其れは神と紡ぐ物語   作:FF8リメイク待ってます

2 / 13
時詠みの巫女<ユール>

 

 

 体が痛い。全身が岩に押し潰されているかのように重い。まるで炎に炙られているかのような激痛に苛まれながら、私は硬い地面に投げ出されように倒れていた。

 

 どれだけこうしてここにいるのか、何もわからない。倒れる前の事を思い出そうとすると、激しい頭痛に襲われて視界が明滅する。

 

 見える視界に映るのはボロボロになった自分の腕。血だらけでいくつもの裂傷が刻まれている。他の部分もそうなのだろうかと疑問に思ったのはずっと前で、首一つ動かせない自分にそれを確認する術はなく、長い時間をただ痛みに耐えながら過ごしていた。

 

 自分はこのまま死ぬのだろうか。

 よくわからない。死ぬと言う事象自体がまるで遠い出来事のように感じる。

 

 実感が湧かない。湧かないから、恐怖もない。だからいずれ訪れるその終わりまで、私はただ待ち続ける。無感動に、無気力に、私という存在が朽ちる時を。

 

 そう、思っていた。

 

「大丈夫、ですか?」

 

 声が聞こえた。久しく聞いていなかった誰かの声に、だけど私は返事をする力もない。それどころか、私の位置からでは声をかけてくれた誰かの姿さえ見えなかった。声質からして女性、それもまだ少女といえる年の頃だと、私の思考回路が無機質に推測する。

 

 ザッザッと声の主が近づいてくる。そして私の体が揺すり動かされて、ようやく視界が自分の腕から別の光景へと移り変わる。

 天井が見えた。そこで私は、初めて自分が倒れている場所が洞窟のような場所であった事を知った。

 

 そして、鍾乳石が垂れる頭上と私を遮るように一人の少女の顔が映る。

 

「よかった。まだ生きてる……!」

 

 海のような蒼色を宿した髪を持つ綺麗な少女だった。頭の左右には白のクリスタルを金色の装飾で包んだような髪飾りを身につけている。目はグリーンブルーの海のような色と輝きを持っていて、その瞳が私を心配そうに見つめていた。

 

「あ……た……は?」

 

 名前を聞こうとした口は、か細い一音の連なりしか出せなかった。どうやら全身に走る痛みで気づかなかったが、声帯にもダメージを負っているらしい。

 だが、私の言葉にもなっていない声を彼女は理解してくれた。その表情に安心させるような微笑みを浮かべて、安心させるような口調で名前を口にする。

 

「私はユール。大丈夫、必ず助けてあげるから」

 

 

 それが私とユールの出会い。私が私として巡り合った、最初の一人であり、私にとってかけがえのない一人となる少女との出会いだった。

 

 

 

 

「ユール、こちらの収穫物は全て運んだ。村長も、休憩していいとおっしゃってた」

「うん、ありがとうスフィア。それじゃ一緒に温かい物でも飲もっか」

 

 あれから、私はユールという少女と彼女が連れてきた人たちに助けられた。彼女たちは旅をしながら生活をする移動型民族だったらしく、たまたま私が倒れていた洞窟の近くを立ち寄った際に集団を抜けたユールがズタボロの私を発見したらしい。

 なかなかひどい状態だった私を、彼らは貴重な資源を消費してまで介抱してくれた。彼らが持つポーションという薬によって、私の体はゆっくりとだが確実に回復していった。

 

 そして一ヶ月もの長い療養を得て、ようやく私は二足で立って歩けるようになるまで回復し、わずかでも恩返しを行なおうとしていた。

 今も集落の男手が仕留めた獲物の部位を仕分けして運び終えたところだ。そしてその休憩として、私は自分を見つけてくれたユールと共に疲れを癒すことになっている。

 

「ふふ、もう集落での生活には慣れた?」

「皆とても優しく私に知恵を分け与えてくれる。未だ治療してもらった分の恩返しをできない事が申し訳ないほどだ」

「そんなに気負うことないのに。スフィアはとっても役に立ってるよ」

 

 スフィアと、ユールは私のことをそう呼ぶ。だけど、それは私の本当の名前ではない。正確には、私も私の名前を知らない。倒れる前の記憶が存在していないからだ。

 だからユールが名前のない私のために仮となる名前をつけてくれた。それがスフィア。今の私を形作る言葉。

 

「本当なら、私も狩りの手伝いをするべきなのだろうか?」

「大丈夫だよ。それに、スフィアみたいな綺麗な人にそんなことさせられないもの」

 

