灯火、使徒より賜りて   作:今津

16 / 21

時系列は怪人協会編後〜顔バレ前です。


『自分とは似ても似つかない人間にあこがれる所から人生の失敗は始まる』 ── 第232話



幕間
番外編:ビタミン


 

 

「共食い……」

 

つい、何気なく口をついて出た言葉は、スーパーの気の抜けたBGMの中でも向こうの耳に届いてしまったらしく。

野菜売り場でカボチャを手に取っていたウィリアムは、キャップの()()とマスクの間から冷ややかな視線をよこしてきた。

 

「はっは……。今日の晩はカボチャの煮付けとたまごサラダ作ってやるから食ってけよ」

「頭見ながら言うな」

「誰かのカボチャ頭もネズミ寿司Tシャツ花柄パンツマンよりはマシだ。このハゲ。やーいハゲマント」

「なんだとこの……、……!! このっ……!!」

「そういや、たまごがもう無かったな。買わないとな……」

「クソッ、何も思いつかねえ……ッ!! 自分がハゲなかったからってこの野郎……ッ!!」

「無塩バターも……」

 

ウィリアムは左腕に提げた買い物カゴにカボチャを入れると、サイタマがギリギリと悔しがるのをスルーして、長い脚でスタスタと卵売り場の方へ歩いていった。

……まあ、由来はともかく、晩飯をご馳走になることに不満は無い。外見において貶すような部分がないことはなんか気に食わないが。

 

「(つーか、なんでカボチャなんだ)」

 

売り場に積まれたカボチャを見て、思う。

ジェノスは「本名にかけているんでしょうか」と言っていた気がする。聞き流していたので詳しいことは覚えていなかった。

 

ふと、「ママー、カボチャあるよ!」と幼い声が聞こえてきた。

つられて目をやると、小さな子供がカボチャ売り場を指さしていた。やたら目をキラキラさせている少女に、母親と思しき女性が「ほんと好きねぇ」と言いながらカートを押して近付いてくる。こちらの頭を一瞬見て目を逸らした気がする。

 

カボチャの値札は……別に安くなっているわけでもない。サイタマなら財布と相談して、買わないという決断を下すだろう。

であれば、やはり。

 

「(普通に好きなだけとか。ありそうだな)」

 

サイタマは売り場の前を親子に譲ることにしたが、そのとき、子供が持っていたものが目に付いた。

オレンジ色の頭をした人型のぬいぐるみ。既視感のあるカラーリングだ。

「パンプキンはねーおいしいしねー」「そうね、栄養のあるお野菜だもんね。あ、車にエコバッグ……」、親子の会話が続くのを背に、その場を離れる。

 

冷蔵の乳製品売り場につくと、買い物カゴに卵とバターとチーズを増やした男がいた。

彼は気配に気付いたのか振り返り、長い睫毛を瞬かせる。

 

「?」

「いいよなー。やっぱなんだかんだな」

「何が?」

「人気」

 

『ハゲマント』の風評は未だにあまりよくない。グッズは弟子が勝手に発注する以外にない。

ウィリアムは呆れたような目で見てきた。サイタマがたまに「人気がほしい」などとこぼすと、こいつは決まって「しょうもないな」などと辛辣なことを言うので、もはや呆れているのは確実だ。

 

「……サイタマ。俺がなんでわざわざこの最寄りじゃないスーパーに通ってるかわかるか?」

「え、知らん。なんか理由あんの」

 

売り場の前から離れて歩き始めるウィリアムに続く。

 

「パンプキンマンはな……子供向け番組に野菜の歌を提供してるんだ」

「そうなのか」

「近くに住んでるのがバレてるせいか、俺の家の最寄りのスーパーは野菜売り場でその歌が流れるようになったんだよ。ありえねーだろ……」

「なるほどな……。後でそれ歌ってくれよ。はっはっ、お野菜マン(笑)」

「かち割るぞたまごマン。テメーの名が世に知れたときには赤の栄養素を担わせてやる」

「いややはり俺は『孤高のヒーロー』の方が性に合ってるようだ……残念だが……」

 

そんな軽口を叩きつつ。

有人ではなくセルフレジの方の列に並び、順番が来ると、ウィリアムは手馴れた様子でセルフレジを操作した。サイタマがレジ横にあったポテチを手渡したが何も言わずレジに通していた。

会計画面に進み、財布から千円札を出したあと、小銭を指で探っている。

 

「あー……一円持ってる?」

「ん、多分」

 

それを聞いたウィリアムがレジに代金を入れるのを見ながら、サイタマもポケットから小銭入れを取り出し、開いた。

 

「お、あった────」

 

ズン!!と地面が縦に揺れる。

スーパーの蛍光灯が点滅し、揺れで浮き上がった小銭入れの中身が────こぼれ落ちて盛大に床に散らばった。

 

「おわーっ!」

「キャーッ!!」

「ヒィイーッ!!」

 

