陰キャチート転生者がほしいのは称賛ではなくて   作:イサン

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セリフ少なめモノローグで日記みたいに進行していく陰キャ物語。


1 陰キャ、異世界にて理解する

 俺、タツミが異世界に転生してから、数日が経った。

 相変わらずギルドで受ける依頼はスライム討伐を中心にした細かい依頼ばかりだ。

 ただ、腰を落ち着けられる宿屋を見つけて本腰を入れて依頼をこなせるようになった。

 正直、未だに異世界での暮らしは慣れないけれど、部屋は小さいながらシャワーを浴びれるってのは本当に助かる。

 魔術による水道が発展しているのは、本当にありがたい。

 

 とはいえ、未だに俺はソロぼっちを継続中だ。

 受付のおっさん曰く、この世界ではパーティを組んでの冒険が基本らしい。

 まぁそりゃ、依頼とか受けて遠出するときの野宿とか、困るしな。

 俺の場合はチート防御力で無理やり何とかできるけど。

 それにしたって、防御力を突破できる魔物がいないとは限らないし。

 パーティを組めるのが一番なんだろうけど。

 

 残念ながら、陰キャの俺にそれは難しい話だ。

 異世界に転生して、未だに話をしたのはギルドで受付をしているおっさんと、宿屋のおばちゃんだけだ。

 後者に至っては、お金のやり取りしかしていない。

 それはもはやコミュニケーションではないと思う。

 

 いやしかし、考えてほしいのだけど。

 そもそも陰キャでなくたって異世界でのコミュとかかなり難易度高いと思うんだ。

 文化もマナーも何もかも違うんだぞ?

 おっさんとの会話も、かなりおっさんに対して失礼なことをしていると思う。

 受付のおっさんが優しいから、何とかなってるけどさ。

 

 とにかく、そんな陰キャ転生者の俺が現在目標としているのは、Eランクへの昇格。

 冒険者はFランクから始まって、一番上がAランク。

 その上に特別枠のSランクが存在する感じらしい。

 よくあるやつだな。

 それで、Fランクは言ってしまえば見習い。

 薬草採取とか、スライムみたいな弱い魔物との戦闘依頼しか受けられない。

 ちなみに後者に関しては年齢制限があり、子どもでは受けられないぞ。

 俺はまぁ大丈夫だったけど。

 

 何にせよ、Fランクには子どものお使いみたいな内容も含まれている。

 本格的に冒険者を名乗れるのはEランクになってから。

 依頼の報酬もFランクとEランクじゃ段違いだというから、早く昇格したいところだ。

 

 幸い俺には、戦闘系のチートが備わっている。

 何かとんでもない攻撃力と、なんかとんでもない防御力だ。

 凄まじく大雑把だが、とにかくそうとしか言いようがないくらい俺は攻撃の威力が高いし、相手の攻撃をノーダメージで受けることができる。

 前にうっかりゴブリンに囲まれたことがあるが、その状態で棍棒で叩かれても全く痛くなかった。

 なお、反撃でゴブリンは塵に変わったよ。

 跡形残らず消し飛んだのだ。

 中途半端に残してグロ画像にならなくてよかった。

 

 ともあれ、今はとにかくスライム討伐だ。

 スライム討伐を選んだ理由は単純。

 動きがとろくて倒しやすく、素人の俺でも戦闘にちょうどいいことが一つ。

 転生前は、喧嘩すらしたことがない一般人だったんだ。

 いくらチートがあっても、練習なしで人型のゴブリンとなんて戦えません。

 というか戦おうとした結果が囲まれてボコからの鏖殺だよ。

 実際、新人がスライム相手に戦い方を学ぶのはこの世界のセオリーの一つらしく、おっさんが褒めてくれた。

 

 もう一つは、スライムは倒しやすいから討伐数を稼ぎやすいのだ。

 Eランクへの昇格に必要なのは依頼の達成数と、モンスターの討伐数。

 このうち、前者はスライムを倒していれば勝手に達成できる。

 対して後者は、スライム以外の魔物を倒すのと比べて手間がかからない。

 ゴブリン一匹倒す間に、スライムなら三匹は倒せるな。

 とにかくEランクへ昇格して、生活を安定させたい今はスライム一択だ。

 

 さて、そんなスライム漬けな毎日を送っている俺には、何かと面倒を見てくれるおっさんがいる。

 ギルドの受付を担当しているおっさんだ。

 他にも、ギルドの受付にはキレイめなお姉さんが数人いるのだが、俺は一目散へこのおっさんの下へ向かった。

 キレイめの女性に声を掛けるとか、陰キャにはハードルが高すぎるのである。

 

 最初のうち、おっさんはそんな俺の態度をどこか真剣に観察していた。

 パーティが基本の冒険者において、ソロ活動志望が珍しかったのだろう。

 もしかしたら、俺にチートがなかったら冒険者は無理だって諭していたのかもしれない。

 だが、幸いなことに最初の冒険者登録でスキル鑑定をした際に上述のユニークスキルを所有していることが発覚。

 おっさんはしばらく考えて、これなら一人でも大丈夫だろうと太鼓判を押してくれた。

 以来、すっかり俺はおっさんの世話になりながら冒険者をしている。

 

 ある日のことだった、依頼を受けようとギルドへやってきた俺に声をかけてくる連中がいた。

 どうやら冒険者パーティのようで、俺をパーティに誘ってきたのだ。

 だけど、彼らの様子をみてすぐに分かった。

 これは本気で勧誘しているのではなく、俺を嘲笑するために声をかけたのだ、と。

 明らかにこちらを侮蔑するような感情が、軽薄な笑みの裏に浮かんでいたのだ。

 

