異世界戦記   作:日本武尊

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第三章
第二十四話 帝国軍の動き


 

 

 

 

 冬にしては暖かな気温で、天気も快晴な今日。

 

 

 自分こと『倉吉太郎』はいつも通り警護のため町を巡回しています。

 

 上官である岩瀬大佐が率いる部隊が次の作戦開始までこの町に一時期留まる事になり、治安維持のため憲兵隊と共に警護に回っています。

 

 この町の人たちは僕達のような異国の人間を嫌な顔一つせず迎えてくれたので、ご近所付き合いみたいな関係になっています。

 というのも、この町の治安は自分達が来るまでは、窃盗や殺人、放火などと、お世辞にも良いとは言えないほど悪かったのです。しかし自分達が来て憲兵隊と共に警護をしてからは治安はよくなってきたので、それが住人達が受け入れてくれた要因かも知れません。

 

 

 

 それにしても、岩瀬大佐は総司令と関わってからというもの、本当に昇進したなぁ、と思います。

 

 

 半年の間で三階級も昇進する者は殆どいないのですから、結構陸軍の間では噂になっていたりします。

 そして自分も多くの活躍があって、軍曹から曹長へ昇進しました。

 

 

 そしてつい最近でも、憲兵の兄が規則違反で拘束され、現在本国に移送されたと聞きました。どうやらお忍びで休暇中だった総司令にその現場を見られたようで、総司令の怒りを買ったらしいです。

 その時点で運の尽きかもしれなかったけど、身内が捕まったというのは気分の良いものではありません。

 

 

「ホント、世の中何が起こるか分からないものですな」

 

 そう呟き、自分の右肩に掛けている四式自動小銃のスリングを担ぎ直して、周囲を見渡す。

 

 この町は小規模ながら、活気に満ちており、通路では常に人がいっぱい居ます。

 すれ違う際の挨拶は欠かせません。

 

 そして同じ部隊の同僚と会うと陸軍式敬礼を交わして「ご苦労様」と言い合います。

 

(こんな平和が、いつか訪れるのですな)

 

 帝国との戦争が終われば、こんな光景がいつまでも続くのでしょう。そう思うと自然と気が引き締まります。

 

(他の戦場では仲間や海軍が頑張っているのです! ならば、自分達も次の作戦で頑張らねば!)

 

 内心で覚悟を決めていると……

 

 

 

 

 路地で何か倒れる音がして自分はすぐに路地に向かいます。

 

 そこでは数人の男性に少女一人が口を手で押さえられて囲まれていました。

 

「貴様達!! いったい何をしている!!」

 

 自分が男達に向かって大声を張ると、男達も気づきます。

 

「チッ! やれ!!」

 

 と、少女を抱えている男が他の男達に叫ぶと三人の男達が自分へ向かってきます。

 

「うぉらっ!!」

 

 男の一人が殴りかかってくるも、身体を右へとずらしてかわすと男の腕を掴んで、背負い投げのようにして男を表へと投げ飛ばします。

 その際に肩に掛けていた四式自動小銃が地面に落ちてしまいました。

 

「やろうっ!」

 

 更にもう一人が殴りかかるも、自分はその場で身を屈めて回避します。

 

「ハッ!!」

 

 すぐに右肘を突き出して男の腹部に叩き付けると、男は口から光るものを吐き出し、後ろに倒れこんで悶絶しました。

 

 自分の状態から好機を見てか、最後の一人が近くにあった棒を手にしてその場から飛び出して振り下ろしますが、自分は落ちた四式自動小銃を手にして振り返り、打撃を受け止めます。

 

「ぬぅ!!」

 

 そのまま四式自動小銃を斜めにして受け流すと男はその勢いで身体を前に放り出したので、すぐさま四式自動小銃の銃床で男の背中に叩き付けて地面に押し倒します。

 

「くそっ!!」

 

 すると少女を抱えていた男は踵を返して逃げようとしました。

 

「っ!」

 

