「総司令! 第二艦隊旗艦尾張より入電です!」
それからして司令部に尾張からの電文が届く。
「内容は?」
「ハッ! 第二艦隊が国籍不明艦隊と接触。不明艦隊はリベリアン合衆国に属し、国の長である大統領の名前はトーマス・アルフレッドと申しております」
「リベリアン……」
「合衆国」
品川と辻は順に呟く。
(やはり、か)
俺は国と大統領の名前を聞き、確信を得た。
「なお、その国の大統領であるトーマス・アルフレッド氏は我が扶桑国と、総司令と対話を求めたいとのことです」
「総司令と?」
「……」
「……」
(俺とか。いったい何だ?)
「それと……」
「何だ?」
「最後に一言があるのですが」
なぜかオペレーターは言いづらそうな雰囲気を出す。
「なら早く報告しろ」
「は、はい」
戸惑いながらもオペレーターは最後の一言を読み上げる。
「『映画館で食べるポップコーンの味は塩で決まりだよなJK』と」
「……は?」
「何だそれ?」
「え……?」
品川と辻、木下は意味の分からない一言に不審に思うも、一人だけは違った。
(もう間違いないな)
俺はその一言に苦笑いを浮かべる。
「品川」
「ハッ」
「すぐに二式飛行艇を準備してくれ」
「? 分かりました」
品川はすぐさま近くの電話を取り海軍基地に連絡を入れる。
「やはり、行くのですね」
「あぁ」
「え、えぇと、総司令? まさかと思うのですが、あの艦隊へ行かれるのですか?」
辻はもはや留める気は無く、木下は戸惑いを見せる。
「向こうが対話を求めているのなら、それに応えてやらんといけないだろ?」
「い、いや、相手は全く未知の国なんですよ? そんな国の言葉に耳を貸すなんて」
「大体、罠だって可能性があるんですよ?」
まぁ本当なら彼女の言うことがもっともだろう。
「心配は無い。恐らく罠ではないだろう」
「な、なぜそうと?」
「……知っているからだ」
「……?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
その後用意された二式飛行艇に乗り込んだ俺たちはリベリアン合衆国艦隊と第二艦隊が居る海域へと向かう。
(しかし、まさかこの世界でトーマスと再会するとはな)
機内から聞こえる発動機の音を聞きながら、窓から覗く景色を見ながら俺は内心呟き、トーマスの顔を思い出す。
(あいつがアメリカに帰ったあの日以来か)
昔のことを懐かしんでいると、両艦隊が見えてきた。
(しかしこう見ると凄いものだな)
パッと見るなら第二次世界大戦時の日米の艦隊が近くで停泊しているという、何も知らない人が見ればある意味異様な光景が広がっている。
(現実だと見られない光景だな)
内心で呟いていると、二式飛行艇は高度を下げて艦隊へと接近し、尾張の近くに着水する。
(しかし、トーマスはいったい何をしに来たんだ。と言うか、どうやって俺が居るというのを知ったんだ)
尾張の内火艇が近付いてくるのを見ながら、そう内心で呟く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
所は変わって尾張艦内。
「……」
「……」
トーマスとクリスの二人は会議室にて弘樹が来るのを祈っていた。
「しかし、その人は来ますでしょうか?」
「分からんな。向こうが信じてくれるかどうか」
「……」
「あいつなら最後の一言で俺だって分かってもらえるはずなんだがなぁ」
「あんなふざけた一言で分かるのですか? 私には理解できないのですが」
「……」
クリスの鋭いツッコミに言葉を詰まらせる。
すると会議室の扉が開いて松下艦長が入ってくる。
「長らくお待たせして申し訳ありません。先ほど総司令が到着いたしました」
「そうですか」
トーマスは席から立ち上がって気を引き締め、クリスもすぐに立ち上がる。
松下艦長が一旦会議室を出てから少しして、弘樹と品川が入ってくる。
(弘樹)
(トーマス)
二人はお互いの顔を見た瞬間、最後の時と変わらない友人と数年ぶりの再会に喜びたかったが、何とか内心に留めて平常心を装う。
「初めまして。自分が扶桑国陸海空軍総司令官兼総理、西条弘樹です。こちらは扶桑海軍司令長官の品川愛美大将です」
