異世界戦記   作:日本武尊

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第四十二話 

 

 

 

 

 全軍による一斉攻撃が始まった同時刻。

 

 

 

 

 聨合艦隊とは別の航路を取るとある艦隊は艦首で海面を切り分けて目標海域を目指していた。

 

 

 その艦隊には近代化改装が施された装甲空母信濃と大鳳、大峰を中心に、巡洋戦艦岩木、淡路、防空重巡洋艦伊吹と鞍馬、防空駆逐艦秋月、宵月、夏月、満月、花月が航行している。

 

 近代化改装を受けた信濃、大鳳、大峰の姿は以前の面影こそあるが、それ以外はほぼ現代の空母そのものであり、大よその艤装配置は『キティーホーク級航空母艦』が参考になっている。

 船体より大きく幅を持った甲板はアングルドデッキ仕様となり、甲板にあったエレベーターも右舷側の艦首側と艦尾側二箇所に設置され、艦首側には油圧式カタパルトが2基設置されている。艦橋には最新鋭の各種電探が設置され、ゆっくりと回転している。

 

 

「艦長!聨合艦隊より暗号電文です!」

 

 電文を手にした通信兵が艦長の元へ駆け寄る。

 

「何と言っている?」

 

「ハッ!『トラトラトラ』です!」

 

『おぉ!』と通信兵からの報告に周囲が声を上げる。

 

 トラトラトラとは事前に決めた暗号電文で、ワレ奇襲に成功セリという意味である。

 

「遂に始まったか」

 

「そのようですね」

 

「なら、我々の出番だな。副長」

 

「ハッ!」

 

 艦長の指揮ですぐさま準備が始まる。

 

 

 信濃の甲板には既に艦載機が数機ほど上げられて隅に駐機され、舷側に移動されたエレベーターに乗せられた艦載機が甲板へと上げられ、折り畳んでいた翼を広げる。

 

 信濃の艦載機は新鋭のジェット戦闘機『橘花』であり、大鳳にはジェット攻撃機『火龍』、大峰にはジェット爆撃機『景雲』がそれぞれ搭載され、共通して艦隊の直援機として烈風、偵察機の彩雲を数十機搭載している。

 

 

 この艦隊は帝国本土の帝都からより近い場所にある全軍の指令を出す基地司令部を爆撃するために編成された別働艦隊で、目的は指揮系統の混乱であり、同時に心理的な戦略もある。これも新鋭のジェット機だからこそできる作戦である。

 

 

 2機の橘花は艦首側のカタパルトに移動し、機首側のフックをカタパルトに引っ掛けてから甲高い音とともにジェットエンジンが始動する。

 

 ある程度ジェットエンジンの出力が上がってきたところで『ブラスト・ディフレクター』と呼ばれる設備が機体後部の甲板の一部がジャッキで斜めに立つように上げられて壁を作る。

 

 ジェットエンジンの出力が発進できるまでに達したのを計器で確認した搭乗員はカタパルト要員に合図を送り、すぐさまカタパルトを管理する作業員に合図を送ってカタパルトの発射装置を押し、右側の橘花が勢いよく甲板に埋め込まれたカタパルトによって急加速して射出され甲板から飛び出す。

 続けて左側の橘花がカタパルトで勢いよく射出される。

 

 同時に大鳳から火龍が、大峰からは景雲が勢いよくカタパルトによって急加速を行って甲板から射出されて空へ舞い上がる。

 

 ある程度攻撃隊が発艦してから直援機の烈風もカタパルトを用いて発艦し、2機ずつ計6機体制で警備に入る。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 同じ頃、扶桑海軍の秘匿艦隊である幻影艦隊も攻撃のため行動を起こしていた。

 

 先ほど艦載機である晴嵐改を発進させ、艦隊は潜航し合流ポイントに向かう途中でとある攻撃目標が狙える海域へ向かっていた。

 

 

「司令。そろそろ攻撃目標が狙える海域です」

 