 自分はとっさにさっきの男が手にした棒ともう一つのやつを手にして勢いよく投擲し、男の膝裏にぶつけてバランスを崩させます。

 その衝撃で男から解放された少女は前へと放り投げられました。

 

「誘拐未遂、及び暴力行為で貴様たちを拘束する!!」

 

 すぐさま男に駆け寄り、両手首を掴んで押さえ込む。

 

 岩瀬大佐や鬼教官直伝の体術を徹底的に叩き込まれていますから、あんな不良を相手をするのは赤子の手を捻るぐらい楽なものです。

 

 

 その後憲兵がやってきて男達を拘束しました。

 

「では、後は頼みます」

 

『ハッ!』

 

 憲兵に連行される男達を確認して、自分はとっさに放り出された少女に駆け寄ります。

 

「大丈夫でありますか?」

 

 

「あ、ありがとう」

 

 少女はおどおどとした様子で礼を言ってきます。

 

「気をつけてください。こんな場所では、あんな輩が多いですから。さっきは未遂で終わったのは幸いでしたが、あなたのような女子は誘拐の対象になる事だってあるんですから」

 

「それは、まぁそうよね……」

 

 何か言い返したかったのでしょうが、少女は正論を言われて何も言えなかったようです。

 

 少女は見た限りエルフのようで、耳は尖って背中まで伸ばした金髪を根元で束ねたポニーテールにして、エメラルドの瞳をしています。背丈も自分と同じぐらいですが、フラットな体格の持ち主です。年は見た目なら大体自分と同じ(ちなみに自分は17です)だと思います。

 

「今何か失礼な事考えなかった?」

 

「い、いえ。そんな事ないでありますよ?」

 

「……」

 

 怪しげにエルフの少女は自分を睨むも、「まぁいっか」と呟きます。

 

「それで、あんたはフソウの人間なの?」

 

「えぇ。その通りであります。自分は扶桑陸軍第2師団第五歩兵大隊所属の倉吉太郎曹長であります」

 

「クラヨシタロウ? 変な名前ね」

 

「倉吉が名字で、太郎が名前であります」

 

「ふーん。まぁいいけど、あんたみたいのがあのフソウの軍人ねぇ」

 

 少女は疑いの目で自分を見てきます。

 

「なんですか、その目は」

 

「だって、フソウの軍人って屈強な男達って聞いたからさ。なのにあんたってヒョロっとしている」

 

「失礼ですな。これでも鍛えているほうであります。現にさっきの連中など軽いもんであります」

 

「まぁ、さっきのを見ればねぇ。それはいいか」

 

 ……初対面でこの態度。なんでありますか。

 

 

「・・・・って、ようやく見つけたのに、何を言ってしまっているのよ私!?」

 

 するとハッとして少女は慌てふためきます。

 

「あんた、フソウの軍隊の人間でしょ!?」

 

「そう言っているじゃないでありますか」

 

「なら、頼みを聞いてくれない!?」

 

 少女はズイっと押し寄せてきます。

 

「え、えぇと、内容次第で」

 

 彼女の勢いに思わず返答してしまいました……

 

 

 

 

 

「お願い! お父様を、国を助けるためにフソウの力を貸してちょうだい!!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「つまり、君の国は帝国に占拠されていると?」

 

 話を聞く限り、彼女こと『アイラ・ミラ・ガランド』はエルフ族で構成された『エール王国』の第二王女であるらしい。

 

 エール王国は国としての規模はそれほど大きくは無いが、エルフ族から代々から伝わる魔法や技術で高度な社会を築いている。あまり他の国との国交は少なく、グラミアムはその数少ない国交相手なのだという。

 

 そのエール王国が一週間ほど前にバーラット帝国によって占拠され、彼女の家族は監禁されている。

 

「えぇ。私は秘密の抜け道を使って何とか逃げられたけど、お父様やお姉さまは・・・・」

 

 しゅんと彼女は気を落とす。そりゃ自分だけ逃げてきたのが、悔しいのだろう。

 

「私だけじゃ国を占拠した帝国の連中を倒すなんて到底無理。お父様の旧知の仲のグラミアムの国王に協力を申し入れたいけど、帝国と戦争状態だし、噂じゃ兵力が激減しているって聞くし」

