異世界戦記   作:日本武尊

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第七十三話 戦力増強

 

 

 

 

 扶桑国が同盟軍に加わってロヴィエア連邦国を筆頭にした連合軍に宣戦布告してから数ヶ月経過した。

 

 

 攻勢の姿勢だった連合軍は扶桑国の参戦によってそれまで広げていた戦線を押し返され始め、現在は今の戦線を維持するべく戦力を集めて守りを固めていた。

 

 

 同盟軍のリベリアンとゲルマニア、スミオネも必要以上の攻勢に出る事は無く、いずれ行う攻勢のために戦力の増強を行っていた。

 

 スミオネは相変わらず輸入や鹵獲を行って武器兵器を調達して防衛線の維持を行っている。

 

 ゲルマニアは主に海軍戦力の増強を行っており、戦艦や空母といった大型艦を主に、巡洋艦や駆逐艦もリベリアンの手伝いもあって多くを建造している。

 

 リベリアンも陸海軍の戦力の増強を行っており、陸軍は主に新型戦車の開発を、海軍は戦艦と空母の建造を行っている。

 

 

 そして扶桑国も、同じように戦力の増強を行っていた。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「現在連合軍に目立った動きはありませんが、北方の戦線は今も激しい戦闘が繰り広げられているようです」

 

「そうか」

 

「ですが、こちらからの贈り物はかなり役立っているようです。尤も、航空機に限ってのようですが」

 

「まぁ、同じ世代の戦車なら、ゲルマニアとロヴィエアの方が上だからな」

 

 弘樹は辻の報告を聞いて苦笑いを浮かべる。

 

 同じ世代だと扶桑国の兵器は他国と比べると優劣が大きい。特に戦車に至っては性能の差が大きい。確かに性能自体悪くは無いのだが、他が凄すぎてどうしても見劣りしてしまう。

 

「ですが、今では戦車の性能はこちらの方が上です」

 

「まぁ、世代が違うし、当然だろ」

 

 二人はそう言葉を交わすと、視線を前に向ける。

 

 

 現在二人が居るのは扶桑国内にある戦車演習場であり、二人は観戦席に居た。そしてそこでは今正に演習が行われている。

 

 しかしそこで演習を行っている戦車は、これまでの扶桑国の戦車とは異なる姿をした戦車であった。

 

 直角なラインが多く使われた形をしており、車体の大きさも74式戦車と比べると一回りほど大きい。そして搭載している戦車砲も大きく、その上新機軸の技術が惜しみなく投入された扶桑国の新世代の主力戦車。

 

 その名は『90式戦車』。日本国の陸上自衛隊で採用された同名戦車と姿形は瓜二つだが、その性能と仕様は大きく異なる。

 

 

 以下が90式戦車の諸元性能だ。

 

 

 

 90式戦車

 

 全長:10.27m

 全幅:3.63m

 全高:2.42m

 重量:59.7t

 速度:70km/h

 行動距離:400m

 乗員:4名

 

 武装:

    主砲:90式45口径120mm滑空砲

    副武装:三式重機関銃改×1

        85式汎用機関銃×2

 

 

 扶桑国が開発した90式戦車はこれまでの兵器開発で培った技術と新機軸技術を投入した最新鋭の主力戦車だ。

 

 特筆すべきは主砲であり、これまでの戦車は砲身内部にライフリングが刻まれたライフル砲を搭載しているが、90式戦車はそのライフリングの無い滑空砲を搭載している。砲弾を安定させる為の回転が無い分様々な種類の砲弾を運用する事が出来る。特にこの90式戦車と共に採用されたAPFSDSはこの滑空砲にて真価を発揮する。

 

 尚、このAPFSDSは一部加工することで74式戦車のライフル砲でも使用が可能となるので、現在ライフル砲に対応したAPFSDSを開発中である。

 

