異世界戦記   作:日本武尊

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第三十話 敵の新兵器

 

 

 

 

 グルム平原

 

 バーラット帝国とグラミアム王国の本来の国境ともいえる場所がある平原、そこでは扶桑陸軍とバーラット帝国軍との激戦が繰り広げられていた。

 

 

 

 

「……」

 

 その戦場の上空にて『五式戦闘機』に乗る加藤信夫は翼の12.7mm機銃を放ち、味方機の背後から襲い掛かろうとした竜騎士を撃ち落す。

 

「ちっ!」

 

 後方を確認したら竜騎士が迫ってくるのを見つけてすぐさま操縦桿を後ろに引いて上昇しながら右に倒し、機体を回転させてわざと速度を急激に落とし、奇襲を仕掛けようとした竜騎士の攻撃をかわして機体の下を通り越し、その直後に上下逆さまにして機首の20mm機銃を放ってドラゴン諸共竜騎士を撃ち殺す。

 

 周囲では『四式戦闘機 疾風』や『三式戦闘機 飛燕』が竜騎士達と空で戦闘を交え、攻撃を受けて損傷したり、火球の直撃を翼に受けて撃墜されたりするも、次々と竜騎士を撃ち落していく。

 

 中には『穴吹(あなぶき)(とおる)』曹長の四式戦闘機が前方より向かってくる竜騎士とヘッドオンをするも、火球を吐かれる前に機首と翼の20mm機銃を一斉に放ち、竜騎士諸共ドラゴンを粉砕する。

 直後に背後から接近する竜騎士に気付き、機体をロールさせてドラゴンより吐かれた火球をかわして、スロットルと操縦桿を引いて速度を落としながら上昇し、背後から迫ってきた竜騎士が急激に速度を落とした四式戦を追い越してしまう。その直後に機首を竜騎士に向け、機首と翼の20mm機関砲を一斉に放って竜騎士とドラゴンを諸共粉砕する。

 

「やるな、穴吹の野郎。こっちも負けていられないな!」

 

 加藤信夫は操縦桿を右に倒して機体を旋回させて照準機に竜騎士を捉え、引き金を引いて12.7mm機銃を放って竜騎士を撃ち落す。

 

 

 

 しばらくして帝国軍側の竜騎士は全滅し、制空権は扶桑の手に渡る。

 

「よし。このまま地上の敵を一掃する。頼むぞ海軍さんよ!」

 

 後方からは陸上攻撃機『銀河』と一式陸攻他、地上支援型の連山改が数十機に及ぶ数が編隊を組み、紫電の護衛を率いて戦闘空域に到着する。更に高高度には指揮索敵機である富嶽が待機している。

 

「……」

 

 下を確認すると、陸軍の第6機甲連隊が前進していた。

 

 機甲連隊には最近配備されたばかりの五式中戦車を中核とし、ティーガーや四式中戦車、五式十五糎自走砲といった戦闘車両の他様々な装甲車輌が砂煙を上げて平原を駆ける。

 

「いつ見ても頼もしいな。これだけの戦力なら拠点攻略も容易いだろうな」

 

 グルム平原には帝国軍の拠点があり、ここを潰せば向こうのグラミアム侵攻を大幅に遅らせられる上に、位置的に今後の行動を左右する拠点にもなる。

 

「さてと、海軍さんの爆撃機の護衛に加わるとするか」

 

 と、操縦桿を右に倒して機体を旋回させ、海軍爆撃隊に合流しようとした。

 

 

 

 だが、その瞬間突然上から何かが落ちてきて一式陸攻の一機の翼の根元へと直撃し、翼をへし折られて機体が落下する。

 

「なっ!?」

 

 その光景に加藤信夫は目を見開き、呆然となる。

 