「お初お目にかかります。西条総理。名前はご存じかと思いますが、私はリベリアン合衆国大統領トーマス・アルフレッドと申します」
「こちらは秘書官のクリスです」
お互い近付き握手を交わし、それぞれの連れの紹介をする。
「それで、遠路遥々ここまでお越しした目的は我々との対話でしたな。いったい何を?」
「それについてですが、西条総理と二人でお話ししたいのです。かなり重要な案件ですので」
「そうですか」
俺は一瞬迷ったが、トーマスの言うことを信じた。
「品川。悪いが席を外してくれ」
「分かりました」
「クリス。お前もだ」
「はい」
品川とクリスは頭を下げて会議室より出る。
「……」
「……」
二人だけとなった会議室でしばらく沈黙が続く。
「……プッ」
先に吹き出したのはトーマスだった。
「おいおい」
俺は思わず声を漏らす。
「ひでぇなおい」
「だって。お前が敬語とかおかしくてよ。結構耐えるの大変だったんだぞwww」
「お前なぁ」
静かに唸りながら頭の後ろを掻く。
「久しぶりだな、弘樹」
「あぁ。久しぶりだ、トーマス」
トーマスは咳払いをして気持ちを整え、二人は改めて握手を交わす。
「しっかし、まさかお前がこの世界に居たとはな。しかもリベリアンと一緒に」
「それは俺も同じだ。しかも俺たちより先にこの世界に居るようだしな」
「まぁな。だが、どうやって俺が居るってことを?」
「海域調査のための航空機が六発の超大型機を目撃して撮影したんだ。その航空機に描かれた国籍識別マークで知ったんだ」
富嶽のことか。ということは5年ほど前にあった報告はリベリアンの航空機となるか。
長らく疑問だったことがようやく解消されたな。
「しかし、最後の一言、まだあんなこと言っているのかよ」
「お前何言ってんだよ。映画館で食べるポップコーンの味は塩で決まりだろ」
「バター醤油に決まってんだろ。あの癖になる味で映画が更に楽しくなるんだぞ」
「そこは定番の味だろ。他の味もいいがやっぱり塩が一番だ!」
「バター醤油だ!」
「塩だ!」
「バターだ!」
「……総司令とそちらの大統領は何を話しているのだ?」
「さぁ? 大統領はあぁ見えて拘りが強いんですよ」
「総司令も拘りが強いが……」
会議室の外で待つ品川とクリスは二人の会話に首を傾げる。
「それで、本当のところトーマスは何が目的なんだ?」
弘樹は脱線した話の路線を何とか修正して、トーマスに問い掛ける。
「弘樹と扶桑国の存在を確認したいというのもあるが、本当の目的は扶桑国に協力してもらいたいんだ」
「協力?」
「あぁ。今俺たちがやっている戦争の助勢を得にな」
「戦争ねぇ」
「もちろんタダではない。それ相応のお礼はさせてもらいたい」
「……」
俺は首の後ろを軽く掻く。
「協力したいが、それは―――」
一瞬断ろうと思ったが、ふとあることに気付く。
「なぁ、一ついいか」
「なんだ?」
「さっきお前は俺達よりも先にって言ったよな」
「あぁ」
「……それって、どういうことだ?」
「……」
トーマスは一旦間を置いてから、口を開く。
「実はな、この世界にいるのは俺たちだけじゃない。他のやつらはお前もよく知るやつらだよ」
「よく知る?」
「あぁ。俺とお前を含む……『Anothr World war』のトップランカー達だ」
「っ!?」
トーマスの言葉に俺は思わず目を見開く。
「まさか、嘘だろ?」
「事実だ。今俺は、リベリアン合衆国は『ゲルマニア公国』『スミオネ共和国』と共に同盟軍として『ロヴィエア連邦国』をトップとする『ブリタニア帝国』と『メルティス王国』その他の属国の連合軍と戦争状態にある」
「ロヴィエアにブリタニア、メルティスまで」
「それと『ヴェネツェア王国』がどちらに属していない状態で居る」
「……」
どれもあのゲームでの俺達を含むトップランカーの中で最も戦績のあるランカー達が率いる国ばかりだ。
「どれも俺の知る国ばかりだ。だが、『支那国』と他にも居たはずだが?」
「そいつらはロヴィエアのアイツに滅ぼされて国ごと吸収されているみたいだ」
「みたい?」
