異世界戦記   作:日本武尊

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第五話 出発

 

 

 そうしてあっという間に三日が過ぎる。

 

 

「それで、現在の工廠の状態は?」

 

「前回の報告書にあった新造軍艦の殆どは就役し、現在は各艦にて乗員の訓練に入っています。

 そして、例の新造戦艦の建造も約75%が完了し、他大型空母と軽空母の建造も開始されているとのことです」

 

 執務室で俺は品川より現在の軍港にある工廠で建造中の軍艦の状況を聞いていた。

 

「そうか。仕事が速いな」

 

「お褒めいただき、感謝の極みです」

 

 微笑みを浮かべ姿勢を正して海軍式敬礼をすると、隣に立っている辻に対してドヤ顔を決めるも、辻は無表情を返す。

 

「それともう一つ。一気に軍艦が増えたことで司令部横の軍港ではさすがに狭くなってきたので、現在周辺の海域を調査して条件に適合する島が発見されれば、別の軍港を建設、もしくは泊地を設置する予定です」

 

 一気に軍艦が増えた事でさすがに湾内のみでは入りきれなくなりだしている。そこで今後更に増えていくであろう軍艦を停泊させるための泊地に適合した場所を探させる予定だ。

 

「そうか。まぁどちらにせよ、軍港は一つだけでは足りない。ちょうどいい島が見つかり次第、すぐに取り掛かってくれ」

 

「ハッ。では、海軍省に伝えておきます」

 

 海軍式敬礼をしてから、品川は深く頭を下げて踵を返し、執務室を出る。

 

 

「さてと、そろそろ行くか」

 

「えぇ」

 

 俺が立ち上がり、隣に立っている辻と共に執務室を後にする。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 軍の指揮を海軍軍令部総長である『山崎(やまざき)五十六(いそろく)』と陸軍参謀本部の参謀総長である『大西(おおにし)弥三郎(やさぶろう)』に任せて、俺はまだ建造中の前哨要塞基地に『D52形蒸気機関車』に牽引された貨物と兵士輸送のための客車の混合列車に乗って向かっている。

 

 ちなみにこのD52型蒸気機関車は設計を改め、質の良い素材で作られているから、ボイラーの破裂事故は無いよ。むしろ史実のより高性能!

 

 

「……」

 

 俺の隣に座り、不機嫌そうに腕を組んで座る辻は被っている制帽を深く被る。

 

「で、お前がわざわざ付いてくる必要は無いんだぞ?」

 

「いいえ。総司令自らが未知の外界に出るというのに、側近である私が出向かないとは恥以外の何ものでもありません」

 

「別に気にするところじゃないと思うが……」

 

 立場弁えろよって言いたいが、人のことは言えない立場だからツッコめない。

 

「ってか……そのためにお前の第一軍団から戦力を抜粋しなくても」

 

 俺と辻が乗る客車の他にも数両の客車が連結され、辻が率いる第一軍団から選び抜かれた精鋭の兵士達が乗っている。

 まぁこれから未知の世界へ踏み込むのだから、これくらいは当然か。

 

「ただでさえこの辺りですら魔物が多いというのに、外界となれば身近な物ですら危険が潜む可能性が高いのですから、念には念を入れています」

 

「そりゃ、まぁ確かにそうだが」

 

 まぁ彼女なりの心配なんだろう、と割り切ろう。

 

「だが、彼女が今回の部隊に居るというのは意外だったな」

 

「は、はい! こうしてまたそ、総司令官とご一緒にご同行できて、光栄であります!」

 

 視線の先には、ガチガチに緊張した岩瀬大尉……もとい中佐(・・)が座っていた。

 

 あの調査派遣のときから階級が二階級も昇進しているのは、辻があの戦闘で彼女を高く評価し、昇進を推薦したからだ。

 

 しかし相変わらずの緊張ぶり。しかも俺だけならず調査派遣部隊長に任命し、中佐へと昇進させた辻が一緒に居るとなると、その緊張の度合いは計り知れないだろうな。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 それから中間補給拠点を経由して、前哨要塞基地へと俺たちが乗った混合列車は到着する。

 

「到着だ」

 

 荷物を入れた鞄を持って客車から降りると辻が続き、岩瀬中佐が隊員と共に下りる。

 

「……ここは相変わらず賑やかだな」

 

 視線の先には、様々な形の蒸気機関車が貨物列車を引いたり移動させている光景が広がっている。

 

 

 自分達が乗ってきた列車の他に、D52形の他に『D51形蒸気機関車』に『9600形蒸気機関車』が牽引する貨物列車が次々と前哨要塞基地に入ってきたり、汽笛を鳴らして出発したりしている。入れ替え用として『C12形蒸気機関車』他『B-20形蒸気機関車』が貨車の入換えをして次の貨物列車の発車に備える。

