其れは神と紡ぐ物語   作:FF8リメイク待ってます

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お仕事探し<リクルート>

 

 

 そこは、ボーダムにある小さな酒場の一つだった。酒場と言っても、言葉から連想されるような荒くれ男たちが酒瓶片手にどんちゃん騒ぎをするような店ではなく、女性も子供も安心して席に着いてアルコール以外の飲み物や食事を満喫できるレストランという響きが近いところだ。

 だが唯一ここをレストランの一言で表せないのは、店内の奥に設置されたステージ。劇場の舞台と呼ぶには小さなその場所は、漫才やちょっとしたショーを行うために店長が取り付けたものであった。

 

 ここでショーを観ながら、友人や家族と共に美味しいランチの時間を! をモットーにして最近開店したこの店は……哀れオープンしてから数日で閑古鳥が鳴くようになってしまった。

 

 責は単純に言って明白。コクーンの市民にわざわざ店まで行って見たいと思うショーができる人材が足りなかった、これに尽きた。

 コクーンは今では端末一つで買い物も食事のデリバリーも賄える超デジタル社会なのだ。そんな社会で実際に店に足を運んでもらえるようにするなら、それだけのネームバリューか食事の味、もしくは来ることでしか見れない驚きが必要不可欠だ。

 

 そしてこの店を開いた店長は、コクーンの聖府に近い都市で料理の腕を磨いたとはいえほぼ無名であり、味やデザインは悪くないが足を運んでまで通うかと言われれば評価が別れる。そして肝心要のショーに至っては、残念ながらテレビ番組の毒にも薬にもならないバラエティ番組に負ける始末であった。

 

 結果店長は見る見る減っていく貯金と赤字を比べながら、起死回生を計って張り出したパフォーマー募集広告の返事を待つだけの日々と化していた。そしてその応募者も、果たして旨味のない飯屋のステージに立つことを望む人間がどれほどいるのやら。

 

 行き詰まったコクーンのレストラン事情を変えるようなセンセーショナルを! と叫んで元いたレストランも親元さえ飛び出して開いた店がこんなザマとあっては情けないの一言でさえ足りない。

 頭を抱えた店長が自分の店を畳んで、親元に帰って土下座する覚悟を決めようとしていた時、奇跡が起きた。

 

「あの、募集のチラシを見たんですが。ここでは飛び入りでショーをやってお客さんから好評を博せば、料理や食材をタダでもらえると言うのは本当ですか?」

 

 後光を背に、白銀の輝きを纏った女神が舞い降りた。

 

 少なくとも、絶望に打ちひしがれていた店長にはそう見えた。

 

 

 

 

 

「えっ! 働き先が見つかったの!?」

 

 食事の場で、セラが私の報告に食べる手を中断して驚きの表情で固まった。

 今日で彼女の家に滞在してから三日目となるが、相も変わらず彼女の感情表現は豊かで見ていてとても勉強になる。私はユール仕込みの口笑という表情を浮かべ……少なくとも浮かべているつもりで、今日の夕飯であるキノコのクリームシチューに口をつけた。

 

 夕飯はセラが作ってくれているのだが、泊まっている身として申し訳なくて私とユールも料理を手伝っている。なのでシチューの中に浮かぶ不揃いな形の人参は私が切った物だ。感情の練習に伴い、精進が必要な科目である。

 

「うん。『Greatest show and beer』ってレストランなんだけど、そこでパフォーマーとしてユールと一緒に働いてみようかなって。人を集められたら、お店のご飯や材料タダでくれるらしいから」

「パフォーマンスって、二人は何するの? マジックとか? 漫才は……ううん、ないない」

 

 頬に指を当てて、私とユールがショーをやっている姿を想像しているのだろう。急に納得したように頷いたと思ったら、またしばらくして難しい顔をして首を横に振ったりを繰り返している。

 一体彼女の頭で私たちはどんな劇をしているのか気になるが、重要なのはこれからの話なのでセラにはそろそろ戻ってきてほしい。

 

「セラ、スープが冷めるよ」

「え、ああ! ごめん、ごめん、私ったら変な想像しちゃってたみたい」

 

 軽くセラの手を指で小突いて現実に引っ張り戻す。テヘヘと笑ったセラは、また和かな笑みを浮かべながら食事を再開する。

 気恥ずかしいという感情は、私はまだ表現できない。理解することは出来るのだが、その表情を咄嗟に形作れと言われたら無理だ。気恥ずかしいと感じている状況で顔の形を変えられる余裕がない。顔の表情と感情がリンクしている人間が羨ましい。

 

 セラの皿に注がれたシチューはそう時間もかからず彼女の胃袋へと消えていく。食べる時に自分が切った、明らかにサイズが小さいじゃがいもを美味しいと食べてくれる彼女の姿に少し嬉しくなった。

 

 そして彼女の皿が空になり、あとはコップに注がれた水を残すのみとなったところで、私は話を進めるなら今だろうと、ちらりとユールを横目に見た。私の大切な友人はそれだけで私の考えを理解したようで、意を決したように私たちからセラへの交渉を始めた。