 すると次々と黒い物体が上から落下して銀河や一式陸攻に直撃して次々と落とされていく。

 落下してくる黒い物体は一式陸攻や銀河を次々と破壊し、そのまま進撃をしていた機甲連隊へと襲い掛かり、四式中戦車や装甲車輌を上から押し潰す。

 

「あれは……岩?」

 

 黒い物体の正体は巨大な岩であり、その中には岩と見せかけた巨大な爆弾が混じっており、落下した直後に破裂して戦車や装甲車輌に被害を齎す。

 

「目的は機甲連隊か……」

 

 海軍の爆撃隊は偶然にも爆撃コースに重なったといったところか。だが、爆撃はまだ続いて地上の機甲連隊に甚大な損害を被っており、巻き込まれた海軍の爆撃隊も三分の一を失い、地上支援型の連山改が落下してきた岩で右翼を根元から折られて墜落し、残った機体は回避行動を取っている。

 

「……」

 

 ふと、真上に視線を向けると、小さく黒い物体が空高く飛行していた。

 

「あいつか!」

 

 加藤信夫は四式戦や三式戦と海軍の紫電との少数と共に高度を上げて爆撃元へ向かう。

 

 

 

「爆撃隊が!?」

 

 上空高く飛んでいた富嶽は突然襲撃を受けた爆撃隊からの報告を聞き、機内では慌しい雰囲気があった。

 

「謎の爆撃を受け、爆撃隊は三分の一を落とされた模様! ならびに陸軍の第6機甲連隊の被害は甚大!」

 

「何だと」

 

 通信主の報告を聞き機長は唖然となるが、ハッと気付く。

 

「電探! 機銃手! 周囲に敵影はいるか!」

 

「は、ハッ!」

 

 側面や上部の機銃手と電探員はすぐさま確認する。

 

「っ! 左方向に敵影らしき物体を発見!」

 

「電探にも反応あり! 9時30分の方向距離1500! かなりの数です!」

 

 機銃手が雲のあいだから見え隠れしている影を確認し、電探員も正確な方角と距離を探り当てた。

 

 機長はとっさにその方向に視線を向けて双眼鏡で覗くと、雲のあいだから覗く物体が見え隠れしていた。しかも一つや二つではなく、かなりの数が居た。

 

「何だあれ」

 

「あんなの、見た事が」

 

「っ! こうしてはいられん!」

 

 機長はとっさに後ろに向かってカメラを持つと、機体の左側にある丸い窓からカメラを構え、シャッターを連続して切る。

 

 その物体はそのまま雲に隠れてしまったが、その前に機長はそれの姿をハッキリとカメラに収めた。

 

「すぐに本国に戻るぞ! この写真を司令部に届けなければ!」

「それと爆撃隊と陸軍に連絡! 撤退しろとな!」

 

「了解!」

 

 この富嶽は指揮索敵機としての性能を追求しているため、武装は側面機銃の三式重機関銃改のみで、飛行物体を撃ち落とすには武装が少なすぎる。

 

 操縦手は操縦桿を傾けて富嶽を旋回させ、すぐさま扶桑へと向かう。

 

 

 その後被害は陸海軍共に甚大とあり、両軍は撤退を余儀なくされた。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 数日後。

 

 

「……」

 

 俺は自分でも分かるぐらいフラフラと左右に揺れていた。

 

(まさか、リアスの性欲がこうも長く続くとは……)

 

 栄養ドリンクの入った瓶を口に当てて一口飲む。相変わらずマズイ……

 

 あの日から1週間近く経過したが、二日に一度のペースで夜になると彼女は俺を求めてくるのだ。まぁ別に嫌じゃないが、こうも長く続くと体力が……

 

(まぁ、俺にも責任はあるし、収まるまで相手をするしかないよな)

 

 彼女の新しい扉(意味深)を開けてしまったのは自分にあるし……

 

 

「昨晩はお楽しみでしたようですね」

 

 と、どことなく機嫌の悪い辻が皮肉を言いながら書類を整理していた。

 

