先生が嫌いな捻くれ孤独生徒   作:ぱぶし

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1. 周りに呑まれ合わせるのは弱者のすることである。

 

 

 

 

 

――――トリニティ総合学園第1学年、雨宮コマチ。

成績優秀、容姿端麗、問題行動無し。

 

だが、その生徒には1つ大きな欠点がある。

 

 

そう、孤独生徒なのだ。

 

 

昔から他人に合わせるのが大の苦手だった。

中学の時、幼稚な行動をしている同級生に向かって正論を突き付け泣かせてしまったり、不必要な正義感で当時虐められていた生徒を庇ったり...。

考えてみると、自我を通さず周りに合わせればそれなり、いや普通以上に充実した生活を歩めたことだろうと思う。

 

だが、私にはそれは不可能だった。

 

そして気付けば私の周りに寄り付く生徒は、ただの一人もいなくなっていた。

 

とはいっても、私は自分が好きだ。

 

我身を守る為、周りに合わせながら怯え続けなければならない彼ら、

集団的に集まり、一人に目をつけては虐げ始める下衆の極みのような愚図共より、私は優れている。

そんな愚図共に行動を合わせるなど、自らを腐らせるような行動をする必要はない。

だからそんな愚図共が蔓延っているこの学園で私が一番賢く、清く、正しい。

よって私は自分が好きなのだ。

 

だが、最近1つ厄介な出来事が起きた。

 

愚図共の標的が、私になってしまったようなのだ。

所謂虐めである。

 

最初こそ、低脳が息を吸うように吐いてそうな下級煽り程度だった事から、私は無視を決め込んでいたのだが、悪しくも事態は日に日にエスカレートしていった。

最近では机に落書きを施したり、暇なときに読んでいた文庫本を隠されたりと、少々目に余るような行動が目立つようになってきている。

とはいっても私にとっては然程気にするようなレベルでもない。

のだが、これ以上深刻化してくると面倒になることは確実な事だろう。

 

「はぁ...」

 

昼休みの騒がしい教室の中。

私はそんな愚図共の制服に刻まれた文様を見て、小さく息を吐く。

 

トリニティ総合学園。

学園都市キヴォトスにおいて三大学園に数えられる学園の1つであり、その三大学園の中でも世間からの評価は高い。

優雅かつ善良な生徒が多く、お嬢様学校とも言われるほどに御淑やかな学園である。

 

が、それは世間から見ればの話だ。

 

実情は悲惨。

学園には派閥が存在し、互いの足をすくい合うような騙し合いが横行。

ゲヘナの問題児達のように大きな事件を起こすような事は少ないが、周りからは見られていない所での陰湿かつ卑劣な虐めが多数起きており、世間からの評価とは大きく外れ歪んだ人間関係を持っている学園なのである。

とは言っても、これは仕方のない事なのかもしれない。

例えゲヘナであろうがトリニティであろうがミレニアムであろうが、集う人間は所詮人間。人間である限り皆等しく醜いのだ。

それは古来から伝わる絶対的不変の事実であり常識。

 

人は醜いからこそ傷付け合い、罵詈雑言を吐き捨て合う。

1人になりたくないから、今の地位を脅かされるのが嫌だから、自分を正義だと思っていたいから。

争いの理由は多種多様で、どれも等しく怠惰で自己中心的だ。

 

「皆で力を合わせれば、世界は平和になる。」

「お互いを信じあえば不可能だって乗り越えられる。」

 

世にはこんな仮想論を良しとしているが、これは欺瞞だ。

この仮想論においての”皆”と”お互い”は正式には自らの仲間の事を指しており、その仲間以外の少数意見を圧し潰し無理やり合わせさせる事によって物事を実現するという事。

つまりこの仮想論は自己中心的な行動の正当化を表しているのだ。

これがこの社会の腐りきった構造であり絶対ルール。

だから人は醜く、争いは終わらないのだ。

 

もちろん私はこの事を良く知っていた。

だが、私は世間の評価を真に受け、トリニティへ過剰な期待をしてしまったのだ。

ミレニアムの方が距離が近い事を無視してトリニティを選んだ過去の自分を今すぐにでも殴りたい。

結局は何処も変わらないというのに。そんな初歩的な事ぐらい随分前に知っていたことだろう?

