの地に自身の名が付けられ街として贈られたという。
ちなみに地域全体の領主はあくまで寄り親のトレスティーガ公爵家で、ガスター伯爵家はこの城塞都市に限っての領主だった。
かくかくしかじかと事の経緯をガスター爺さんに話すと、皺くちゃの顔に更に皺を寄せてニヤリと笑った。
「ふむふむ、そうかそうか。ラズ坊も入れない強力な結界には興味がある。現役は退いた身だが借りを返すためじゃ、一肌脱ごう。ついでに都市の魔術師どもが鈍ってないか見てやるか」
背後で坊主呼ばわりされたラズウェル老が身を強張らせ息を呑む気配を感じた。
……すまんが頑張ってくれ。