其れは神と紡ぐ物語 作:FF8リメイク待ってます
定例となっていたユールとの勉強会。私がユールに感情やその出し方について聞き、彼女が実演してくれるこの時間は、何度も繰り返すうちにただの雑談に近いものに変わっていった。
雑談と言っても、あいも変わらず感情表現が苦手なのは変わらない私をユールがあちこち連れ出してくれたり、時にはユールが長老から聞いた昔話を教えてくれたりとさまざまだ。
今日は新しい定住地を探す旅に出る前の最後の勉強会ということで、近くの川で二人だけの思い出になる物を取ってくる約束だった。
ユール曰く、秘密の思い出を共有すると、人はその人と感情を通わせやすくなるらしい。記憶のない自分には、そういう概念がまだわからない。わからないからこそ、理解したい。
何より最近は、ユールが喜ぶことが自分にとっても嬉しいことになりつつある。
周りの人からすると、私たちは親友に見えるらしい。長老からも、もし私とユールの性別が違えば実にお似合いの夫婦になれたと言われた。
でも、それは少しおかしい気がする。だってユールは女性であり、私は……。
「スフィア!!」
物思いに耽る私の鼓膜に、待ち人であったユールの叫び声が響いた。その只事ではない雰囲気に、慌てて振り向いた私の胸にユールが飛び込んできた。たたらを踏み、それでも倒れることは防いだ私は、今まで見たこともないユールの姿にただ呆然と彼女を抱きしめるしかない。
「スフィア、助けて! 私、殺されちゃうかもしれないっ!」
「ユール、落ち着いて。話の内容が見えない。何があったの?」
取り乱し、話の要点を飛ばして結論を先に口走る彼女は、見るからに追い詰められている。
殺されるという物騒な内容の是非はともかく、何か危険な存在が来たのは確かなのだろう。
「私、わたし、時詠みの巫女だったの。悪い魔女だって言い伝えられている存在。それで時詠みの巫女の元には処刑人が現れるの、巫女を殺すために。その処刑人が、今長老たちのところに現れたの」
ユールから聞かされた情報は、どれも私にとって未知のものばかりであった。時詠みの巫女という存在も、それを殺しに来る処刑人とやらも。何一つ馴染みがなく、集落でのわずかな人生経験しか持たない自分では真偽の判りようがない。
だが一つだけ、確かめなければならないことができた。
「なぜ、ユールは自分が時詠みの巫女だと?」
そう質問すると、先ほどまで私の胸に顔を埋めていたユールの体がビクリと大きく揺れた。まるで隠し事がバレた子供のように。
意を決するように私から離れたユールは、なぜか私を怖がるようにしながら口を開いた。
「スフィアは、私が未来を見れるって言ったらどう思う?」
それは想像もしていなかった質問だった。だが、彼女の真剣な目、何よりその内容と時詠みの巫女という言葉の意味するものを考えれば、ユールが何の力を持っているから明白だった。
「そうか。どうしてユールが私を見つけられたのか、ずっと疑問だった。ユールは、視たんだね、あの洞窟で倒れる私を」
「……!」
彼女の肩が大きく震える。目を瞑り、先ほど私に抱きついてきた時以上に恐怖を感じているのがわかった。彼女にとって、自分を殺しに来た存在よりも、私に未来視について打ち明ける方が怖かったということなのだろう。
そして彼女を、私にとって大切な親友であるはずのユールを怖がらせた原因は今回は私だ。
「ごめんなさい。言葉の順番を間違えた。質問の答えは、気にしない、だ。私は、ユールが未来を視れるからといって、君への感謝は変わらない。私にとってユールは命の恩人で、感情の出し方を教えてくれる良き友人。いや、親友と呼ぶ仲になっていると思っている」