 スライムばかり討伐している、新人の冒険者。

 パーティを組もうとせず、周囲と交流を持とうとしない。

 確かに、なんとなく狙いやすそうな相手だ。

 

 創作の中だと、冒険者っていうのは基本一匹狼の印象がある。

 だけど、実際には冒険者こそ横のつながりが大事な職業だろう。

 遠出をした時の野宿をはじめとして、前衛しかできない人間は後衛しかできない人間とパーティを組むしかない。

 一人で冒険者はよっぽどのことがないとできないし、やろうとは思わないのだ。

 だからこそ、一人の俺は彼らにはよっぽど阿呆に見えたんだろうな。

 

 正直、彼らのことは別に間違ってはいないと思う。

 俺がソロで、冒険者を舐めていると彼らが思うのは当然で。

 多分、俺とそれに絡んでいる冒険者を見る他の連中も、少なくとも同じことを思っているだろう。

 ただ単純に、わざわざそれで俺を馬鹿にする理由がないだけで。

 

 だから俺が取った行動は、パーティを辞退することだった。

 それを笑う分には別にいい、ソロが冒険者としてありえない事自体は事実だからだ。

 俺を馬鹿にしたいだけのこいつらも、そうすれば冷静になるだろうと思っていたのだが――

 何故か、そいつらは激昂して俺を罵倒しはじめた。

 正直理解できなかったので、その罵倒をきついと感じた訳では無いが、その態度が良くなかったんだろう。

 逆に彼らは俺に襲いかかってきた。

 まぁ、それなら満足行くまで殴らせればいいか、と思った所で――

 

 おっさんが、止めに入ってくれた。

 

 おっさんは殴りかかる冒険者を一瞬で制圧すると、他の冒険者にも静止を呼びかける。

 そいつらとおっさんの間には隔絶した実力差があったから、冒険者も動きを止めた。

 その後、冒険者を一喝して追い返した後、俺を助けてくれた。

 

 そして言ってくれたのだ。

 お前さんは十分良くやっている、だからあいつらの言うことなんざ気にしなくていい、と。

 

 正直、あいつらの言うことはほとんど気にしていなかった。

 罵倒されたことも、嘲笑されたことも。

 ただ、どうしてかおっさんがそう言ってくれた時、俺はとても嬉しかったのだ。

 

 創作の中で、異世界転生者はそのチートで成り上がっていくことが多い。

 成り上がりを望まない者も、最終的には事件に巻き込まれて人々から称賛されていく。

 そういう物語に、あこがれがないと言えば嘘になる。

 とはいえ、自分にはその器がないと俺は思っていた。

 たとえ転生しても、あんな風にはなれない、と。

 実際、それはその通りだった。

 これが物語の主人公なら、今頃女の子に囲まれながらチヤホヤされているんだろう。

 

 でも、俺が異世界で出会ったのは筋骨隆々のおっさんで。

 そんなおっさんの言葉に、嬉しさを感じている。

 多分それは、身近な人物に認められたのが喜ばしかったんだろう。

 

 陰キャがほしいのは、見知らぬ人物からの称賛ではない。

 見知った人物に認められることなのだ。

 俺は、異世界でそれを初めて理解するのだった。

 

 

 =

 

 

 ギルドの受付兼教官を務める男――ダンギの前に現れたのは、変な雰囲気のタツミと名乗る青年だった。

 まず、人付き合いが苦手なのだろうなというのが第一印象。

 事務的に、ダンギへ話しかけることはできる。

 だが、それ以上の踏み込んだ話題は明らかに苦手意識があった。

 

 冒険者は、基本的に横のつながりが最も重要だ。

 パーティを組まずソロで冒険者をやるというのは、ありえないとは言わないが、かなり難しい。

 だからタツミにそういった横のつながりを作る能力がないなら、ダンギは冒険者の道を諦めるよう言うつもりだった。

 

 そんなタツミは、ユニークスキルを持っていた。

 

 ユニークスキル。

 非常に貴重な、数万人に一人しか所有するものはいないとされる固有のスキルだ。

 それを二つ、とんでもない話である。

 所有スキルは『絶大防御』と『圧倒攻撃』。

 要するに、タツミはトンデモなく固く、トンデモなく攻撃力が高いということだ。

 冒険者になる以外の選択肢はないというくらい、冒険者向きなスキルだった。

 これなら、きっとタツミはソロでやっていけるに違いない。

 教官としての直感が、タツミを助けるべきだと告げていた。

 

 結果的に、その選択は正解だったと言える。

 タツミはコミュニケーション能力が乏しかった。

 しかし、それ以外の部分はかなり優秀だ。

 Eランク昇格への一番の近道が、スライム討伐だということに教えずとも気付いたのだ。

 

 そんなタツミが、ある時面倒な冒険者に絡まれていた。

 ガラが悪く、その癖禄に冒険にも出ない半端者。

 Dランクになって、ダンジョンへ潜れるようになったものの。

 そのまま燻っている、冒険者の穀潰し。

 そのくせ、プライドだけは一丁前に高いのだ。

 コミュニケーションが苦手な、あのタツミとは相性が悪いとダンギは思った。

 

 しかし、タツミの対応は見事なものだった。

 ろくでなし冒険者の誘いをきっぱりと断り、それに憤慨した男達の罵倒もスルーしてみせた。

 その後襲いかかった冒険者を、『絶大防御』で対応しようとしたところで――ダンギが割って入った。

 こんなところで、ユニークスキルを周目に晒す必要はないと判断したのだ。

 

 その後フォローを入れると、タツミは少しうれしそうだった。

 あまり感情を表に出さないタイプのタツミが、嬉しそうにしていた当たり。 

 よっぽどダンギのフォローは有り難かったのだろう。

 そういう素直なところを見ていると、この男はきっと大成する――ダンギはそう思うのだった。

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