灯火、使徒より賜りて 作:今津
時系列は忍者の里編後〜顔バレ前です。
「パンプキンマンさん! サイン会の件なんですが、予定していた会場が怪人被害で倒壊してしまったようで会場と時間が変更になりそうで」
「パンプキンマンさん! 来週の小学校の避難訓練でお願いするスピーチのことでお話が」
「パンプキンマンさん! Z市商店街のイベントで配布する景品のグッズの最終確認とサインを」
「怪人警報です、災害レベル鬼!」
「パンプキンさん、『緑黄色野菜の歌』の新MVが完成しました!」
「すみません、先日こちらで撮影した写真のデータをお送りしましたので問題なさそうか確認お願いします!」
「パンプキンマンさん! ハロウィンイベントで配るお菓子の内容なんですが最終的にこの内容で」
「ああっパンプキンマンさんやっと見つかった! 協会のスポンサーが主催する月末のイベントにどうしても出演していただけないかと打診が5件ほど来てましてどうしましょう!?」
「Q市のハロウィンイベントの警備の配置計画なんですがA級ヒーローとしての視点からアドバイスを……番犬マンに任せときゃいい? そりゃあ……そうなんですがね……」
「先行したB級ヒーローが5名戦闘不能です!至急現場に向かってください!!」
「はぁあぁ……」
物憂げに伏せられた長い睫毛と、重いため息。
何の変哲もないソファで寛いでいるだけなのに。Tシャツに黒いズボンというシンプルでラフな格好をしているのに。顔とスタイルが良いというだけで、この空間がまるでファッション誌の特集の一ページのようにも見える。
「『パンプキンマン』をやめたい……」
無骨な親指が、カチ、カチ、とコントローラーの丸ボタンを押し込む。
左目に三本の傷を拵えた『人類最強(笑)』の男──キングは、テレビ画面上に表示されるテキストから目を逸らさずに応えた。
「どしたの急に」
「……忙しいんだよ」
テレビ画面の左上に表示される「9月前半」の文字。画面中央に表示されるのは可愛いらしいツインテールの女の子。画面下部の四角い枠には、セリフが表示されている──『もうすっかり秋だね、お兄ちゃん。食欲の秋って言うけど、今日の夜ご飯は何か食べたいものはある?』。選択肢表示──『八宝菜かな』──『もう。お兄ちゃんっていつもそればっかりよね』。
「先月くらいから仕事の打ち合わせが増えてて……今週入ってからは毎日、どこからか電話かメールが来る……」
「ウィル氏って意外とそういう仕事するんだね」
「それがな、なんか俺の知らないうちにいつの間にか仕事受けてることになってんだ」
「……」
確証は無いがほぼ間違いない犯人の顔が頭に浮かぶが、それは互いに同じだろうと思い、口には出さなかった。
テレビ画面の左上に表示される「9月後半」の文字。画面中央に表示されるのは可愛いらしいツインテールの女の子。画面下部の四角い枠には、セリフが表示されている──『来月の文化祭、うちのクラスで仮装カフェすることになっちゃった。それで、その……お兄ちゃんから見て、私ってどんな仮装が似合うと思う?』。選択肢表示──『八宝菜かな』──『もう。お兄ちゃんっていつもそればっかりよね』。
「今月末のスケジュールが立て込んで……一昨年も去年もここまでじゃなかったのに……はぁ〜」
「大変だね」
「全部向こうの方で済ませてくれりゃいいのになんで俺が監修しなきゃなんねーんだ」
「いや本人監修は大事だと思うよ」
「『パンプキンマン』にキャラ解釈もクソもないだろ……!? 俺はヒーローであって、タレントじゃねーから! ブランディングもない!」
そもそも子供向け番組に出演したり、子供向けアニメとコラボしているのは、ウィル自身の意思ではない。なんか知らないが勝手に仕事用のメールアドレスが漏れてて、どこからともなく仕事が舞い込んでくるのだ。
しかも既に引き受けてることになってるので、相手方である程度プロジェクトが進んでしまっていて断りにくい。結局あれよあれよと仕事が完了してしまう。
「そういう事務的なやり取りが嫌なら、個人でマネージャーでも雇えばいいじゃん」
「んなことしたらそれこそタレントの始まりだ。俺がやりたいのは『ヒーロー』であって、女性週間誌の表紙じゃねーんだよ……」
先日行われた写真撮影で、やたらシックな色合いの背景の中でデカいソファに座らされてキメキメのポーズを取らされたことを思い出す。露出こそないものの無駄なスタイルの良さがはっきりと写されて、覆面でもどことなくイケてるカボチャのように見えた。それが再来週の発売号の表紙になるのだ。そういう売り方をしたくないからこそカボチャを被っているというのに!
