異世界戦記   作:日本武尊

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第十六話 想い・・・・

 

 

 

「……」

 

 執務室にて、俺は執務机に積み上げられた書類にサインや判子を付けていって黙々と仕事をこなしている。

 

 その様子をリアスが見ながら、部屋を見渡す。

 

 まぁ本来なら部外者をこの部屋に入れることはまずないのだが、今回のみは特別だ。

 

 

(魔物の巣窟の一掃は多少の損害を被るも、巣窟を破壊。魔物を全滅に至らしめた、か)

 

 俺が外界に出ているあいだに開始された魔物の巣窟殲滅作戦の結果報告書を視線を動かして閲覧する。

 

(早速試作された富嶽を投入。その地上支援型でこれだけの戦果か)

 

 幻の超重爆撃機である富嶽は試験的な機構を多く採用した試験機として限定的に生産しているが、その中で爆撃機としての機能の代わりに地上支援として『九二式十糎加農砲』2門や『十二糎二八連装噴進砲』を4基搭載した地上支援型を生産している。言わばアメリカのガンシップと呼ばれる『AC-130』みたいなものである。

 ちなみに富嶽のみならず、他の爆撃機を元にした地上支援型や、対空戦闘を想定して爆弾倉を撤去し、代わりに電探や機銃を増設した『防空迎撃機型』など、様々な試験機がそこそこの数で試験的に製造されている。

 

(試験的な面が多い戦闘だったが、得られたものはかなり多かったな)

 

 貴重なデータが多く得られたので、今後の開発に大いに役に立つだろう。

 

(これで更なる領土の開拓ができるな)

 

 巣窟と魔物を一掃したお陰で、その先への土地への進出ができるようになった。陸軍による大規模調査を行い、そこから更なる領土拡大を目指す。

 規模はまだ明確にされていないが、恐らく本州ぐらいの広さまで拡大されるだろう。

 

 結果報告書を読み終えて執務机の隅に置くと、次に陸海軍技術省よりの報告書を手にして開く。

 

(『五式中戦車』の試作車輌が完成。試験は上々の結果を残し、調整の後に量産に入るか)

 

 報告書には試験結果と完成した本車の写真が添付されていた。

 

 ここの五式中戦車は史実の物とはハッキリ言えば別物で、主砲は搭載される予定だったと言われていた『九九式八糎高射砲』を一部改造して搭載しており(ちなみに搭載される予定だったというのは仮説であり、それを裏付ける証拠が無い限り今なお否定されている)、史実同様の半自動装填装置を九九式八糎高射砲に合うように搭載している。装甲は史実のより分厚くした上でエンジンも新しく開発した強力なエンジンを搭載している。

 コンセプトは重戦車並の装甲と火力を持ち合わせた中戦車であり、重量があるティーガーの行動制限が掛かる戦場で使用される。

 

 そして同時に後に開発される自動装填装置の開発のための試験車輌とも言える。

 

(兵器技術は日々進歩し続けているな。(きた)るべき大戦に向けて、あの戦闘機も開発が進んでいるな)

 

 次に海軍技術省の報告ページを開くと、とある物の開発過程が記述されていた。

 

(だが、やはり開発は難航しているか。まぁレシプロ機のエンジンを作っているわけじゃないんだから、当然か)

(んで、機体設計は終えているが、肝心のエンジンがなければテストの仕様が無いよな)

 

 まぁまだ時間はあるし、来るべき大戦まで間に合えばいいか。加賀に試験的に搭載したあれもレシプロ機を使って試験したところちゃんと機能していたし、下準備は整いつつある。

 

 報告書を読み終えて机の隅に置いて、仕事を再開する。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……」

 

 私はヒロキさんの部屋を頭を左右に向けて見回した。

 

 何の飾りつけもない質素な部屋であったけど、どこか落ち着きがあった。

 

「大きな音を立てなければ歩いて自由に見てもいいぞ」

 

「は、はい……」

 

 紙に印を押して出来上がった紙の山に置いて、私に視線を移しながらヒロキさんはそう言う。私は戸惑いながらも立ち上がって部屋を見渡し、壁に掛けられている木の枠に囲われた紙や勲章のような物などの飾りを見つめる。

 

(凄い……)

 

 壁に飾られている物が何かは分からなかったけど、たぶんヒロキさんの活躍を示す物だと予想した。

 

 

「……」

 

 ふと、棚の上にある物が留まる。

 

 小さな四角い木の枠に囲われた、とても精密に描かれた小さな絵であって、男女二人と、私よりまだ年下の男の子と女の子が仲良く写っている。

 

 それを持って、絵をマジマジと見つめる。

 

「俺と妹と両親の写真だ」

 

 と、いつの間にか仕事を終えたヒロキさんが立ち上がり、絵に写っている人物を言う。

 

「ヒロキさんの、ご両親と妹さん、ですか?」

 

「あぁ」

 

