異世界戦記   作:日本武尊

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第六十七話 疑問

 

 

 

「……」

 

 弘樹は険しい表情を浮かべて腕を組む。

 

「それは、本当なのか?」

 

「あぁ」

 

「言っておくが、俺や扶桑国は無関係だぞ」

 

「分かっている。お前や扶桑国がこんな蛮行に走るとは思っていない。まぁ日本のお隣の国なら過去にやってそうだがな」

 

「……」

 

「まぁ後で調べてみれば、違うってことが分かったがな」

 

「……」

 

「今回の一件でただ事じゃないと思ってな。各調査小隊の戦力増強を行わせた」

 

「……」

 

「そんなときに、他の村が襲撃されているというのを偵察隊が発見して、俺の居る小隊がすぐに急行した。そこで正に虐殺が行われていたんだ」

 

「……」

 

「俺達はすぐに襲撃者へと攻撃を開始し、殲滅した」

 

「あっさりだな」

 

「まぁ、向こうの数が少なかったのもあるが、それと同時に向こうが腰抜けだったのもあるな」

 

「と、言うと?」

 

「そいつらは俺達が現れて攻撃を受けると、妙に聞き覚えのある言語を発しながら逃げていったよ」

 

「なんだそれ?」

 

 あまりの情けない話に弘樹は呆れた。自分より弱い相手には力を振るいながら、自分と同格、それ以上の相手が現れると逃げ出すとか。何か妙な既視感を覚えるな。

 

「遺体を調べてみれば、顔つきはアジア系の人間であるのが分かった。そのうえ装備品を見ると、旧日本軍のものに、扶桑軍の国旗と思われる腕章を着けていた」

 

「っ!」

 

「まぁ何人か生きていたからそいつらに話を聞いたら、そいつらは扶桑軍と名乗っていたが、まぁリベリアン流の尋問(O☆HA☆NA☆SI)したらあっさり吐いたよ」

 

「何か別の意味で聞こえたような気がするが、気のせいか?」

 

「気のせいだろ、HAHAHA!!」

 

「……」

 

「まぁそれはとにかくとして、尋問して分かった事は、扶桑軍、もとい扶桑国に罪を擦り付けて悪名高き国家に仕立て上げる目的でやっていることだったようだ」

 

「……」

 

「で、調べていくうちに、どこの国の者かが判明した」

 

「どこだ?」

 

「『南韓帝国』って捕虜は言っていた」

 

「南韓帝国? 聞いたこと無いとこだな。名前の響きからどこぞの国のようだが」

 

 呆れたようにため息を吐く。

 

「恐らくそいつらもAnother World Warの仮想国家の兵士と思うが、あの国はゲームにモデルが無かったからな」

 

「そもそも、その国は当時存在すらしなかったしな」

 

「そうだったな」

 

 その後南北に分かれたんだがな。

 

「しかし、何だってそんなやつらがこの世界に?」

 

「知るかよ。俺達をこの世界に呼び込んだ連中の考えなんか」

 

「……」

 

「だが、そいつらが扶桑国の軍隊に扮して虐殺行為に走っているのは確かだ。見過ごせるものじゃない。だから」

 

「徹底的にやった、と?」

 

「あぁ。捕虜からある程度情報は聞き出してそいつらが拠点にしている場所が判明した。俺は一旦合衆国に戻り、陸軍に賊の討伐を命じた」

 

 命運は決まったな、と弘樹は思った。

 

「まぁそこからはある意味簡単だった。まず陸軍航空隊によって拠点となっていた城の周囲に展開していた防衛戦力を削り、歩兵と戦車隊によって城に攻め入ったよ」

 

「まぁ、第二次世界大戦時の装備じゃなかったから、思う通りには進まなかったけど」とトーマスは付け加える。

 

 まぁそう言える国は少ないだろうな。

 

「そして最終的に二日と経たないうちに城は制圧。まぁ、戦わず降伏した連中が多かったのが時間が掛からなかった要因かな」

 

「……」

 

