異世界戦記   作:日本武尊

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第三十一話 本土防空戦

 

 

 扶桑の市街地では空襲警報が鳴り響き、一般市民と保護した村人達は陸軍の避難誘導で慌てず急いで防空壕へと避難していた。

 同時に空襲に備え、各所に配置している高射砲が動き出し、いつでも撃てるように狙いを定める。

 

 

 

「ヒロキさん!」

 

 俺の命令で使いの者を家にやってリアスを司令部へと避難させて、彼女が俺のもとへ駆け寄る。

 

「いったいどうしたんですか?」

 

「あぁ。どうやら帝国が直接国への攻撃に出てきたようだ。未確認の飛行船がこちらに向かってきている。

 ……まぁ、いずれは帝国に国の位置を知られるとは思っていたが、予想以上に早かったな」

 

「帝国が? じゃぁ、この国は」

 

「あぁ。恐らく戦火に巻き込まれるかもしれないな」

 

「……」

 

「だが、安心しろ」

 

 不安な表情を浮かべる彼女に俺は安心させるように笑みを浮かべる。

 

「この日のために訓練を積んだ精鋭たちが、扶桑の空を守る」

 

「精鋭、ですか?」

 

「あぁ。だから、やつらを扶桑の空には一歩も入れさせん」

 

「……」

 

「俺達も地下施設に移動するぞ」

 

「はい」

 

 俺はリアスを連れて司令部の地下施設へ急ぐ。  

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 その中で飛行場では本土防空隊が発進準備に取り掛かっていた。

 

 既に別の飛行場では雷電と四式戦合わせて50機が飛行場から飛び立ち、司令部付近にある飛行場では本土防空の要となる3機種が飛行場に姿を現す。

 

 本土防空の主力となる高高度迎撃機『震電』と、ジェット機より一足早く実戦配備したロケット戦闘機『秋水』と『神龍』がそれぞれが発進準備に入っていた。

 震電や神龍の翼の下には4つの懸架装置で航空機用の新型噴進弾が吊り下げられており、データ収集も兼ねている。

 

 しかしまだ量産体制に入っていない秋水と神龍は両機あわせて20機しか無いが、本格的な量産体制に入っていた震電は30機以上が飛行場に次々と出されていた。

 

「まさかやつらが本土に攻撃を仕掛けてくるとはな」

 

 本土防空隊の一人である『武藤(むとう)兼良(かねよし)』大尉は発動機を始動させている震電に乗り込み、風防を閉じて酸素マスクをつける。

 部下の搭乗員達も震電に乗り込み、発進準備が整う。

 

「いいか! やつらに扶桑へ侵攻してきたことを後悔させてやれ!!」

 

『了解!!』

 

 そして発進準備が完了した機から次々と飛行場から飛び立ち、その驚異的な上昇力を以って一気に高度1万m以上を目指す。

 

 

 ある程度震電が飛び立つと、ロケット戦闘機秋水と神龍が滑走路に並び、ロケットエンジンから噴射される熱風で驚異的な速度を出して飛び立つと、震電以上の上昇能力を以って一気に上昇する。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ぬぅ! フソウも中々やりよる」

 

 高度1万m以上を飛行する帝国軍が建造した飛行船は編隊を組んでゆっくりと飛行しており、その旗艦に座乗する司令官は悪態を吐く。

 

 これまでフソウ軍への爆撃は効果を発揮しており、前回だって侵攻していたフソウ軍に打撃を与え退かせていた。そして司令官に下された命令は未踏の地にあるとされているフソウ本土への爆撃であった。

 

 司令官は意気揚々とフソウへ爆撃を行うため、飛行船団を引き連れてフソウがある未踏の地へと向かった。

 

 

 だが、フソウの近くまでに近づいたところで、突然下から多くの黒い物体が飛んできて破裂し、軽くするために船体は軽量化を図っていたが、それが燃えやすい素材で出来ているとあって飛行船は次々と爆発時の火や火の粉で燃え上がり、破片で船体が損傷して墜落したりと、到着前に多くの飛行船が墜落したのだ。

 

(この高さまで砲弾が届く大砲など聞いたことが無いぞ!)

