灯火、使徒より賜りて   作:今津

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時系列はキング回後〜フブキ回前です。



『誰にでも一つだけやめられないものがある。
 それは、自分自身だ。』






番外編:解釈

 

 

パンプキンマンがZ市の街中を歩いていると、後ろから走ってきた黒塗りの車が減速して路肩に停まった。

 

目の前に停車されたことについては特に気にしなかったが、車の後部座席のドアが開いて人が降りてきた。そのシルエットに見覚えがあったパンプキンマンは、マスクの下で思わず「げっ」と小声を出した。

 

「待ちなさい。A級2位ヒーロー『パンプキンマン』」

「うーわ」

 

話しかけられた。これは逃げられない。

顎下くらいまでの黒髪に、抜群のプロポーションを強調する黒のワンピースに、高級感と威圧感を与えるような白のファーコート。

パンプキンマンの行く手を阻み、仁王立ちする()()は──。

 

「はじめまして、私はB級1位『地獄のフブキ』」

「おお……」

 

目の前にすると、紙面や画面で見た通りの美女だ。なかなかの見応えがある。うん、外から眺めるだけで十分なのでぶっちゃけ話しかけないでほしい。

パンプキンマンは、彼女が……ハッキリ言ってあまり深くは関わりたくないような、めんどくさくてそのうえしつこい手合いだということを()()()いた。

 

「ちょっとよろしいかしら? 話したいことがあるのだけど」

「え〜……俺このあと予定……」

「そこまで時間取らないわよ」

「じゃあこの場で済む話なら聞くよ。何?」

 

とはいえ話は進む。彼女が初対面で言いそうなことなんざおおよその予想は着いたが、パンプキンマンはそっと心の扉を閉ざしつつ話を促した。

 

彼女は腕を組み、こちらを値踏みするような鋭い目付きで足元から頭の先までを眺めてくる。

 

「あなた、2()()……なのよね」

「……まあ一応」

「あなたがA級1()()のアマイマスクに勝てない理由が分かる?」

「順位の話か。えーと……人気とか」

「そう。どれだけ多くの、そして強い怪人を倒してポイントを稼ごうとも、多くのファンや協会の上層部との癒着など、強い既得権を持つアマイマスクを超えることはできない」

「おお……」

 

食い気味に遮られて反応に困る。

 

「あなたはソロの実力だけで、あのアトミック侍の派閥……三人の弟子たちよりも上にいる。それだけでも、あなたが只者でないことはわかる」

「ほんとかな」

「アマイマスクには勝てない。────あなた一人の力では、ね。……だけど、そこに『数』の力が加わればどうかしら?」

「ほう」

 

一応相槌を打っておく。

 

「本題に入るわ。あなた、フブキ組に入る気はない? 我々の統率力は協会の派閥の中でも特に群を抜いている。我々の『数』の力でアマイマスクを追い落とし、あなたをA級1()()の座に……それを超えてS級ヒーローにまで昇りつめらせることもできるわ。そうなったらA級1位の座は私がいただくけど」

「あ〜オチ読めてた〜」

 

案の定……やっぱそうくるか……いつもの……お家芸……としか思えない。

パンプキンマンが知る限り、彼女は口を開けばこうだ。むしろ彼女が全くブレないことに逆に安心するレベルだ。

 

「ここじゃ大きな声では言えないけれど……。組織というものは大きくなればなるほど、叩けば埃が出てくるものよ。アマイマスク本人はどうだか知らないけど、彼と深く関わっている協会関係者たちは……後ろ暗いものがあるはず。アマイマスクの地位を揺るがすことで世論を味方につけ、1位に返り咲く……あなたの実力なら、そこまで非現実的な話でもないでしょ」

「まあ確かにな」

 

本気でやろうと思えばできなくもない話だ。言えばアマイマスク本人すら乗り気になる可能性が……わからないが、ある気がする。知らんけど。

 

「現状私より順位の高いあなたのことは勿論、幹部待遇で迎え入れるわ。どう? あなたにとっても悪い話ではないと思うのだけど」

「うん、無理。帰れ」

「なっ……」

 