「制圧後逃げ出そうとしていた指揮官も捕らえることができた。調べていると城の地下牢に連れ攫われた村人達が囚われていたのも分かった」

 

「無事、なわけないよな」

 

「あぁ。そのほとんどは賊共の相手をさせられていたんだ。城を制圧中に捜索して地下牢は見つけて、そのときもやっている最中だったよ」

 

「……」

 

「戦闘終了後に地下牢から村人達は保護された。人数は最終的に356人が保護された」

 

「そんなに……」

 

 予想より多い人数に弘樹は驚く。

 

「まぁ、それでもその人数は一番多いときの三分の二ほどだったらしい」

 

「三分の二か」

 

「そのうえ、その半分近くが五体満足で救えなかった」

 

「……」

 

「被害者から聞いた話によれば、性的な暴行を受けて命を落とした人が多かったらしい。しかも、やつらは子供でも容赦なくヤッていたそうだ」

 

「何てやつらだ」

 

「だから、助け出した村人の中には命を宿していた女性もいたな。しかも、年齢に問わずにな」

 

「……」

 

「さすがに俺はとてつもなく憤りを感じたよ。これが人間のやることかよってな」

 

 トーマスは荒っぽくグイッとグラスに入っていたウイスキーを飲み干す。

 

「トーマス……」

 

「で、指揮官を尋問して、南韓帝国の場所と、計画を聞きだした」

 

「……」

 

「やつら事前にベトナン共和国と接触して友好を築き、その後に扶桑国軍に扮した部隊が侵攻して村々を襲って虐殺行為に及び、それを南韓帝国の部隊が倒してベトナン共和国に扶桑国に対する反感思想を持たせようとしていたそうだ」

 

「完全なマッチポンプだな」

 

「全くだ。よくもまぁそんな卑怯な真似ができたもんだ。まぁどっかの国なら考えそうなことだがな」

 

「……」

 

「で、南韓帝国の場所を突き止めて、完膚なまでに潰したよ」

 

「海軍も総動員してか」

 

「あぁ。連中には海軍戦力が無かったからな。当時保有していた全ての戦艦と空母を動員していたから、正にワンサイドゲームだったよ」

 

「やることが派手なことで」

 

 普段から温厚な人間ほど、怒ると怖いものはないな。

 

「あぁそれと、奴らを潰した後に合衆国はベトナン共和国と接触して、扶桑国の無罪を証明したよ」

 

 軽く一国を滅ぼしているが、気にすることでもないか。

 

「それは助かるな。濡れ衣を着せられて今後の関係がギスギスとしては色々と困るからな」

 

「だな。と言っても、厄介なことが残ってしまったがな」 

 

「というと?」

 

「国は崩壊したが、今も国のトップの消息が掴めていない」

 

「逃げた、か?」

 

「恐らくな。ただでさえあんなことをしたやつだ。今後何かをしでかす恐れがある」

 

「うむ……」

 

 今後警戒する必要がある、か。

 

「それと、指揮官を尋問していたら、気になることを話していたな」

 

「なんだ?」

 

「それが、帝国の大統領のことを聞いていたら『大統領は北からやってきて国を建国した』と言っていたな」

 

「北?」

 

「あぁ。詳しく聞こうとしたら、そいつは突然頭を押さえて苦しみ出し、死亡した」

 

「……」

 

「死因は脳が破壊されていたのが原因だった。調べてみれば破片が多く見つかった」

 

「どういうことだ?」

 

「恐らく情報流出防止のための小型爆弾だろう。特定の言葉に反応するように設定して、言葉が発せられたら爆弾が爆発するような代物と推測している」

 

「……」

 

「少なくとも、南韓帝国の裏に何か大きな存在があるということだろうな」

 

「……」

 

 こいつは、ただの問題で済みそうに無いな。

 

「調査は進めているが、まだ何も分かっていない」

 

「そうか。それなら俺の方からもタイミングを見計らって調査隊を送る」

 

「手間を掛けさせて、すまないな」

 

「構わんさ」

 

 弘樹はグイッとグラスに残ったウイスキーを飲み干す。

 