「……っ!!」
ユールが目を見開く。その瞼からは涙が流れていて、私はまた言葉を間違えたと焦った。私の素直な気持ちを、彼女から教えられた笑顔と共に送ったつもりだったのだが、これで違うとなると解決のしようがない。
だがあたふたする私へと、ユールは満面の笑みと共に再び抱きついた。今度は胸にではなく、腕を私の首に巻き付けてのハグの形で。
「ありがとう!ありがとうスフィア!うん、私もスフィアを親友だと思ってる!大好き!」
ユールの幸せそうな声を聞いて、ようやく私は安心した。なぜかわからないが、彼女の辛そうな声はあまり聞きたくなかったから。やっぱりユールには笑っていてほしい。
でもそうなると、彼女が言っていた大きな問題が障害となる。
「ユール、それで長老と話している処刑人について教えてほしい」
「う、うん。わかった」
ようやく落ち着いて話せるようになった彼女から、その処刑人とやらについて説明を受けた。
岩というより、渓谷のようにいかつい鎧に、一振りするだけで民家をバラバラにしそうなほど大きな剣。集落の男全員が挑んでも勝てそうにないほどの体格に、どんなモンスターよりも恐ろしい眼光をしていたと語るユールの顔は青白に染まっている。よほど恐ろしかったのだろう。
確かに、そんな見るからに恐ろしい男が自分を殺しに来たと思えば当然の反応だ。しかもその男はユールを名指して呼んだらしい。彼女の勘違いという可能性は低い。
それらの情報を聞くと、どうあってもその男を倒すという選択肢はまずないだろう。この集落の人たちは定住地を移動することを心情とした遊牧民たちだ。そのためサバイバル能力や戦闘能力はかなりの水準を持っている。
しかし、その集落で産まれたユールからしても勝ち目がないと一目でわかるような相手だ。全員で挑んでも皆殺し。良くて軽くあしらわれるだけだ。
となると、交渉か逃亡。
でももし伝聞の通り時詠みの巫女を殺しに来たのだとしたら、交渉の場を設けた瞬間にユールを殺される可能性がある。
「ユール、今日行くはずだった場所に隠れていてほしい。私が、その処刑人に真意を聞きに行く」
「!! な、だ、ダメだよ! スフィアと離ればなれになんてなりたくない!」
私の腕を掴み、逃げるなら一緒に行こうと涙ながらに言うユール。それを、私の意志は振り払うべきだと言っている。今ここで二人で逃げても、子供二人ではとてもではないが生きてはいけないと。
でも私の心は、彼女の手を取って逃げろと言った。それは洞窟に倒れていた頃の自分では決してあり得ない決断。
この集落で、ユールとの日々で育まれた私の感情が彼女の感情と同調している。もしかしたら、これがユールが言った秘密の思い出を共有したことで起きた、感情の繋がりなのだろうか。
ユールと共に行くかどうか、意志と感情のぶつかり合いという、私にとって初めての経験。本来なら喜ばしい、人らしい体験が、今の私には焦りを生むだけの苦しいものだった。
だが事態はそんな私を待ってくれるほど優しくはなかった。
「見つけたぞ、ユール」
重い、声そのものに重圧感があるのではと錯覚させるような男の声が、私とユールしかいない空間に響いた。
ユールがまるで、この世の終わりのような表情を顔に浮かべる。私の腕を掴んでいた震える手が、ぴたりと凍りついたように固まった。
視線を声のした方に向ける。そこに、処刑人はいた。そこだけ空間が死神の世界に変わったのではないかと思わせるほどに濃厚な死の匂い。男の周りは、見えないはずの怨霊の姿さえ可視化できそうなほどだ。