「でも、そんなときにあなた達の噂を聞きつけたのよ! そしてこの町に居るっていうのも聞いたし」

 

「それで、自分達に協力を申し入れたい、と?」

 

「えぇ。もちろんそれ相応の対価は支払うわ!」

 

「……」

 

 自分はため息を吐くと、ハッキリと言った。

 

「あのですね。普通常識ってものがあるでしょう。会ったばかりの見ず知らずの赤の他人から国を救ってほしい。と頼まれて『はい良いですよ』って言うと思っているのですか?」

 

「それは……」

 

「それに自分は下っ端中の下っ端ですから、軍を動かせるわけないでしょう」

 

「うぅ……」

 

 曹長でも岩瀬大佐の部隊では下っ端中の下っ端ですからねぇ。

 

「大体、我々だって暇じゃないんですよ。自分達の部隊も次の作戦に備えて、この町に駐留しているのですから」

 

「……」

 

「申し訳ありませんが、他を当たって――――」

 

 

「……少なくとも、フソウにとっては、損の無い話よ」

 

「……?」

 

 震えながら言う彼女の言葉に首を傾げる。

 

「どういう事ですか?」

 

「……帝国の狙いは、大よそ私達エルフ族が先祖代々から伝えられてきている魔法技術よ」

 

「魔法技術、ですか?」

 

「えぇ。とても高度な物があるって聞いているわ。例えば、姿を消したりする魔法だったり、物体を空を飛ばすための心臓の技術等々」

「それに、このあいだ魔力を燃料にする心臓の技術がどっかの馬鹿のエルフによって帝国に流されたって言われていたし……」

 

「それと自分達に損が無いと、何の関係が?」

 

「もし、帝国がその魔法技術の数々を手に入れたら、たとえあなた達でも苦戦は強いられるわよ」 

 

「……」

 

 彼女の言葉に自分は眉を顰める。

 

「それほど強力なものよ。そんなものを、帝国に渡してもいいの? 下手すればフソウには大きな痛手になりかねないわよ」

 

「それは……」

 

 

「もし、お父様と話がつければ、その魔法技術をあなた達に伝えても良いわよ」

 

「いや、それは……」

 

「嬉しくないの?」

 

「……扶桑は魔法文化が全く無いんですよ。そんなの猫に小判。豚に真珠です」

 

「コバンとかシンジュは分からないけど、少なくともあなた達にとっては無駄なものみたいね」

 

「……」

 

「とにかく、この件はあなた達にとっても、決して損の無い話よ。それにフソウはグラミアムに次いで、国と交流がほとんど無いエルフの国と国交が繋げられるのよ」

「これだけでも、相当凄い事なのよ」

 

「……」

 

「……だから、お願い」

 

 彼女は目に涙を浮かべ、自分に訴えかける。

 

「……」

 

 自分は悩んで、頭を掻く。

 

 

 

 確かにこれは、そう見逃せられる一件ではなさそうだ。

 

 総司令は早期講和を目指していると聞いているので、もし帝国が強力な魔法技術を手にしたら、ただでさえ早期講和の道が険しいというのに、それが更に遠のく事になってしまう。

 つまり、余計な犠牲が増える事に繋がる。

 

 それにその魔法技術を扶桑に伝えることも考えている。魔法文化と縁の無い扶桑だが、その中に流用できる技術もあるかもしれないし、グラミアムの魔導技師や帝国軍の捕虜の中に寝返った魔法使い達も居るので、決して無駄にはならないはず。

 

 国交があまり多くないとされているエルフの国と国交を持つことができるのは、新たな文化を取り入れることに繋がる。

 

 

 結果的に、扶桑にとって損は無い。

 

 

 

「……一応、上官に掛け合ってみるよ」

 

「ホント!?」

 

 彼女はポニーテールを揺らして自分にズイッと近付く。

 

「ただし! ダメだったとしても文句は無しですよ!」

 

