灯火、使徒より賜りて 作:今津
ヒーロー協会本部、応接室。
大きな窓の外に広がる荒野は夜の闇に包まれ、はるか遠くに街の灯りが小さく見える。
広い部屋の中央に置かれているL字型のソファに、手足を投げ出してだらしなく寝転がる男がいた。
……だらしないというか、整った顔も型なしなほど、魂が抜けて正気を失ったようにぼけーっとしていたのだが。
「……パンプキンマン?」
「はっ……!?」
『パンプキンマン』と呼ばれた青年は、声をかけられてはじめて誰かに見下ろされていることに気付き、無駄に大きな目を丸くしてバッと上体を起こした。
数秒呆然としたあと、ソファの前に仁王立ちしている人間を見上げて、パチパチとまばたきをする。
「────
「……」
他人の覚えが悪いパンプキンマンにとって、顔と名前がすぐに一致する相手は数少ない。
協会幹部のシッチは、その数少ないうちの一人だった。特に個人的な関わりがあるというわけではないが、そうなのだ。
シッチは小さく息をつき、無駄に大きな目で見上げてくる青年の顔を見下ろした。
かつて覆面で活動していたA級ヒーロー、『パンプキンマン』。つい最近明かされたその素顔は……確かにイケメンだ。しかし今は顔つきに疲れが隠せていない。
「応接室で寝ている人間がいると部下に言われて、様子を見に来たんだが……こんなところで何をしている」
「あー……次の移動まで30分くらい休憩があって……あっ今何時だ……あと5分」
「……そうか……今日は10月31日だったな」
つまりは『パンプキンマン』というヒーローの、一年で最も忙しい日というわけだ。
特に今年は、今までほとんど広報担当だったヒーローの『イケメン仮面』がスキャンダルで消え、同じタイミングで彼の整った素顔が世間に知れ渡ってしまった。イケメン仮面に次ぐ順位だった彼に全てのしわ寄せが押し付けられているのは、シッチも把握していた。
さらにはネオヒーローズの台頭や、ハロウィン需要で競合していたゾンビマンと連絡が取れないなど、様々な要因が重なってしまっている。
ハロウィンという日はただでさえ民衆が浮き足立ち、それに当てられた怪人の活動も活発になる傾向にあるというのに。退治とは全く関係のないところでヒーローが駆けずり回って気疲れしているのには、“サポートする側”として不甲斐なさを感じざるを得ない。
……と、シッチが少し思考している間にも、パンプキンマンは再びぼけーっとしはじめていた。
「大丈夫か? 水でも持ってこよう」
「あー、いいよ、ありがとな」
「そうか……」
「挨拶回りとか一応頑張ろうと思ったんだけどさぁー……、昨日の今日でショックで全然やる気出なくて」
「昨日……? 何かあったのか」
放置するとそのまま五分が経ってしまいそうで目を離すのもはばかられたため、話を膨らませてやる意味で一応、尋ねてみると。
彼は気の抜けた顔のまま、視線をシッチの方によこした。
「信じたくないもんを視ちまって……」
「…………」
そこまで親しくないので根掘り葉掘り聞くという選択肢はないが、それを聞いた瞬間、シッチの脳裏には“信じたくないもの”の可能性がいくつか過ぎった。
「そ、そうか……」
「薄々察してても、信じたくなかったから、どうしても都合のいい解釈しちまっててさぁ……」
「そうだな……」
「あ。トリック・オア・トリート」
「え?」
自分の人生と重ねてしんみりしかけたが、パンプキンマンは突拍子もなく話を変えて、ソファの脇に置いてあった紙袋をシッチに押し付けた。
袋の中を見てみると、可愛らしくラッピングされたスイートポテトが大量に入っている。
「俺の手作りだから。信用してくれていいぜ」
「あ、ああ。ありがとう」
「(言う方が渡すのか?)」と困惑するシッチをよそに、パンプキンマンはソファから立ち上がってカボチャを被った。
そうしていれば、見慣れた姿だ。やつれている顔は隠される。
「俺も、あんたのことは信用してるからさ」
「……我らの『パンプキンマン』にそう言ってもらえるなら光栄なことだな」
「はっはは」
その時、応接室の扉が開いた。扉の向こうに、地味だが見慣れない顔の職員が立っている。
「パンプキンマン……さん。お時間です」
「おー……じゃあな、シッチ」
「パンプキンマン。私が言えたことじゃないが、無理は禁物だ。君の本分はヒーローで、怪人との戦いなのだから」
「俺としてもそうしたいのは山々だけどな」
長い足で歩き出したパンプキンマンは、応接室を出る直前、振り返る。
「あんたが死ぬ未来が視えないように、祈ってるよ」
「…………『未来』?」
オリ主:悪い やっぱ辛えわ
あの世界の暦がよくわからないのですが、とりあえず10月31日がハロウィンということにしておきます。
突貫工事が間に合いませんでした。
ONE版……10月30日更新……第156話……。