ミカが死んでしまい絶望していたがタイムスリップをしたのでミカに愛を叫びに行く感じの先×ミカSS   作:水野 四十坂Q

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ミカが死んでしまい絶望していたがタイムスリップをしたのでミカに愛を叫びに行く感じの先×ミカSS

 ミカが死んだ。

 

「花を入れてあげてください。ミカさんは貴方のことを大変、好いていましたから」

「……うん」

 

 白色の、綺麗な花を取って棺へ入れる。

 

 土気色の肌だ。

 

『ざんねーん⭐︎ ドッキリだよ、驚いた? ……えへへ、先生が構ってくれないから、こうでもして気を引いてみたかったんだ』

 

 そう言って、今のこの瞬間目を開けて跳ね起きてしまうのではないか。そんな妄想をしてしまうほどに、ミカの死体には傷一つなく、綺麗なままだった。

 

 やがて、ミカの棺は蓋をされ、土を投げ込まれてしまう。

 

 私が見ているうちに、何かのはずみで目を覚ますのではないか。

 

 起きてくるのではないか。

 

 蓋を跳ね上げて、出てくるのではないか。

 

 ……じきに、それは、覆い隠されて見えなくなってしまった。

 

 アリウスの残党兵。それも、親ベアトリーチェの一派がいたらしい。彼女たちに殺されたのだそうだ。いわゆる、暗殺。私たちが関与できなかったところで、ヘイロー破壊爆弾が残っていたのだろう。

 

 葬式で何を喋ったのか。私はそれを、今ひとつ思い出すことができない。

 

 

 

 

 

「その、先生、最近大丈夫ですか? ずっと働き詰めで、心配です」

 

「なあ先生、顔色悪いぞ? ……脚でも舐めるか?」

 

「先生。一緒にお外に出ませんか? ……そうですか。すみません、出過ぎた真似をしました」

 

 

 

「……何が、教師だ」

 

 先生とは導く立場だ。

 先に生まれ、先に生き、その学びを後進に伝えるのが役割。

 

 断じて、その教え子たちに心配されるような者では、ない。

 

 最近、寝るのが怖い。

 

 あの子が生きていて、いつものようにシャーレを訪れる光景をよく見てしまうのだ。

 夢とは怖いもので、本当に、見ている最中はそれが現実であると思い込んでしまう。夢の中において私は、かつてのように彼女と話し、笑い合うのだ。そして覚醒と同時に、それが己の作り出した虚構であることを知る。なんとも、情けない姿であることか。

 

 嗚呼、今でならば認められもしよう。私は彼女に、ミカに、依存していたのだ。口では「教師だから」「先生と生徒だから」などとほざき、彼女を冷たくあしらっておきながら、その実、彼女との会話を、日常を、楽しんでいたのだ。そうだ。彼女が私に甘えていたのではない。私が彼女に甘えていたのだ。自ら柔らかに拒絶しながらまた明日来ることを無邪気に信じているなど、それを「甘え」以外のなんと形容しようか。そしてありえないことに、私はそれについ最近まで気付いていなかったのだ。彼女が亡くなって初めてその事実に、己が内に、気が付けた愚か者なのだ。

 

「……はあ」

 

 書類に目を通す。承認。

 

 書類に目を通す。承認。

 

 書類に目を通す。承認。

 

 書類に目を通す。承認。

 

 ……

 

 こんなことばかりだ。最近。

 よくカフェインの錠剤を飲んでいる。これはいい。あまり眠くならない。が、眠くならないというのもそれはそれで問題があるのだ。例えば、深夜に起きていてもすることがほとんどない。駆けつけなくてはならない事件も起きないし、シャーレを訪問する生徒もいない。椅子に座ってぼけっとしているというのもなんだか……落ち着かない。必然、適当に溜まった書類を捌くだけの作業をしてしまう。

 

 そうだ。

 

 今の私にとって、この小さなタブレット剤とわずかばかりに積まれた紙の束は夜を過ごす友なのだ。彼らと接している間だけ、私は目を逸らしていられる。逃げていられる。紙面以外の何物も目に入れなくて済む。

 

「……そろそろ寝るか」

 

 とはいえ、空の暗闇に僅かながらに白いグラデーションが混じりつつあった。本格的に睡眠を取らなくてはまずい時刻だろう。流石に、自身の睡眠不足が原因で生徒に対する指導に不備が出るなど、それこそ笑えない。

 

 シャーレに置かれたソファに横たわり、毛布をかけて、チクタクという時計の音だけを聞く作業に入る。ああ、そういえば、この可愛らしい刺繍の毛布は誰がくれたものだっただろうか。何故、私はそれを思い出せないのだろうか。どうやら本格的に頭が回らなくなってきているらしい。

 

「……」

 

 そしていつものように、唐突に、意識が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

『──せい! 起きてください、先生!』

「ん……?」

 

 ああ、朝か。

 

 どうやら、アロナが起こしてくれたようだ。

 周囲も明るいし、既にそれなりの時刻なのだろう。完全に寝坊である。

 

 ん?