これがユールの言っていた処刑人。なるほど、その言葉が相応しすぎるほどだ。彼女の説明を聞いた時は、気が動転して誇張が入っているのではと思ったが、実物を目にすると先の説明でも過小すぎただろう。
彼は、死そのもの言ってもいい。
「時詠みの巫女、ユール。君を迎えに来た」
「……!!」
ユールの足が崩れ、その場に倒れそうになる。掴んでいた手を引っ張り、彼女を抱きしめるように引き寄せると、目前の男から守るように立ち位置を変える。
男のこちらを見る目が明らかに変わった。
「迎えに来たというのは、どういう意味?」
「そのままの意味だ。君がユールとどういう関係かはあえて、問わない。だが、私は彼女を連れて行かなくてはならない。それが、彼女のためでもある」
意外と、意思疎通が出来ることに驚いた。男の持つ雰囲気からもっと容赦なくユールを殺しに来ると思っただけに、こちらの質問に完全とはいかずとも答えてくれるのは行幸だった。
「ユールのため?それは、彼女が時詠みの巫女だから?」
「そうだ。時詠みの巫女は、代々重い宿命と共にある。その最後の時までを見届けるのが、私の役目だ」
「……っ!」
思わず、ユールを抱きしめる腕を強くする。時詠みの巫女の処刑人というユールから聞いた情報、そして男が語る内容を照らし合わせると、最悪を覚悟する必要があった。
「集落の人は?」
「誤解があったようでな。怪我はさせていない」
すでに、集落の皆はやられてしまっている。少なくとも助けに来れる状況ではない。事態はもう最悪を下回りつつある。
救援は無し。ユールを逃がせる余裕も無い。たとえ私が立ち向かっても、秒とかからないだろう。
「スフィア……っ!」
ユールのか細い悲鳴が耳に届く。不思議と、その声を聞くだけで自分の中の想いが固まっていく。ユールは死なせない。彼女を守りたい。
思えば、自分は彼女のおかげで生きていると言える身だ。今こうして守りたいという感情を育めるようになったのも、彼女がいたからだ。
ならば、その恩を彼女に返そう。
「ユールはどこにも行かせない。私は彼女に助けてと言われたから」
曖昧な自分の感情を形にするために、口に出して目前の処刑人に宣言する。男がその眉をわずかに不快そうに歪めたのがわかった。ただ、その感情のベクトルが私に向けられたものでないのが、少し気になった。だが、感情を学習中の私ではその矛先を推察する術はなく、次の瞬間には男は何事もなかったかのように無表情に戻っていた。
「そうか。だが、私も引き下がるわけにはいかない。今回はただでさえ見つけるのが遅くなってしまったのだから」
男が、ゆっくりと近づいてくる。ただ歩いているだけなのに、まるで巨大な生き物が足踏みをしているかのような錯覚を感じる。
腕の中のユールは完全に腰を抜かしている。当然だ、こんな怪物のような存在を目前にして倒れるなという方が無理がある。それに狙われている側なら尚更だ。
彼女を背負って逃げるのは不可能。ならば最後の瞬間まで、ユールを抱きしめていよう。
迫る男から目を逸らし、ユールの顔へと安心させるための笑顔を作る。感情を出しづらいからこそ、こんな絶望的な時でもいつものような笑顔を形作れた。初めて知れた自分の特技だが、こんな形で知りたくはなかったな。
「スフィア、ありがとう。私、あなたに会えてよかった」
ユールも自分の未来に納得したのか、私に向かって、私と違い無理やり形作ったような笑みを浮かべる。やっぱり、私はまだ人間らしくないんだなと、思わず笑ってしまう。
あれ、どうして私はいつも自分が人間では無いことを前提に語っていたのだろう?