「うむ」

 

 艦橋内では小原が腕を組み、軽く縦にうなずく。

 

「これより攻撃を開始する!」

 

「ハッ。対地噴進弾! 発射用意!」

 

 艦長は伝声管に向かって指示を飛ばし、伊-400の装甲化された後部甲板が気泡を出しながら左右に開くと、そこから筒状の物体を3本搭載した発射台が3基現れ、斜めに発射台を上げ左90°に旋回する。

 同じく他の艦も後部甲板から同じ武装を出して同じ向きに武装を向ける。

 

 

 扶桑海軍で開発された初の長距離対地攻撃を想定した噴進弾で、これまでのノウハウが生かされてその射程は驚きの48kmを誇る。と言ってもあくまでもそれは最大射程で、命中率を考えると精々27kmが限界である。

 とは言えど対地噴進弾にはある程度空気抵抗によるズレを修正する操舵板とそれを操るコンピュータを搭載しており、最小限にズレを抑えるので命中率はそこそこ高い。

 

 現状での水中からの発射は可能であるが、更に命中精度と航続距離を考えるなら浮上した状態で行うが、今回はそれほど精度と距離は必要ではないし、この後にやることを考えるなら水中からの発射になる。

 

 

『こちら噴進弾発射台! 諸元入力! 発射準備完了!』

 

「……ってぇ!!」

 

 小原は一息間を置いて号令を放ち、各伊-400型より噴進弾が尾から噴射されるロケットブースターで左から順に発射され、 計90発の噴進弾が海中から飛び出し、第一ロケットブースターが切り離されて第二ロケットブースターが点火し、勢いよく飛び出す。

 

「発射台収納と同時に目標海域に向かう」

 

「ハッ!」

 

 艦長はすぐさま伝声管に向かって指示を飛ばし、対地噴進弾の発射台が収納されると艦隊は速力を上げて次の海域へ向かう。

 

 90発の噴進弾は尾から煙を引きながら高度を上げ、一定高度に達して弧を描いて降下する。

 

 噴進弾は勢いよく降下して速度を増し、音速に近い速度に達しながらも攻撃目標に向かう。

 

 

 

「ん?」

 

 草木で巧妙に偽装された基地を警護していた帝国軍兵士は聞いたことの無い音を耳にして顔を上げる。

 

「何の音――――」

 

 最後まで話し終えること無く対地噴進弾がその基地へ次々と着弾し、炎を上げて基地に積載されていた火薬に引火して大爆発を起こし、次々と各所で爆発が起こる。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

「腕が! 腕がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 対地噴進弾の着弾時の爆発と積載されていた火薬の誘爆によって兵士達の多くが手足のどこから吹き飛ばされてもだえ苦しみ、爆音によって鼓膜が破壊され耳から血を流して彷徨う兵士達が続出する。

 

「な、何事だ!?」

 

「分かりません!? どこからともなく攻撃が!」

 

 基地の司令官と思われる男性が慌てた様子で兵士に問い掛け、兵士も動揺しながら答える。

 

「お、恐らくフソウ軍の攻撃です!」

 

「馬鹿な! この基地の場所は徹底されて秘密にされているのだぞ! やつらとてこの場所を知ることは!」

 

「ですが現に攻撃を受けています!」

 

 と、兵士が言い終えた直後に対地噴進弾が着弾し、火薬を積載している天幕に炎が移って大爆発を起こす。

 

「くっ! すぐに艦隊を港から出せ!」

 

「し、しかしこの状況で出したら!?」

 

 この基地には帝国海軍が建造した最新鋭装甲艦を秘匿して配備しており、フソウが侵攻してきたらこの艦隊で背後から奇襲を仕掛けるつもりだった。

 

「このまま艦隊がやられたら元も子もない! いいから出せ!」

 

「っ! 了解しました!」

 

 兵士はすぐさまここから離れた港に停泊している艦隊に出港するように伝令に走る。

 

