異世界戦記   作:日本武尊

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第六章
第六十四話 


 

 

 

 

 

 辺り一面暗闇に包まれる海の中。

 

 

 そこには獲物を今か今かと待ち構える猟犬らが息を潜めていた。

 

 

 それはゲルマニア公国海軍に所属する通商破壊を主任務とする潜水艦『UボートⅨ型』のU-139からU-151なる艦隊は目標の艦隊が来るのをただひたすら待っていた。

 

 

 

「……」

 

「……っ」

 

「……」

 

『……』

 

 旗艦のU-140の艦内。非常灯の赤い光が照らす艦内で艦長と船員達は呼吸を浅くし、時が来るまでジッと固まる。

 ただ副長は若干苛立った様子で腕を組んでいる。

 

「……」

 

 ソナー手は耳に当てているヘッドフォンに神経を集中させ、左手で感度を調整してある音を拾おうとしている。

 

「……」

 

 天井に溜まった水が重さに耐えられず一滴落下して音を立てる。普段は気にしないだろうが、この状況では艦長と船員からすればとても不快な音だ。

 

 

「……!」

 

 するとヘッドフォンに聞き覚えのある音が耳に届き、感度を調整してその音を拾う。

 

「艦長。来ました。ジョンブル共の輸送船団です」

 

「……そうか」

 

 腕を組んで目を瞑っていた艦長はゆっくりと目を開ける。

 

「副長。潜望鏡深度まで浮上。僚艦にも伝え」

 

「メインタンクブロー。魚雷発射準備」

 

 副長は伝声管に向かって小さくハッキリとした声で指示を送ると、海底付近まで沈んでいた船体は浮力を得てゆっくりと浮上する。

 

 

 しばらくして光が差し込む深度まで浮上し、潜望鏡が上げられ海面上へと突き出る。

 

「……」

 

 軍帽を前後逆にして潜望鏡を覗く艦長はゆっくりと左へと向けると、目標の輸送船団を発見する。

 

「見つけた」

 

 ニヤリと口角を上げると、指示を飛ばす。

 

「雷撃戦用意」

 

「1番から4番。発射管開け!」

 

 副長の指示ですぐに艦首にある4つの発射管が開いて気泡が出る。

 

『諸元入力完了。いつでもいけます』

 

「艦長」

 

「魚雷1番から4番、発射」

 

「1番から4番、発射」

 

 発射指示とともに艦首にある発射管4基より4本の魚雷が放たれる。

 

 同じくして僚艦4隻からも4本ずつの魚雷が放たれる。

 

「……」

 

「……」

 

 船員の一人が懐中時計を使って魚雷の着弾予想時間までを確認し、艦長は潜望鏡を覗き魚雷が当たるのを見守る。

 

 

「着弾、今!」

 

 

 それと同時に輸送船数隻から水柱が上がる。

 

「爆発音を確認。僚艦より連絡。羊の群れは壊滅した、と」

 

 船員の行った直後にソナー手が魚雷直撃を告げる。

 

「よし」

 

「やりましたね」

 

 

 フタエノキワーミ!! キワーミ!! シズカニセイ!!

 

 

 すると魚雷室に通じる伝声管から妙な掛け声が響く。

 

「……後できつく言っておけ」

 

「了解」

 

 副長は笑いそうに鳴るのを堪えながら小さく敬礼する。

 

 すると甲高い音が艦内に響き渡る。

 

「艦長。牧羊犬がこちらに向かっています」

 

「……どうやら、余韻に浸っている暇はなさそうだな」

 

「えぇ」

 

「潜望鏡下ろせ。急速潜航」

 

 すぐに海面上へと突き出ていた潜望鏡が下ろされて船体はゆっくりと沈んでいく。

 

「僚艦に伝え。欺瞞魚雷を放て。それで様子を見る」

 

「了解」

 

 艦長の指示はすぐに僚艦に伝えられ、欺瞞魚雷が放たれて駆逐艦を翻弄する。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 所変わって海上では――――

 

 

 

 空気を切り裂く音とともに海面に砲弾が着弾して巨大な水柱を上げる。

 

「撃ち方、始め!!」

 

 その合間を戦艦群が走り抜けて砲術長の指示とともに主砲が放たれる。

 

 

「弾着、今!!」

 

 

 主砲から放たれた砲弾は敵艦の周囲へと着弾して水柱を上げる。

 

「至近弾!」

 

「次は当てたいですな」

 

「うむ」

 

 ビスマルク級戦艦の一番艦『ビスマルク』の艦橋で司令官と艦長が会話を交わす。

 