 主砲は高性能のスタビライザーと射撃管制装置各種センサー、自動追尾装置を搭載しており、その命中精度は9割前後と言われている。

 90式戦車には自動装填装置が搭載されており、五式中戦車チリで採用されていた半自動装填装置と、その後生産された型に試験的に搭載された自動装填装置で培った技術を基に新たに開発したものだ。その装填速度は脅威の5秒と言う早さだ。

 

 そして90式戦車で初めて採用された複合装甲も特徴的で、その強固な装甲は自身が持つ主砲から放たれるAPFSDSを近距離から車体正面及び砲塔正面にそれぞれ三発ほど直撃を受けても損傷は皆無と言う結果を見せた。

 その他には車長側のキューポラに設置されたターレットに三式重機関銃改、同軸機銃と砲手側ハッチのターレットに本格的に部隊に配備が進んでいる85式7.62mm汎用機関銃を搭載している。

 乗員は車長、砲手、操縦手、装填手で構成される。しかし自動装填装置があるから装填手は要らないと思うだろうが、いざと言う時の為に人手は必要となるとして軍の方で批判があって装填手が配置されている。まぁ設計的にこの人数でも余裕のスペースはあるが。

 

 90式戦車の試作車輌であるSTC-1からSTC-5でありとあらゆる試験を行い、そこから得られたデータを元に不具合の解消をしつつ全体的に改良を重ね、扶桑国が参戦して一ヵ月後に陸軍で採用されて現在各部隊の配備が進められている。

 

 

 そんな90式戦車が隊列を組んで演習場を駆け抜けている。

 

『小隊集中行進射! 弾種徹甲! ()いっ!!』

 

 小隊長の号令と共に左方向先に土を盛った山に設置している的へ主砲を向けていた4輌の90式戦車が一斉に砲撃を行い、放たれた演習弾は狂い無く的の中央に着弾する。

 

 その後は左へと旋回して前へと進むと短い距離で急停車して砲撃を行う。これも的に狂い無く命中する。

 

「それで、90式の配備は進んでいるのか?」

 

「はい。派遣している部隊を除いて、内地の部隊の戦車は90式に機種変換を行う為の訓練を終えて、配備が進んでいます。次の派遣部隊の一部にも配備を行っていますので、初の実戦に投入することになります」

 

「そうか」

 

「それと新型自走砲の開発も進み、近い内に採用される予定です」

 

「……陸軍の戦力は整いつつあるか」

 

「はい」

 

 90式戦車を見ながら弘樹が呟くと、辻は返事を返す。

 

(ようやく扶桑国は転移前の現代装備に近付きつつあるか)

 

 90式戦車は転移前の扶桑陸軍で主力を勤めた戦車であり、弘樹は懐かしさを感じていた。

 

 それに、新たに新鋭戦車と90式戦車の性能向上型の開発は進んでいることだしな。

 

「それでは、次に参りましょう」

 

「あぁ」

 

 二人は席を立つと、次の視察先へと向かう。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 

 

 

 弘樹は陸軍の基地内を視察し終えて、途中まで辻と次の視察先まで向かい、視察先前で品川と交代して次の視察先である海軍工廠に向かう。

 

 

 

「これが」

 

「はい。これが新型艦上戦闘機『烈風』です」

 

 弘樹と品川は害軍技術省の人間から目の前にあるとある戦闘機を眺める。

 

 現在海軍で採用されている閃雷と比べるとより先鋭的なデザインの戦闘機で、閃雷よりも一回りほど大きな機体には濃淡のある青の洋上迷彩が施されている。

 パッと観るとF-14トムキャットやF-15イーグルを足して割ったような形状をしているが、主翼の形状はF-15に酷似しており、二枚ある尾翼は外側に向かって斜めに配置されている。

 

 これが閃雷に続く海軍の主力戦闘機である烈風である。

 

 烈風はマルチロール機として開発されており、空戦を行う戦闘機としてはもちろん、対艦、対地攻撃を行う攻撃機としての性能を有している。その為閃雷よりも多く、より性能が発達したハードポイントシステムを持っている為、増倉、爆弾、ミサイルを多く積み込むことが出来る。

 

