一旦後退した弘樹達は防衛線を築き、ドラゴンを待ち構える。
地響きがする中、ドラゴンが丘の向こうから姿を現すと、こちらを睨みつけて向かってくる。
「砲撃始め!!」
岩瀬大尉の号令で二輌の九七式中戦車の主砲から火が吹き、砲撃を開始する。
放たれた二発の57ミリ榴弾がドラゴンに着弾すると、ドラゴンは衝撃と爆発で一瞬動きを止めるが、歩みを止めず前へと突き進む。
直後に車輌から降りた砲兵部隊が九七式曲射歩兵砲5門に榴弾を半装填してから筒に落とし、ボンッ!と音を立てて榴弾を一斉に放つ。
放たれた榴弾は弧を描いてドラゴンの周囲や足に着弾すると同時に爆発を起こし、動きを鈍らせる。
しかし、すぐにドラゴンは榴弾の直撃を受けても僅かに動きを鈍らせるだけで、そのまま前進を続ける。
「撃ち方始め!!」
ある程度距離が縮まったところで大尉が号令とともに九九式小銃の引き金を引いて弾を放ったのを皮切りに、歩兵隊の三八式小銃と九九式軽機関銃と一式重機関銃、九七式自動砲が一斉に放たれる。
俺も四式自動小銃の引き金を連続で引いて弾を連射して放つ。
弾はドラゴンに直撃するも、固い皮膚に阻まれて弾かれるものもあれば、軟らかい箇所にめり込むものもある。
「……」
ボルトを固定位置から外して後ろに引っ張り、空薬莢を排出すると元の位置にへスライドさせ戻して次弾を装填し、九九式小銃を構えてドラゴンの頭に狙いを定めて引き金を引いて弾丸を放つも、弾丸はドラゴンの鼻先に当たって弾かれる。
(外した……)
内心舌打ちをして空薬莢を排出する。
(何て固さだ、クソッ!)
最後の一発を発射すると同時にボルトが後ろに動いて、中よりピンッ!というM1ガーランド同様の特徴的な金属音とともに空になったクリップが排出され、次のクリップを箱から取り出して弾倉に装填して閉じながら内心で悪態をつく。
歩兵小銃の弾丸は場所によっては弾かれたりめり込んだりして、九七式自動砲ですら当たり所によっては弾かれたりめり込んだりしている。
辛うじて九七式中戦車の榴弾でよろける程度だった。
九七式中戦車が57ミリ砲から徹甲弾を放つも、貫通せず受け止められるがその衝撃でドラゴンの動きが鈍る。
直後に九七式曲射歩兵砲より放たれた榴弾がドラゴンの周囲に着弾して爆発し、爆風でチハの砲弾同様に動きが鈍る。
(まぁ足止めさえ出来れば良しとするか)
「……」
ボルトハンドルを引っ張って薬莢を排出し、挿弾子に付けられた弾丸五発を弾倉に装填し、クリップを弾き飛ばしてボルトハンドルを戻すと、九九式小銃を構える。
(・・・・落ち着け、落ち着け)
暗示を掛けるように大尉は内心で呟き、ゆっくりと近付いてくるドラゴンの目にちょこちょこと動くも狙いを定めると、引き金を引いて弾丸を放つ。
放たれた弾丸は一直線に狂いも無くドラゴンの左目を撃ち抜くと、今までより大きく仰け反りつつ悲鳴に近い声を上げて撃ち抜かれた左目から血飛沫が飛散する。
(いくら皮膚が固いと言っても、生物である以上柔らかい箇所は存在する)
痛みに苦しむドラゴンを見ながらボルトハンドルを引っ張って薬莢を排出すると、すぐに別の箇所を狙おうとしたときだった。
突然後方で悲鳴や銃声が鳴り響く。
「っ!」
岩瀬大尉や一部の者が後ろを振り返ると、後方で九七式曲射歩兵砲を発射していた砲兵がゴブリンやコボルトの群れに襲われ、護衛として随伴していた5人の歩兵が応戦していた。
「っ! 9時方向より魔物の群れが!」
「なに!?」
その直後に左の林からゴブリンやコボルト、オークなどの魔物が雄叫びを上げながら出てきた。
「なぜこのタイミングで! やつらあのドラゴンに恐れをなして逃げていたはずじゃ!」
岩瀬大尉はとっさに九九式小銃を構えて引き金を引き、槍を構えて突っ込んでくるオークの左胸を撃ち抜く。
近くに居た兵士達も三八式小銃や九六式軽機関銃を向けて魔物の群れを次々と撃ち殺す。
