異世界戦記   作:日本武尊

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第十二話 攻撃準備

 

 

 

「意外と簡単に通してくれるんだな、てっきり入れるのを渋るかと思ったが」

 

 俺は岩瀬中佐を引き連れ、小尾丸とリアスと共に城の廊下を歩いていた。

 

 ちなみにここまで来るあいだに都市の住人より歓迎ムードに包まれて、中々前に進む事ができなかった。

 

「少なくとも、将軍はサイジョウ殿を敵ではないと判断したのだろう」

「まぁあれだけ帝国軍をやれば、敵と判断はしないだろう」

 

「そうだといいんだがな」

 

 周囲の視線を気にしながら小尾丸と会話を交わす。

 

 廊下を歩いている間にすれ違う様々な獣の特徴を持つ獣人族や獣や半分魔物の姿をした妖魔族達から敵意や憎しみのある視線を向けられることが多くあった。

 

 まぁその理由は十中八九、同胞や親族を帝国軍の人間によって虐殺されているのだ。人間に対して敵意を抱くも無理は無い。

 

「すまないな。ただでさえ戦争で気が立っている上に、同胞を帝国軍……すなわち人間達によって虐殺されているんだ。人間に憎しみを抱いている者が多い」

 

「分かっているさ。俺達は気にしていないし、何より向こうが来ない限り何もしない」

 

「……」

 

 

 

 そうして小尾丸にとある一室に連れてこられると、一人の老人が立っていた。

 

「お父様!!」

 

 と、リアスがすぐさま老人のもとへ走り寄って抱き付く。

 

「リアス。無事だったか」

 

「ご心配を掛けて、ごめんなさい」

 

「いや、お前が無事であれば、それでよい」  

 

 老人はリアスの髪を優しく撫でて抱擁する。

 

「小尾丸も、無事で何より――――」

 

 と、老人はあることに気付き、言葉を止める。

 

 小尾丸の背中にある対にあったはずの黒い翼の左側が無くなっていたのを……

 

「小尾丸、その翼は……」

 

「……逃走中に、竜騎士の攻撃によるものです」

 

「……そうか」

 

 一瞬悲愴の表情を浮かべるも、老人は後ろに立って待っていた俺たちに視線を移す。

 

「……君達が何者かは分からないが、協力に感謝する」

 

 老人は深々と頭を下げる。

 

「礼には及びません」

 

 俺は平然とした装いをして言葉を綴る。

 

「自分は西条弘樹と申します。こちらは現在の副官である―――」

 

「岩瀬恵子中佐であります」

 

 二人は簡潔に自己紹介をして老人の言葉を待つ。

 

「サイジョウ殿。以前に話したが、この御方こそお嬢様のお父上であり、グラミアム王国軍の大将軍であられる『アーバレスト・エーレンベルク』だ」

 

「あなたが。御会いできて光栄であります、将軍閣下」

 

「うむ。すまぬが、少しこの場を空けてくれないか? 彼女達から少し聞きたい事があるのでな」

 

「分かりました。御用がありましたら、お呼びください」

 

 俺と岩瀬中佐は深々と頭を下げ、部屋を出る。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「では、彼らが小尾丸とリアスを助けてくれたのか?」

 

 弘樹たちが部屋を出てから、アーバレスト将軍は小尾丸に話を聞いていた。

 ちなみにリアスは別の部屋に行くように言っているのでこの場にいない。

 

「えぇ。墜落したところを彼らに救出され、治療も受けました」

 

「そうか。後で感謝せなばな。しかし―――」

 

 と、アーバレスト将軍の表情に疑問の色が浮かぶ。

 

「彼らはいったい何者なのだ? 見たことの無い上にあれだけの武器兵器を持っていると、傭兵の集団ではなさそうだが」

 

「私も彼らのことは分かりません。秘密が多いようです」

 

「うむ。だが、あれだけの大群で攻めてきた帝国軍を一瞬にして退かせたのだ。これはただごとではない」

 

 アーバレスト将軍は一種の危惧感が胸中で渦巻いていた。

 

 たとえ協力したと言えど相手は人間。油断ができないのだ。それが未知の兵器を持つのであれば、尚更だ。

 

「……将軍。恐れながら、憶測を申し上げても宜しいでしょうか?」

 

「良かろう。言ってみたまえ」

 

「ありがとうございます。これは私の予想ですが、サイジョウ殿達は恐らくどこかの国に属する者達と思われます」

 

「なぜそう言える?」

 