ばっさりと切り捨てられたことにフブキは本気で驚いたようで、整った顔を思いっきり顰めている。

だが無理なものは無理だ。パンプキンマンがA級2位に留まっているのは、アマイマスクに阻まれているからではない。

 

「調査不足とは言わねーよ。インタビューとかで俺が「目立つのが嫌い」とか言ってもなんかだいたいカットされてるもんな。いやほんとなんでだろうな。陰謀かな……」

「目立つのが……? あなたね、そんな一キロ先から見てもあなただってわかるような格好で……」

「そういうことじゃなくて。人気とか、地位とか、人の前に立たなきゃならなくなるようなのが嫌ってことだよ」

「……」

「つーかさ、なんでランキング気にする奴ってそのわりに自分よりランクが上の奴に対して態度デカいの? お前然りデスガトリング然り……」

「…………あなたは……」

 

フブキの髪が、ざわりと靡く。

 

「あなたは自分が『永遠の二番手』で構わないとでも言うの? ……どんなに努力してもいつも上から見下ろされて、関係ない下の奴らからだって「どうせあいつ以下なんだろ」ってナメられて……屈辱だとは思わないの?」

「別に。俺はやりたいことやってるだけだ。どうでもいい他人になんて思われてようがそれこそどうでもいいかな」

「……プライドってものがないのね……」

「自分が何がなんでも一番になりたいからって、他人もきっと同じはずだってか? 一緒にすんなよ」

「……」

 

彼女は精神的な余裕が無い。いっそ哀れな程に。

だが、カウンセリングをするのは異物(じぶん)の役目ではないだろう。どうせ近いうちにサイタマの家を尋ねるのだろうし、その時にちょっと痛い目を見れば、後々いい感じに持ち直してくれる。

わざわざ異物(じぶん)が説教する必然性はなく、むしろ下手に口出しすると事態が変な方向に転がるかもしれない。まあ具体的に言うと、『主人公(サイタマ)』の言葉を先に掠め取る事で彼女と親しくなってしまったとして、『オリ主(ウィリアム)』にとっての()()()()が世界線に固定されてしまうとか……。

こんな『イケメン顔』に産まれさせられた以上、恋愛面を警戒しておくに越したことはない。……ああ、考えるだけで寒気がする。

 

なんだかまともに話をする気も失せてきて、パンプキンマンは深いため息を吐いた。

 

「ハァ……。だいたい、お前も言う通りヒーロー協会の上の方は大半が腐りきってる。そんな組織のランキングにそこまでする価値ないだろ。頑張って順位上げたところで、その先に待ってるのは────」

 

ボガァン!!!という破壊音でパンプキンマンの声が掻き消えた。

真横にあった建物が破壊されて吹っ飛び、瓦礫が散って────砂埃が上がる中、全長10mはあろうかという白い毛並みの怪獣が二人の前に現れる。

 

「なっ……!」

 

フブキが目を見開き、飛んでくる瓦礫を自らの超能力で防御しつつ、怪獣の動きを止めようとしたが────怪獣は一瞬動きを鈍らせたあと、超能力による拘束を超える力で鋭い爪の生えた左腕を振り上げた。

フブキの上に影が落ちる。

 

「ナ゛アァァア!!」

「(まずい、()られる────!!)」

 

「やっぱ出た」

 

ドンッ!!!

 

瞬間、怪獣の腹に風穴が空いて、ズン……と巨体が沈む。

パンプキンマンは軽く振り上げた左手を下ろした。

 

「『データあり』……"迷い猫"だな。あいつらどっちも協会からの呼び出しで予定があるって言ってたから、今日中だと思ったんだよ。ヒーロースーツ着て来てよかった」

 

この怪獣の正式な名前は「グリズニャー」のはずだ。パンプキンマンの前に現れた時点で既に右前脚がなかったあたり、スティンガーと雷光ゲンジが逃がした『子猫』か。

それにしても、曲がりなりにも猫を模しているはずなのに、若干人型でムキムキだったり牙がデカすぎ多すぎだったり目が六個あったりと全然可愛くない。

しかも『親猫』の方はこれの何倍も巨大なのだ。

 

