異世界戦記   作:日本武尊

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第四十六話 狂気の産物

 

 

 

 

 あれから二週間後……

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 軍港で俺と品川は沈黙した面持ちである物を見守る。

 

 

 姉妹艦の陸奥に曳航されて見るも無残な姿に変わり果てた長門が軍港に入港する。

 

 扶桑海軍の軍艦で共通して黒っぽい灰色の軍艦色をしていたが、今の長門は真っ黒に染まっていた。

 

 高熱によるものか、一定方向だけ装甲表面が解けたように融解して機銃や高角砲の銃身が解けて曲がっており、木張りの甲板は至る箇所で捲れ上がって真っ黒に焦げていた。

 しかし戦艦の象徴である主砲は全くその姿を変えず真っ直ぐに伸び、艦橋もヤードが解けて曲がってしまっているが、その威容は全く変わっていない。

 

「あの長門が……こんな無残な姿に」

 

「……」

 

 変わり果てた長門の姿を見て、俺の脳裏にとあることが過ぎる。

 

(ビキニ環礁で行われたクロスロード作戦。一発目の実験後の長門の状態に似ているような……)

 

 長門の姿を見ながら、俺は長門の受けた状況を纏めた報告書の内容を思い出す。

 

 

 敵艦隊の発見の報を受けて長門を旗艦とする艦隊が出撃し、残存艦艇を追撃するため、長門と酒匂、加古、駆逐艦4隻が向かったが、岩の向こうに入った直後に眩い光が衝撃波とともに放たれて、光が収まったときには岩壁は崩れ、きのこ雲が上がっていた。

 

 その後偵察機を出して状況を確認すると、艦隊は多大な損害を受けて漂流しており、酒匂は大破して炎上して加古は火災を起こして傾斜が生じ、駆逐艦の殆どはすでに沈没していた。

 艦隊が向かったときには、酒匂と加古は沈没していた。

 

 漂流していた長門の艦内に生存者は残っておらず、艦内のいたる箇所に人が倒れていた跡のような薄く焦げた箇所があり、艦内の奥には炭化した遺体が多く倒れていたとのことだ。

 このことから猛烈な熱波が襲い掛かったと思われる。

 

 

「しかし、いったい戦場で何が起きているのでしょうか」 

 

「……」

 

 ここ最近の各戦場からの報告書には、共通した内容があった。

 

「特攻、か……」

 

 第二次世界大戦で旧日本軍が行ったこのワードは日本人である俺にとって、思い悩むものがある。

 

 ここ二週間でどの戦場では特攻が頻繁に行われて陸海共に多くの損害を被っている。

 

 陸では老人や女子供を含んだ敵兵団が大声とともに突撃し、戦車に肉薄すると突然光を放って身体が爆発して戦車を破壊し、歩兵を巻き込んで殺傷させている。

 

 海では転送魔法で転移した竜騎士らが聨合艦隊に特攻を仕掛けるも、転送魔法の魔力を事前に魔力電探で捉えて接近される前に迎撃できた。だが、中には弾幕を潜り抜けた竜騎士の特攻を許し、駆逐艦や巡洋艦数隻が損害を受けた。

 ここ最近でも駆逐艦4隻に重雷装巡洋艦大井と軽巡龍田が搭載魚雷の誘爆で轟沈している。

 

「しかし、民間人を盾にするような帝国がなぜ今更になってこんなことを」

 

「……」

 

 自分の国の民を平気で盾に使うような帝国がなぜ今になって特攻を始めたのか、それが分からなかった。

 

 別に特攻自体がこれまで無かったわけではなく、これまでに少数ばかり確認されているが、被害は皆無であった。

 しかしここまで多発し、被害が出たことは無い。

 

 

 

「さ、サイジョウ、総理……!」

 

 すると俺達のもとに息を荒げてガランド博士がやってくる。

 

 しかし殆ど走ったことが無いのに走った故なのか、若干過呼吸気味であった。

 

「博士? いったいどうなされたのですか?」

 

 これまで見たことの無い彼女の様子に、一瞬胸中で嫌な予感が過ぎる。

 

 俺が問い掛けると、博士は深呼吸をして呼吸を整えて口を開く。

 

「じ、実は、例の件についての調査で、とんでもないことが判明致しました」

 

「例の件とは、帝国軍がエール王国より持ち出した禁忌魔法ですか?」

 

「はい。その持ち出された禁忌魔法が何であるのかが分かりました」

「しかし、それが、とんでもないものでした」

 

「……」

 

 それを聞いてその場の空気が張り詰める。

 

「長い話になりそうですから、俺の執務室で」

 

 俺の提案で品川、ガランド博士と共に執務室に向かう。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 執務室に到着して品川が入れたお茶を飲みながらガランド博士の話を聞く。

 

「『魔力暴走』?」

 

 いかにも物騒な名前の魔法に俺は思わず声を漏らす。

 

「はい。遥か昔、ダークエルフの一族が生み出したとされる魔法の一つで、文字通り生物が持つ魔力を暴走、というよりは膨張させるといった感じの魔法のようです」

「しかし、あまりの残虐性に特に危険度の高い禁忌魔法として城の地下深くにある厳重に保管していました」

 

 そんな物を帝国は持ち出したのか。そしてその情報源は恐らく魔力炉の技術を帝国に伝えたエルフの若者か。

 

「それで、その魔法はどういった効果を齎すんだ?」

 

「扶桑の物で例えるのなら、萎んだ状態の風船が魔力量として、空気を入れれば風船が膨らむようにその魔法が掛けられると魔力が膨張して、最終的には破裂する形で爆発します」