 

 その後噴進弾の爆発によって炎上する基地に炎を目印に最初に飛び立った晴嵐改の編隊が到着し、港から出港しようとしている装甲艦へ爆弾や噴進弾を叩き込み、次々と沈めていく。

 

 

 

 晴嵐改の襲撃を受け数隻が撃沈されるも、艦隊は大火災を起こす港から脱出する。

 

「数隻ほど撃沈されましたが、何とか出られましたね」

 

「あぁ」

 

 装甲艦の甲板に立つ司令官と兵士は徐々に遠くなる炎を上げる偽装基地を見つめる。

 

「しかしいったいどこからやつらは攻撃を」

 

「周囲には敵は居なかったはずです」

 

「陸海空共に厳重な警戒だというのに、それを潜り抜けるとは……」

 

「もしかすれば、遠距離からの攻撃では?」

 

「どこから攻撃したと言うのだ。やつらの兵器ではすぐに見つかるはずだ」

 

 地上は複雑な地形で進撃を阻み、上空は偽装されているので発見は容易ではない。海上は一箇所しか外洋に出る場所が無いので、監視は一箇所に集中しているので敵艦隊が現れたのならすぐに分かる。上空も暗い所でも目と耳が利く監視員によって警備されており、大きな音を出すフソウの空飛ぶ物体の接近も分かる。

 

「しかし、現に攻撃を受けたのです。それにフソウなら我々から見えない位置から攻撃することもできるでしょう」

 

「むぅ」

 

 信じ難かったが、現にこうして攻撃を受けているのだ。認めるしかない。

 

 

 

 そうして艦隊が湾内を出て外洋を航行していたときだった。

 

 

 突然先頭の装甲艦が轟音とともに水柱が上がり船体が真っ二つに割れて轟沈する。

 

「な、何だ!?」

 

 司令官は沈み行く装甲艦に目を向けるが、その瞬間更に前方の2隻も同じように轟音とともに水柱が上がって船体が真っ二つに割れて轟沈する。

 続けて左側の1隻も右舷側から水柱が上がって船体が大きく抉れ、傾斜が生じる。

 

「いったい見張りは何をしている! なぜ攻撃に気付かなかった!」

 

「そ、それが、周囲に砲弾はおろか、敵艦の姿がありません!」

 

「何だと!? そんなはずはない! 敵艦が居なければいったいどこから攻撃をしているというのだ!」

 

 ふと、司令官の脳裏に、海軍内で広まっているとある噂が過ぎる。

 

 

 周囲に敵艦の姿が無いのに突然攻撃を受けて僚艦が轟沈した。

 

 あの海域には海の化け物が居るんだ。

 

 

「海の、化け物」

 

 司令官は声を震わせ、その名を口にする。

 

 そのあいだに更に3隻が沈められる。

 

「ま、まさか、この海域にやつが……」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 海中には移動して港から出てくる艦隊を待ち伏せている幻影艦隊が潜み、九三式酸素魚雷にて装甲艦を沈めていた。

 

「全弾命中を確認」

 

 潜望鏡から見える轟沈した装甲艦を確認した艦長が小原に伝える。

 

「よし。次で仕留めるぞ」 

 

「ハッ! 魚雷室! 魚雷次弾発射準備に取り掛かれ!」 

 

 艦長はすぐに伝声管にて魚雷室へ指示を下す。

 

「しかし、敵もまんまとこちらの策に掛かりましたな」

 

「あぁ。飛んで火にいる夏の虫とは、正にこのことだな」

 

 事前の調査で判明した秘密基地に対地噴進弾を叩き込み、港に引き篭もっている艦隊を燻り出して基地から上がる炎を目印に晴嵐改による爆撃で装甲艦数隻を沈めて追い込み、港から出てきたところで本命の雷撃をぶつけて艦隊を殲滅する。

 

『魚雷室より艦橋! 魚雷3番7番発射管、4番8番発射管に魚雷装填! いつでも撃てます!』

 

