異世界戦記   作:日本武尊

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五十三話 国籍不明の艦隊

 

 

 

「っ! これは!……辻陸軍長官!」

 

「どうした?」

 

 以前の場所から別の場所に新設された総司令部の司令室では国籍不明艦隊の発見の報告が入り、オペレーターが陸上自衛隊の軍服に似たデザインの扶桑陸軍の新軍服に身を包む辻を呼び、彼女は目を通していた報告書から目を離して顔を上げる。

 

「哨戒中の第二潜水艦隊からの報告です! 警戒水域に侵入した国籍不明艦隊を発見せりとのことです!」

 

「国籍不明の艦隊だと」

 

 辻の表情に緊張が走る。

 

「国旗を確認して間違いなかったのか?」

 

「はい。グラミアム王国、バーラット共和国。その他の国々のどれにも該当する国旗ではなかったとのことです!」

 

「……」

 

「現在潜水艦隊は国籍不明艦隊を追尾して監視しているとのことです」

 

「……すぐに海軍省の品川海軍長官を呼べ」

 

「ハッ!」

 

 

 しばらくして空気が抜けるような音とともに司令室の扉が開き、海上自衛隊の軍服に似たデザインの扶桑海軍の新軍服に身を包む品川が入室する。

 

「お前が私を呼んだということは、恐らく潜水哨戒艦隊の報告だろうな」

 

「あぁ。何か分かったのか?」

 

「艦隊の規模の詳細は不明だが、少なくとも大型艦が10隻近くいるようだ」

 

「10隻か。多いな」

 

「それと未確認だが、その中の数隻は戦艦が占めるようだ」

 

「……普通に海戦ができる数だな。それで、海軍はどうしている?」

 

「既に柱島に駐留する尾張を旗艦とする第二艦隊を向かわせるように指示を出している」

 

「そうか」

 

 辻はすぐにオペレーターの方を向く。

 

「休暇中の総司令には悪いが、来ていただかなければな」

 

「あぁ」

 

「それと艦隊の規模を詳細に調べなければならない。大型艦が居る以上空母もいる可能性がある」

 

「なら空軍(・・)の偵察機で調べさせるか」

 

「それしかないな」

 

 二人の口から出た空軍とは、先の戦争の終戦から1年後に陸軍航空隊と海軍陸上航空隊を陸軍と海軍から切り離し、その二つを統合して『扶桑空軍』を設立した。

 

 陸軍航空隊と海軍陸上航空隊に分けて運用していた爆撃機や局地戦闘機を空軍で纏めて運用した事で問題視されていた運用が解決し、陸軍は陸上兵器運用に、海軍は艦上航空機運用に専念できるようになった。

 空軍では局地航空機を集中運用し、更に独自の地上での運用を想定した戦闘機を開発している。

 

 とはいうものも、現在空軍のやることと言えば、時折飛来する飛行型魔物を迎撃するために出撃しているのがほとんどで、たまにとある事情で各地に派遣されることもある。

 

「直ちに空軍に緊急発進要請! それと総司令の電話に繋いでくれ」

 

「はっ!」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「っ! 木下空軍長官!」

 

「は、はい!」

 

 前司令部の敷地内にある飛行場の司令室でオペレーターから呼ばれた女性が慌てて返事を返す。

 

 背丈は低いが、その体格に不釣合いなスタイルの持ち主で、航空自衛隊の軍服に似たデザインの扶桑空軍の軍服を身に纏い、腰まで伸びている黒い髪を三つ編みにしてメガネを掛けている。

 

 扶桑空軍の設立により長官職に就いた『木下(きのした)摩耶(まや)』は以前までは元陸軍航空隊の管理者の副官をして、同時に辻の副官も務めていた。その縁あってか彼女が推薦して今の職に就いている、らしい。

 

「総司令部より航空隊に緊急発進要請です! 警戒水域に侵入した国籍不明の艦隊を偵察せよとのことです!」

 

「国籍不明の艦隊?」

 

「先ほど哨戒中の潜水艦隊より連絡があり、現在艦隊を密かに追尾中のことです」

 

「……」

 

 木下は一瞬間を空けるも、すぐに指示を出す。

 

