異世界戦記   作:日本武尊

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第十八 幻の影

 

 

 

 扶桑とグラミアムが協力関係になって、早半年近くが過ぎ、秋から冬を迎えようとしていた……

 

 

 

 

「先のキラル荒野での戦闘結果です」

 

「ふむ」

 

 執務室で戦闘時の被害報告や陸海軍からの要請書など様々な書類整理に追われていた俺は作業を止めて品川より渡された報告書を手にしてページを捲る。

 

「うーむ……。援護のつもりで陸海軍の航空隊を送り出したんだが、これじゃ殲滅戦だな」

 

 予想以上の戦闘結果に俺は静かに唸る。

 

 キラル荒野で苦戦を強いられているグラミアム軍への援護をアーバレスト将軍より要請され、陸海軍の航空隊と陸軍機甲大隊を派遣した。

 

 以前より旧式機を多く投入したが、それでもキラル荒野帝国進攻軍は壊滅させ、多くの捕虜を捕らえている。そしてこちらの被害は微少であった。

 まぁパイロット達が前回より荒ぶったせいなんだろうな……きっと……

 

 

「次の海軍の作戦ももう間近か」

 

「はい。準備は着々と進んでいます。主力の聨合艦隊もトラック泊地へと移動し、作戦開始の時を待っています」

 

 海軍は主戦場により近い海域にトラック諸島に酷似した諸島を発見し、そこを工作艦を用いて海路に改造を加えて名称をそのまま『トラック泊地』として聨合艦隊の泊地として主力となる多くの軍艦を移動させている。

 

 現在は史実のソロモン諸島と酷似した諸島を占領する帝国軍に対して攻撃を行うための下準備を行っている。

 

 主に下準備というのは、前哨要塞基地の資材物資を輸送するために必要最低限数しかなかった輸送船と油槽船の更なる建造が主である(なぜ今更かというと、今まで主力艦をメインに建造して補助艦船の建造は後回しにしていたしょうもないというか呆れた理由がある)。

 そのため各大型造船所で建造中だった軍艦の建造を中止し、今ある中型造船所をグラミアムと協力体制を取ってから全てフル稼働させて補助艦船の建造に集中させている。

 

 こうなるんだったらちょこちょこと並行して補助艦船を建造してればよかった気がする……

 まぁ外界に出るまでは外洋進出の必要性が無かったし、輸送船と油槽船などの補助艦船は前哨要塞基地の鉱山と油田から得られた資材や油を軍港に運び入れる必要最低限の数で足りていたし。

 

 

 陸軍はステラとの話し合いをしてグラミアムの領土内に物資輸送の他、足となる鉄道網を敷き、現状では一つだけ前線基地を建造している。しかし協力体制である現状ではこれ以上の建設はさすがに無理であった。

 ちなみに鉄道網や前線基地を領土内に設置する事に関してはステラが『土地はいくらでもあるからな! 気にするな! それに民の足にもなるならジャンジャン作ってくれ!』と意気揚々としていた。器が広いと言うか、何と言うか……

 

 まぁそうもあって鉄道は物資輸送の他に客車を牽引する列車も走らせてる。もちろんこの世界での通貨で賃金を設定し、支払ってもらって列車に乗ってもらっている。

 

 ちなみにこの世界の通貨は白金貨、金貨、銀貨、銅貨、鋼貨の五種類になり、それぞれの金額は日本円に例えるなら・・・・・・

 

 鋼貨は10円

 銅貨は100円

 銀貨は1000円

 金貨は10000円

 白金貨は100000円

 

 となっている。

 

「だが、油断と慢心はしないようにと各部隊へ伝えるように」

 

 いくら連勝が続いているとは言えど、そんな気の緩んだ状態が一番危ういのだ。

 

「分かりました」

 

 

 

「それにしても、本当に壮観な眺めだな」

 

 俺はイスから立ち上がって背伸びをすると、窓から軍港を眺める。

 

 主力の殆どは泊地に移動しているが、この湾内には建造中止になるまでに新造された軍艦が停泊して、随時移動させる予定である。

 

 湾内には史実より戦艦並みの装甲と正規空母並みの搭載数を誇る装甲空母として完成した『信濃』と大鳳型装甲空母二番艦『大峰』の他に史実では解体処分となった大和型戦艦四番艦『美濃』が停泊しており、美濃に関しては現在ようやく建造の目処が立った戦艦に用いられる新たな装備とボイラー、発電用のディーゼルを試験するためのテストヘッド艦として就役している。

 更に改大和型戦艦として計画された、ここでは大和型戦艦五番艦、六番艦として統合した『近江』『駿河』も約45%完成した状態で今は放置中だが、ある程度補助艦船の建造ラッシュが収まれば建造再開となる。近江と駿河に搭載されている『50口径46センチ砲』や『65口径10cm高角砲』は目処が立てば大和、武蔵にも搭載される予定である。

 

 他にも『朝潮型駆逐艦』10隻と『陽炎型駆逐艦』19隻、『夕雲型駆逐艦』19隻、試験的な意味合いを込めて建造した島風1隻、『最上型航空重巡洋艦』6隻(五番艦『伊吹』六番艦『鞍馬』は対空兵装を強化した防空巡洋艦として就役している)、『岩木型巡洋戦艦』4隻が主力として泊地に移動する予定だ。

 

 先に言った補助艦船の建造ラッシュが収まれば、改秋月型駆逐艦の設計を取り入れた『秋月型駆逐艦』13隻(1隻は史実では建造中止されているやつを含む)と『利根型航空重巡洋艦』2隻、改阿賀野型軽巡洋艦の設計を取り入れた『阿賀野型軽巡洋艦』4隻が建造予定に入っている。