「……恐らくタイミングを見計らっていたんだろう」
後ろに振り返った俺はすぐに四式自動小銃を構えて一発一発連続で発射し、次々とゴブリンやコボルトの頭や心臓がある場所を撃ち抜いていく。
すぐに後方の砲兵の一人に襲い掛かろうとしたゴブリンの頭にヘッドショットをして仕留めた直後にクリップが排出され、すぐに新しいのを装填すると同時に右を向き引き金を引くと、銃弾はゴブリンの頭を一直線に貫通する。
「この機に便乗して、ですか?」
「連中にも悪知恵っていうのはあるんだろう」
あのドラゴンによって俺達が蹂躙されれば、その後に残るお零れをもらいに来る、と言ったところだろう。
「だが、これはマズイな」
前にはドラゴン。後ろと側面にはゴブリンとコボルト、オークの群れに加わり、トロールまで出現し、砲兵と歩兵に襲いかかる。後者は何とかなるだろうが、前者は迫撃砲の援護無しで戦車だけでは押さえるのは難しい。
何より魔物の群れはどんどん数を増やしている。護衛の歩兵が5人いると言えど、歩兵に対して脆弱な砲兵を守りながらではいずれ押し倒される。
(あのドラゴンは火を吐くとかそういうのは無いようだが、それでも難しいな)
今は九七式中戦車2輌の砲撃で動きを止めているとは言えど、あの巨体で突進などされたら、戦車でもひとたまりも無い。
「大尉! すぐに歩兵を10人連れて砲兵を救出に向かえ!」
「ですが! それでは総司令官の護衛が!」
ここで10人も連れて行けば、俺の護衛は5人のみとなる。側面から来る魔物の群れはまだ少ないが、更に多くの群れが来た場合、守り切れない。
「これは命令だ!」
「っ!」
「ここは俺に任せろ。一人でも多く、兵士を救え! いいな?」
「……了解であります!」
岩瀬大尉は敬礼をしてから、歩兵10人を連れて砲兵部隊の救出へ向かう。
「くっ!」
倉吉軍曹は迫ってくるゴブリンに三八式歩兵銃を放って胴体を撃ち抜く。
近くでは100式短機関銃を持つ歩兵が辺りにばら撒くようにして銃弾を放ち、ゴブリンやコボルトを撃ち殺す。
直後に弾切れを起こして空になったマガジンを外して新しいマガジンを装填しようとするが、その瞬間ゴブリンに襲われる。
とっさにそのゴブリンに三八式小銃を向けて引き金を引き、歩兵に襲い掛かろうとしたゴブリンを射殺する。
ボルトハンドルを引っ張って薬莢を排出してすぐに戻そうと押し込む。
「っ!」
しかし途中で遊底被が引っ掛かり、ボルトが元の位置に戻らない。
必死にボルトを動かして戻そうとしたが、その隙にゴブリンの一体が木の棍棒を振り上げて軍曹へ飛び掛かる。
「うわぁっ!?」
とっさに三八式歩兵銃を前に出して攻撃を防ぐも、勢いに負けて吹き飛ばされ、そのまま尻餅をつく。
ゴブリンはそのまま棍棒を振り上げ、軍曹へ振り下ろそうとしていた。
しかし振り下ろされる直前に、ゴブリンは背中に何が突き刺さり、その反動で前のめりに倒れる。
「ひっ!?」
事切れたゴブリンが軍曹に倒れ掛かろうとして軍曹はゴブリンを蹴り飛ばすと、背中には銃剣が装着された九九式小銃が突き刺さっていた。
「大丈夫か、軍曹!」
走ってきた岩瀬大尉がゴブリンの背中に足を置いて背中に突き刺さった九九式小銃を引き抜き、倉吉軍曹のもとに向かう。
「は、はい! 大丈夫であります!」
軍曹はすぐに立ち上がると、三八式小銃を拾い上げて引っ掛かっていたボルトを元に戻す。
「歩兵5人は動けない者を救出し、後退せよ! 残りは私と共に魔物の掃討だ!」
『了解!!』
歩兵部隊はすぐに行動を起こし、5人ほどが護衛の歩兵5人に加わって砲兵の救出に当たり、残りは岩瀬大尉と共に魔物の掃討に当たる。
歩兵5人がそれぞれ持つ九六式軽機関銃や100式機関短銃をゴブリンとコボルトの群れに掃射して次々と撃ち殺す。
途中でトロールが棍棒を歩兵に向けて振り下ろすも、とっさに横に跳んだので潰されずに済んだ。
