灯火、使徒より賜りて   作:今津

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※オリ主が大きく関わらない部分はカットするのと、書きたいシーンだけ書いているので、シーンが飛び飛びになったり視点がコロコロ変わったりします。



1-2

 

 

パンプキンマンといえば、ヒーロー協会でA級2位に座するヒーローである。

 

彼がヒーロー活動を始めてからこの三年間の間に、ジャック・オ・ランタンは彼の代名詞となった。ハロウィンの時期になるとメディア露出が極端に増えるため、その名を知らぬ者はいないと言ってもいいだろう。もちろんその人気はA級1位の『イケメン仮面』には及ばないが。

 

 

しかし、顔で売っているようなところもあるイケメン仮面とは打って変わって、パンプキンマンの素顔はカボチャに覆われ、一切の謎とされてきた。

 

キングも初めは知らなかったのだ。

彼の素顔も、本名も、性格も、その圧倒的な強さも。

 

 

『お前ほんとは弱いだろ?ちょうど良かった、俺あんま目立ちたくないから代わりに矢面に立ってくれ』

 

 

アポ無し訪問で、初対面で、挨拶もそこそこに、彼はキングの正体を看破した。その瞬間の恐ろしさったらない。思い出すだけで身震いする。

これだけの知名度で目立ちたくないとはどの口が?……とは思ったが、パンプキンマンがその被り物をあっさり脱いでみせたことで、疑問は納得に変わった。

 

パンプキンマンの顔の造形は、あの『イケメン仮面』アマイマスクに引けを取らない美しさだったのである。

なるほど、素顔が知られれば人気は爆発するだろう。彼はイケメン仮面の二の舞を避けているのだとすぐに分かった。

 

 

『ああ大丈夫大丈夫、どうせ死なないから。無問題。キングは死なない。俺が守るもの』

 

 

今度こそ、この睫毛バサバサ男何をふざけてるんだ?……とは思ったが、キングが怪人に遭遇するたびに彼を呼び出し、代わりに闘わせる(ってもらう)と、彼が決してふざけていたわけではないことを思い知った。

 

A級ヒーローの『パンプキンマン』は、あくまで周囲に被害が及ばない程度にだが、怪人を相手に手加減して闘っているときがある。あえて時間をかけて戦い、場合によっては苦戦したように見せているが、よく見れば無傷であることが分かる。

 

一方、キングの『ゴーストパンチャー』は、あらゆる怪人を拳の()()で倒していた。

圧倒的な強さ。天井が見えず、底が知れない。

 

A級ヒーローとして戦う時と、S級ヒーローのキングを隠れ蓑にして戦う時の立ち回りが、全く違うのだ。

 

キングの周囲に野次馬がいて姿を現せない時には、物陰からなんでもない石を投擲して倒すこともある。速すぎて見えない石は怪人の頭を破裂させ、それが結果キングの功績になるというわけだ。

何も知らない民衆は、「キングは視線だけで怪人を爆発させる」とか噂する。とんだお笑い(ぐさ)だ。

 

 

 

 

 

「だから、サイタマ氏と出会った時、あーこれはウィル氏と同じタイプの人間だ……と思ったんだよね……」

「へぇそう……」

 

ちなみに、世間には隠しているが、パンプキンマンの本名はウィリアムという。キングも外ではパンプキン氏と呼ぶが、彼の正体を隠す必要の無い場では、反骨の精神を込めて「ウィル氏」と呼んでいる。

 

「そんなに強いのか?」

「強いなんてもんじゃない……今まで本気を出したことってないんじゃないかな? 少なくとも俺は見た事がない……ウィル氏の"本気"を」

「今まさに本気なんですけど!! おまっ……よく俺の話しながら俺をボコボコにできるよなぁ!!ああ!!」

 

キングの操作キャラクターの必殺技が決まり、"K・O"の文字がテレビ画面に大きく映る。

ウィルは「ああーーー!!」と叫びながら頭を抱えて床にひっくり返った。その拍子に、床に置かれていたジャック・オ・ランタンがころんころんと転がる。

怪人相手なら負け無しの彼だが、ゲームにおいてキングに勝てたことはただの一度もない。

 

他のヒーローと比べれば少しだけ付き合いのあるキングも、ウィルのこういう面を見るようになったのはつい最近からだ。……キングが本当は弱いのを知っていながら『どーせ死なない』とか言う男と、あまり関わり合いになりたくなかったのである。

いつの間にか仲良くなっていたらしいサイタマを通して遊ぶようになるまでは、ウィルがそれなりにゲームをする人間であることも知らなかった。

こうして揃って共通の友人の家を訪ねる仲になるなんて、少し前の自分が聞いても信じないだろう。

 

