異世界戦記   作:日本武尊

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第五十六話 軍の派遣の賛否

 

 

 

 

 あれから一日が過ぎて、弘樹が本国に戻ってきて司令部では急遽陸海空軍による他大陸で発生している戦争への軍の派遣についての会議が行われた。

 

 と言っても、案の定会議と言うよりもうただの罵声大会みたいなことになっていた。

 

 

「陸軍としては軍の派遣には賛成だ! 更に力を付けた我が扶桑陸軍の力を他国に知らしめるにはいい機会だ!」

 

「海軍は反対だ! 戦争が終わって平和になったのだぞ! なのにわざわざ他の大陸の戦火に足を踏み入れるなど!」

「何より本土防衛の戦力を割くわけにはいかんだろ!」

 

「近々竣工する軍艦を加えれば良い話だろう!」

 

「そういう問題ではない!」

 

 陸軍と海軍で意見が分かれてこのような状態だ。

 

 陸軍としては他国に力を誇示したいところがあり、現在試験中の新鋭戦車の試作車輌『STC-1』から得たデータを元に先行量産した車輌の実戦運用を行いたいという思惑がある。

 

 一方の海軍はわざわざ他の大陸で行われている戦争に介入する必要がないと言っているが、実際のところ戦力の分散による防衛戦力不足を懸念している。

 まぁ近々竣工する翔鶴型原子力航空母艦や新鋭の護衛艦に巡洋艦もあれば、グラミアムに建設した造船所で極秘裏に建造中の『アレ』があればその不足分を補えるが……

 

「我々も賛成だ! 我が空軍の力をようやく発揮することができるのだ! いつまでも魔物を追い払うのはゴメンだ!」

 

「何を馬鹿なことを! 今でも魔物と旧帝国軍の残党を相手で手一杯なのだぞ! 他に戦力を回す余裕など無い!」

 

 空軍は新設されて初めて他国に対して力を見せ付ける事ができると言う賛成派と魔物や未だにバーラット共和国内外で活動している旧帝国軍残党の対処で手一杯と言う反対派に分かれている。

 

 

 結局会議一日目は全く進展すること無く終わった。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

(うーん。ある程度予想していたとは言えど、ここまで進展が全くないとは)

 

 俺は家の書斎で資料を見ながら内心で呟き、頭を掻く。

 

 会議を始めてから三日目が過ぎたが、全くと言って進展がなかった。

 

(軍の派遣賛成派は陸軍と空軍の半数。反対派は海軍と空軍の半数。五分と五分か)

 

 お互い一歩も譲らない姿勢で挑んでおり、少なくともどちらかが妥協するような雰囲気ではない。

 

「さて、どうしたものかねぇ」

 

 机に資料を置いて背伸びをしたとき、襖を叩く音がして開けられると、お茶の入った湯呑が載せられたお盆を持つリアスが入ってくる。

 

「弘樹さん。お茶を持ってきました」

 

「あぁ。すまない」

 

 俺の傍まで来て両膝を突き、お茶の入った湯呑を差し出し、俺はそれを受け取って一口飲む。

 

(俺の好みの濃さだな)

 

 脳裏にお茶を淹れる練習をする彼女の姿が過ぎり、微笑が浮かぶ。

 

「弘樹さん。会議はまだ終わらないのですか?」

 

「あぁ。その兆しですら見えない状況だ」

 

 俺は湯呑を机の隅に置いて資料を手にする。

 

「軍の派遣に賛成派と反対派に綺麗に分かれてな。どっちも譲る気がないみたいだ」

 

「そうですか」

 

 

「なぁ、リアス」

 

「何でしょうか?」

 

「君はもし軍の派遣を決めるとするなら、賛成か? 反対か?」

 

「私が、ですか」

 

 リアスは戸惑いながらも質問に答える。

 

「一概に反対とは言い切れません。かと言って、賛成と言う訳にも行きません」

 

「まぁありきたりな意見だが、その訳は?」

 

「反対する海軍と空軍の人達の言い分も分かります。平和になったのにわざわざ争いがある場所に赴く必要もありません」

「もし下手に戦争に加われば、戦火がここに及ぶ可能性があります」

 

「……」

 