 ユールが笑って私の銀色に輝く髪を撫でた。

 自覚はないのだが、どうやら私の容姿は高い標準にあるらしく、怪我が治ってからは男性女性問わず多くの者から見た目に関する賛辞の言葉を受け取った。

 

 客観的に自分の姿を分析したが、どうやら私は10代半ばぐらいの子供らしい。らしいというのは、私自身も自分の年を思い出せないからだ。

 銀雪のような髪が腰まで伸び、淡い水色の瞳と幼さが残った顔立ち。体は細くもなく太くもない、この歳の標準的体格を想像してみてと言われて大多数の人が思い描く体つきだ。筋力もそれに順ずるように並み程度だが、体力だけは人並み以上にあるようでこの集落で手伝いをするようになってから疲れを感じたことはない。

 

「容姿は仕事の推量を決める基準にはならないと思うのだが。それと、私を綺麗だと言うがユールもとても可愛らしい外見をしている」

「ありがとう。スフィアの言うことはもっともだけど、みんなスフィアの姿や雰囲気に遠慮してるんだよ」

 

 見つかった場所も場所だったしね。

 

 ユールのか細く呟いた声を私の耳は鋭敏に拾いとった。彼女は独り言のつもりだったのだろうが、私の聴力もまた疲れを知らない体力と同じで並外れたもので、隣にいる相手の呟きを聞き取るぐらい造作もなかった。

 

 彼女の言葉の意味は、なんとなくだが集落の人たちの様子や、今のように聞き耳を立てて推察することができた。

 なんでも私がいた洞窟はファルスの神が降臨した場所と呼ばれる神聖な場所であったらしく、そこに倒れていた記憶のない私を彼らはファルシの使者、ルシではないかと疑っているらしい。

 

 ルシ。記憶のない私には聞き馴染みのない単語。神であるファルシが神託を与えた人を指す言葉であり、選ばれた人間は超常的な力と使命を授けられ、神の意志に従って神命を果たすらしい。

 

「私は、ルシ……なのだろうか?」

 

 不意に、疑問が口をついて出てしまう。隣で驚いた顔をしたユールが困ったように声を出す。

 

「それは……わからない。私もこの集落の人もファルシに会ったことはあっても、ルシを見た人はいないから。でも、もしスフィアがルシだったとしたら、やっぱりって思っちゃうな。スフィアはすごく神秘的って言葉が似合う雰囲気をしてるから」

 

 ユールの言葉は優しい。そして彼女から語られる神秘的という私の雰囲気に、なんだかむず痒い感覚のさせられる。あまり意識したことはないが、周りから見た自分はとても浮世離れしているらしい。

 ルシという存在に身に覚えはないが、人らしくない=ルシなのなら、集落の人からそう思われている自分は、人として見られていないのだろうか。

 

 もし、そうなら。それは……悲しい……。

 

「ふふ、やっぱり今の言葉は訂正するね。スフィアって時々すごく子供っぽいかも」

「えっ?」

 

 知らず足元を見ていた頭を上げて、隣に座るユールを見る。彼女はそんな私の動作が面白かったのか、口元に柔らかな笑みを浮かべていた。

 

「ほら、今みたいに素直に反応するところ。顔には出さないのに、悩んでることや悲しいことがあると顔を伏せちゃうし、納得できないことがあったら疑問をすぐ言葉に出しちゃう。それってとっても人間らしいよ」

「それは……」

 

 それは……嬉しいな。

 

 心の中が少し温かくなった。人間らしいというユールの言葉が、とても頬の筋肉を柔らかくしてくれる。すると、こちらを見ていたユールの目が少し大きくなった。まるで予想外のものを見たと言うように。

 

「スフィア、笑ってる?」

「……? そうみたいだけど、それがどうかした?」

「だって、スフィアが笑うのって初めてだよ?」

 

 そうだったろうか。そうだったような気もする。あまり感情というものがわからない私は、確かに他人とのコミュニケーションで言葉以外の感情伝達をしていなかった気がする。

 もしかしたら、それが私の神秘的という評価を助長させているのかもしれなかった。

 

 顔に当てた手から感じる骨格の変化に、私は初めて笑顔の作り方を知った。

 

「……。そうか、これが笑顔。こうやって作るのか」

「もしかして、笑顔の仕方も忘れてたの?それなら、これから私がいっぱい教えてあげる。私とスフィアの秘密の勉強ってことで」

 

 人差し指を唇に当てて、内緒でね、と歯に噛むユールはとても子供らしく可愛らしい。私としても感情を教えてくれるならとてもありがたいが、ユール一人に任せてしまうのはいささか申し訳ない気持ちがある。

