先生が嫌いな捻くれ孤独生徒   作:ぱぶし

6 / 7
6. 例えそれが正しいのだとしても、真実を曲げる事は敗北である。

 

 

 

――――数時間前。

 

 

「なんでナギちゃんはそこまでしてコマチちゃんをティーパーティーに入れたいわけー?」

「それは...」

 

それは前にも説明したでしょう。と喉まで出てきていたが、何とか言葉を引っ込めた。

 

日差しが入り込むティーパーティー専用の部屋にて、今日も今日とて"茶会"が開かれていた。

茶会と言っても名ばかりで、その内容は業務報告や提案と言った、ミカと言う変数を除けばただの業務連絡、会議のようなものだ。

 

「まあ...1年生を入れることは少なからず反感を買うだろうからね。そう易々と決められるものでもあるまい。」

「それは分かっていますが...」

「それに...ティーパーティーが何故3人なのか、忘れたわけでは無いだろう?」

 

肩に乗っているシマエナガを優しく撫でながらそう言うセイア。

その言葉に返す言葉は無い。

 

確かに、入学したての1年生をティーパーティーに入れようものなら、ミカの1件で信用が危うい今の状況が更に悪くなってしまう可能性がある。

更にティーパーティーは元来3つの派閥の代表で構成されている組織。そこで4人となると話がおかしくなってしまう。

 

だが、そのリスクを考慮したとしても入れる価値が、彼女にはある。

 

彼女に会ったのは、1年と少し前。

当時受験生の中学3年生は授業の一環として、トリニティ総合学園の学園説明会が開かれていた。

マンモス校への入学意欲を高める事で、比例して学習意欲を上げようとする狙いだったそうだ。

 

結果、その効果は大きかったと思う。

基本体育館でするこういった行事は退屈極まりない。

ありがたい話を1時間ずっと聴いてられるほど、中学の子供達は訓練されてはいないのだ。

 

だが、学園説明会となると話が違う。

自分の遠くない未来の話、憧れの話。

そんな理由からか、学園説明会で寝ていた生徒は一人もおらず、誰もが当時、説明を担当していた私の話を聞いていた。

 

でも説明をする中で、何か違和感を感じたのだ。

 

憧れの目線の中に、商品の品質を確かめるような、そんな品定めをする目線を感じるのだ。

 

一体どこから?

説明しながら生徒一人一人の目線を確かめることにするが、目線の主は見つからない。

 

気のせいだった...?

いや、でも確かにあの目線は...。

 

「質問、良いですか?」

 

不意に発せられた声に振り返ると、そこにはまるで生気が無い目をしている少女が手を挙げていた。

その目に一瞬怯んでしまいそうになったが、何とか耐え「どうぞ」と私は答える。

すると彼女は挙げていた手を下げ、無表情のままに口を開く。

 

「トリニティって、何を目的としている学校なんですか?」

 

トリニティの、目的...?

考えた事がなかった。目的なんて、トリニティにあるのだろうか?

 

「...目的、ですか。」

 

沈黙が続く。

説明会にとって沈黙とは死を意味する。この状況はまずい、何か、何か答えなければ。

 

「はぁ...もういいです。...ここもですか。」

 

何処か呆れ混じりなため息を吐きながら、こちらに失望の目線を送る生徒。そのまま彼女は席を立とうとしていた。

 

「...いえ、待ってください。貴女の名前は?」

「...はい?何で名乗らないといけないんですか?」

 

ここで逃す訳にはいかない、彼女に席を立たれてしまったらこの状況が更に悪化する。

 

「...分かりました、後で時間を設けます。その際に質問の答えをお伝えします。」

「いや、何で私が...」

「良いですね?」

 

私は一度逃がさないと決めたら逃がさない。

"これは命令だ。"と目線で彼女に語りかけた。

 

「...はぁ」

 

また彼女がため息をすると、そのまま席へ座る。

全く、イレギュラーな生徒もいたものだ。

 

「...それでは改めて、説明を続けさせて頂きます。」

 

それが、彼女との初めての出会いだった。

 

 

 

「...で、何ですか?」

「質問の答えをしておこうと思いまして。」

 

説明会が終わり、客人用の部屋にて私は例の少女と向かい合って座っていた。

 

「あー、あの質問ですか?別に答えなんてどうでもいいんですけど。」

「...はい?」

 

説明会中、話しながらも考えに考えた質問の答え。

即興のもので不格好ではあるが、説明できる所まで構想したのに...どうでもいい?