 

 この司令官が知る由も無いが、要塞基地に配置されている『五式十五糎高射砲』は史実の旧大日本帝国陸軍がアメリカのB-29の撃墜を目的として開発がされた高射砲だ。最大射程距離は2万m以上を超えるので、飛行船団がいる高度1万mなど軽く超える射程を持つ。

 他にも『三式十二糎高射砲』など高度1万m以上の射程を持つ高射砲群の存在もあった。

 

(しかし、ここまでフソウの技術力が高かったとは)

 

 司令官はフソウを侮っていたわけではない。これまでの報告にあったフソウの兵器技術の高さの噂は聞いている。

 だが、まさかこの高さまで届く大砲があるとは思っていなかったのだ。

 

(だ、だが! あの砲撃は撃てる範囲が限られていた。多く落とされたのは手痛いが、問題は無い)

 

 大よそ五分の二が墜落したが、任務遂行に支障は無い。

 

(フソウを爆撃すれば、ワシの地位はこれまで以上のものになる!)

 

 内心で野心を燃やしていたが、それはすぐに冷めることとなった。

 

 

 なぜなら、扶桑より物凄い上昇力で上がってくる秋水と神龍の牙が飛行船団へと襲い掛かってきたのだから……

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 しばらくして武藤大尉が率いる震電30機は約15分後に高度1万3千に到達し、水平飛行に移っていた。

 

「各機に告ぐ! 機関砲の試射を行え!ただし、撃ち過ぎるなよ!」

 

『了解!!』

 

 武藤大尉の号令とともに各震電の機首にある4門の30mm機関砲が数回火を吹く。

 

「問題は無いな」

 

 戦闘を始めるに問題が無いのを確認した後すぐに下を見る。

 

「あれか」

 

 視線の先には、高度1万m以上をファンタジーな飛行船が何十隻もオールを漕ぐようにして飛行しており、速度はそれほど無いにせよ扶桑の首都を目指していた。

 

 しかし最初の報告より少ないのは、前哨要塞基地に配備されている五式十五糎高射砲や三式十二糎高射砲による砲撃で多くの飛行船を撃ち落とし、更に秋水や神龍による攻撃で更に数を減らしたからだろう。

 その両機の姿が無いのは、ロケットエンジンの燃料が切れて一足先に基地に帰還しているからだろう。

 

「いいか。やつらを都市に近づけてはならん! 行くぞ!!」

 

 武藤の合図とともに震電30機が飛行船へ向かって一斉に降下し始める。

 

 先ほど秋水と神龍の襲撃を受けて混乱気味の飛行船団はいち早く震電の存在に気付いたが、時既に遅し。震電30機から放たれる30mmの弾の雨が降り注ぎ、飛行船は次々と蜂の巣になる。

 

 曳光弾交じりの弾が飛行船を貫き、木造な上に燃えやすい布や紙で出来ているとあってあっという間に飛行船は炎に包まれて墜落していく。

 

 飛行船には迎撃手段が無いのか精一杯の様子で震電の攻撃から逃れようと回避行動をとっている。

 しかし足が遅い飛行船で震電から逃れることは不可能だった。

 

 機首の4門の30mm機関砲から放たれる弾によって船体を粉砕されながらマストをへし折られ、搭載していた爆弾に引火してか大爆発を起こして粉々に粉砕される。

 

「くらえ!」

 

 震電の翼下の懸架装置で吊り下げられている噴進弾の末尾から火が吹いて高速で翼の下から飛び出し、噴進弾は飛行船の舷側に突き刺さり、中で爆発を起こして爆弾や大砲の火薬に誘爆し、大爆発を起こす。

 その際に飛び散る火が近くを通り過ぎようとした飛行船に燃え移り、徐々に高度を落としていく。

 

 しかし飛行船もやられっぱなしと言うわけではなく、甲板に出てきた魔法使い達が火や氷の矢を放ってくるも、震電の速さに追いつけれず徒労に終わる。

 