 品川と同じ事を言いやがって。大体二人揃って何なんだよ。

 

 

「・・・・しかし、エルフ族の魔法技術は凄いものだ」

 

 気を取り直して、俺は陸海軍の研究省の報告書を手にページを捲り、エルフ族より伝えられた魔法技術を応用した技術の概要を閲覧する。

 

 以前の魔力を探知する魔力電探もそうだが、他にも魔力反応を探知し、そこへ誘導する装置、暗い中でも魔力反応を探知する暗視装置のようなもの等々、現代兵器に使われている装置に似た物が多い。

 

 これを更に応用すれば、現代兵器の装置を作り出すことも難しいことではない。と言っても、そろそろ扶桑の兵器技術レベルが次世代レベル(現代で例えるなら陸海空の自衛隊+αの技術)に着きそうだったから、それを更に促進させる形となっている。

 

 他にも色々とあるが、挙げていくとキリが無い。

 

「信濃、大鳳、大峰の改装も60%完了しているか」

 

 信濃は先に改装のため改装ドックに入っていたが、少し後から大鳳と大峰の二隻にも信濃同様に近代化改修に入っており、現在最終調整に入っている金剛型戦艦より大掛かりな改装を施している。

 

「ジェット戦闘機『橘花』とジェット攻撃機『火龍』、ジェット爆撃機『景雲』の試験機の試験飛行は成功。要求された性能を発揮し、上々の結果を残したか」

「その後航空母艦による飛行甲板の発艦及び着艦の試験を行う、と」

 

 この3機は海軍、陸軍仕様を生産する予定で、相違点は着艦フック、カタパルトフックがあるか無いかの違いだ。

 

 と言っても、元々橘花と火龍、景雲は橘花と景雲を海軍、火龍を陸軍として分ける予定だったが、品川と辻曰く『バランスが悪いから3機種共陸軍と海軍共有にした方がいい』と言って3機首共に陸海軍に配備される事となった。

 

(準備は整いつつあるか)

 

 この調子なら、半年で全ての準備が整うな。

 

 

 

「……しかし、まだあの鉱石については分からないか」

 

 以前開拓した土地から出てきた鉱石はガランド博士を中心となって調べている。が、これが中々正体が掴めていない。

 

(しかし、あの日からずっと胸騒ぎは収まらないな)

 

 あの日、初めて鉱石を見た時から覚える違和感を抱きながら、報告書を閉じて執務机に置き、先日の報告を思い出す。

 

「グルム平原を進攻していた第6機甲連隊及び海軍爆撃隊が正体不明の爆撃を受け、甚大な被害を受け、撤退を余儀なくされた、か」

 

 これまで扶桑軍が大きな被害を受けたことは魔物の巣窟掃討戦以来だ。

 

 まぁ以前から不可解な報告に爆撃はあったが、それまでは目立った被害というわけではなかったので軽視していた。

 

 とは言えど、爆撃隊の損失は三分の一、陸軍は被害甚大と、決して軽い損害ではない。

 

「……」

 

 俺は執務机の引き出しを開けて中から写真の束を取り出す。

 

 指揮索敵機として同行していた富嶽の機長が捉えた写真で、いくつかの写真の中にはある程度その物体の形が分かるぐらい鮮明に写っていた。

 

 船に近い形状をした巨大な本体にオールのようなものが数本近く側面から出ている。

 いかにもファンタジーな世界に出てきそうな飛行船な外見だった。

 

 この飛行船は爆撃後、こちらの戦闘機の追撃を振り切って帝国領へと逃げ去ったと言う。

 

 

 

 あの後すぐにガランド博士を呼び、飛行船について聞いた。

 

 いつも微笑みを絶やさないガランド博士だが、あの時は写真に写る物体を見た途端真剣な表情になった。

 

 どうやらその飛行船はエルフ族の代々より伝えられている飛行技術で作られたもので、あのとき帝国に流出した技術の中の一つであった。

 

