先生が嫌いな捻くれ孤独生徒 作:ぱぶし
爆発。
そう言った方がいいだろうか?
先生が教室へ足を踏み入れ
「やあみんな、シャーレの先生だよ。」
その瞬間窓へ固まっていた生徒達は一斉に先生の方へ駆け込んで行った。
その後は黄色い悲鳴に歓喜の声に質問の嵐。
私に言わせてみれば、あれは呪言の類いだろう。
まともにあれを食らったら私なら寿命が2,3年は縮む。
それを上手く回避したのか、先生は未だに元気な様子だ。呪耐性でも持っているのだろうか?
「...それで、ここに来た訳なんだけど。」
そうだ。それを1番聞きたかった。
何を目的で、先生ほどの有名人がティーパーティーではなくこちらに出向いて来たのか。
「ティーパーティーから、ここのいじめを止めて欲しいとお願いされてね。」
...
一瞬ではあるが、こちらに視線を向けられた。
そして同時に騒がしかった教室が静寂に静まり返る。
「せ、先生?このクラスいじめなんてないよ?」
「そうだよ先生!多分EとかDクラスのいじめのことじゃないかな?」
「あそこいじめ相当ヤバいらしいよね〜」
必死さが垣間見える。もう少し自然に会話をすれば信憑性があったはずだが...さて、今の茶番で先生に通用するか...
「2回くらい確認したから間違いないよ。Bクラスでのいじめとティーパーティーから聞いた。」
...どうもダメらしい。
いじめの主犯格であるグループが明らかに焦っているのが見える、どうやら悪いことをしている自覚はあったようだ。
「ティーパーティーの間違いだと思うよ?うちら仲良いしね?」
「だ、だよねー?」
「もちろん」
本当に彼女達はいじめを隠す気があるのだろうか?
私としては面倒事に関わりたくないから何事も起きずに終わりたいのだが。
「複数の目撃証言があったみたいなんだよ。雨宮コマチさんへのいじめ行為が最近目立っている...とね?」
一斉に向けられる自分への目線。その目線の色は焦りと恐怖といったものが見えた。
...そこまで情報が知られているのか。
「あ、あれはいじめじゃなくて"いじり"だよ!」
「そうだよ先生、コマチも別に嫌がってないしね?そうだよねコマチ?」
馴れ馴れしく下の名前で呼ぶな。
クラスメイト全員からこちらに向けられる圧のかかった目線。
状況を掻き回すな、真実を話すな。という意味が込められた懇願のような圧。この期に及んで懇願とは...全く恥を知らないのかこの低脳共は。
だがまあ、最善の選択であることは確かだ。
少々こいつらに命令のような形で流されるのは癪ではあるが...仕方ない、私も面倒事は嫌いなのである。
「普通にクラスメイトと馴れ合ってるだけです。あと勝手に探りを入れないでください、はっきりいって気持ち悪いです。」
本心と嘘を同時に言う事により、言葉に現実性を持たせる。
あの低脳共が吐き出す捻りの無い軽い嘘とは訳が違う筈だろう。この完璧な理論によって欺ける可能性がかなり上がったはずだ。
「え...あ、そうだよねごめんプライバシー尊重してなかったね...?」
まあ尊重していないのは依頼したティーパーティーの紅茶鬼畜共ではあるのだが。それはこの際都合が良いので置いておこう。
「...えぇ、じゃあ本当にナギサの勘違いだったのかなぁ...?」
あの紅茶鳥か。変な所に気を回さずに紅茶だけを飲んでいればいいものを...
先生のその呟きに、緊迫した空気が緩んだ。
「そうだよ〜先生、ちょっと怖かったよぉ」
「ねー」
わざとらしい。少し媚びを売るような気持ちの悪い声色で先生へそう言う彼女たち。
全くもって気持ち悪い。
媚びを売って何が生まれるというのだ?
先生は教職者であり、生徒とは一線を置く、彼女たちの恋愛対象では無い。
よって例え先生に媚びを売ったとして、何の利益を産むというのだ?
もし先生が普通の人間なら、繋がりを持つ意味は多少あるかもしれないが、先生は例え面識がなくとも先生である限り、生徒を見逃さず助けるのだ。
繋がりを持ったとしても持たないにしても、何も得るものも減るものもない。
であるのは明確な事実であるのに、彼女たちは一体先生に何を望んでいるのだろうか?