 ヒロキさんは私の右側に立って絵に写る家族を指差して紹介する。

 顔が近くて自分でも顔が赤くなるのを感じ取った。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「では、ヒロキさんはお父様の後を追って?」

 

「まぁ、そういうことだ」

 

 リアスにある程度家族のことを説明した。 

 

 父親は海上自衛隊の一佐で、当時就役したばかりの護衛艦『いずも』の艦長をしていた。最後まで貫き通せなかったが、一応親父の後を追っていたのは事実である。

 その他母や妹のことを嘘偽り無くリアスに伝えた。

 

 ちなみに妹の名前は愛美といって、品川大将と同じ名前な上に顔がそっくりであったので、愛美が生き返ったかと当初は自分の目を疑った。でも、顔と名前が似ているだけで、妹とは違うと知ったが……

 

「けど、いつの間にか親父を超えちまったな。世の中分からないものだ」

 

 嘘なのに本当のように言う。やっぱり罪悪感はあるな。まぁ嘘か本当かを確かめる術はこの世界には無い。言ったもん勝ちだ。

 

「そうですか。今、家族の方々はどうなされているのですか?」

 

「……」

 

 思わずあのときのことを思い出して、沈黙する。

 

「……?」

 

 その様子に気付いてか、リアスの表情に不安な色が浮かぶ。

 

「……四年前に、亡くなった」

 

「え……?」

 

「夜中に家が火事になってな、俺だけが助け出された」

 

 俺がこの世界に来る四年前に、住んでいた家が火事に遭い、親父と母さん、妹の愛美が亡くなった。火元の上である二階に寝ていた俺は煙に気付いて起き上がり、逃げる際に火傷を広い範囲に受けるも、その後消防士によって助けられた。

 が、その火元の近くで寝ていた三人は……消火後に焼け跡から焼死体となって見つかった。

 

「……そ、その、ごめんなさい。私……」

 

 身体と声を震わせてリアスは深々と頭を下げる。

 

「構わないよ。リアスはこの事を知らなかったんだ。他人の過去を最初から知っているなんて無理な話だからな」

 

「……」

 

 いかんな。こうも湿っていては……

 

 

 

「……なぁ、リアス」

 

「は、はい?」

 

「ちょっと、付き合ってくれるか?」

 

「え……?」

 

 思わぬ誘いに、リアスはきょとんとする。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 二人は司令部を後にして、陸軍と海軍の戦闘機や攻撃機が駐機されている陸海軍共有の飛行場にやってきた。

 

「おっ、総司令か。今日もいっちょ飛ぶのかい?」

 

「まぁな」

 

 その格納庫内では陸海軍の戦闘機や攻撃機、爆撃機を整備している整備士達が忙しそうに動き回っている。

 その中で一人の女性が気軽な態度でレンチを片手に弘樹のもとにやってくる。

 

 背中まで伸ばした黒髪を根元で束ねたポニーテールにして帽子を前後逆に被り、つなぎを着て上半身はタンクトップのみというラフな格好をしており、身体のスタイルが浮き彫りとなっているも彼女は気にしている様子を見せない。

 

「おや、後ろのお嬢ちゃんは?」

 

 彼女は俺の後ろで戸惑った様子で挙動不審なリアスを見る。

 

「他国からのお客さんだ」

 

「あぁ、確かグラミアムからだっけ? でも何で?」

 

「ちょっとしたサービスだよ」

 

「……あー、なるほどねぇ」

 

 と、整備士はチラチラと弘樹を見るリアスを見て、何かに気付いてニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「なら、複座式の零戦がありますから、それを使ってください」

 

 ちなみに複座式の零戦は主に偵察に用いることが多い。最も史実ではパーツの寄せ集めで出来た産物であるが……

 

「すぐに飛べるか?」

 

「ちょこっと整備をすればすぐにでも。そのあいだ着替えでも」

 

「分かった」

 

 俺はリアスを連れて一旦格納庫を出る。

 

 

 

 少しして二人は飛行服に着替えて(リアスの方は女性パイロットの手伝いで着用している)飛行場に戻ると、既に『零式艦上戦闘機六四型』をベースにした複座式が滑走路に駐機されていた。

 

「あ、あの……これから何を?」

 

「気分転換みたいなものさ。今からあれに乗ってちょっと空を飛ぶんだ」

 

「あれで、ですか?」

 

 リアスはいつでも飛べる零戦を見つめる。

 

 自分達が乗ってきた飛行機(一式陸攻)より小さい飛行機に、少しばかり不安を覚える。

 

 

 準備完了したと整備士が伝えて、俺とリアスは零戦のボディーより足場を出してそれに足を掛けて乗り込む。

 リアスを後部座席に座らせてシートベルトを装着させ、俺は翼を踏まないように注意して操縦席に座り、シートベルトをして計器に異常が無いかを確認する。

 