パキリッ
何かが自分の頭の中で、割れる気がした。
ゴガッと爆発と見紛うほどの風が、スフィアだった物を中心に膨れ上がった。
「何だとっ!?」
それに真っ先に晒されたのは、処刑人、スフィアたちは知らないが、カイアスであった。大地を切り裂き、周りの木々を薙ぎ倒し、まるで竜巻のように一つの災害へと変わった正体不明の現象に対し、彼はたった一度の踏み込みで五十メートルもの距離を飛び退くことで回避した。
着地した彼が見たのは、竜巻を描く風の暴風と、それによって吹き飛ぶ砂に乱反射する太陽の光、ではない。
太陽光とは別種の眩い光が、明確に竜巻の中から迸っているのだ。人間を超えた五感を持つカイアスを持ってしても見通せない強い光の渦。彼にとっては、その中に取り残されたユールの身の安全こそが真っ先に知りたいものであった。
スフィアやユール、そして彼らが暮らしていた集落の者たち全員が勘違いしていることだが、カイアスは時詠みの巫女を殺しに来た処刑人などではない。むしろその逆、彼は代々変わる時詠みの巫女をその生涯を終えまるであらゆる危険から守る守護者なのだ。
彼は本来、次の時詠みの巫女が産まれて初めて未来視を使ったタイミング、もしくは言葉を話し始めた年の頃に彼女を親元から引き取ってその末期まで彼女を育てるはずだった。歴代の巫女たちはそうして彼が育ててきたし、その最後もまた、悲しみと共に看取ってきた。
だが今回はその新しい時詠みの巫女の発見が遅れに遅れたのだ。それはいくつかの不幸が重なったのが原因だった。
一つは彼女が生まれたのが定住地を持たない遊牧民であったこと。
二つは、数年前に起こったグラン=パルスを揺るがしたとある大災害。
三つ目、これが一番彼の怒りを掻き立てたものだが、女神エトロからの妨害があったのだ。
本来、彼の時詠みの巫女の守護は女神エトロが定めたことであり、同時に時詠みの巫女という存在が生まれる原因もまた、かの神によるものなのだ。にもかかわらず、今回女神エトロはカイアスが持つ、巫女が未来視を使ったことがわかることができる力を数年の間封じていたのだ。
これに気づいた時、ただでさえ女神エトロを激しく憎悪している彼は憤怒を超える激怒を覚えた。
女神エトロとカイアス、時読みの巫女を結ぶ複雑な関係は、まだここで語るには早すぎる。重要なのは彼が新たな時詠みの巫女を発見した時、彼が恐れていたこと、巫女が大切な相手を見つけていたことだ。
時詠みの巫女は代々短命だった。皆その人間が持つには重すぎる力の対価に、わずか17にいたる前にその短い一生を終えてしまうのだ。
だからカイアスが巫女を親元から連れ出すのは慈悲でもあるのだ。彼女の力を悪用する輩に狙われないようにする以上に、自分が何度も体験している早すぎる死別の苦しみを、他のものに味合わせないように。
そして今回、見つけた巫女であるユールはすでに10歳ほどの見た目へと成長しており、その側にはカイアスでさえも初めて見るような人間離れした容姿の少女がいた。
だがその少女とユールが、お互いに確かな信頼で結ばれていることを遠目に見て知った時、その驚きは憐憫に変わった。自分の失態によって、この少女にも同じ悲しみを味わわせてしまうことを。
自分が時詠みの巫女を殺しに来た処刑人だと勘違いされていることは、むしろカイアスにとって行幸であった。
酷なようだが、あのユールは見たところもう長くはない。何度も未来視を使った影響で、本人も気づいていない限界が近づいている。おそらく、あと一度でも未来視を使えば、その魂は燃え尽きるだろう。
だから、その死別という苦しみに直面する前に、ユールを多少強引にでも連れ去る。そうすれば、あの少女にとってユールは処刑人に連れ去られて消えた友人として終わる。悲しむだろう、苦しむだろう、だがきっと自分への憎しみによって立ち上がるだろう。
本来ならこんなことはしない。カイアスにとって重要なのはユール。それは後にも先にも一緒だ。これは、同じユールを大切に思った者通し、彼我の実力差を認識しながらもユールを守ると啖呵を切った少女への感謝なのだ。
カイアスがスフィアの言葉に不快な顔をしたのは、これから行うことでユールを悲しませる自分自身への不甲斐なさによるのだ。
しかし、こんな状況になるのは彼をしても予想していなかった。
「くっ、貴様は一体何者だ!?」