 ちなみに先代烈風は退役が決定して随時閃雷と共に機種変換を行い、機体は同盟国へ売却されることになっている。まぁその買取先のほとんどはグラミアムだが。

 

 流星も随時退役する事が決定しており、こちらも同盟国、もしくはゲルマニアへと輸出される。まぁ数機ほどはリベリアンが研究用として輸入したいと打診があったので、そちらに送られる予定だ。

 

 ちなみにこの烈風は一部仕様を変更して空軍でも試験的に運用を予定している。何でも後継機の開発データ取りの為らしい。

 

「烈風は既に量産体制に入っており、先日就役した翔鶴と瑞鶴、就役に向けて訓練中の蒼鶴と飛鶴に搭載されています。次の補給に戻る一航戦と二航戦にも機種変換を行う予定です」

 

「そうか」

 

 弘樹は烈風を見ながら報告を聞く。

 

 この烈風も転移前の扶桑海軍の主力戦闘機として活躍して居たもので、弘樹は懐かしさを感じていた。

 

 

 

 次に訪れたのは造船所であり、現在建造中の艦が各工廠で建造されている。

 

「現在建造中の新鋭の駆逐艦と巡洋艦の一番艦の船体はそれぞれ70%及び83%完成しており、早くても三ヶ月と二ヶ月で進水予定となっています。二番艦と三番艦も随時建造を開始しております」

 

「そうか」

 

 工廠内部の天井付近にある通路を歩きながら弘樹と品川が海軍技術省の人間から説明を受けている。

 

 その下では何隻もの駆逐艦や巡洋艦の船体が着々と組み立てられている光景があった。

 

 これらの軍艦は後に扶桑海軍の主力艦として活躍する予定だ。実際転移前の扶桑国海軍の主力を勤めていた。

 

「尚、グラミアムの超巨大工廠で艤装が施されている『天照』も後3ヶ月で竣工予定となっています」

 

「就役までを含めるとあと六ヶ月か八ヶ月って所か」

 

「大体その辺りかと」

 

「それまで敵が大きく動かないことを祈るばかりか」

 

 弘樹はそう呟くと、先日グラミアムの工廠を視察した際に見たあの軍艦の姿を思い出す。

 

 前回のテロル諸島に上陸したロヴィエア連邦軍の中継拠点となっている基地の攻略に投入を予定しているこの船はこれまでの扶桑海軍で建造した軍艦とは、大きく異なる存在となるだろう。

 

 そして同時に、他とは異なる絶大的な戦闘力を。

 

 

 

 次に弘樹達が居た工廠の隣にある工廠に入った二人はそこで改装を受けているとある軍艦を見る。

 

「大分形になってきたな」

 

「えぇ。主砲に関してはまだですが、搭載に合わせた改装も大分終えているとのことです」

 

 弘樹と品川が展望室から工廠内部の景色を見ながら会話を交わしていた。

 

 二人の目の前には大規模な改装が施されている戦艦大和の姿があった。

 

 戦艦大和はとある兵装の実験艦として改装が施されており、それに伴い船体の拡大化及び電子機器の一新、炉と缶の交換、内部構造の変更などもはや新造に近い改装が施されている。

 

 武装は主兵装以外の兵装は搭載されており、単装速射砲やCIWS、ミサイル発射機といった他の戦艦と同じ兵装が施されている。

 

 そして象徴だった46センチ三連装砲は三基とも撤去されており、そこに例の新世代兵装が搭載される予定だ。

 

「それで、例の兵装はどうなっている?」

 

「ゲルマニアから手に入れて研究中のフレアメタルを用いて現在試作中です。近日中に試射が行われる予定です」

 

「そこから更に何度も試験を重ねて得られたデータを基に改良を続け、完成した代物を大和に搭載して本格的な試験を行う予定です」

 

「ふむ」

 

 さすがにすぐにとはいかないか。

 

(だが、完成すれば、切り札たる存在になりうるな)

 

 あれに頼らず、戦略兵器として使えそうだ。

 

 弘樹はそう思うと、大和の完成が待ち遠しかった。

 