 

「えーと、つまりあの質問は...?」

「適当です、意味なんてありません。」

 

抑揚が無い声でそう告げられ、私は完全に硬直状態に陥った。

何だ?何で?この前にいる生徒は一体今何を考えている?

彼女の死んだような目を見ても、こちらを同じ調子で覗いているだけで答えは出てこない。

 

分からない。

 

「貴方...私に何がしたいんですか?」

 

私は徐々に苛立ちを感じていた。

中学生相手に苛立ちを感じてしまう事は恥ずべきことであること、それはもちろん承知の上だ。

だが彼女の人を手のひらの上で踊らせるような手口に、感情の昂りが抑えられないのだ。

 

「ナギサさんは、質問というものをどう捉えていますか?」

「...何を言ってるんですか?」

 

”質問を質問で返すな。”そんな言葉が出てきたがなんとか押し留め、傍にあった紅茶を鎮静剤代わりに少し口へ含んだ。

 

「質問は必要なものとは思います。人間質問していかなければ生きていけない。話し方も、計算式も、質問して覚えていくものです。質問の答えも、もちろん明白で分かりやすい。」

 

無表情に語るその彼女の姿は、まるで中学生の少女には思えないような風格に感じた。

というより、上級生を相手にしているような、そんな気分だ。

 

「ですがああいった場面で、質問をするとどうなるか。...答えが欺瞞に変わるんですよ。」

「私は少なくとも、誠実には答えるつもりでしたが...?」

 

私だってトリニティの事を全て把握しているわけでは無い。

只でさえトリニティは複雑なのだ。私はミレニアムのスーパーコンピューターではない、分からない事だって必然的にできてしまう。

だが分からないなりに情報を受け止め、考えを纏めて伝える努力はしてきたつもりだ。

 

決して、欺瞞だなんて。

 

「あの時、ナギサさんは目的が何なのか”分からなかった”、違いますか?」

「...ええ、でも私はその質問を受けて.....!?」

 

そうか、何が言いたいのか分かった気がする。

欺瞞。そうか、私は確かに騙そうとしたのだ。

 

”分からない。”その真実を私は無意識の内に隠してしまったのだ。

 

「私は、欺瞞っていうのが嫌いなんです。....だから、そういう物が無い学校を選びたい。」

「...」

「トリニティは、私の望む場所では無かったみたいですね。」

 

ああ。そうだ、あの説明会という牢に私は知らぬ間に囚われていたのだ。

説明する立場にある人間は絶対的代弁者でいなければならない、答えを持っていなければならない。

如何なる場合において、言葉を失ってはならない。...そんなあって無いような法に。

 

分からない物は、分からないと言いなさい。小さい頃から言われてきた言葉だ。

そんなことも、忘れてしまう程に私は...。

 

「話は以上ですか?...もう帰りたいんですけど?」

 

すっかりと冷めてしまった紅茶を、私は静かに見つめる。

 

「チャンスを下さい。」

「は?」

 

この人は、トリニティに必要だ。

嘘に塗れたトリニティには、この少女のような生徒が必要だ。

 

「これから貴女に嘘を付かないと、約束いたしましょう。」

「いや、そんな事どうでもいいんですけど...。」

「貴女は最後に”ここもですか”と言いましたよね?つまり、まだめぼしい学園は見つかっていない。」

 

彼女が無表情から少しムッとしたような表情に変わるのを見て、私はさらに続ける。

 

「そして学園説明会はトリニティ総合高校の次で終わり、その次はハイランダー鉄道学園。」

「少なくとも、貴女は鉄道に興味がある様には見えない。」

「...」

 

 

 

私の言葉の後、しばらく沈黙がその場を支配した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。