 

「平気、それにスフィアを独り占めすることができるからむしろ私の方がやりたい、かな」

 

 今度は恥ずかし気に言うユールの言っている意味が、私にはよくわからない。私を独占して何か利点があるのか。この数秒で色々な感情を見せるユールはそれだけで勉強になるが、自分のような存在と話していてなぜそこまで感情を変化させられるのか、私はまだ彼女を理解できていないのだろう。

 

「スフィアは、自分で思ってるよりみんなから人気あるんだよ。私も、こうして休憩時間を使わないと二人だけになれないんだから」

 

 私の困惑を、ユールはまた察してくれた。彼女に言われて思い返すと、確かに自分の周りには常に誰か人がいて、皆甲斐甲斐しく私を世話してくれたように思う。今までは、それが怪我をしているからとか、見知らぬ相手の監視のためと考えていた。

 だけど記憶にある彼ら彼女らは私が求めなくても向こうからやってきて色々やってくれていた。

 

「ん、そうだったんだ。気づかなかったな。今度、またみんなにお礼しないと」

「それじゃ秘密の勉強の件、考えてくれた?」

「そうだね、ユールのおかげで今の私があるし、それでユールが喜ぶなら、お願いしようかな」

 

 やった、と嬉し気に笑うユールに、私も覚えたばかりの笑顔を返す。

 二人しかいない集落の端の草むら。太陽の光差す下で、座って笑い合う私たちは、きっとどこにでもいる普通の人間だったんだ。

 

 普通の人間だったんだ。

 

 あの運命の日。守護者を名乗る男がユールの元へ現れるまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私ユールは、物心ついた時から不思議な力が備わっていた。眠っている時、歩いている時、ご飯を食べている時、誰かと喋っている時。それはふとした瞬間に、私の頭の中にヴィジョンのような形となって現れる。

 

 ある時は、見知らぬ男が巨大な球体と戦っている映像。

 ある時は、見たこともない場所で多くの人が崩れる足元に飲み込まれていく映像。

 ある時は、ファルシと思う巨大な影がバラバラに砕け散る映像。

 

 その映像に一貫性はなくて、また現実感のないものもあったから、私はそれらを白昼夢だと思い、誰にも相談することはなかった。

 もしかしたら、私は誰かに相談することで今までのように見られてなくなるのが嫌だったのかもしれない。

 

 だって、私が体験したこの不可思議な現象は、昔長老から聞いたパドラと言う村を滅ぼした悪き魔女、時詠みの巫女の話と似通っていたからだ。

 

 時詠みの巫女。今では伝聞にしか残らない存在で、移動集落として様々な土地の伝承や風聞を聞く私たち部族の間でも、その名を知るのは長老しかいないほど古い話だ。

 

 なんでも彼女は未来を見る力を持ち、村人たちは彼女の言葉を神託と称え、彼女の見る未来視を元にあらゆる飢餓や疫病、戦争から自分たちを守ってきた。だがファルシ以外の神を祀った罰だと言うように、時詠みの巫女はある日を境に狂い、村を滅びに追いやった。

 

 それ以来、時詠みの巫女と彼女が語る未来は不吉なものとされ、彼女の生まれ変わりが生を受けるたびに、どこからか処刑人がやって来て連れ去ってしまうと言う。

 

 御伽噺だ、子供を怖がらせるための大人のホラ話だと思えればどれほどよかったか。でも私は見たこともない場所や人の白昼夢を見るたびに怖くて怖くて仕方なかった。

 

 そんなある日だ。私は見た。初めて自分が映ったヴィジョンを。そこにいた私は見たこともない洞窟を歩いていた。どこか神々しい雰囲気を感じさせる洞窟をおぼつかない足で奥へ奥へと進む、今より少し大きくなっている私。

 そして洞窟の最奥まで足を進めた私は、そこで倒れる人を見つけるのだ。

 

 とても美しい、白銀の髪を持つ傷だらけのその人を。

 

 私の白昼夢はそこで終わった。でもそれから、私の世界は変わった。あのヴィジョンで見たその誰かに、私は一目惚れをしてしまったのかもしれない。恐怖と心細さに支配されたあの時期に見た、天使のようなあの人の姿は、私の心を救い、支えとなった。

 

 この先の未来、あの人と出会えるのだと言う期待が、私を勇気づけた。

 