 

 

「出発はこの後1200時だ。それまで準備を整えてくれ」

 

「了解しました」

 

 辻と岩瀬は陸軍式敬礼をして、隊員を引き連れて弘樹のもとを離れる。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ふむ。予想以上の収穫だな」

 

「えぇ。建造中に偶然見つけたとは言えど、我々にとっては宝の山です」

 

 俺は一旦荷物を司令部の将校部屋に置いてからこの前哨要塞基地の司令官である『熊谷(くまがい)広司(ひろし)』中将より、現在の前哨要塞基地の状況報告を聞いている。

 

 この前哨基地はいくつかの巨大な山の中を刳り貫いて空洞化し、内部を工事して建造された要塞であり、その建造途中で良質で様々な種類の鉱石が採れる鉱脈のみならず、油田まで発見された。

 最初の頃は燃料と鋼材は備蓄にあったもので賄っていて、いずれその備蓄も底を尽きかねなかったが、鉱脈と油田の発見によって現在は潤いに潤っている。

 

「それで、例のあれの開発状況は?」

 

「はい。海軍との共同で開発を進めていますが……何せ巨大すぎるが故に開発は難航しております」

 

「そうか。まぁ前例が無いんじゃ無理も無いか」

 

 苦笑いを浮かべ左頬を掻く。

 

 

 陸軍と海軍共同で作らせているのは列車砲であるが、史実の日本軍にあったものではなく、それを倍以上に拡大した列車砲を作らせている。

 ……が、その口径どころか、まだ20インチ砲すら研究が始まってまだ試作されていない状態であるがために、手探りの状態での開発となっている。

 

 そもそもこんな限定的な条件下でしか運用ができない列車砲を作る意味はあるのか?って思われるが、要塞防衛や砦攻略には必要になってくるので、決して無駄に作らせるわけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決して浪漫というためだけに作らせたとは口が裂けても言えない

 

 

 

 

 

 

 

「時間はいくら掛かってもいい。必ず完成させろ」

 

「分かりました」

 

 熊谷中将は陸軍式敬礼をして、その場を離れる。

 

「さてと、俺も準備に取り掛かるとするか」

 

 そう呟いて、荷物を置いたこの前哨要塞基地の自室へと向かう。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 そして時間は1200時となる。

 

 外界側に面している前哨要塞基地の隔壁が開き、俺達が乗る車輌部隊がいつでも発進できる状態にあった。

 

 

「これより出発する! 各員! 警戒を怠るな!」

 

『了解!!』

 

 兵士や辻、岩瀬中佐らの返事を確認して、俺は出発の号令を掛ける。

 

 号令と共に、九三式装甲自動車と九五式小型乗用車、兵員と補給物資を積んだ九四式六輪自動貨車、九七式側車付き自動二輪車、九五式軽戦車 ハ号と、史実では計画のみで終わった『試製対空戦車 タハ』を設計を改めて製造し、『九六式二十五粍高角連装機銃』を搭載して正式採用した『一式対空戦車 タハ』を4輌に、歩兵砲兵、工兵を含めた650名以上の兵士で構成された大隊が基地から出発し、荒野を走っていく。

 

「それで、どのようなルートを?」

 

 九五式小型乗用車(通称くろがね四起)の助手席に座る高官用に仕立てられた特別仕様の戦闘服に着替えている辻が問うと、後部座席に座る俺は地図を広げながら言葉をかける。

 

「事前に海軍陸上航空隊の一式陸攻に搭乗した陸軍の工兵に上空から大雑把にだが、簡単に地図を描かせている。荒野の向こうにある森の中に人の手である程度手を加えられた通路があるようだ。その先に村と思われる集落も確認されている」

 

「まずはそこですか」

 

「あぁ。可能なら村の住人との接触を試みたい」

 

「そう簡単にいくとも思えませんが?」

 

「まぁな。だが、着く前にこっちがくたばってしまえば意味が無い。十分に周囲警戒をしつつ前進する」

 

 無線機を手にして電源を入れると指示を出す。

 

「側車部隊は先行して道を確認しろ。随時報告するのを忘れるな」

 

『了解!』

 

 九七式側車付き自動二輪車三輌が速度を上げて本隊から先行して走っていく。

 

(この先は未知の領域。何が起こるか分からないが、魔物以外に遭遇する以外で面倒ごとに巻き込まれなければいいんだがな)

 

 そんなことを内心呟きながら地図を畳み、前を見据える。

 

 

 

 

 ……が、そうもいかない状況になってしまうとは、この時彼は想像もしなかった。

 

 

 

 


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