「サイジョウ殿の動きは同行しているあいだに見ていました。恐らく彼は軍隊の中でも最も地位の高い地位と思われます。何よりあれだけの兵器を国なしで持つのは考えられないと」

 

「ふむ……」

 

 小尾丸の言う通り、たった数百人の軍隊があれだけの兵器を所有できるとは考えづらい。

 

「ともあれ、今のところ彼らは我々の味方と見ても構わないだろう」

 

「そうですね」

 

「だが、もしもの事がある。見張りは続けたまえ」

 

「はい」

 

 小尾丸は短く返事を返し、頭を下げる。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「人的被害と車輌被害は軽微だが、やっぱり弾薬の消耗が激しいか」

 

 その頃別の部屋に待機していた俺は部隊状況を聞いて戻ってきた岩瀬中佐より報告を聞いていた。

 

 負傷者は27名ほど出たが、全て軽傷で済んでいるので衛生兵によって軽い治療が行われた。しかし弾薬は予想以上に消耗しており、はっきり言ってあれだけの戦闘を続けて行うのには厳しい状態だった。

 

「特に自走砲小隊は全車輌の残弾が少なく、これ以上の戦闘続行は無理を判断し、勝手ながら撤収指示を出しておきました」

 

「いや、正しい判断だ。万が一に備えて弾を残した状態で返した方がいい」

 

 しかし、これで後方からの援護は無くなったので、厳しさは増してしまった。  

 

「それで、偵察部隊からの報告はあったか?」

 

「ハッ。偵察部隊の報告によると、帝国軍は本陣に戦力を集結させている様子です。恐らく周辺から部隊を掻き集めたかと」

 

「やはり念には念を入れて予備の部隊をいくつか残しておいたか。その規模は?」

 

「憶測ながら、三個師団に五個連隊を加えた規模かと」

 

「そんなに残していたのか。ミスったな」

 

 俺は口を一文字にして閉じる。

 

 敵の戦意を削ぐために容赦なく攻撃したが、それが裏目に出てしまった。

 

 はっきり言えば、現戦力では防ぎ切れない。

 

「……頃合いだな」

 

 俺の漏らした言葉で岩瀬中佐は俺の考えを察する。

 

「通信機は使えるな?」

 

「もちろんです。中継アンテナの設置は移動時に行っていますので、前哨要塞基地と繋がっています」

 

「良し」

 

 俺は岩瀬中佐とすぐさま城の敷地内で待機している部隊のもとへ向かう。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

『では、すぐに陸軍航空隊へ発進命令を出します』

 

 前哨要塞基地の司令部にて、待機していた辻大将は俺の命令を聞いてすぐさま前哨要塞基地に配備されている陸軍航空隊と海軍陸上航空隊に発進準備を指示する。

 

「海軍の機動部隊の各空母にも艦載機の発進準備をさせるように伝えてくれ」

 

『了解しました。ですが、直接伝えた方が宜しいかと』

 

「……? どういう事だ?」

 

『先ほど海軍省より山崎総長をお呼びして今私の隣にいます』

 

「そ、そうか。なら、代わってくれ」

 

 意外と準備がいい辻に少し驚きながらも、俺は感情を押し殺す。

 

『山崎に代わりました』

 

「総長。機動部隊の現在位置はどこか分かるか?」

 

『少々お待ちを』

 

 

 

『現在総司令の居る城塞都市から60km先の沖合いにて待機しています』

 

 城塞都市の東から20km先に海があり、その40km先の沖合いに扶桑海軍が誇る聨合艦隊の機動部隊が待機している。

 

「そうか。ならば、1000時に出撃できるように発艦準備に取り掛かれと指示を出してくれ。攻撃目標は城塞都市に進攻する帝国軍だ」

 

『了解しました。それと一つ、伝えておかなければならないことが』

 

「ん?」

 

『実は聯合艦隊司令長官が、就役したばかりの例の新型戦艦を同行させたとのことです』

 

「新型戦艦……。まさか、大和をもう出撃させたのか? ってか訓練は?」

 

『各戦艦から優秀な乗員を選抜して集め、僅かな期間で訓練を積ませて、無理に出撃させたそうです』

『それと大和の実戦テストにはちょうどいいと言って』

 

「大石長官ェ……嘘だろ」

 

 あの人は本当にやることが……

 

 ってかまともな訓練も無しに運用するって無理やりすぎる。

 

「……まぁ、どうせ艦砲射撃も要請するつもりだったし、まぁいいか」

 

 その後山崎総長を通して機動部隊へ指示を出した。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その頃、辺りが暗く、穏やかな波が海を揺らしているその海上に、扶桑海軍の数十隻の軍艦が浮かんでいた。