「それは……ううん。分かったわ。国が否定したら、それっきりだもんね」

「でも、少しでも希望を持てるなら!」

 

「……あんまり期待しないでくださいよ」

 

 そうして自分は彼女と落ち合う場所を話し合いで決めて、一旦その場を離れる事にした。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「とは言ったものも、どうしたものですかな……」

 

 上官こと岩瀬大佐に掛け合ってみると言ったものの、どう伝えるべきか……

 

「そのまま岩瀬大佐に言うべきか、それとも少し濁して言うべきか……」

 

 しかし、相手はあの岩瀬大佐だ。何を言っても怒声と説教が返ってきそうだ。

 そういうイメージが定着している自分も何だけど……

 

「うーん。どうしよう……」

 

 

 

「さっきから何をブツブツと言っているのだ、曹長」

 

「っ!?」

 

 後ろから聞き覚えのある声を掛けられ後ろを振り返ると、腕を組んだ岩瀬大佐が立っていた。

 

「い、い、岩瀬大佐!?」

 

 思わず姿勢を正して陸軍式敬礼をする。

 

「先ほど女子を誘拐しようとした男達を捕らえたそうだな。よくやったぞ」

 

「は、ハッ! ありがとうございます!!」

 

 

「ところで、先ほど私の名前が聞こえたような気がするのだが、どういうことだ?」

 

「あー、いや、その……それは……」

 

 さっきの事を思い出して、思わず口が固まる。

 

「……倉吉曹長!!」

 

「は、はい!!」

 

 岩瀬大佐に怒鳴られ、姿勢を正す。

 

「ウジウジと鬱陶しいぞ!! 貴様それでも扶桑陸軍軍人か!!」

 

「も、申し訳ございません!!」

 

「ならば、言いたい事はハッキリと言え!!」

 

「は、はい!!」

 

 自分は大佐に言われるがままに、先ほど彼女から聞いたことを話した。

 結果オーライってやつなのかなぁ……

 

 

 

「つまり、そのエール王国の第二王女が、帝国軍に占拠された王国を奪還するために我々に協力を申し入れている?」

 

「はい!」

 

「そして、その作戦を私を通して総司令に伝えてほしい、と?」

 

「そうでありますが……」

 

「……」

 

 私は曹長の言葉を聞いて、頭が痛くなるような感覚が襲う。

 

 確かに総司令とのパイプはあるが、それはそれ。これはこれだ。と言うかこいつは私を何だと思って……

 

「貴様、それで総司令が了承するわけ無いだろ」

 

「それは、重々承知の上であります」

 

「なら、諦める事だな。それに、我々も次の作戦があるのは知っているはずだ。その余裕は――――」

 

「で、ですが、これは扶桑にとっても、損の無い話です!」

 

「エルフ族が代々から伝わる高度な魔法技術か。そんなもの、魔法文化と縁の無い扶桑には無用の長物だ」

 

「いえ、それではなく、その魔法技術を帝国軍に渡してはならないんです!」

 

「……」

 

「総司令は早期講和を望んでいると聞いています。もし魔法技術を帝国に渡したら、その道が遠のくばかりではなく、帝国の力を増すばかりです」

 

「……」

 

「大佐……お願いします!!」

 

「……」

 

 

(確かに、一理あるな)

 

 曹長の言う事は、決して的外れなことではない。

 

 その魔法技術がどれほど凄いものかは分からないが、帝国に力を付けさせるのも癪ではある。

 それで総司令の手を煩わせるのも、扶桑軍人として納得のいくものでもない。

 

(……まぁ、たまには部下の意見も取り入れてみるのも、悪くは無い、か)

 

 

 

「……一応、総司令には話すだけ話してみよう」

 

「ほ、本当でありますか!?」

 

「但し、最終的な判断を下すのは総司令だ。文句は受け付けないぞ」

 

「はい! もちろんであります!」

 

 嬉しそうに曹長は声を上げる。

 

「はぁ……全く。面倒な事を」

 

 私はその場を離れて、本国へ向かう準備に取り掛かる。

 

 

 


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