カイアスの怒号に反応するように、竜巻を構成していた風が弱まっていく。だがそれに反比例するように、その中心で輝く光が七色の虹へと変色しながらその強さを増して行く。
だがついにカイアスも、それまでの見の姿勢を止めて行動に移った。彼はその背中に背負った自身の身の丈ほどある巨大な大剣を片手だけで持ち上げる。
ただ武器を構えた、それだけで彼の周りの空気が爆発的な勢いで重圧を増す。
見るものが見れば、カイアスの構えが完成された武の極地の一つであるとわかるだろう。圧倒的とも言える剣の天才が、何百年もの間守るべき者のために一日と休まず磨き続けた剣技。
足の指先から、指の先端に至るまで、全てが何万と言える戦闘経験に裏打ちされた、カイアスにとって最も理想的な構えなのだ。
そしてそこから繰り出される技もまた、何百年もの歴史と戦いを得て研ぎ澄まされた、最強の一振り。
「…………はぁぁあ!!」
気合い一閃。上から下に振るう。ただそれだけの太刀筋が、まるで一種の芸術品のように完成されている。そしてそんな理想の剣筋によって生み出されるのは常識外の人間を超越した、飛ぶ斬撃。
空気が爆発した。カイアスの振るった剣筋を軸に荒れ狂っていた竜巻が真っ二つに割断される。それどころか、その中心で輝く光という本来なら切ることさえ叶わない可視光をも数瞬とはいえ切り裂いたのだ。
カイアスはその結果を当然のこととして受け入れながら、その斬撃の先にいる物を見た。本来なら一切の生存を許さず真っ二つにされているだろう彼の衝撃波だが、カイアスは確信していた。いる、と。
「……!!」
光が収束し、その下に隠れていた物を曝け出す。それは、
「球体、だと?」
カイアスの視線の先、そこには巨大な球体が宙を浮遊していた。全体的に水色がかったその球体だが、目に見えてわかる異常があった。
一つは、明らかに何か大きな破壊を加えられたと見える右半分側。先に言った水色の外面が、本来なら美しい空色をしていたのだろうが、右半身を中心として走る巨大な亀裂と人間の鬱血のように黒ずんだ傷が、その美しさを帳消しにしていた。
そしてもう一つが、残った左半身の中でまるで水に漂うように浮かぶ、一人の少女の姿だった。
「ユール!!」
それは間違いなく、カイアスが守ると誓い、しかし何度もその死を見送った大切な存在の生まれ変わりの一人、ユールであった。
『ユール……マも……る。約束……しタ……』
直後、発声器官など欠片も見当たらないような外観から明らかな人の声と思しきものが響いた。それは、いささかひどいノイズと機械音声のような物が混じっているが、間違いなくユールの側にいたスフィアという少女のものであった。
「まさか、お前は……」
目の前で突然変異した少女。その変わりようはカイアスの長い人生を持ってしても驚愕に値するが、その変わった存在は確かに彼にとって既知の物であった。
「ファルシ……なのか」
人の姿を持ったファルシ。そんな存在がいるだろうとは、考えたことはあった。だがあそこまで人間と心を通わせ、共に暮らせるほどの機体がいるとは想像だにしなかった。
たとえいたとしても、人の心など解すことができない神のような傲慢さを持った存在になると思っていた。
だが目の前のファルシはどうか。あの右半身の傷はカイアスが付けた物ではない。おそらくなんらかの戦いでつけられた物だ。それもカイアスのあの斬撃を喰らって傷一つないやつを、あそこまで半壊させる存在。
だが誰があの傷をスフィアとユールが呼んでいた彼女につけたかは重要じゃない。おそらく、あの様子からあの姿に戻るのは相当消耗が激しい筈だ。
事実今も、浮遊する高度が少しづつ落ちていっている。戦う前から、あの球体は自分の体を維持するのが精一杯なのだ。
それでも、彼女はあの姿になった。ユールを守るために。
「その心意気は、尊重しよう」
だが
「ユールは連れて行く。お前を破壊してでもな」
それが守護者である自分の使命なのだから。
カイアスが再び大剣を大上段に構えた。スフィアであった球体はただそれを見続けるだけだ。
一瞬訝しんだカイアスだが、自分の後ろにある者たちのことを思い出して納得した。
こんな姿になっても、集落の者たちを案じて攻撃できないのか。
その優しさに唾を吐きかけることになる自分の所業に、久方ぶりにカイアスはユールのこと以外で自分を嫌悪した。