「しかし、まさかジョンブルの連中が新型を出してくるとはな」

 

「まぁ連中とていつまでも現戦力で満足はしないでしょう」

 

 司令官と艦長は双眼鏡を覗き、敵戦艦部隊の先頭を走る戦艦を見る。

 

 キングジョージ5世級戦艦にフッド級戦艦、ネルソン級戦艦といったブリタニア帝国海軍の戦艦とは異なる戦艦が先頭を航行している。

 

「イワン共のことを考慮に入れてか?」

 

「恐らくは。まぁいつでも敵に回されても良いようにということでしょう」

 

「もっともな理由だな」

 

 

 

 すると金属が砕けるような音が響く。

 

「っ!?」

 

 司令官は音のした方を見ると、後ろを航行するビスマルクの姉妹艦のティルピッツとシャルンホルスト級戦艦の一番艦『シャルンホルスト』から黒煙が上がっている。

 

「ティルピッツとシャルンホルストが!」

 

「ぬぅ! こうも早く直撃弾を受けるとは!」

 

「被害は!」

 

「僚艦より通信! ティルピッツは二番砲塔に直撃し損壊! 左舷速射砲及び高角砲群に被害が出ているようです!」

「シャルンホルストは直撃弾のあった左舷に浸水が発生! 機関部に異常発生で速力が低下しているようです!」

 

「かなりの被害だな」

 

「シャルンホルストは下がらせた方が宜しいかと。足の速さが取り柄の戦艦の速力低下は危険です」

 

「そうだな。シャルンホルストは駆逐艦と巡洋艦と共に離脱。ティルピッツは戦闘を続行せよと伝え」

 

「はっ!」

 

 指示はすぐにシャルンホルストに届き、Z1型駆逐艦2隻とケーニヒスベルク級軽巡洋艦2隻と共に艦列と離脱する。

 

 損傷したティルピッツは残った主砲で砲撃を続行する。

 

「しかし、解せんな」

 

「何が、ですか?」

 

 司令の言葉に艦長は怪訝な表情を浮かべる。

 

「15インチでここまでの威力があったか?」

 

「そういえば」

 

 艦長は損傷を受けたティルピッツを思い出し、ボソッと声を漏らす。

 

「ビスマルク級は実質上15インチ砲弾の直撃にも耐えうる装甲を持っている。早々抜かれる事はないはず」

 

 史実と違い船体は全体に拡大化して装甲を更に厚くし、構造の変更と質の向上を経てビスマルク級は建造されており、その装甲は距離が関係するが、15インチ砲弾では簡単に貫通できない。

 それこそ16インチ砲弾でなければ、遠距離からの貫徹は不可能だ。

 

「15インチでないとすれば、まさか……」

 

 ハッと艦長は何かに気付く。

 

「まさか、敵の新型は16インチクラスの砲を持っているのでは?」

 

「16インチ、だと?」

 

 

 するとビスマルクの周囲に敵艦から放たれた砲弾が着弾して水柱を上げ、数発が直撃して艦全体を揺らす。

 

「ぬぉ!?」

 

 地震が来たかのような揺れが襲い掛かって誰もが倒れそうになるも近くにあったものにしがみ付いて耐える。

 

「ひ、被害報告!」

 

『3番砲塔に直撃弾! 砲塔損壊! 弾薬庫周辺で火災発生!』

 

『左舷速射砲及び高角砲が損壊! 負傷者多数!!』

 

『艦内に浸水発生!!』

 

「ダメージコントロール! 急げ!!」

 

 艦長の指示はすぐに飛んでダメコン班が損傷箇所へと向かう。

 

「この威力! 15インチクラスの砲じゃないぞ!」

 

 艦長の予想が当たり、司令も敵新型戦艦の主砲が16インチクラスあるというのを確信する。

 

「司令!」

 

「くぅ! 各艦は先頭の敵新型戦艦に向けて砲撃! 何としてでも沈めるのだ!」

 

 司令の指示は各戦艦に伝わって新型戦艦に集中して戦艦部隊へと砲撃を行った。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 数日後、所変わってゲルマニア公国の某所

 

 

「灰海における海戦はビスマルク及びティルピッツは中破。シャルンホルストはZ1型駆逐艦2隻とケーニヒスベルク級軽巡洋艦2隻と共に艦列を離脱。グナイゼナウは中破したビスマルク級と掩護しつつ離脱。

 敵戦艦は大破1、中破3を出して撤退させた、か」

 

 報告書の内容を口にする女性は執務机に置いてため息を吐く。

 