 

 

 

 軍艦の構成としては以下の通り――――

 

             

 航空母艦:赤城型航空母艦『赤城』『天城』

      加賀型航空母艦『加賀』『土佐』

      飛龍型航空母艦『飛龍』

      蒼龍型航空母艦『蒼龍』

      翔鶴型航空母艦『翔鶴』『瑞鶴』

                     計8隻。

 戦艦:金剛型戦艦『比叡』『霧島』

    伊勢型航空戦艦『伊勢』『日向』

    長門型戦艦『長門』『陸奥』

    天城型巡洋戦艦『飛騨』『常陸』

    大和型戦艦『大和』

                     計9隻。

 巡洋艦:妙高型重巡洋艦『妙高』『那智』『足柄』『羽黒』

     高雄型重巡洋艦『高雄』『愛宕』『摩耶』『鳥海』

     球磨型軽巡洋艦『球磨』『多摩』『北上』『大井』『木曾』

     夕張型軽巡洋艦『夕張』

     大淀型軽巡洋艦『大淀』『仁淀』

                     計15隻。

 駆逐艦:睦月型駆逐艦『卯月』『菊月』『夕月』

     初春型駆逐艦『初春』『若葉』

     吹雪型駆逐艦特Ⅰ型『吹雪』『白雪』

       ;;   Ⅱ型『綾波』『朧』『曙』『漣』『潮』

       ;;   Ⅲ型『暁』『雷』『電』『響』

                     計16隻。

 

 計48隻が攻撃を今か今かと待っている。

 

 長門と陸奥は史実の開戦時に対空兵装を増設して改装された状態で、飛騨、常陸はその長門と陸奥に準じて艦橋や煙突を中心に改装が施されているが、大和型戦艦のテストヘッド艦として金剛型戦艦二番艦比叡と共に艦橋上部には15.5m測距儀と二一号電探を搭載している。

 

 そして史実とは違い、航空母艦へ改装された天城と土佐は赤城と加賀と瓜二つの姿をしているが、識別として艦尾側の飛行甲板に『アマ』『ト』と描かれている。ちなみに赤城と天城は頭文字が同じなので、赤城は『アカ』天城は『アマ』としている。

 

「長官! 司令部より入電であります!」

 

 その中で聨合艦隊旗艦である長門型戦艦一番艦『長門』の艦橋で通信手が走ってきた。

 

「内容は?」

 

「ハッ! 総司令からの指示で、各空母は艦載機の発艦準備を行い、1000時を以って第一次攻撃隊の発艦開始。その後艦砲射撃を実施せよとのことです! 攻撃目標は城塞都市ハーベントに進攻するバーラット帝国軍とのことです!」

 

「そうか。いよいよだな」

 

 長官席に座っていた聨合艦隊司令長官『大石(おおいし)小次郎(こじろう)』元帥は瞑っていた目を開き、隣に立つ副官に声を掛ける。

 

「第一航空戦隊から第五航空戦隊へ打電! 第一次攻撃隊発艦準備に取り掛かれ!」

 

「ハッ!!」

 

 副官はすぐさま第一航空戦隊の赤城と加賀、第二航空戦隊の飛龍と蒼龍、第三航空戦隊の天城と土佐、第四航空戦隊の伊勢と日向、第五航空戦隊の翔鶴と瑞鶴へと艦載機の発艦準備を始める指令を打電する。

 

 

「しかし、本当によくあの戦艦の出航許可が下りましたね。就役して間もないというのに」

 

 その後大石長官と副官は長門艦橋の防空指揮所へ移動し、まだ真っ暗な海を見ていた。

 

「実戦テストなら、今回のような戦場は打って付けだからな」

 

「なるほど。ですが、後で何か言われるでしょうね」

 

「かもな」

 

 大石は長門の後ろに視線を移すと、長門が重巡洋艦に見えそうなぐらい巨大な戦艦が停泊していた。

 

 それこそが史実で大日本帝国海軍が建造した世界最大にして最強と謳われた大和型戦艦一番艦『大和』である。

 

 大和は最初から対空戦闘を想定した設計で建造しており、姿形は最終状態である坊ノ岬沖海戦時の対空兵装を強化したときの姿をしている。

 

「だが、結果を残せれば、文句は言わないだろう」

 

「それ以前の問題が大きいような気がしますが」

 

 副官は苦笑いを浮かべながら各空母で発艦準備が整えられていくのを確認する。

 

 

 


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