 

 

 

「と言うか、結構話が脱線してしまったな」

 

「あぁそうだな。クリスのことを話していたら、いつの間にか大事になってしまったな」

 

 お互いグラスにウイスキーを注ぎ、一口飲む。

 

「んで、その後どうしたんだ?」

 

「あぁ。襲撃を受けた村はほとんどが壊滅。村人も男性陣の大半が死亡。復興の目処は立ちそうになかった」

 

 まぁ話の内容からかなりの損害を被っているよな。

 

「だから、村の人たちは国の方で保護させるしかなかった」

 

「まぁ、放っておくわけにはいかないしな」

 

「あぁ。と言っても、村の人たちもいつか故郷に戻りたいって話していたから、少なくとも保護期間は村の周囲の安全と最低限復興できるまでだな」

 

「……」

 

「で、クリスとはな、村の人たちを住まわせていた仮設住宅地にて俺がこっそりと訪問してコミュニケーションを取っていたんだ」

 

「そこから地道に彼女と付き合って、今のような関係を築いたって言うのか?」

 

「Exactly!」

 

 トーマスはグッと満面の笑みでサムズアップする。

 

「……」

 

 弘樹はため息を吐く。

 

「まぁ当時は色々と大変だったな。何せ一国の長たる大統領が一人の村娘と仲良くしているんだ。関係者から自重するようよく言われたな」

 

「そりゃそうだろうな」

 

 まぁ国の長がただの村娘と仲良くしていると、色々と問題が上がるだろうし。

 

 弘樹であれば一国の将軍の娘とあってさほど苦労はしなかったが、トーマスの場合は平凡な村娘であるので、苦労はさぞ大きかっただろう。

 

「でも、たとえ周囲の反対があっても、俺は彼女に惚れたからな。反対を押し切って今の関係があるんだ」

 

「お前らしいな」

 

「まぁな」

 

「だが、それでもよく大統領の秘書にできたな」

 

「彼女の努力もあったが、俺がごり押しで彼女を採用したからな」

 

「職権乱用もいいところだな」

 

 現実なら問題になるな。

 

 

 

「う、うーん」

 

 するとソファーに横になっていたクリスが小さく声を漏らして目を覚ます。

 

「おっ、起きたか、クリス」

 

「トーマ? 私……っ!?」

 

 クリスは欠伸をしながら目を擦りながらトーマスを見て、寝ぼけたような目で俺の姿を見るなり眠気がすっ飛んだのか素早く姿勢を正す。

 

「さ、西条総理!? はわぁっ!?」

 

 そして自分の格好に気付いて顔を赤くする。

 

「し、失礼しました!!」

 

 身体を腕で隠しながら隣の部屋へと走っていく。

 

「あー、あれは結構引きずるぞ」

 

「ならなんで部屋に連れていかなかったんだよ。こうなるのは予想できただろ」

 

「いや~、あのまま部屋に連れていったら襲っちまうかもしれないだろ?」

 

「おいコラ」

 

「と言うのはジョークで、あいつの寝顔を眺めたかったんだよ」

 

「……」

 

「まぁ、本当はメンドくさかったんだけどな」

 

「それでもヒデェな」

 

 弘樹は深くため息を吐く。

 

 

 

「あ、もうこんな時間か」

 

 弘樹は時計を見ると時間は午前0時を回ろうとしていた。

 

「明日は早いからな。今日はこの辺で切り上げるか」

 

「そうだな。迎えを呼んでくる。待っててくれ」

 

 トーマスはグラスをテーブルに置いてリビングを後にする。

 

「……」

 

 弘樹もグラスをテーブルに置いて椅子の背もたれにもたれかかる。

 

「北、か」

 

 ボソッと話の中にあったことを口にする。 

 

(いったい、何があるんだ?)

 

 一種の不安が胸中に渦巻き、弘樹は険しい表情を浮かべるのだった。

 

 

 




投稿が大幅に遅れて申し訳ございませんでした。今後も投稿スピードは鈍足になりますが、完結まで頑張りたいと思っています。

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