 そしてその時のガランド博士との話を思い出す。

 

 

『それで、富嶽はどのくらいの高度からこの写真を?』

 

『はっ!富嶽は高度1万を飛行していたとの事です』

 

『い、1万だと!? ただの飛行船でその高度まで上がれるはずが!?』

『それに、その高高度からの爆撃では、動く地上目標に当たる可能性は』

 

『それはこちらでの常識からだ。ガランド博士。その飛行船はどこまで上昇できるのだ?』

 

『残された書物からだと、かなりの高さまで登る事ができるとありました。しかし正確な高さまでは……』

 

『そうか』

 

『ですが、そんな高さまでただの飛行船で登れば、乗員はただでは―――』

 

『いえ、それは恐らく大丈夫かと』

 

『どういうことだ?』

 

『恐らく一定の環境を維持する魔法を使っていると思われます』

 

『環境を維持?』

 

『えぇ。苛酷な環境で満足に動けれるようにするための保護魔法があって、それを使えば今居るこの状態をどんな環境下でも範囲内であれば適応させることができます」

 

『つまり、1万m以上の苛酷な環境下の高高度でも、地上と同じ環境に出来ると言うのか?』

 

『その通りです』

 

『……』

 

『それと、かなり高い所からの爆撃を成功させたのは、誘導魔法によるものと思われます』

 

『誘導魔法』

 

『本当に魔法は何でもありだな』

『博士。思い出せる範囲で構いません。この飛行船について教えてもらいたい』

 

『分かりました』

 

 その後にガランド博士より飛行船についての説明がされ、対策が練られた。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 あの後も飛行船は度々目撃されているが、どれもこちらが迎撃に向かうと高度差を利用して逃走している。

 

(さて、どうしたものか)

 

 今日に至るまで、前線にいる各部隊に飛行船からの爆撃による被害が出ているので、対策が急務であった。

 

 

 

 ――――!!!

 

 すると執務机に置いている黒電話が鳴り、辻が受話器をとる。

 

「私だ……」

 

 すると何を聞いたのか、辻の表情が強張る。

 

「な、何だと!? 確かなのか!?」

 

 次の瞬間には驚愕の表情を浮かべて彼女は声を荒げる。

 

「……そうか。分かった」

 

 辻は気持ちを落ち着かせて、受話器を本体に置く。

 

「どうしたんだ?」

 

 彼女がここまで慌てるのは滅多に見ない。と言うか見た事が無い。つまり、電話の内容は良いものではないのは確かだろう。

 

「……緊急事態です。グラミアム付近にある山の上に建設した電探基地の報告で、上空1万m以上を複数の正体不明の飛行物体が、我が国に向かって接近中とのことです」

 

「なっ!?」

 

 おいおい嘘だろ!? このタイミングでって……!

 

「状況からすれば、恐らく報告にあった飛行船だと思われます」

 

「……さすがに本国の位置を悟られたか」

 

 扶桑がある場所は向こうからすれば未踏の地と呼ばれているから、帝国がこちらの位置を把握できるとは思っていなかったが、侮っていたな。

 

「現在の距離と数は?」

 

「ハッ! 恐らく要塞基地上空付近と思われます。数は詳細不明ですが、恐らく100隻以上は軽く居るかと」

 

 となると、今頃要塞基地では高射砲群による対空迎撃が行われているか。しかし100隻以上とは、よく用意できたな。博士の話じゃかなり構造が複雑だから数もそれほど無いと思っていたが、予想以上に帝国の工業力が高いのか。

 

「辻。すぐに空襲警報を鳴らし、一般市民を避難させてくれ。ならびに迎撃部隊を上げさせろ!」

 

「ハッ!」

 

 辻はすぐさま敬礼をした後執務室を後にする。

 

(本土空襲……。嫌な予感が的中したか)

 

 こういうのだけは当たってほしくないものだな。

 

 

 

 

 


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