「関係者を増やせば素顔をすっぱ抜かれるリスクが高まるし、「キミみたいな人間はパンプキンマンに相応しくない……」とか言っていびりそうな奴もいるし」
「それはそだね……」
テレビ画面の左上に表示される「10月前半」の文字。画面中央に表示されるのは可愛いらしいツインテールの女の子。画面下部の四角い枠には、セリフが表示されている──『お兄ちゃん……最近帰りが遅いよね』。選択肢表示──『文化祭の準備だ』──『あの大人しそうなクラスメイトの子と、こんな遅くまでずっと一緒に? いつもは私と家族の時間を過ごしてくれるのに……お兄ちゃんの周りに私以外の女はいらないのに……』。
「でも『パンプキンマン』やめたところでウィル氏じゃ『イケマント』とかになるんじゃ」
「もしそうなったら『ヒーローネーム被害者の会』総出で協会の幹部連中を潰す」
「なぜだろう……俺には今の言葉が冗談に聞こえない……」
「くそっ……! 確かにそう考えるとやはり『パンプキンマン』のまま年一の繁忙期を受け入れるしかねーのか……!?」
テレビ画面の左上に表示される「10月後半」の文字。画面中央に表示されるのは可愛いらしいツインテールの女の子(仮装差分)。画面下部の四角い枠には、セリフが表示されている──『あっ、お兄ちゃん、いらっしゃいませ! ど、どうかな、この仮装。似合ってる?』。選択肢表示──セーブしてから下の選択肢を選ぶ──『八宝菜じゃないんだな』──『……どうして? どうしてそんなこと言うの? あいつには可愛いって……似合うって言ってたのに……! やっぱりあの女が……!』。
「うん、マネージャーとか税理士とか雇った方が絶対……」
ピリリリリ、と近くで着信音が鳴った。
ウィリアムが自分の携帯端末を取り出し、画面を見て頭を抱える。
「やべぇ……アイツからプライベート用の方に電話かかってきてる……仕事用の方の電源切って家に置いてきたのバレたか……?」
「ウィル氏……それはヒーロー以前に社会人としてどうかと思うよ」
「お前が社会人を説くのか……。くそっ、またスケジュール調整だろ……やっぱマネージャーいた方が……でもなぁ」
「………………」
そこでキングは初めてテレビ画面から目を離し、ウィリアムの方を振り向いたが……。ウィリアムは無駄に綺麗な顔を顰めながら、携帯の着信に応答するか考え込んでいたので、キングのなんとも言えない視線に気付かなかった。
「ちくしょー……もう今日は帰るわ。電話出んのは家に着いてからでいいだろ」
「あ、そう……」
「あっ。忘れてたけど、そういやこれ渡しに来たんだった」
ウィリアムが持参した紙袋から布を取り出す。
キングがそれを受け取ると、それはキャラもののプリントTシャツだった。
「この前ヤキイモモンガとコラボしたときのグッズとスタッフから貰った非売品のTシャツ。この袋に入ってっから」
「ありがとう友よ……。俺は戦闘面では力になれないが仕事の愚痴くらいなら聞ける。遠慮せずにいつでも
「サインしてやろうか」
「それは要らない」
「なんでだよ」
ウィリアムは紙パックのジュースの残りをズゴゴと吸うと、トレードマークのカボチャを被ってソファから立ち上がり、勝手にベランダの窓を開けた。
残暑を和らげる爽やかな風が吹き込んでカーテンを揺らす。
「ここの鍵閉めといてくれ」
「お土産ありがとね」
「おー、こっちこそ匿ってくれてサンキュー。また今度な」
キングの方に振り返って軽く手を挙げたパンプキンマンは────ベランダに置いていた靴を履くと、軽く飛び上がってマンションの22階の高さから落下していった。
キングは、ベランダの窓を鍵までしっかりと閉めた。
窓越しに見た空は美しい秋晴れだ。あのヒーローは今日もこの空の下を跳ねて飛び回っていくのだろう。
ウィリアム曰く。彼の仕事用の携帯にはGPSのアプリが勝手にインストールされているため、“アイツ”が訪ねてきたときには居留守を使っても意味がないらしい。
「変なイケメンに目をつけられるノルマでもあるのかな……」
テレビ画面には、ゲームの中のヤンデレ美少女がその
村田版アマイマスク編の背景モブの服装に半袖と長袖が入り交じっているので、人によっては肌寒く感じる季節のようですが、
現実の残暑が30℃とかでクソ暑くて長袖なんか着てられないのでこの作品内では10月下旬頃ということにしています。
ヤンデレ妹の元ネタは言わずもがな、ニコニコで大量にMADが作られているアレです。八宝菜。