「でも、何もしなくてもここまで戦火が及ばないという保証もありません。そのリベリアン合衆国の大統領は戦争をしている相手国が活動範囲を広げていると言ったんですよね」

 

「あぁ。そうらしいがな」

 

 本当なら軍機に関わることなのだが、彼女の意見はかなり参考になるので特別に話している。

 

「何かがあってからでは遅い。賛成派の気持ちはそこにあると思います」

 

「力の誇示というよりは、恐れがあるから、ということか」

 

「はい」

 

「……」

 

 こういうのがあるから、分からないんだよな。

 

 事前にこっちから攻めてこちらに戦火を広げるのを未然に防ぐとしても、逆にここまで戦火が広がる可能性も否定できない。

 かといって何もしないでいるときに、戦火がここまで広がって多大な損害を被る可能性もある。

 

 どちらの被害が大きいかと言うと、後者の方が大きいかもしれないが、前者としても長引けば被害はかなり大きなものになる。

 だがそうなると最初に損害を被った状態で戦闘状態になる前者の方が被害が大きくなる。

 

(攻めるか、何もしないか。どっちを取るべきか)

 

「うーん……」と静かに唸り、荒っぽく髪を掻き乱す。

 

 

「弘樹さん」

 

 思い悩んでいる弘樹の姿にリアスはただ見ていることしかできなかった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それからも会議に進展がなく、更に二日が過ぎる。

 

 

「わざわざ休暇中に来てもらってすまないな、岩瀬少将、小原少将」

 

「は、はいぃ……」

 

「いえ。お構いなく」

 

 扶桑国内にあるレストランで俺はとある人物二人を呼び出した。

 

 で、二人のうち片方は相手が相手とあって緊張の色は隠せなかった。

 

 その二人のうち一人は、何かと関わりが多い陸軍の岩瀬少将である。

 あれから更に出世した彼女はいくつもの師団を率いるほどまでになっている。が、一兵時代の習慣が根強く残っているせいか、司令官でありながらも時々自ら戦線に行っては暴れているらしい。

 

 もう一人は今も陸海空軍で存在が秘匿されている幻影艦隊の司令長官である小原少将である。ちなみに戦果を上げ続けているのに階級が変わってないのは、表向き彼は戦死扱いとしているので、階級は戦死時の二階級特進をした状態で固定されている。

 なので岩瀬少将には海軍の知り合いと言って誤魔化している。

 ちなみに幻影艦隊は現在所属艦艇全てに大規模な近代化改装を施しており、更に艦艇数の増加をして艦隊の規模を大きくするなどをして、扶桑海軍最大の切り札として行動してもらうことになる。

 

 しかし一国の総司令兼総理が陸軍と海軍の将兵にただ普通に会うのもあれだから、お互い変装しており、俺は付け髭に眼鏡を掛けて、格好もいたって普通のスーツで、小原少将は絵描き屋を気取った格好で、岩瀬少将は上下ジャージに眼鏡という普段からの格好である。

 

「それで、私達にいったいどんな話を?」

 

「うむ。こいつは軍機なのだがな――――」

 

 俺は二人に一連の事を話した。

 

 

 

 

「なるほど。そのリベリアン合衆国からの要請で、他の大陸で起きている戦地への軍の派遣ですか」

 

 小原は納得したように軽く頷く。

 

「確かに、すぐに決められる状況ではありませんね」

 

「そうか」

 

 俺は岩瀬少将に目を向ける。

 

「少将。お前はどう思っている?」

 

「私は……私は扶桑陸軍の軍人であります。命令とあらば、どこへでも行く覚悟はあります。もちろん、それは私の率いる師団の者達も同じです」

 

 気持ちを整えた岩瀬少将は俺の目を見ながらそう答える。

 

 やっぱり、根っこからの軍人なんだな。

 

「ですが、メリットデメリットを考えると、軍の派遣に疑問を抱かないと言えば嘘になります」

 

「そうか」

 

 

「総司令はどうお考えなのですか?」

 

「そうだな……」

 

 小原少将に聞かれながら俺はウエイトレスが運んできたビールがいっぱいに注がれたジョッキを持ち、口元に運んで飲むとジョッキを離す。

 