「緊急発進警報発令! 直ちに第一航空隊は発進準備に取り掛かってください!」

 

「ハッ!」

 

「あと、万が一のことがあります。早期警戒機を出して迎撃機と攻撃機の発進準備も整えてください」

 

 木下の指示でオペレーター達はすぐさま作業に入る。

 

 

 すぐに飛行場のスピーカーより警報が発せられ、扶桑空軍主力のジェット戦闘機『F-1戦闘機』が格納庫にて偵察装備を施して増槽を取り付け、滑走路へ入ってきて発進準備を整える。

 それと同時に万が一に備えて迎撃戦闘機『震電改』、攻撃機『雷龍』が各装備を施して格納庫より出されて滑走路の傍に駐機される。

 

 震電改はジェットエンジンに換装した上で近代化改装を施した機体で、現時点空軍の中で使用される機体としては最も型の古い戦闘機だが、上昇能力と速度はF-1以上の性能を持っており、今でも迎撃機として空軍に配備されている。

 

 雷龍はジェット攻撃機火龍を強化発展させた機体で、機体サイズは更に一回りほど大きくなって爆装量が増加して全体的な性能は火龍とは比べ物にならないが、他の戦闘機と比べると速度は少し遅い。

 ちなみに雷龍は『水龍』という名前で艦上攻撃機として海軍でも採用されている。

 

 滑走路に出てきた2機のF-1のジェットエンジンの出力が上がると同時に音も大きくなり、機体がゆっくりと前に進み出す。

 そしてスピードが出てきてそのままF-1戦闘機2機は滑走路から飛び上がって空へと舞い上がる。

 

 その後に早期警戒機『E-2C 鷹目』が飛び立ち、他に艦隊が居ないかを確認するために周辺海域の警戒に入る。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ん?」

 

 リアスと子供達と一緒に歩いている俺はジェットエンジンの音がする方向に向き、飛行場から飛び立つF-1戦闘機は見上げる。

 

「空軍のF-1か」

 

「またスクランブルですか?」

 

「だろうな。ここ最近は少なくなったと思ったんだが……」

 

 ここ数ヶ月扶桑周辺では飛行型の魔物の出没件数が増えて空軍や陸軍がその対処に追われていたが、最近は少なくなっているはず。

 

 だが、俺はF-1戦闘機が飛び立った方向を見て首をかしげる。

 

(ん? 海に向かって緊急発進?)

 

 これまで空軍は飛行型魔物の迎撃のために発進していたが、基本それは内地に向かってであり、海に向かっては珍しかった。

 

 

 

 そのとき、ズボンのポケットに入れている軍関係で使用する携帯電話が着信音を発するのを確認し、取り出して電話に出る。

 

「俺だ」

 

『休暇中で申し訳ありません、西条総司令』

 

「辻か。どうした?」

 

『すぐに総司令部にお越しください』

 

「……何があった」

 

 辻の緊張した声から俺はただごとじゃないと察する。

 

『ハッ。実は先ほど哨戒中の潜水艦隊から報告があり、国籍不明の艦隊が警戒水域に侵入し、扶桑に接近中とのことです』

 

「国籍不明の艦隊だと」

 

『艦隊の規模の詳細は分かりませんが、かなり規模の大きいものだと思われます』

 

「……」

 

『現在空軍のF-1が緊急発進をして偵察に向かっています』

 

「それで海の方へ飛んでいったのか」

 

『はい』

 

「それで、海軍は?」

 

『柱島に駐留する第二艦隊が向かいます』

 

「そうか。分かった。今からそっちに向かう」

 

 電話を切り、リアスを見る。

 

「すまないリアス。子供達と先に家に帰ってくれ」

 

「何かあったんですか?」

 

 俺の様子からかリアスの表情に不安の色が浮かぶ。

 

「あぁ。どっかの国の艦隊がこっちに向かって来ているようだ。さっきのF-1はその艦隊の偵察の為に出撃した」

 

「……」

 

「俺は今から総司令部に向かう。子供達を頼む」

 

「は、はい。気をつけてください」

 

「あぁ」

 

 

「お父さん」

 

「……」

 

 響と未来は不安な表情を浮かべる。

 