「情報が不確定なんだ。吸収されたってあるが、どこか密かに亡命国家を作った、もしくはどこかに潜んでいる可能性があると言うやつまである」
「……」
「まぁ、お前から見れば支那国が滅んだところで気にすることも無いか」
「むしろ清々したよ。あいつ俺に御執心みたいだったからな」
ホントあいつはムカつくことばかり仕掛けてくれる。まぁ毎回痛い目に遭わせて追い返していたんだけどな。
「ん? そういえば、この組み合わせって」
「あぁ。あのときのままだ。それにこの世界の国を加えたって感じだな」
「なんだってあのときのままで」
ゲームでもほぼ同じ組み合わせで戦争をして平行線のまま戦闘が続いていた。しかしある日を境に戦闘は停止し、そのまま戦争は終了した。
「恐らく勝負の続きだろうな。まぁあいつの真意は分からんが」
「……」
「戦況は何とか持っている。北の大地のスミオネ共和国軍は俺とゲルマニアのアイツの支援を受けながら地形の利を使って何とか持ち堪えている。だが、ロヴィエアお得意の物量戦術に各戦線は若干押されている感じだ。しかもあいつらの海軍は下手すれば俺の海軍並まで発達しているから、苦戦を強いられている」
例えるならアメリカ海軍とほぼ同等の海軍戦力を持つソ連。想像しただけでも恐ろしいな。
「それで俺に協力を?」
「今の扶桑が加わってくれれば、戦局を打破できるかもしれない。ほぼ現代技術を持っている扶桑なら」
「これでもまだゲーム内では冷戦末期と言ったところだ」
「冷戦末期でもそれだけあれば十分。それで、協力してくれるか?」
「……」
昔の俺だったら友人の頼みとして聞くところだろうが……
「俺だけの判断だけで決められんな」
左手で頬を軽く掻く。
「ん?」
トーマスは弘樹の左手の薬指にある指輪に気付く。
「お前、結婚しているのか?」
「ん? あぁ。嫁さんと子供が二人だ。いや、後で三人になるか」
最近分かったことだが、リアスは三人目の命を宿している。
「おぉやるねぇ」ニヤニヤ
「ヒュー」と口笛を吹く。
「さっき連れてきたのがそうか?」
「違う。品川は部下だ。嫁さんは扶桑国と同盟にある王国の軍の将軍の娘だ」
「それでも結構やるねぇ。しかも三人目か」
「……」
正直、あんまりあれは思い出したくないんだよな……
「まぁ、俺にはクリスがいるからな」
「ドヤ顔で言うなよ。ってことは、さっきの狐耳の獣人か」
「あぁ。それが?」
「……似ているなって思っただけだ」
「狐耳か?」
「俺は狼耳だがな」
「結局獣人か。いいよな、獣人って」
トーマスはまるで同志を見つけたかのような安心した表情を浮かべる。
「話が逸れたな」
俺は話が脱線しかけたので咳払いをして仕切りなおす。
「とにかく、陸海空軍で話し合いをする。協力できるかはそれからだ」
「分かった。だが、早めの方がいいかもしれない」
「なに?」
トーマスの引っかかるような言い方に俺は思わず声を漏らす。
「こいつはゲルマニアのあいつからの情報だ。ロヴィエア海軍の行動範囲がここ最近だけでもかなり広がっているって話だ」
「それが?」
「やつらは付近の島を占領しては補給基地にしている。恐らく俺達の居る大陸以外の大陸への侵攻を考えているかもしれない」
「だが、あまりにも戦線を広げれば補給が滞るぞ。それこそ史実の日本軍と同じことになりかねん」
「あのロヴィエアだ。そんなの物量で補うだろう」
「……」
「まさかこんな所までに戦線を広げてくるとは思えないが、まぁ頭に入れておいてくれ」
「……分かった。答えはなるべく早く出す。それまで待っていてくれ」
「あぁ」
俺はポケットから携帯電話を取り出してトーマスに手渡す。
「それで連絡を入れる。失くすなよ」
そう言い付けて敬礼を向けてトーマスのもとを離れ会議室を出る。
「品川。すぐに内地に戻る。司令部に戻りすぐに陸海空軍で緊急会議だ」
「ハッ!」
会議室から出た俺の後に品川はすぐに付いていき、命令を聞くと返事を返す。
「話し合いは、うまく行ったようですね」
「まだ協力を得られるかは分からんがな」
残された二人は弘樹と品川の後ろ姿を見えなくなるまで見続ける。
「とりあえず、俺達は一旦モンタナに戻るぞ」
「はい」
二人は松下艦長に一言言ってからモンタナへと戻っていく。