 

「それでね、セラ。私たち食事のアテができてきたから、そろそろここを出るべきなんじゃないかって考えてるんだ」

「…………えっ?」

 

 コップを掴もうと伸ばしていたセラの手がピタリと止まる。予想外の言葉に、彼女は一瞬言葉の意味を理解できていなかったように感じた。

 

「そ、そんな、私は全然まだ居てくれても大丈夫だよ。二人が家に居てくれると、とっても楽しいし……」

 

 セラの表情にさまざまな感情が高速で通り抜けるのが見えた。それが悲しみ、孤独、懇願だと大凡の振り分けが出来たが、その意味を推察できるほど私は人の感情を推し測れない。

 でも、ユールは違う。彼女の目がセラの迷いを捕らえたのを確かに見た。

 

「それは嬉しいけど、迷惑じゃないかな? 実はセラを信用して話すんだけど……私たち探し物をしているんだけど、それが見つかるまでは家に帰れないの。それが見つかるのもどれくらいかかるか分からないし……あまり家に知らない人が長居するの……嫌じゃないかな?」

「そ、そんなことないよ! スフィアとユールなら安心できるし、もしお姉ちゃんが何か言ってきても、私が説得するよ!」

 

 ユールがわざと相手の誘いから退くように答えた。これは私たちがグラン=パルスでやっていた取り引きの常套手段だ。相手の求める物がこちらにあり、しかし相手がそれを手に入れる事に踏み切れない時、わざとこちらは取り引きを泣く泣く諦めたように引き下がるのだ。

 

 しかも今回は、あまり好ましくないがセラの善意につけ込む形を取っている。今まで一度も話してこなかった私たちの目的を曖昧な形とは言え明かし、彼女を信用していることを伝えることでよりこちらへの好感度を稼いでいる。

 そこに少しこちらの同情を誘うような言葉を介すことでセラの善性を刺激する。

 

 事前にユールから説明されたが、なぜそうなるのか実は少しわかってなかったりする。なぜこの言葉でセラが私たちに同情するのか質問したが、今の私では完璧に納得は難しいようだ。

 この時、ユールに私が同じことを言ったらどうする? と聞いたら抱きしめて一生養うと即答された。嬉しかったが、なぜかそれだけでない何かを感じた。

 

 だがとにかく、結果ユールの読み通りセラは私たちが欲しい言葉をくれた。

 

「本当に……!? わかった、それならとりあえずあなたのお姉さんが帰ってくるまではここに居させて。それからどうするかは、またお姉さんも加えて四人で話そっか」

 

 そして現状の落とし所を作ったフリをして、ちゃっかりセラの姉が帰ってくるまではここに居ることを確約している。ライトニングという女性がいつ帰ってくるか分からず、またセラの様子からここしばらくは帰れないらしいことから、かなりの間の滞在を認められたと見るべきだろう。

 

 その後ユールが色々とセラと食事や家事のことについて話している。ここコクーンの水や電気はファルシが無料で供給しているので、私たちが負担をかけることになるのはやはり食事と衣服の洗剤、あとは洗面台のあれこれぐらいだと、ユールがセラから聞き出していた。

 その後、セラにお礼を言って彼女が私たちの近くを離れたのを見計らい、ヒソヒソとユールに耳打ちをする。

 

「やっぱり、このやり方好きになれない」

「我慢して、スフィア。その分セラにはたっぷり恩返しするから」

 

 ユールには文句は一切ないが、やっぱりあんな優しい人の善意につけ込むのは胸の内がモヤモヤする。かと言って、端末のない自分たちが泊まれる場所を探すとなると見つけられるがどうか不安がある。今回のショーに関する仕事も見つけられたのがラッキーであったのだから。しかも長期で滞在となると、二、三日ここで暮らしてわかったが、絶対に身分を証明する物を求められる。

 

 ボーダムという街は驚くべきことにコクーンの中心都市ではなく、あくまで休息地のように癒しを求めてくる場所であった。にも関わらず、目に入る店や宿泊場のいくつかで身分証明を行なっている人の姿を確認できた。文字通り完全なる管理社会であり、その管理から外れた私たちは相当生き方を制限されていると見るべきだ。

 

 ちらりと、このコクーンで出会った親切な彼女の後ろ姿を見やる。あんなに屈託なく笑う彼女でさえも、牧場で飼育される家畜のように管理された存在の一人なのだろうかと。

 

 ひどい考え方してる。

 

 頭を振り、その邪な考えを振り払う。確かに規律正しすぎるきらいがあるが、住んでいる人間に不満がないのなら、それも人間社会の良き形の一つなのかもしれない。

 

 そして少なくとも、その体制とそこに住まう人間に関係はないのだから。

 

「ねぇ、二人とも! 実は学校帰りにアイス買ってきたんだけど、一緒に食べない?」

 