温度感が違いすぎる悲鳴が重なる。

頭を抱えてしゃがみ込む客たちと、別の意味で頭を抱えてしゃがむサイタマ。

一方で、財布をしっかり手で抑えていたウィリアムは、スーパーのガラス窓の外へ視線を向けた。

 

「怪人か? おい、人気が出るチャンスが……」

「おおお、どこ行った俺の五百円ッ……!!」

「……」

 

今、それどころではなかった。

ウィリアムは床に這いつくばる友人を見下ろし、やれやれと首を振り、レジの台の上に財布を置いた。

 

「……ちょっと見てくる。払っといてくれ」

 

 

 

サイタマはえらく遠くまで転がっていた五百円玉を見つけ、また地面が揺れた時には小銭入れを手で押さえて難を逃れた。その代わりか、気付いた時には品物を入れたレジ袋が床に落ちていた。

ウィリアムが右手の甲を汚して戻ってくる頃には、全ての小銭を拾い集め、一円を足して会計を終えていた。

 

「やっぱ怪人だったか」

 

レジ袋と財布を手渡して、揺れで歪んで閉じなくなっている自動ドアからスーパーの外に出る。

駐車場には巨大な大根のような棍棒(?)を握った、そこそこ大きい怪人の首無し死体と、オレンジ色の液体が飛び散っていた。その横を通り過ぎる。

 

「怪人もスーパーに行くのか」

「野菜食べすぎて怪人化〜とか言ってたぞ」

「お野菜マンの成れの果て、か……」

「テメーを今日の食材にしてやろうか? オイ」

 

「あのっ……!!」

「……ん?」

 

後ろから声がかかる。

揃って振り返ると、声の主はサイタマがカボチャ売り場で見かけた子供だった。手に持っているのはやはり、例の男のぬいぐるみだろう。

子供は緊張と興奮した様子で、ウィリアムの方を見上げていた。

 

「あのっ、あの、お兄ちゃん! あの、あのね、えっとね……怪人たおしてくれて、ありがとう……!」

「……」

「……」

 

サイタマの前で、ウィリアムは子供の傍に寄り、膝をついて目線を合わせた。

 

「大丈夫か? ケガしてないか」

「うん、ママ……あの……おかあさんも、ケガしてない……」

「そうか。良かったよ。じゃ……」

「あのあの……それで……それでね……っ」

 

子供はぬいぐるみをぎゅっと握って、ウィリアムを見る。

そして、次の言葉を待つ彼に、小声でこう囁いた。

 

「それで……だからっ……。……お兄ちゃんは、パンプキンマンですか……?」

 

…………ウィリアムは何も言わず、首の後ろを掻いた。

どうするか。誤魔化すのか、それともバラすのか。

 

「あー、バレちまったかー。なんでわかったんだ?」

「声……」

「声か……よく分かるな」

「テレビのおうたといっしょだもん」

「確かにな」

 

バラす方だった。

 

「さっきはお母さんを守ろうとしてて立派だったな」

「うん」

「俺のこと、ヒミツにしてくれるか? お母さんにもヒミツだぞ」

「うん。言わない」

「ありがとな。お前はもう、ヒーローの心を持ってるもんな」

 

ウィリアムは子供の頭に左手をポンと置き、レジ袋を覗いて、さっき買ったポテチの袋を渡した。

 

「口止め料だよ。じゃあな」

「えと、さよーなら」

「ハイ、さようなら」

 

ぺこりと頭を下げて、子供が母親の元へ走り去っていく。

同じく頭を下げていたウィリアムも立ち上がり、何事も無かったかのように再び歩き出した。

サイタマも、それに続く。

 

心做しか足早にスーパーの敷地を出て、歩道を歩く。

 

「……あの子、俺が外に出たとき、母親のために怪人に立ち塞がろうとしてたよ。危なかったけど、心意気はまあ、えらいよな」

「へー。将来はヒーローかもな」

「それは知らんけど」

「なんで突き放すんだよ」

「つーか卵割れてたんだけど何コレ」

「それはごめん」

「……今夜はオムレツだな」

 

ウィリアムはそれから何も言わず、ただ前を歩いた。

 

パンプキンマンというヒーローはそこそこに人気だ。それは彼の『A級2位』という順位からもわかることだ。

本人は「人気が欲しい?しょうもない。そもそも俺は人類の99.9%(モブ)に全く興味が無いから好かれても全然嬉しくない。ファンレターとか読まない」などとのたまうような奴なのに。

 

サイタマは斜め後ろから彼の後頭部を見て、つい、フッと笑ってしまった。

 

「お前、ちゃんとヒーローなんだな」

 

……ウィリアムは振り向かず、肩を竦めてみせる。

 

「…………お前ほどのヒーローが言うならな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は卵を愛するあまり、生まれることの出来なかったニワトリたちの悲しみと怨みを背負って怪人と化したのだ!! 毎朝10個もの生卵を飲み干して作り上げたこの肉体が、貴様が落としてしまった卵パックのように貴様を!グチャグチャにする!!」

「…………たまごの成れの果て」

「オイなんで振り向いてまで俺の頭を見る必要があったんだブッ飛ばすぞ!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。