 

 どうやら私は、随分と参ってしまっているようだ。

 ソファで寝たつもりだったのに、今はデスクに座っている。夢遊病、というやつだろうか。

 

『もう当番の生徒が来る時間ですよ、先生!』

「ああ、ごめんごめん。起こしてくれてありがとう、アロナ」

 

 今日の当番は誰だったか。シャーレの片隅にある、当番表に目をやると……

 

「──」

 

 『ミカ』の二文字。

 

「……」

『あっ、先生!? 何してるんですか!?』

「なにって、ミカはもう……」

 

 どうやら本格的に終わってしまっているらしい。これも夢遊病というやつなのか? まさか、夜中ひとりでに起きて、当番表にあの子の名前を書き込むなど。本当に我ながら、終わっ、て──

 

 電子カレンダーが目に入る。

 〇〇月✕✕日。

 一ヶ月前(・・・・)の日付だ。

 

「……いや、まさかね」

 

 ホワイトボードのクリーナーを置き、部屋を歩き回る。

 PC。同じ日付。

 壁時計。同じ日付。

 テレビ。同じ日付。

 別のカレンダー。同じ日付。

 スマホ。同じ日付。

 シッテムの箱。……同じ日付。

 

「……ねえアロナ、今日って何月何日だったっけ?」

『〇〇月✕✕日です!』

 

 同じ、日付だ。

 

「……アロナ、今日の当番ってミカなの?」

『はい! そろそろ来る時間……いえ、もう来ているみたいですね! あっ、先生!?』

 

 それを聞いた瞬間、私の足がひとりでに、走り出していた。

 

 

 

 

 

 シャーレの入口へ向かって走る。これだけ全力で走ったのはいつぶりだろうか。肺が苦しい。喉が痛い。体表を汗が冷却しているからだろうか、体は熱いのに変な寒気だけは感じる。

 

 ミカ。

 

 君は、オシャレが好きだったね。

 服が好きで、アクセサリーが好きで、化粧品が好きで。その話を私に沢山してくれたね。

 

 ミカ。

 

 私がこんなことを言うのもなんだけど、君は、私と話すとき、本当に楽しそうにしていたね。君はすごく可憐に、明るく笑う子だった。私もそんな君が好きだったんだ。私も、君と話している時間は心地が良かったんだ。

 

 ミカ。

 

 君は、よく、私を食事に誘ってくれたね。何回か断ってしまって本当にごめん。忙しかったというのもあるけど……本当は私は、君と距離を作ろうとしていたんだ。だって私は教師で、君は生徒だから。今考えると、君の気持ちをまるで考えることができていなかった。君をたくさん傷付けてしまった。それをすることが許されるのならば、どうか、私に謝らせてほしい。

 

 ミカ。

 

 もし、もしもだ。もしもまた、出会うことが出来たのなら。一緒に話をしよう。一緒に映画を見よう。一緒にショッピングをしよう。一緒にご飯を食べに行こう。一緒に旅行をしよう。一緒に色んなものを見よう。一緒にたくさん、笑おう。

 

 ミカ。

 

 ミカ。

 

 ……ミカ。

 

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ……」

「やっほー☆ 先生、来たよ……ってすごい疲れてるね!? だ、大丈夫……? 別にそんな焦って来てくれなくても、ちょっとくらい待てたよ……?」

「み、ミカ。ミカだよね?」

「え? うん。私だよ。それがどうかした?」

 

 ミカが、返事をしてくれる。

 頬をつねる。痛い。

 現実。現実、現実なんだ。本当に現実なのだろうか?

 

「ミカ、ちょっと頼みがあるんだけど、出来る限り全力で私の頬を引っ張ってみて欲しいんだ」

「本当にどうしたの!? そんなことしたら千切れちゃうよ……?」

「いや、ちょっと、確認したいことがあって。もちろん、千切れない程度でいいからさ」

「う、うーん、分かった。えーい!」

「いだっ!? いだだだだだだ!! ちょっ、痛い痛い痛い!! ストップ、ストップ!」

「え、ええ……だ、大丈夫……?」

「いや、うん……私が頼んだことだから……」

 

 でも、痛い。

 本当に痛いぞ!!

 

「は、はははは……」

「せ、せんせ?」

「ミカ!!!!!!」

「わひゃあ!?」

 

 ミカを強く抱きしめる!!!!!!!!

 

 温かい!!!!

 柔らかい!!!!

 質量が、厚みが、存在感がある!!!!

 

 ミカは、ミカは……今!! 生きているんだ!!!!!!!!

 

「せ、せんせぇ……そ、その、う、嬉しい、すごく嬉しいけど。ひ、人目が……」

「ミカ」

「ひゃい」

「当番に来てくれて、ありがとう。そして私といつも一緒にいてくれて、ありがとう。……ずっと黙ってたんだけど、私もミカと一緒にいるのは幸せだったんだ」

「……本当に、どうしたの?」

「……色々、色々あったんだ」

「ふーん……うん、そっか。そっかー。先生もついに私の可愛さにメロメロになっちゃったかー」

「うん。メロメロだよ」

「……ちょ、調子狂うなあ。……なら先生は、この先もずっと、ずーーーーっと、私と一緒にいてくれる?」

「もちろん。ずっと、ずっと、ずっと。これまでも、これからも、ずっと未来でも。隣にいるよ。誓う」

「……そっか。うれしい」

 

 ミカがそっと、私の背中に腕を回す。

 

 もう言葉はいらない。

 

 私は、この子を二度と離さない。今、そう誓ったんだ。

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