 伝声管を通して魚雷の発射準備が整ったことが報告され、艦長が小原に視線を向けると彼は軽く縦に頷く。

 

「ってぇっ!!」

 

 艦長の号令とともに伊-400型潜水艦10隻の艦首に内蔵されている8門の魚雷発射管から九三式魚雷が一斉に放たれ、高速かつ航跡を残さずに艦隊に忍び寄る。

 

 計80本もの魚雷は誰にも気付かれること無く忍び寄り、残りの装甲艦全てに魚雷が被雷して轟音とともに水柱を上げて木っ端微塵に粉砕される。

 乗艦していた司令官は海の化け物が居るということ以外何も分からないまま装甲艦と共に海に没した。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 信濃、大鳳、大峰から発艦した攻撃隊は山の上空を飛行し、攻撃目標へ向かう。

 

「おーお。派手にやっているねぇ」

 

 酸素マスクとゴーグルを着けた橘花の搭乗員は搭乗席から炎を上げる帝国軍基地を見る。

 

『陸軍も張り切っているな』

 

『むしろ荒ぶっているんじゃねぇか? 何せ今日まで訓練漬けだって話だぜ』

 

「それは俺たち海軍も同じだろ。特に元一航戦らは闘志に燃えていたぜ』

 

『今頃基地に対して無慈悲な攻撃をしているじゃねぇか?』

 

『違いねぇ!』

 

 

 そうして雑談を交わしていると、あっという間に攻撃目標付近に着く。

 

「爆撃目標確認! 全機爆撃用意!」

 

 部隊長は全機に攻撃準備命令を下し、搭乗員達は気を引き締める。

 

「これまでの訓練を思い出せ! 全機! 突撃!!」

 

 各機は一斉にジェットエンジンの出力を上げて機体を降下させて速度を増し、攻撃目標の総司令部に向かっていく。

 

 

 総司令部を警護する帝国軍兵士は甲高い音に気付いて空を見上げるが、その瞬間先行していた橘花の噴進弾と機首の機関砲を一斉に放ち、地面と建造物を抉っていく。

 噴進弾が着弾すると爆風とともに辺り一面に炎が撒き散らされ、爆発で吹き飛ばされるか、飛び散った破片でどこかを負傷するか粉砕されるか、炎を浴びて火達磨になる兵士が続出し、一瞬で阿鼻叫喚な状況が生まれる。

 

 続けて火龍が放った噴進弾と爆弾が次々と建造物に着弾していくつかの箇所が粉々に粉砕されて破裂した噴進弾から炎が建造物を焼き、その周辺にも着弾して炎が上がる。

 

 最後に景雲の放った爆弾と噴進弾が建造物に全て着弾し、崩壊が始まりそうな建物の全体に炎が回って大炎上し、次の瞬間には轟音とともに崩壊して火の球が辺り一面に広がって付近の森林に引火し、更に被害が拡大する。

 

 この間は正に一瞬の如くであり、帝国軍側は何が起こったのか状況を理解する前に総司令部を失い、同時に多くの兵士達が命を落とした。

 

 爆撃を終えた編隊はすぐさま艦隊へと戻っていき、ジェット機ならばでの速度で帝国側が追撃を行う前に撤退した。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 バ号作戦開始から3日後。

 

 

「総司令。各戦地からの報告です」

 

「うむ」

 

 俺は品川と辻から報告書を受け取り、陸海軍のそれぞれのページを捲って目を通す。

 

「被害は陸海軍共に軽微。戦線はどんどん進んでいる。結果は上々だな」

 

 海軍にしろ陸軍にしろ、それぞれの目的を達して次の作戦段階へと入って進撃している。

 

(このまま順調に進んでくれればいいんだが……戦場に絶対は無い)

 

 様々な不安は過ぎるも、今はただどのように戦況が進むかを見ているしかない。

 

 

 

 


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