「すまないな。お父さん仕事が入ったから今から司令部に行かなきゃならない」

 

「……」

 

「今度休みになったら、たくさん遊ぼうな」

 

「う、うん」

 

「行って、らっしゃい」

 

「あぁ。行ってくる」

 

 そう言ってからリアスに軽く頷き、彼女も頷いたのを確認してから通りがかったタクシーを呼び止めて乗り込み、総司令部を目指す。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 所変わり、扶桑を目指している艦隊へ……

 

 

 

 艦隊は輪形陣にて航行しており、中央にはモンタナ級戦艦1隻、その周囲をアイオワ級戦艦6隻、その後方にヨークタウン級航空母艦とレキシントン級航空母艦が2隻ずつ計4隻、更にその周囲をニューオーリンズ級重巡洋艦とアトランタ級軽巡洋艦、フレッチャー級駆逐艦数十隻が囲っている。

 

 

 

「予想が正しければ、間も無く扶桑が見えてくるはずです」

 

「そうか。引き続き対空、対潜警戒を厳にせよ。但し、攻撃は厳禁だ」

 

「了解」

 

 艦隊の中央を航行する戦艦『モンタナ』の艦橋で、艦長が男性に対して敬礼をして持ち場に戻る。

 

「しかし、大丈夫でしょうか?」

 

 男性の隣に立つ狐耳を持つ獣人の女性ことクリスは不安げな表情を浮かべる。

 

「潜水艦が今もなお本艦隊を追跡している状況では……」

 

「……首元にナイフを突きつけられている状況なのは分かっている」

「だが、俺たちは戦いに来たんじゃない。ここで潜水艦を沈めてしまえば、ここまで来た意味が無い」

 

 周囲を警戒している駆逐艦から潜水艦発見の報告が入り、艦隊を追尾しているとのことだ。駆逐艦数隻が迎撃に向かおうとしたが、迎撃は厳禁と命令を下して戻させた。

 

「しかし、相手が撃ってこないとも限りません。もし撃たれたら……」

 

「撃っているなら、もう撃っているさ」

 

「……」

 

「まぁ、今は撃たれないことを神にでも祈るしかないな」

 

「……」

 

 クリスは深くため息を吐く。

 

(できれば、一戦交える事態にならなければいいが……)

 

 男性は内心呟き、窓から外の景色を眺める。

 

「それでクリス。準備はできているか?」

 

「一応できていますが……」

 

 と、困惑した表情を浮かべる。

 

「しかし、本当に行くのですか?」

 

「あぁ」

 

「何も大統領自らでなくても、誰かに任せれば「それじゃダメなんだ」……」

 

 男性はクリスの言葉を遮って黙らせる。

 

「これは俺がやらないといけないんだ。他の者には任せられない」

 

「……大統領」

 

「すまないな。こればかりは、誰にも譲れん」

 

「……」

 

 

 

 

 

「やつら、どうも本国を目指しているようだな」

 

 艦隊を追跡するうずしお型潜水艦4隻の中のくろしおの艦橋では艦長が潜望鏡を海面に突き出させて艦隊を見ながら呟く。

 

「どうします? 全艦魚雷の発射準備は完了していますが」

 

「……」

 

 副長の言葉を聞き艦長は静かに唸る。

 

「もう少し様子を見る。速度と距離は維持しつつ追跡だ。随伴艦にもモールスで伝えろ」

 

「了解」

 

 副長は艦長の指示を通信手に伝え、随伴艦に伝達する。

 

「……」

 

 艦長は再度潜望鏡に目を向け艦隊を監視する。

 

(駆逐艦が迎撃のためにこっちに向かってこようとしたが、すぐに引き返したところを見るとどうやら交戦の意思は無さそうだけど)

 

 少し前に艦隊の駆逐艦からのソナー音を探知し、数隻の駆逐艦がこっちに向かってきたが、直後に駆逐艦は反転して艦隊に戻った。

 

(かといって、あんな過剰戦力で対話的な何かをするために行くものじゃないわよね)

 

 いったいどこに空母や戦艦を持ち出して対話に向かう国があるのやら。

 まぁ向こうが対話を目的にしているなんて、そんなことは扶桑に知る由も無いのだが……

 

 

 

 

 

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