「あはは...私の先走りだったかもしれないね、もう一度確認してみるよ。」
「え、ええ?もういいんじゃない?私達してないって〜」
少し苦笑いの交じった声で先生はそう言う。
しかしまだ諦めないのか。
いい加減少ししつこく感じてきた、こうなれば私からとどめを指すのが妥当だろう。
「何を聞いたか知りませんが、私、何も困ってないんで。詮索しないで下さい。...気持ち悪い。」
「えぇ!?...あぁ、うん。ごめんね?」
気持ち悪いという言葉が余程衝撃的だったのか、動揺しながらこちらに謝ってきた。
...そう言う所が気持ち悪い。
「謝罪は結構です。詮索されなければ何でもいいので。」
私は先生の言葉を跳ね除けると、先生は焦ったように頭をかいて、「...それじゃあ、みんなまたね。」と言って教室を出ていった。
計画通り、完璧だ。
全く先生に勘繰られず日常を守ることが出来た。
きっと虐めが発覚すればかなり面倒な事になるのは目に見えて分かる。そして何よりこの問題は私が解決するべき問題であるのだ。
他人にどうこうしてもらって解決しても、私がどんどんと弱くなっていくだけだ。それに先生へ貸しを作るような事は出来るだけ避けたい、きっと面倒事に巻き込まれる気がしてならない。
まあ、いい。
上手くいった。
これでいい筈だ。
――――――
人間とは本来等しく弱いものだ。
これは絶対に変えられない法則であり、原則。
だから人は見ず知らぬ人間と手を差し伸べ助け合い成長していく。
だが、もしそこに"欲"が加わるとどうなるだろうか?
これまで手を差し伸べ合いながら作られたコミュニティの1人が急に手を離したらどうなるだろうか。
答えは簡単、コミュニティは崩壊する。
その崩壊により欲を持った1人以外は傷を負う。
こうして傷を持たない欲を持った人間がこれまでには無かった上の地位へと上がるのだ。
上の地位に上がった彼を見て、人々は手を差し伸べるのを辞めれば上へ上がれる事を悟り、気付けば醜い地位争いが続くようになる。
これが、子供から大人に上がる時に起こる現象。
だが、これは必要なことなのであろう。
人間実際競争心という物がなければ成長しない。上へ上がろうとするから自らを鍛えようとし、邪魔するものは蹴落としていく。
こういった現象は自然界の生態系ピラミットのように捕食者と被食者の関係と同じ、いわばこんな殺戮のない平和な人間社会であっても、こういった格差は産まれるのだ。
そして、私はその中の何処へ当てはまるのだろうか。
考えてみると、被食者に近い印象を受けるが、私は捕食者である彼らを格下に見ている。
なら一体私は何なのか?
その問いに答えは帰って来ない。
「何難しい顔してるの?お姉ちゃん。」
「え?...ああ、ごめん考え事しててね。」
心配気な顔をしながらこちらを見る弱々しい瞳。
妹の見舞いに来たと言うのに下らない理論に頭を使ってしまった、何をしているのだ私は...。
「具合はどう?...痛い所とか無い?」
「うん、元気だよお姉ちゃん。」
...元気、か。
そんな病弱な血の気の引いた肌で言われてもな。と内心思いながらも笑顔で私は答える。
彼女の名前は「雨宮リナ」、私のたった1人の妹だ。
現在はシラオリ区の中央病院にて入院している。
2年程前から、リナはヘイローが徐々に消えて無くなっていく、100万人に1人の割合で発症する奇病を患ってしまった。
もちろんそんなイレギュラーな奇病に対治療法なんてものは存在せず、経過観察という名の事実上の死の宣告を受け入院をしている。
だが、私は諦めない。治せない病気などある筈が無いのだ。
だから私は日々勉強を重ね、今現在ではやっと現代医学の殆どを理解し、ヘイローの研究を重ねている。
「あ、そうだ。今日シャーレの先生に会ったんだ。」
「...先生?」
...病院に先生が?
何故リナに接触を?
「それで先生に聞かれたんだ。」
「...お姉ちゃんって、いじめられてるの?」