 キッチンの冷蔵庫から満面の笑みで色の異なる冷んやりとした固まりを持ってきたセラを見て、私は少しだけ自然と唇が上がるのを感じた。

 それを見て、目前のセラが目を丸め、横のユールも少しの驚きと僅かな不満のこもった顔を向ける。そういえば、こうして意識して作っていない笑顔を見せたのは、ユールとカイアスだけだった。そしてカイアスの時もユールは同じような複雑な表情をしていた気がする。

 

「す、スフィア! わ、笑ってるの!? うわー、すごい可愛い!!」

「ふぎゃっ!」

「せ、セラ! 危ない、アイスがスフィアに着いちゃう!!」

 

 感極まった表情のセラに思い切り抱きしめられ、その拍子に背中に触れたセラの持つアイスの冷たさに、私は初めて温もりを覚えるはずのハグという行為で全身を凍らせることになった。

 

 

 

 

 最近、スフィアがセラとよく話すようになっている。

 

 それがユールの今一番の、そして彼女にとって最も重要な悩みであった。

 

 別にスフィアが私と話すことが減ったとか、そういうことはない。スフィアはいつものように私に接してくれるし、大切な友人(いつかこれから脱したと願っているが)として私を思ってくれているのは彼を見ていればよくわかる。

 だがそのいつも私といる世界の中に、セラというコクーンで出会った少女が加わるようになった。

 

 別にセラのことは嫌いではない。むしろスフィアに好意的だし、私にも親切にしてくれる彼女に好意的にならない理由はない。

 だがそう言った好悪感情とは別の部分で、スフィアが彼女と楽しく会話しているのを見かけるたびに、どうしても心の中にモヤモヤが溜まってしまうのだ。

 

「ねぇ、スフィア! この服とかどうかな? きっとスフィアに似合うと思うよ!」

「え、あのセラ、これは少しヒラヒラが多いような……」

 

 今も視界の先で白のワンピースを持ったセラがスフィアに対して着替えるように促している。それに対してスフィアは明らかに困ったように手を横に振っているが、その服装はすでに黒のノースリーブシャツに白のロングスカートと女の子らしい見た目に変えられている。

 

 セラがスフィアに着せ替えをお願いして、スフィアが最終的に折れて着替えてしまうという光景はここ数日で日常化している。

 私としても可愛いスフィアを見るのは大歓迎なので今までずっと助け舟を出すことなく見守っていたのだが、ここ最近二人の距離が近くなりすぎていることで私の危機感が警報を告げているのだ。

 

「セラ、あの……近い……です」

「えっ? ……あ、ああ! ご、ごめん」

 

 まただ。熱が入ったセラの顔がスフィアの首元近くまで近づいて、スフィアの声に真っ赤になって離れていく。問題なのは、スフィアの頬もほんのり赤みを増してることだ。

 

 むっ、と表情がキツくなる。今まで私に対してあんな反応をしてくれたことはないのに。

 

 一緒に居すぎたのが原因なのか、それとも最初にスフィアに友愛と恋愛の違いを教えなかったのが悪かったのか、スフィアは私のことを家族と思っているふしがある。だから私と一緒に寝ることも、抱き合うことも親愛の証明以外の思惑がないのだ。

 もちろん、それはとても嬉しい。でもスフィアとそれ以上の関係になりたいと思っている私には、その境界を何としてでも壊したいのだ。

 

 セラはどうなのだろうか。彼女がスフィアに向ける感情は友人に向ける友愛だ。だから私も、心に小さな嫉妬を芽生えさせはしてもそれ以上の何かに変わることはない。

 

 

 

 

 でも、もしそれが変わることがあるなら……私はどうするのだろう……。

 

 ちらりと、私のいない空間で抱き合うスフィアとセラの姿を幻視した。

 ありえない、飛躍しすぎな想像だ。でも私は、その光景を思い描いた瞬間ーーーー

 

 

 

 ぐちゃりと、私の心が壊れるような音を聞いた。

 

 

 

「ーーーー!?」

 

 現実に戻ってくる。そこには、気を取り直したセラがスフィアにワンピースを着るように手を合わせてお願いしている光景があった。

 

 もし、この二人の光景が続くようなことがあれば……あの空想が現実に?

 

 自然と、私の体は二人の輪に加わるように動いていた。そこに、ユールという人間を捩じ込むように。

 

「セラ、私もスフィアの着替え手伝うよ」

「な、ユールどうして!?」

「え、ええ! お願いユール、スフィアに試して欲しい服はまだまだいっぱいあるの!」

「!!?」

 

 スフィアを後ろから抱きしめるように押さえる。無表情の瞳を僅かに丸くしてこちらを見るスフィアと、気を取り直してスフィアに持っていたワンピースへと着変えさせようとするセラ。これから小一時間はスフィアのファッションショーが始まることだろう。

 

 私の世界から、スフィアがいなくなるのは耐えられない。

 スフィアの世界から、私がいなくなるのは耐えられない。

 

 コクーンという私にとって未知の世界でのまったく新しい日常は、それでもスフィアがいるだけで私にとっては満足なんだ。

 

 スフィアが、私の隣に居てくれれば。

 私は、幸せなんだ。

 

 

 

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