「先の戦争のことを考えると、出来れば戦争は回避したい。今回の相手は旧バーラット帝国とは比較にならない国が相手だ。いくら強力な味方がいるとは言えど、もし戦争となれば先の戦争より被害は大きくなるだろう」

 

「……」

 

「俺は軍の総司令官だ。部下を戦地に送り込むのが仕事だ。なら気にする必要は無い、そう考えているのだろう?」

 

「それは……」

 

 小原は何も言えなかった。

 

「本当ならそれが当然なのだろう。だがな」

 

 再び口につけて約四分の一ぐらいを飲んだところでジョッキをテーブルに置く。

 

「兵士は消耗品じゃない。俺は無闇に兵士達の命を散らせたくはないし、兵士達に関わる人達を悲しませたくない」

「もちろん、こんなことは綺麗事だって言うのは分かっている」

 

「総司令」 

 

「……だが、兵士達に何もさせずに死なせるというのも、な」

 

「……」

 

 小原はジョッキのビールを一口飲み、弘樹を見る。

 

「こういうのもなんですが、いっそのこと素直に自分の考えに従うのも悪くないのでは?」

 

「自分の考え、か」

 

「いくら悩んで答えが出ないのなら、思いっ切りも大切です」

 

「……思いっ切りねぇ」

 

 

「確かに、私も悩んだときは最初に思い立った作戦で行くこともあります」

 

 静かに話を聞いていた岩瀬少将が口を開く。

 

「思い切ったことも大切です! そしてそれが命令ならば、我々はその命令を必ず遂行するために尽力します!」

 

「少将……」

 

 思い切ったこと、か……

 

(確かにそうかも知れない。だが、悪手の一つでもある)

 

 何時までも悩んでも前に進めないのは分かっている。だが、直感で行動するのは時には災厄を呼び寄せることにもなりかねない。

 

(俺は、どうしたいんだろうか……)

 

 俺は内心で呟きながらビールを飲む。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 そうやって時間だけが過ぎていき、一週間が過ぎる。

 

 

 

「……」

 

 俺は相変わらずのそんな叫び合いのような話し合いを黙って聞いたが、これじゃ本当にいつまで経っても終わりそうに無いな。

 

(これ以上トーマスを待たせるのはなぁ)

 

 向こうの事情もあるし、これ以上長引くのはあまり良くないな。

 

 

「どうします? 総司令?」

 

 隣の席に座る辻が聞く。

 

「俺としては、悩むところだな。出来れば派遣をさせたいが」

 

「ただ友人の頼みだから、という理由ですか?」

 

 内地に戻る際に俺とトーマスの関係を聞いた品川は少し睨むように見ながら問い掛ける。

 

「さすがにそれだけ理由で判断はしない」

 

「ではなぜ?」

 

「……」

 

 俺は腕を組んで静かに唸る。

 

「前から計画していた他の大陸への調査もそうだが、その大陸の国々との交流。他にも理由は様々だ」

 

「……」

 

「その道中で戦争が避けられるのなら、回避すべきだろう」

 

「しかしあなたは派遣には賛成だと」

 

「……」

 

 さて、どうやって説明するか……

 

 

『思い切ったことも大切です!』

 

 

 ふと脳裏に岩瀬少将の言葉が過ぎる。

 

(思い切ったこと、か)

 

 その言葉で俺の中で吹っ切れた。

 

(いつまでも悩んだってしょうがないか)

 

「俺は――――」

 

 

 

 

 すると会議室の扉が勢いよく開かれる。

 

「し、失礼します!」

 

 息を荒げた士官が入ってくると、辻が怒声を上げる。

 

「何事だ! 今は会議中だぞ!」

 

「も、申し訳ございません!」

 

 士官は姿勢を正して敬礼をして謝罪する。

 

「ですが、テロル諸島ハヴァ島司令部からの緊急入電です!」

 

「ハヴァ島からだと?」

 

 俺は士官を見る。

 

「それで、内容は?」

 

 

 

「ハッ! 1320時! 国籍不明の大艦隊がテロル諸島に接近。その後1410時に攻撃を受けたとの報告が入りました!」

 

『っ!?』

 

 その内容に会議室で激震が走る。

 

 

 

 

 

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