その直後に砲兵の一人がトロールの背後で試製四式七糎噴進砲を構えて引き金を引いてロケットを放つ。
いつもなら命中率が極端に悪いのだが、今回は至近距離とあって放たれたロケット弾は揺れながらもトロールの頭に着弾して爆発し、肉片を飛ばしながら頭を吹き飛ばす。
頭を失ったトロールはそのまま前のめりに倒れて下に居たゴブリンとコボルト数体を下敷きにする。
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
大尉は九九式小銃を勢いよく振るい、銃床でゴブリンの頭に殴りつけ、すぐに勢いよく突き出して銃剣をコボルトの頭に突き刺す。
「っ!」
そのまま九九式小銃を突き刺したままコボルトを倒すと、腰に提げている軍刀を抜き放つと同時に振り返り、背後から迫ってくるゴブリンの首を刎ね飛ばす。
近くでは、ある者は三八式歩兵銃に取り付けられた銃剣でゴブリンの胸に突き刺したり、銃床で何度も殴りつけたりする。
また前方に配置された九四式六輪自動貨車の荷台に組み立てられた一式重機関銃を向けて掃射し、ゴブリンとコボルト、オークを次々と蜂の巣にする。
四式自動小銃を連続して放ち、こちらにも近付いてきたコボルトとゴブリンを撃ち殺していく。
「くそっ! 撃っても撃っても数が減らねぇ!」
引き金を引いて弾を放つとクリップが排出され、すぐに新しいクリップを弾倉に装填して閉じる。
歩兵の殆どを後方の部隊の支援に回したが、魔物の群れの数は一向に減らなかった。
(ドラゴンを抑えるのも限界が近いし、何より弾薬が持たない)
そもそも今回は調査のために編成された部隊。もとより戦闘をするためのものではなく、弾薬もあくまで必要最低限の量しか持ち込んでいない。
先ほど九七式中戦車の榴弾が尽きて今は徹甲弾による砲撃で何とかドラゴンを押さえているも、弾薬がなくなるのも時間の問題だ。
「……」
息を呑み、四式自動小銃を構えたときだった。
九七式中戦車より大きな砲撃音がすると、ドラゴンの首に直撃してその固い皮膚に穴が開いて血飛沫が飛び散り、その衝撃で後ろに数歩下がる。
「っ!」
俺はすぐに爆音がした後方を見ると、司令部方面より3輌の重戦車がこちらに向かってきていた。
特徴な垂直装甲を持ち、88ミリ砲を持つ重戦車の代名詞と謳われる『ティーガーⅠ』であった。
え? ティーガーってドイツの戦車だろって? 確かにその通りだが、これは色々とわけあって輸入して色々と仕様変更してコピー生産した扶桑陸軍仕様のティーガー……という設定。
史実でも戦車開発の研究のために日本への輸入計画があり、ティーガーに乗る日本軍将校の写真が有名である。まぁ戦況の変化で実現はしなかったが。
しかし史実のティーガーと違って、装甲は若干薄くなっているも色んな面で頑丈な作りになっており、無茶な動きをしても履帯が外れたり、故障することは無い。
「増援。それも第一軍団第一機甲大隊所属のティーガーってことは……辻のやつか」
ティーガーⅠの車体にある部隊番号とマークからすぐにどこの部隊かが脳裏に浮かぶ。
第一軍団は辻大将が率いる陸軍の中でも腕の立つ者ばかりが集う精鋭部隊である。
ティーガー3輌が現れたことで、歩兵部隊の士気が上がり、雄叫びを上げる。
ティーガーは車体の車載機銃を放ってゴブリンとコボルトを次々と撃ち殺し、主砲はトロールへ向けられて轟音とともに砲弾が放たれると、トロールの胸へと直撃し同時に肉片と共に赤い血を撒き散らす。
もう2輌の主砲がドラゴンに向けられると88ミリ砲が火を吹く。
勢いよく放たれた88ミリ砲弾はドラゴンの頭部と首に着弾すると固い皮膚を少し抉り、その痛みからかドラゴンは仰け反る。
「っ?」
すると今度は空からあるエンジン音が響き、とっさに空を見上げると十機以上の航空機が司令部方面から飛んできていた。
(海軍の航空隊か!)