 

 

 その後空軍の施設の視察に向かい、そこで空軍仕様の烈風や試作機を見たりして、その日の視察は終了した。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 所変わってグラミアム王国。

 

 

 

「それで、戦力はどのくらい補充できているんだい?」

 

 城の会議室ではステラが陸海空の大臣に問い掛けていた。

 

「海軍ですが、先日の戦闘で損傷したベルキューズ級戦艦は修復を完了して戦線に復帰。旧帝国軍残党の掃討作戦に投入されています」

 

「現在新鋭の戦艦及び空母、巡洋艦、駆逐艦の建造も随時行われております」

 

 元々国土が広く、その上戦後旧帝国に奪われていた土地を取り戻したことで更に広くなった国土に、人手が多いグラミアムは扶桑国以上に造船所を作っており、現在急ピッチに軍艦の建造を行っていた。建造している軍艦も全て扶桑国の軍艦の設計思想の影響こそあるが、グラミアムで設計された国産の軍艦ばかりであり、発展の早さ具合が垣間見える。

 最近では潜水艦の研究も進んでおり、近い内に建造が行われる予定だ。

 

「陸軍ですが、各種武器兵器の生産は順調に進んでおり、各部隊への配備が進んでいます。尚、現在開発中の新鋭戦車の試作車輌が完成する予定となっています」

 

 グラミアム王国陸軍は当初扶桑国から武器兵器と各種弾薬を輸入していたが、その後ライセンス生産を行って部隊に配備している。戦車も当初輸入していた九七式中戦車や一式中戦車から三式中戦車や四式中戦車の輸入を行い、最近では輸入した戦車の構造を基に設計している国産戦車の開発を行っている。

 その他の武器兵器も独自の設計をした国産の物を開発しているが、しばらくはライセンス生産品の武器兵器が主に使われていくだろう。

 

「空軍ですが、爆撃機と戦闘機の生産は順調に進み、パイロットの育成も進んでいます。予定通りの時期に戦力が揃うでしょう」

 

 空軍は最近発足された組織で、現在扶桑国から寄こされた教官の指導の元パイロットの育成が進められている。航空機も扶桑国から輸入している戦闘機や爆撃機を運用する予定である。

 しかしグラミアム側の航空機の整備士の技量不足感がまだあるせいか、輸入されたのは戦時中でも型の古い物ばかりであり、まだ発展途上感が否めない。

 

「そうかい。なら、掃討作戦も問題なさそうだね」

 

「はい。扶桑国からも援軍が来ているので、さして問題ないでしょう」

 

 先の大戦で大規模な改革があって今の形を取っているバーラット共和国だが、当然その決定に不満を持つ輩は多かった。特に軍の方が反発して大半の軍人と幹部が離反して他の戦地に潜伏していた軍と合流して旧帝国軍残党として国内外でいざこざを起こしていた。

 バーラット共和国はグラミアム王国や扶桑国、その他の国々に旧帝国軍残党の討伐を依頼して現在各地で掃討作戦が繰り広げられていた。

 

 しかし向こうは地の利を使って戦闘を行ってくるので、予想外に手こずっているのが現状だ。

 

(扶桑国が本気を出せば、一網打尽に出来るんだけどねぇ)

 

 旧帝国が降伏を決めた例の攻撃さえあれば、面倒ごとは無いのだがな。

 

 ステラはもどかしさを覚えながら内心呟きながら窓から覗く王都グラムの景色を眺める。

 

 少し前までの地味だった景色と比べると、近代的な建造物が多く立ち並ぶその街の景色から、グラミアム王国の発展速度の早さが窺えるだろう。

 

 少し前まで中世辺りの技術力しかなかった国が、扶桑国と国交を結んだだけでこれだけの短期間で一世紀以上の技術力を得る事が出来たのだから。

 

(扶桑国はこことは異なる大陸で行われている戦争に参戦している。ホント、どうなるんだろうねぇ)

 

 ステラは胸中に一抹の不安を抱きながら、空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 


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