 そして数年後、その時は来た。次の定住地を目指して旅をする私たち部族は、その途中で神の降臨した地と呼ばれる洞窟の近くを通りがかった。

 その洞窟を外から見ただけなのに、私は確信していた。ああ、この洞窟なんだって。

 

 あの日のヴィジョンを忘れたことは片時もない。何度も夢に思い描いた。洞窟の形状や内装を思い返して、心に刻みつけた。

 その私の勘が、ここだと叫んでいた。

 

 気づいたら私は周りの静止を無視して、洞窟へと入り込んでいた。後から、この洞窟が禁足地と呼ばれる場所だと知ったが、もし入る前に知っていたとしても私は構わず踏み入っただろう。

 

 そして中に入った私は、見知った道のりを歩き、歩き、歩き、そして出会った。

 

 スフィアと、私がそう名づけることになる君と。

 

 

 

 その後は大変だった。助けを呼びに行った私は長老含む大人たち全員に叱られながらも、君の救出を頼み込んだ。助けられた君の側にずっと付きっきりになって、目を覚ますまで一日千秋の思いで待ち続けた。

 

 やっと目にした君は、ヴィジョンで見た何倍も綺麗で神秘的で、そして想像していたよりも子供のようなとっても可愛いらしい人だった。

 

 目が覚めた君が記憶がないことを知って、私は自然とスフィアと君を読んでいた。その名を気に入ってくれた時は、とても嬉しかった。

 だってそれだけで、君の中で私の存在が大きくなった気がしたから。今思い返すと、とっても子供っぽい考えだと思う。

 

 怪我が治って、集落の人に混じって色々と手伝いをする君を見て少し集落のみんなにヤキモチが湧いた。だって君はとても人気者で、みんな君の周りを取り囲み、ついて回っていたんだもの。君を発見した第一人者という肩書きが無かったら、私も君を遠巻きから眺めるだけの一人になっていたかもしれない。

 

 スフィア、君は知らないだろうけど、私はずっと君といる時は嬉しくて嬉しくて、とっても幸せだったんだよ。何も知らない君に、二人だけの勉強会を提案した時、私がどんなに緊張してたか、ちょっとでいいから知ってほしいな。

 

 私は君に会う前から、君と出会うことがわかってたって言ったら、どんな顔するかな。だけど、言ってみたいという気持ち以上に、私は怖かった。もし本当のことを言ってスフィアに嫌われてしまったらどうしようと考えてしまって。一度そんな想像が頭をよぎると、その考えを捨て切ることかできなくなった。

 

 だって、未来を見ることができたずっと昔の時詠みの巫女は最後、狂って村の人たちを道連れに死んだのだから。もしスフィアがその話を知ったら? そして私をそんな魔女を見るような目で見たら?

 

 ありえないってわかっている。でも私はそんな可能性の話でも、このスフィアとの関係を壊す恐れがある行動を取りたくなかった。

 

 だって、スフィアといる時間はそれだけで私にとって幸福で、大切で、かけがえのない時間だから。

 

 

 でも私は、忘れていたんだ。私のヴィジョンが本当に未来を見たものだったと言うのなら、私が伝聞にある時詠みの巫女だとするなら…………私を処刑に来る男もまたいると言うことを。

 

 

 

 

「ここに、ユールという少女はいるか」

 

 時が流れ、次の定住地へと向かうために集落を畳んでいた私たちの前に、その男の人はやって来た。強い威厳と圧力を感じさせる声だった。

 

 全身を見たこともないような無骨な紫色の鎧で包み、その大柄な身長に勝るとも劣らない巨大な大剣を背負って立つ姿は、まさしく万人が持つ処刑人という姿を形にしたようであった。

 

 そしてその姿を見た瞬間、私は悟った。

 ああ、これが私を殺しに来た処刑人なんだって。それを証明するように彼は私の名を呼んだ。その時には、私の体は走り出していた。私の心を救ってくれたスフィアの元へと。

 

「助けて、スフィア……っ!」

 

 それがどれほど無責任で身勝手で、酷いことだとわかっていても、私はスフィアがまた助けてくれるのではないかと期待していた。

 でもそれ以上に、スフィアと二度と会えなくなるのが怖かった。死ぬのだとしても、スフィアに一目会ってからがよかった。

 

 処刑人と長老が話し会う声を後ろに聞きながら、私は秘密の勉強をしていた場所に走りました。今日も、そこでいつものように幸せな時間を過ごすはずだったから。

 

 

 





 頑張って「パルスのファルシのルシがコクーンでパージ」な世界観を初見さんにも理解できるように書いていきたいと思います。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。