 武藤大尉の乗る震電から放たれた噴進弾4発がオールが出ている飛行船の舷側に突き刺さり、直後に爆発を起こして大きく傾き、そのまま隣を飛行している飛行船と衝突して共に墜落する。

 

「……」

 

 武藤は帝国の飛行船に視線を移すと、憎らしく睨みつける。

 

 帝国の飛行船は多くの味方が撃ち落されているというのに、未だに前進を続けている。

 

「ここまでやられて、なぜ退かないんだ!」

 

 操縦桿を左に倒して機首を飛行船に向け、4門の30mm機関砲が火を吹き、飛行船を蜂の巣にすると同時に炎を上げる。

 

 

 

 その後震電30機によって、扶桑に侵攻してきた飛行船団はその殆どを撃ち落され、本土爆撃は未然に防がれた。

 

 

 ちなみに別ルートより本土爆撃を行おうとした船団が侵攻していたが、その船団は偶然にも先に出撃して上昇していた雷電、四式戦の部隊によって発見され、すぐさま迎撃に向かい全て撃墜した。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 俺は不安そうにしているリアスを宥めて、地下司令部に辻や品川と共に報告をじっと待っていた。

 

 

「総司令!!」

 

 と、俺達のもとに士官がやってくる。

 

「報告します! 防空隊は敵飛行船団を殲滅! こちらの被害は皆無であります!」

 

「そうか。やってくれたか」

 

 さすがだな。これで何とか最悪の状態は避けられた。

 

「尚、一隻だけが損傷して中間補給拠点付近に不時着し、我が軍に投降しています。船員は一旦補給基地に収容していますが……」

 

 まぁあれだけの戦力差を見せ付ければ、戦う意思を削がれるよな。

 

「ふむ。なら、船員はその後捕虜収監施設に移動させろ。その後に工兵を送ってくれ。飛行船を回収後、調査したい」

 

 うまく行けば飛行船の技術を応用できるかもしれない。

 

「分かりました」

 

 士官は敬礼をして、その場から離れる。

 

「何とか本土爆撃は阻止できましたね」

 

「あぁ。だが、これは気が抜けられなくなったな」

 

 まぁそれほど多くの頻度で現れるとは思えないが、用心に越した事は無い。

 

「……電探施設の増設が急務だな」

 

 今回グラミアム周辺にある電探施設に設置されている対空電探が飛行船団を捉えたのが大きかったが、別のルートからでは捉えづらかった可能性が高い。

 それに電探施設自体が多くないのだ。もし対空電探の範囲外から侵攻を許せば、大きな損害を被っていたかもしれない。

 

「それと敵の転送魔法のこともあります。魔力電探の開発を急がせます」

 

「頼む」

 

 飛行船団は転送魔法による出現ではなくこちらまで飛行していたが、もしかすれば突然頭上に飛行船団が出現し、次々と爆弾が落とされて火の海と化す扶桑。想像したくもないな。

 まぁ扶桑と要塞基地のあいだには厚い雲が張っているので正確な位置は把握できないだろうが、その要塞基地の前辺りの上空に転送してくる可能性はある。

 

「それと、高射砲の増設も考えなければなりませんね」

 

「うむ」

 

 考えれば考えるほどに次々と問題が浮かび上がってくる。ただでさえ今は忙しいっていうのに。

 

(迎撃手段として、ロケット戦闘機やジェット戦闘機の配備も急務だな)

 

 今回の戦闘で震電の高高度における性能が証明されたが、通常の戦闘機より速いとは言えど、上昇に時間が掛かることに変わりは無い。

 まぁ、震電も今後更なる発展をして進化させる予定ではあるが……

 

「……一刻も早く、準備を整えなければな」

 

 ボソッと誰にも気付かれないぐらいに呟き、俺は地下司令部をリアスと共に後にする。

 

 

 

 




なんか震電の戦闘が某潜水艦隊のシーンみたいになってしまった。まぁあれだけ震電が(正確には違うけど)カッコよく動くアニメはないと思う。

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