「ウィル氏は下手でもないけどそれほど上手くもないんだよね。知識が足りない……もっと当たり判定を意識した方がいいと思う」

「はーもうやだ、協力プレイのゲームやろうぜ。対人ゲーはだめだ……」

「ふーん……」

 

今やっているゲームは2人プレイ用なので、サイタマは二人の後ろで観戦しながらかぼちゃ蒸しパンをかじっていた。ウィルが持参した手作りだ。

 

「そういや、ウィルが戦うところって見たことねーな……」

「……そうなんだ?」

「あれ? 通知鳴ってる?」

 

ウィルがポケットをごそごそと漁り、手のひらに収まるほどの小さな端末を取り出す。端末はピーッピーッと音を立てて通知を知らせている。

実はキングも同じものを持っていて、通知にも気付いていたのだが、試合の最中だったので無視していた。

サイタマは見覚えがないのか首を傾げている。

 

「さっきから鳴ってたけどそれ何?」

「最近配られたんだよ。ボタンひとつで応援要請と位置情報が届く専用端末。あーでも……S級が向かったって通知がすぐ来てるわ」

「警報も出てないし大丈夫そうだね」

「……ウィルが闘ってるとこは一回見てみたい気もする……」

 

その呟きを聞いて、ウィルはふっと顔を上げた。

 

「ああ……じゃあ行く?これ」

「え?」

 

彼は誰の返事を待たないまますっくと立ち上がり、床に置いていたカボチャ頭を拾い上げてすっぽりと被る。

ウィリアムは、『パンプキンマン』に変わった。

 

「俺の見立てでは、この"先に向かったS級"はジェノスだ」

「そうなの?」

「さっ、そうと決まれば早く行こうぜ。ムカデ狩りだぁ!」

「ムカデ……?」

 

 

 

 

 

 

 

そして。

応援要請が送られてきた座標、森林公園にて。

三人は、ウィルの言葉通り、巨大な……それは巨大なムカデが暴れ回っているのを見上げていた。

遠目に黒い巨体が蠢くと、地響きが足元を揺らす。

 

「……本当にまた出るとは……」

「見立てっつーか予知じゃね?」

「ハハハまさか……違うよね?」

「………………」

「なんで黙るの!?パンプキン氏!?」

「じゃ、よろしくな。キング」

 

パンプキンマンは露骨に話題を逸らし、キングに拡声器を押し付けた。

 

「はあ……結局こうなるのか……」

「まあまあ。俺が守るから」

 

 

 

 

『ムカデ長老〜!!!おい!!害虫!!お目当てのブラストを連れてきたぞ〜!!!!!』

 

拡声器を通ったキングの声が辺り一帯に爆音で響く。

ムカデ長老と呼ばれた巨大ムカデの動きが止まり、頭部がこちらへと振り返った。

 

「ブラスト……?」

『ああ!!そうだ!!過去にお前が散々叩きのめされてビビって小便漏き散らしながら逃げた相手……ヒーローのブラストだ!!もう一度ブラストと戦いたければこっちに来い!!』

 

ウィルは言った。「あのムカデ、ブラストに瀕死に追い込まれたことがあるらしいよ」。

……実は一介のA級ヒーローが知るはずもない機密情報なのだが、キングが言えば誰も疑いはしないだろう。

 

指定されたセリフを言い終えたキングは、ほとんど叩き付けるようにして、パンプキンマンに拡声器を返却した。

……挑発は終わりかと思いきや、カボチャ頭に開けられた顔の形の穴の、口にあたる部分に拡声器が添えられる。

パンプキンマンは、ダメ押しを叫んだ。

 

『どうした? 怖くて動けなくなったのか? この腰抜けめ! ボロ雑巾みたいな老いぼれムカデ! お前はシラミの卵! カエルの小便よりもゲスな怪人! 腐れネズミのクソにも匹敵するくだらない雑魚!』

「ねぇそこまで言う!?」

「あースッキリ」

「お前語彙独特だな……」

 

パンプキンマンが心做しか清々しそうにしている一方、キングとサイタマはちょっと引いた。

あまりにも聞くに絶えない煽り文句に乗らざるを得なかったのか、ムカデ長老の頭部が声の元へ迫ってくる。

 

「あの……パンプキン氏。周りに巻き添えが出ないようにね? 街の方までふっ飛ばすとかは……」

「おー、わかってるわかってる」

 

……ここでキングが動悸(エンジン)を鳴らしつつもある程度落ち着いていられるのは、パンプキンマンとのこれまでの協力関係が、ある種の信頼を築いていたからだ。

それでも全くビビらないわけではないが。一応二人の後ろに下がったが。

 

次第に大きくなる地響きの中、カボチャ頭の男が、マントをたなびかせてムカデに向き合う。

 