 

「例の戦艦も目処が立って建造を開始。完成が楽しみだな」

 

 戦艦好きなら狂喜乱舞ものな光景が広がりそうだ。想像しただけで自分の顔がにやけてると感じられる。

 

 しかし、以前より建造スピードが上がっているような気がするが、気のせいか? 確かに様々なサイズの船の建造ができる造船所の数は最初の時と比べると10倍近く多くなっているが……

 

 

「妄想でお楽しみ中申し訳ありませんが、最後に一つ報告があります」

 

 呆れ半分の表情で品川が問い掛けると、左脇に大事そうに抱えるように持っていた封筒を手渡す。

 

 封筒を手にした俺は、封筒の『幻』という言葉に表情を険しくさせる。

 

「暗号文は私の方で解読しておきました」

 

「うむ」

 

 周囲を確認してから、厳重に閉じられている封筒を開けると、中に入っている書類を出して解読された暗号文を読む。

 

「……予定通りなら、明後日の朝だな」

 

「はい。この日のために、訓練を積んだ精鋭を揃えた秘匿艦隊です。必ずや任務を全うするでしょう」

 

「期待しよう。この作戦で今後の戦闘の行く末が決まるからな」

 

 戦場において最も重要な物を絶つために、海軍でも極秘作戦を弘樹の指示の下に秘密裏に行わせていた。

 

「では、私はこれで」

 

 品川は頭を下げて、踵を返して執務室を出る。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 俺は椅子に座り、ゆっくり深く息を吐く。

 

(今のところ問題はなさそうだが、今後どうなるか……)

 

 現状帝国はハーベント攻略の失敗による多くの戦力損失と扶桑という新勢力の出現に戸惑いを見せているだろうが、体制を立て直すのも時間の問題。今後激戦は予想できる。

 

(となると、短期決戦に挑む必要がある、か)

 

 早い速度で扶桑は侵攻している帝国軍を押し返しているが、敵が圧倒的物量で攻めてきたらさすがに物量で劣る扶桑では勝ち目は薄くなる。

 可能なら早期講和に持ち込みたいが……

 

(無理だよな……)

 

 バーラット帝国は魔法至高主義者な上に貴族主義者としてのプライドが大きい人間で占めている国と言われている。たとえ火力が圧倒的に上だとしても、戦局が明らかに劣勢だとしても、魔法が使えない劣等人種、しかも国としては小規模の扶桑の言葉に耳を貸すとも思えない。

 

 ならば、徹底的に叩きのめさなければバーラットは交渉の席には着かないだろう。

 かと言っていきなり本土爆撃をしても効果はそれほど期待できないし、逆効果を生み出しかねない。

 なので、時間を掛けて攻めることにした。

 

(まぁ、だからこそのあの艦隊を結成したんだ)

 

 と、俺はとある艦隊のことを思い出す。

 

 

 俺の他に海軍では少数と品川と山崎総長、陸軍では辻と大西参謀総長のみでしか存在が知られていない俺の直属の秘匿艦隊。

 

 そしてその秘匿艦隊は今―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の届かない、冷たく暗い海の中……

 

 

 そこに10隻の艦影が陣形を組んで海中を航行していた。

 

 

 史実大日本帝国海軍がパナマ運河攻撃のために建造した、現代においても通常動力潜水艦としては最大規模を誇り、地球を一周半航行できる航続距離を持つ潜水艦……『伊400型潜水艦』。

 連合軍ですら終戦になるまでその存在を把握できなかった潜水艦で、どこへでも攻撃が可能という運用思想は後の戦略潜水艦へと受け継がれた。

 その伊400型潜水艦に持てるだけの最新鋭技術を投入し、史実以上の性能を以って建造されている。

 

 

『伊400』を旗艦として『伊401』『伊402』、史実では建造途中で解体された『伊403』『伊404』『伊405』、戦局悪化で計画中止となった『伊406』『伊407』『伊408』『伊409』の計10隻で構成された特殊潜水艦隊。

 この他にも主に通商破壊を目的とした、様々な伊号潜水艦で構成された攻撃潜水艦隊も存在しているが、この特殊潜水艦隊は極めて重要度の高い任務に就く艦隊だ。

 

 それ故にこの艦隊の機密性は最大レベルに当たり、海軍の公式記録にすら一切存在しないこととなっている。

 つまり存在しながら存在しない、というのがこの艦隊の売りの一つだ。

 

 

 

 そしてその艦隊の名は……『幻影艦隊』と言う。

 

 

 

 

「……」

 

 幻影艦隊旗艦の伊400の艦橋内に、物静かに乗員がそれぞれの役割を黙々とこなし、海軍第2種軍装を身に纏う男性が腕を組んで目を瞑っている。

 

「艦長。あとどのくらいで目的の海域に着く?」

 

「ハッ。予定通りなら明後日の0500時に到着予定です」

 

 潜望鏡を覗いていた伊400の艦長はすぐに男性へ面を向くと、聞かれた事を答える。

 

「そうか」

 

 艦隊の長官である『小原(こはら)庄治(しょうじ)』少将はゆっくりと息を吐く。

 

「今回は我が艦隊の初陣だ。総司令がなぜ我が艦隊を結成させたかを、そして期待を裏切らないように」

 

「心得ています」

 

 艦長はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「針路そのまま。巡航速度を維持せよ」

 

 艦長の指示は僚艦へと伝えられ、誰にも気付かれる事無く幻影艦隊は目的の海域へと静かに向かっていく。

 

 




やっぱり構成している潜水艦のせいか、某潜水艦隊をイメージしてしまうなぁ・・・・

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