気づいた時には、5機で構成された『九九式艦上爆撃機』が増援として現れたティーガーの上を通り過ぎ、護衛として同行した『零式艦上戦闘機』4機とある一機を残してドラゴンへ急降下する。
ドラゴンは威嚇するように咆哮を上げるも、お構いなしに5機の九九式艦上爆撃機は搭載している九八式二五番陸用爆弾一つと九七式六番陸用爆弾二つの爆弾を投下する。
250キロ5つ、60キロ10個計15個の爆弾がドラゴンに一斉に降り注ぎ、全てが直撃だった。
爆弾の直撃を受けてドラゴンは苦し紛れに咆哮をあげるが、その直後にその一機こと現在性能テストのために試作された艦上爆撃機『彗星』が急降下する。
ギリギリまで粘って、彗星は爆弾倉に搭載していた五〇番通常爆弾を投下し、そのまま咆哮の為に口を大きく開けていたドラゴンの口の中に入り込む。
直後に爆弾は爆発を起こし、辺り一面に肉片と鮮血を撒き散らしてドラゴンの頭を吹き飛ばす。
(急降下爆撃全部が命中、更にはあんなピンポイントの急降下爆撃を成功させるって……江草少佐率いる『江草隊』だな)
異常なほどの急降下爆撃の成功から、すぐにどこの部隊であるかを把握する。
海軍航空隊の中でも、急降下爆撃が異常なまでに成功率の高い部隊。『
場所は違うけど、某爆撃王のような人みたい、とだけ言っておこう。
頭を失ったドラゴンはそのままゆっくりと倒れ、地響きを立てて横たわる。
「これより残存戦力を掃討する! 一匹たりとも逃がすな!!」
力尽きたドラゴンを一瞥し、岩瀬大尉が叫ぶと歩兵部隊は雄叫びを上げてゴブリンとコボルト、オークの群れへと突撃する。
増援として、更にティーガー2輌に『一式中戦車 チヘ』10輌が歩兵二個小隊と共に現れ、更に海軍から先ほどの九九式艦上爆撃機と彗星の入れ替わりとして九九式艦上爆撃機10機が飛来し、ゴブリンとコボルトの群れに襲い掛かった。
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増援の戦車一班と歩兵二個小隊、海軍航空隊の猛攻の前に、今ではゴブリンとコボルト、オーク、トロールの死骸の山が辺り一面に広がっていた。
「これは、予想以上に酷いな」
火薬や煙、魔物の血の臭いが辺りに充満し、鼻が曲がりそうな臭いに顔を顰めながらヘルメットを脱ぎ、目の前の阿鼻叫喚の光景をただただ見つめる。
負傷した砲兵や歩兵が衛生兵によって応急的な治療が施され、増援部隊と共にやってきた九四式六輪自動貨車に乗せられ、基地へと運ばれていく。
が、中には悲しい表情を浮かべ黙祷する歩兵と衛生兵の面々も居た。理由は言わずとも、だ。
「増援が少しでも遅かったら被害はもっと大きかったかと。ですが、護衛の歩兵の配分をもう少し多く配置していれば」
隣で悲しげな表情を浮かべ、大尉が呟く。
「これが戦場か。俺達がどのくらい安全な場所に居るかが、あらためて思い知らされたよ」
俺は四式自動小銃のボルトを引っ張り、あらためて全て撃ち尽くしたのを確認する。
現段階でのこの四式自動小銃はM1ガーランド同様、途中で弾を出す事ができないので、クリップを出すなら残りの弾を無駄に撃たないといけないので、先ほど無駄に魔物に対して撃っている。モッタナイネー
(開発部にはこの点の改善を言っておくか)
その欠点以外は十分性能が高いので、欠点を改善すれば完成型が出来るはず。
まぁそうなると史実と同様の『リー・エンフィールド』と呼ばれるマガジン方式に変えた方が手っ取り早いかもしれない。
「さてと、後処理は後続の部隊に任せ、俺達は司令部へ戻るぞ」
「了解であります」
岩瀬大尉は陸軍式敬礼をし、すぐに出発準備を部隊に伝える。