 

全く、私も愚かだ。

 

この現状に、最近はそう思うばかりである。

 

 

「ねえ!あれって先生じゃない?」

 

 

そんなことを考えている矢先、一人の生徒が窓を見ながらそう言った。

その言葉に教室がざわつき一斉に窓の方へと生徒が集まっていく。

 

ただ、私を除いて。

 

あの生徒の言う先生とは一年程前にキヴォトスへやってきた外部の人間、連邦捜査部S.C.H.A.L.E。通称シャーレの顧問である。

その先生に皆が過剰に反応する理由は、彼の功績にある。

彼は普段から各学園の生徒と交流をし続け、親身に相談と教えを与えている。

大きな功績ではアビドスの借金問題、エデン条約調印問題。

ここ最近では、キヴォトス崩壊の危機を退いたことによって更に生徒からの人気は上がるばかりであった。

そんな有名人が来たという事、興奮するのは無理もないだろう。

 

だが、私はその先生が嫌いだ。

 

彼は優秀だ。

きっと、彼には欠点という物が無いのだろう。

足りない物、分からない物が一切無い、そんな完璧な人間。それが先生なのだ。

だからきっと、彼は皆に優しくできるのだ。

悩みが無く、失敗を経験せず、挫折を知らない。そしてそんな完璧である自らを強く信じている。

 

つまり、彼は強いのだ。

 

勿論彼はキヴォトス外の人間であり、銃弾1つ浴びれば死ぬという"単純的な強さ"とはかけ離れた存在ではあるが。

だが私が言っている強さとは肉体的な物ではなく、精神的な強さのことだ。

 

私は優しい人間が嫌いだ。

 

等しく皆に優しく、間違いを犯した者にも手を差し伸べる先生が、私は嫌いなのだ。

何故なら、そんな皆に等しく優しい人は存在しないからである。

つまり、あの先生は虚像なのだ。

 

私は知っている、心の中ではきっと呆れていることを。

私は知っている、心の中ではきっと恨んでいることを。

 

彼は自分の中の本音を押し殺して、自分の感情を押し殺して大人を保ち続けているのだ。

エデン条約の頃、先生がある学校の生徒に撃たれたという一報を耳にしたことがある。

 

そのある学校とは、アリウス分校。

 

アリウス分校とは、トリニティ領内にかつて自治区を有した、数ある分派の一つ。

その昔、諸派の統合に向けた会議においてアリウス分校は唯一反対の立場をとり続けていた。

それが原因として連合を果たしたトリニティ総合学園から激しい弾圧を受けてしまい、結果として、自治区からも追放されキヴォトスの表舞台から姿を消したのだ。

 

そして、時を超えエデン条約調印式。

彼女らは調印式に向けて大規模のテロ行為を起こしたのだ。

 

極悪非道。

この言葉がこんなに似合う立場の組織は余りいないだろう。

耳にした噂では、裏で彼女たちは操られていたと聞いた事もあるが...そんな証拠も何も無い噂など信じる程私は馬鹿では無い。

そして世間も私の意見と概ね等しく、彼女達を絶対悪として認識している。

 

だが、あの先生は

「どうか、許してあげて欲しい。」

と、そう言ったのだ。

 

意味がわからない。理解不能だ。

彼は私達のような体を持ってはいない、たった1つの銃弾で死に至る事さえある。

実際エデン条約時、アリウス生徒に撃たれた事によって一命は取り留めたとはいえ、かなりの苦痛であったと安易に予測できる。

 

だったら、何故?

自らにこれ以上の無い痛みを与えた彼女らに対して、許しを与える事が出来るのだ?

 

だが、私はそこで考えを改めた。

違う。これは彼女達を油断させる為の"罠"なのだ。

そう考えると、辻褄が合う。

自分を殺しかけた人間を、許す人間など...

居るはずがない。

 

先生のあれは、"偽りの優しさ"なのだ。

武器を持たない彼にとって、最大の武器は言葉だ。

そして偽りを上手く隠すように、先生は生徒達から信頼を集め、優しさを与える。

 

だから、先生は優しいのだ。

 

そのことを悟った私は、先生に嫌悪どころか恐怖すらも感じ始める。

そんな"強さ"と"優しさ"を持つ先生を、不気味にしか思えないのだ。

だから私は彼の優しさを受け取らないし、信用も与えない。

 

いや、信用することが不可能といった方がいいだろうか?

 

「え?なんかこの校舎に入って来てない...!?」

 

生徒の1人がそう叫ぶように言った事により、更に教室の空気は興奮に満ちてきた。

 

まるで"アイドル"か何かが来たようである。

窓から必死に1人を見ているこの光景。

興奮を通り越してこれは狂気なのではないだろうか。

 

...なるほど、一般人から見たアイドルヲタク共はこう映っているのか。

何故アイドルヲタクが世間から白い目で見られているかの核心を見た気がする。

 

...いや、この状況で窓の方へ向かっていないただ1人の私の方が一般的ではないのかもしれない。信用と名声とは恐ろしいものだ。

 

例えば、平凡なダンサーと超優秀なダンs

 

ガチャッ

 

...

 

「やあみんな、シャーレの先生だよ。」

 

私の思考を遮るようにして飛び込んできた突飛な状況、そして次の瞬間。

 

教室は興奮という空気から混沌へと変わったのだった。

 

 

 





曇らせなのか、これは...?
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