「なんでコレ飼おうと思うんだよ……わかんねー。チワワみたいな奴ならまだ百歩譲ってわかるとしても、絶対本物の犬猫の方が……、あ?」

 

ピロン、と通知音が聞こえて携帯を取り出すと、ジェノスからメッセージが届いていた。自分もサイタマ先生もちょうど用事が終わったのでこれから都合が着く、と。

「近くにいるからそっちに向かう」と返信して、携帯をポケットにしまう。

 

そこでようやくフブキの方に視線を戻すと、彼女は地面にへたりこんでいて、後から車を降りてきたのであろうフブキ組数名が心配そうに周りを囲っていた。

 

「じゃあ俺もう行くから」

「は……」

「そいつを退治した分のポイントはやるよ。……お前が動きを止めて隙を作ったおかげで倒せたからな。じゃあな」

「っ……そんなわけ……!! っく!」

「フ、フブキ様っ……!」

 

下唇を噛み、素手で地面を殴りつける彼女に背を向けて、パンプキンマンはその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

「サイタマ、ジェノス、おつかれー」

「お、パンプキン」

「近くにいるとは言っていたが……随分早いな。お前も同じ依頼を受けていたのか?」

「いーや全然。この辺にいたのはたまたまだよ。あー、昼飯って時間でもなくなっちまったな。がっつり晩飯にするか」

「で、今日はどこ行くんだ?」

「どこでもいいけど……じゃあ寿司とか? せっかくだから回らないとこ行こうぜ」

「マジかよお前太っ腹だな。なんか腹減ってきた!」

「店は近いのか?」

「近いとこがあるよ。んじゃ早速行くか」

 

 

「なあパンプキン、お前って猫派? 犬派?」

「別にどっちにも思い入れないけど……まあ、もし飼うとしたら猫かな。サイタマは犬派か?」

「どっちかって言うとな。でも猫も良いよなー」

「……猫か……。お前さ……」

「ん?」

「猫耳カチューシャってつけたことあるか?」

「は?」

「いいから」

「ないけど……何? 猫耳?」

「ああそう。いやよかった。つけてたらマジで縁切らなきゃいけないところだった」

「え、お前猫耳に恨みでもあんの?」

「猫耳っていうか全裸ボディペイントの方だけど」

「なんて?」

「気にすんな。とにかくつけなきゃいいんだよ猫耳を」

「いや猫耳で全裸って何? ……お前たまにマジで意味わかんねぇよな」

「良くないとこだよな……。理解させる気もないのに一方的に喋るのも、そいつらに関係ないかもしれないこと邪推して他人に冷たくすんのも……ハァ。でも見たくないものは見たくないし。はーあ、全部俺の考えすぎで済めばいいのに」

「おお急にどうした……」

「…………」

「……よくわかんねーけど、まあ、なんだ。美味いもんでも食って忘れようぜ!」

「……おう、俺の奢りでな!」

「あっはっはっは」

「あっはっはっは」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「お前、予知者なんだよな」

「うん」

「じゃあ前に言ってた猫耳カチューシャがどうのってのも、もしかしてなんかの予知で……」

「………………」

「……………………え、何この間」

『蓋然性に包まれた強さの最終ゲシュタルト崩壊!独りぼっちのサイタマ・ザ・ボイルドエッグ(カッコ)恐怖!怪人を喰らう怒りの猫人間(カッコ閉じ)』!!

「は!!?」

『スーパーシャイニングアンドライトニング!そう、今から貴様に食らわせるこのパンチは、まるで12月のアーバンシティを吹き抜ける一陣の北風のよう!そんな衒学的(げんがくてき)かつ幻想的な会心の一撃、ハイパードリーミングアタックザファイナルからのネバーエンディングエターナルフォーエバーエンドレスセンチメンタルにして、ハイセンスの塊的なフルスロットルゴッドレスロンリネスキャントストップフォーリンラブからの、アズスーンアズファイティングああああああああ俺の脳内にゴミのような情報を流すんじゃねえええええええ!!!!!!!!!!!

 

 

 

 






出典:ドラマCD「サイタマ、テコ入れする」
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