「ジョンブル共の新型戦艦か。厄介なときに」

 

 忌々しく呟き、水の入ったコップを手にして一口飲む。

 

(イワン共のソユーズ級が現れたばかりだというのに)

 

 史実より諸元性能が向上しているビスマルク級ですら圧倒されるロヴィエア連邦のソビエツキー・ソユーズ級で手一杯な状況でブリタニアの新型戦艦と来たのだから、彼女が頭を悩ませるのも無理はない。

 

(新型戦艦に関してはSSの諜報員に調べさせるとして、どう対抗するか)

 

 報告によれば新型は16インチの主砲を有しているとのことらしい。

 

(早急に『フリードリヒ・デア・グロッセ級』と『デアフリンガー級』『フォン・ヒンデンブルグ級』の竣工が必要だな)

 

 どれもビスマルク級を超える戦艦群であり、ゲルマニア公国にとって最大戦力となりうる。

 

(あと『グラーフ・ツェッペリン級航空母艦』の3番艦と4番艦、5番艦、『エーリッヒ・レーヴェンハルト級航空母艦』の竣工も急がねば)

 

 空母の建造に遅れているゲルマニアであったが、リベリアンからの技術供与もあってそれなりに戦力はロヴィエア連邦よりマシなレベルにあった。が、質では勝っているが、数では劣っているのが現状だ。

 

 戦艦と空母もそうだが、むろん巡洋艦と駆逐艦、潜水艦の建造も怠ってはならない。

 

(陸の方はマンシュタイン、砂漠ではロンメルとリベリアンから派遣されたパットン将軍のお陰で戦線は均衡を保っているが、これ以上増援を送られれば雲行きが怪しくなる)

 

 まぁ、前線にはあの男が暴れ回っていることだろうし、まだ大丈夫だろう。

 

(スミオネは我々とリベリアン、向こうの鹵獲品を使って地の利を生かしてやつらを抑えて戦線は平行線を保っているが、それもいつまで続くか)

 

 やはり戦力が足りないか。

 

 

 コンコン

 

 

 ロヴィエア連邦と今後どう戦っていくか考えていると、扉からノックの音がする。

 

「入れ」

 

 女性がそう言うと扉が開き、男性が敬礼をして入ってくる。

 

「失礼します、総統」

 

「どうした?」

 

「ハッ! 先ほどリベリアン合衆国から大使館を経由して連絡がありました。

 近々アルフレッド大統領が新たに同盟軍に加わる国のトップと共に我がゲルマニア公国に来国するとの事です」

 

「新たに同盟軍に加わる、か」

 

 女性は背もたれにもたれかかる。

 

(まぁ、その国については、大体見当はついているが)

 

 まぁ、もしかしたら違うかもしれないので、一応聞く。

 

「それで、その国の名は?」

 

「ハッ。リベリアン合衆国によりますと、扶桑国と呼ばれているようです」

 

「扶桑国」

 

 女性はその名前を聞き口元を緩ませる。

 

「聞いたことの無い国ですが、果たして戦力としては――――」

 

「使える」

 

 男性が言う前に女性は言葉を遮る。

 

「なぜ、と言いたげだな」

 

「あっ、いえ」

 

 女性に考えを読まれて男性はたじろぐ。

 

「その国についてはよく知っている。お前達が心配するようなことは無い」

 

「……」

 

 そう言われても男性の表情には怪訝な色が窺える。まぁ最高指導者の前とあってなるべく表に見せないようにしているようだが、彼女は気にしていないだけでバレバレだ。

 

「それで、その者がアルフレッド大統領と共に来るのはいつになる?」

 

「は、ハッ。まだ詳しくは分かりませんが、分かり次第向こうから連絡があると」

 

「そうか、分かった。下がっていいぞ」

 

「は、ハッ!」

 

 男性は敬礼をして執務室を退室する。

 

 

 

「……ふっ」

 

 男性が出て少しして、女性は口元を緩ませる。

 

「やはり、お前もこの世界に来ていたのだな、弘樹」

 

 そう呟き、椅子を回して窓の方へと身体を向ける。

 

(これで、かつての同盟軍のメンバーが揃ったな)

 

 同盟軍もそうだが、連合軍もかつての面々が揃っている。あのときと、地球でのオンラインゲームAnothr World warと同じ構成だ。

 

 これも、何かの因果なのだろう。

 

(面白くなってきそうだな)

 

 内心のどこかで楽しみながら、彼女は今後の予定を組むことにした。

 

 

 

 

 


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