 二人が乗り込むのを確認して整備士がプロペラを数回回してオイルを循環させる。

 

 それを終えたのを確認して、俺は各操作をしてエンジン始動の手順を踏むと、ゆっくりとプロペラを回し始める。

 

 数回ほど回してからエンジンを始動させ、零戦の金星エンジンが大きな音とともにプロペラが高速回転する。

 

 その音にリアスは身体を震わせるが、俺は後ろを向いて彼女を見る。

 

「大丈夫だ。心配するな」

 

「……ヒロキ、さん」

 

 リアスは不安は完全に拭えないものの、ゆっくりと頷く。

 

 彼女が頷いたのを確認して俺はゴーグルを下ろして左手で持つレバーを倒し、プロペラの回転数を上げる。

 

 零戦はゆっくりと前へと進み出すと、瞬くあいだに速度を増して宙に浮く。

 

 ある程度高度が上がったところで車輪を片方ずつ収納し、操縦桿を少し後ろに倒してゆっくりと上昇する。

 

「っ……」

 

 宙に上がった瞬間のゾワリとする感覚にリアスは目を瞑って俯く。

 

 

 

「リアス。外を見てみろ」

 

 ある程度高度を上昇させたぐらいで、リアスに声を掛ける。

 

「……」

 

 リアスは怯えながらも、風防に顔を向けてゆっくりと目を開く。

 

「……!」

 

 彼女の視線の先には……地平線の向こうに隠れようとしているオレンジ色に染まった夕日があり、幻想的な光景を見せていた。

 

「……綺麗」

 

 リアスはその光景に釘付けになって見ていた。

 

「お気に入りの光景なんだ。こうして空を飛ぶときだけ見れるから、もやもやした気分が晴れる」

 

「……」

 

「気に入ってもらえたかな?」

 

「は、はい。とっても、綺麗です」

 

 彼女は頬を赤く染めて縦に頷く。

 しかし弘樹から見て彼女は夕日に照らされて顔が赤いことに気付いていない。

 

 

「あ、あの」

 

「ん?」

 

「ヒロキさんは、フソウは今後どうする、のですか?」

 

「あぁ」

 

 俺は操縦しながら耳を傾けて彼女の言葉を聞き、口を開く。

 

「可能ならグラミアムと交流を深めたいと思っている。まぁ、向こうの国王が断るのなら、手を引くがな」

 

「そう、ですか」

 

 と、どこか残念そうな表情を浮かべる。

 

「だが、一度足を踏み入れたからには最後まで責任を持って収束させる」

 

「……一国で、帝国と戦うのですか?」

 

「やりようはある。だが、大国に対して扶桑のみでは、厳しい戦いになるのは目に見えているけどな」

 

 兵器技術は上だとしても、物量では圧倒的にこちらが負けている。だが、戦術次第では質が量に勝つことができる。

 

 

「……」

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……」

 

 私は後ろの席から隙間に見えるヒロキさんの後ろ姿を見つめた。

 

(ヒロキさん……)

 

 こうしてこの人と一緒に居られると、不思議と胸中が温かくなる。

 初めて出会ったあの日から、不思議とそうだった。今までこんな事は無かったのに……

 

 自分と似た境遇だから? それとも、私達を偏見の目で見ていないから?

 

 でも、分かることとすれば……

 

(ずっと、こうして一緒に……ヒロキさんと居たい……)

 

 そう思ってしまうと自分でも顔が熱くなるのが分かった。こういうのを、人間の言葉だと一目惚れって言うのかな?

 

 

 

 

 

 

 ……でも、もし国王様が、いや、あの人の性格を考えるなら最初から会うのを断るとは考えづらいけど……もし仮に、国王様がフソウとの国交を断ったら……もう、会えなくなる……?

 

 二度とじゃなくても、ずっと、離れ離れになる……?

 

 そう思うだけで胸が締め付けられるような……そんな痛みがする。

 

 

 

 

「さてと、戻るとするか」

 

 しばらく飛行して操縦桿を左へ傾けようとしたとき、私はとっさにヒロキさんの肩に手を置く。

 

「……?」

 

 ヒロキさんは怪訝な表情を浮かべて私に顔を向ける。

 

「……もう少し、いいですか?」

 

 頬を赤く染めながらも、そうに告げる。

 

「まだ、観たいのか?」

 

「……は、はい。ダメでしょうか?」

 

 

「あぁ。君が言うなら少しだけ飛んでもいいが、暗くなる前に着陸しないといけないからあと5分ほどになるが?」

 

「それでも、構いません」

 

「そうか」

 

 ヒロキさんは右へと操縦桿を傾けて5分のあいだ扶桑の上空を旋回し、フソウの海軍の軍港や湾内に停泊している軍艦や、陸軍の演習場の上を飛ぶ。

 

「……」

 

 私は短い時間でも、ヒロキさんと一緒に居られる時間を、忘れないように大切にした。 

 

 

 


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