「サイタマ」

「ん?」

「見たいんだろ? 俺が戦ってるとこをさ……でも、この程度じゃきっと……」

「……」

「お前が(もたら)す決着と……変わらない」

「…………」

「……ウィル氏?」

「あと終わってから手合わせしてみたいとか言うのナシだから」

「あーそういうのいいから」

「あのっ、ウィル氏ィ!? ぶつかっ────!!」

 

 

ギチリと握られた拳が、すぐ目の前まで迫ったムカデの頭に、容赦無く打ち込まれた。

 

 

────『()()()()』!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやらこの世界は、()()()()()()()ほどに強くなれるらしい。

死を乗り越える。その数で言えば、ウィリアムはこの世界の誰にも負けはしない。

 

ウィリアムは、転生者だ。

何度も死んでいる。そして、産まれている。

それが"乗り越えた"と判定されるのは些か疑問だが、実際問題そう判定されているようである。

 

腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回。

ランニング10km。毎日きっちり三食摂る(朝はバナナでも可)。夏も冬もエアコンを使わずに過ごす。

ウィリアムは最低限これをこなし、常軌を逸した強さを手に入れる()()を得た。

 

 

この世界の『最強』はサイタマだ。

それだけは揺るがない。

なので、転生者であるウィリアムがそれを超えることはできない。たとえどれほどの資質があろうと、あくまでサイタマの"一歩手前"で頭打ちになる。

そういう仕様になっている。

 

 

 

 

転生者(ウィリアム)最強(サイタマ)を超えられない。

ただし、──追随することはできる。

サイタマが強くなればなるほど、強さの上限は上がり、追随して、強く。

 

 

 

 

 

 

 

 

『マジ殴り』によって、ムカデ長老の長大な体は順に破裂し、崩壊を始めた。

 

 

削られた地面となぎ倒された木々の向こうに、先に着いていたのであろう他のヒーロー達の姿が見えたため、

"ゴーストパンチャー"のカボチャ頭はさっと振り返り、キングの背後に隠れた。

 

「どうだった」

 

ウィリアムは、カボチャ越しにサイタマを見据えて、問いかけた。

 

見たかったものは見れたか。

こんなものを"闘い"と呼ぶのかと、言外に────。

 

「……あー」

「…………」

「……お前、マジで強かったんだな」

「うん? うーん……まあ……」

「……………………」

「サイタマ先生……?」

「あ、ジェノス氏……本当に居た……」

 

その時、ボロボロに破損した状態のジェノスが、木の棒を杖にしてガシャガシャと歩いてきた。ウィリアムの『見立て』通り、先んじてムカデ長老と戦闘を行い、敗北した後だった。

彼は師と仰ぐサイタマが難しい顔で黙り込んでいるのを見て、その前に立っているパンプキンマンの方に視線を移す。

 

「パンプキン……あれは……お前がやったのか?」

「え? ナンノコトカナー……」

「まさか……こんな芸当を可能にする人間が、サイタマ先生以外にも存在したとは……」

「……」

 

ジェノスの言葉にパンプキンマンまで黙ってしまい、キングはおろおろとウィルの様子を窺った。

バラすのか。それとも隠すのか。

 

「あー……悪いけどキングがやった事にしてくんない? 俺順位上げたくないんだよ」

「は?」

 

バラす方だった。

 

「口止め料としてメシ奢るから」

「お、じゃー焼肉行こうぜ」

「いいね。キングも行くだろ」

「あ、うん……」

 

サイタマもしれっと顔を上げて、焼肉屋に行く算段を立てている。

そこに憂いのようなものは見えない。

 

「……先生がそれでいいのなら、俺も構いませんが……」

 

師が言うのなら何か事情があるのだろうと判断し、

ジェノスは思考を放棄した。

 

「まあジェノス君が直ってからな。お疲れ!」

「今日は鍋の気分だからなー」

「先生!白菜がありません」

「じゃ買って帰るか」

「うわっ!? アマイからめっちゃ連絡入ってんだけど……めんどくせぇ……」

「先生、質問したいことが。俺に足りないものはなんだと思いますか?」

「えっパワーじゃね」

「(……この二人、強さの割にホント緩いなぁ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は……、つまんなくねーの?」

「なにが?」

「普段…………」

「…………。まあ……そういう段階は随分昔に通り過ぎたかな……」

「通り過ぎるもんか……」

「ああ。徒花も咲いてるだけで価値があるって思い始める」

「……やっぱ人として大切な何かが失われてるじゃねーか!!」

 

 







※オリ主は多重転生者です。漫画やアニメなどの世界に転生し続けるうちに、自分たちに『オリ主』のような属性が与えられていることを理解したという設定です。
※多重転生者たちは脳内の『転生掲示板』で情報共有していますが、今後、掲示板形式は出てきません。
※同じ世界線に複数の転生者は存在しない設定なのでこの話にオリ主以外の転生者は登場しません。

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