 

「爆発……」

 

「不謹慎な例えですが、ただの破裂であれば大分良い方でしょう。しかし膨張した魔力は極めて不安定で、少しでも反発作用のある魔法が掛かっただけで大爆発を引きこします」

「仮に反発作用のある魔法がなくても、時間が経てば限界を超えて爆発します」

 

「……」

 

「して、その爆発はいったいどれくらいの威力が?」

 

「……平均的な男性の魔力保有量ですと、25番爆弾に匹敵、もしくはそれ以上はするかと」

 

「たった一人で25番並か」

 

「それが何万と居るとなると」

 

 何万もの走る爆弾。想像したくないものだな。

 

「魔物となると種類にもよりますが、大体が50番爆弾に匹敵するかと。ドラゴンとなると、それ以上となります」

 

「……」

 

 つまり竜騎士の跨るドラゴンは最悪50番爆弾と化して艦隊に特攻を仕掛けるというのか。

 

「特に飛行船が持つ魔力炉を暴走させた場合、想像も付かない威力を発揮するかと」

 

「……」

 

 そう考えると、長門の受けた爆発は飛行船の魔力暴走が原因だろう。

 

 だが、何より長門のあの状態からだとすると……

 

(まさかと思うが、原爆並みの威力があるというのか……)

 

 そう思った瞬間俺の背筋がこれまでに無いぐらいに凍りつき、一瞬目眩が起きる。

 

 原爆並みの威力を持つ自爆攻撃を行おうとする飛行船が無数に扶桑へ飛来する。

 考えただけでも恐ろしい。

 

「今になって特攻が増えてきたのか、この禁忌魔法のせいか」

 

「……」 

 

「ですが、禁忌魔法は古代エルフ文字で書かれています。エルフ族でもこの文字の解読は困難なはず……」

 

「だが、連中がこれを使っているというのなら」

 

「時間を掛けて解読したのだろうな」

 

 しかし、予想以上に早く解読するとはな。

 

「ですが、このまま戦闘が長引けば両軍とも被害は甚大なものになりかねません」

 

「……」

 

「魔力炉の製造工場は全て潰しているので飛行船や戦車もどきによる特攻は少ないと思われるのが幸いですね……」

 

「ですが、兵士や魔物はどこからでも供給できますから……」

 

「……」

 

 その後は聞かずとも分かる。

 

 

 

「……」

 

 俺は背もたれにもたれかかり、目元を右手で覆うとため息を吐く。

 

(まさか、こんなことになろうとは)

 

 特攻自体は起こると予想はしていた。だが、その前に片が付くと考えていたのでそれほど悩まず軽視していた。

 

 慢心と油断をするな、と軍に言っておきながら、自分が慢心をして、その結果最悪の状態を招いてしまった。

 

(これは、俺のミスだ。こうなるんだったら、一気に仕掛けるべきだった)

 

 だが今更悔やんだところで事態が変わることは無い。そして悩んでいるあいだにも敵は次なる行動を起こしていることだろう。

 

(……やはり、あれを使うしか、無いのか)

 

 あれだけは使いたくはなかったが、原爆級の威力があると思われる飛行船の特攻の脅威がある以上、悠長なことを言っていられる状況ではなくなった。

 もしかすれば今すぐにでも扶桑の真上に転送魔法によって自爆用の飛行船が現れるかもしれない。

 

(結局、分からず屋には力ずくにでも分からせるしかないのか)

 

 

「……」

 

 俺は立ち上がって扉に向かう。

 

「総司令? どちらへ?」

 

「……少し行く所がある。何かあったら呼んでくれ」

 

 そう言って執務室から出る。

 

 

「……」

 

 品川は弘樹の只ならぬ様子に不安の色を浮かべていた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 俺は側車付きの陸王に乗って自宅の前に止まるとヘルメットを脱いで降り、玄関を開けて中に入って居間の襖を開ける。

 

「ヒロキさん?」

 

 居間にはリアスが座布団に座り、洗濯物を畳んでいた。

 

 そのお腹は反抗作戦が始まった頃より遥かに大きくなっていた。

 

「どうかしましたか? まだ仕事中なのでは?」

 

「時間ができたから、その空き時間を使って君の様子を見に戻ったんだ」

「今日は身体の調子はどうだ?」

 

「はい。今日はとても気分が良いです。そのお陰か、この子達もいつもより元気です」

 

 リアスは膨らんだお腹を優しく撫でる。

 

「そうか。それなら、良かった」

 

 俺は安堵の息を吐く。

 

「お医者さんの話では、もうそろそろだそうです」

 

「もうそろそろ、か」

 

 リアスの前でしゃがみ込んで、その膨らんだお腹に手を置く。

 

「失われるものもあれば、新しく生まれるものもある、か」

 

「……?」

 

 ボソッと呟いたリアスは首を傾げる。

 

 

「そういえば、戦局はどうなっているんですか?」

 

「あ、あぁ。予想以上に帝国軍の抵抗が激しくてな。各所にある要塞攻略に手間取っている」

 

「そうですか」

 

 

「……だが、近い内に戦争は終わる、いや、終わらせるさ」

 

「……え? どういう事ですか?」

 

 矛盾したような言い方にリアスは怪訝な表情を浮かべる。

 

「なに、すぐに終わるさ。すぐに、な」

 

「……?」

 

 意味深長な言葉を残して俺は自宅を後にした。

 

 

 

 

 

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