灯火、使徒より賜りて   作:今津

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ムカデ長老が出現し、その場で倒された、翌日。

 

ヒーロー協会の会議室。

招集に応えたS級ヒーロー達による、『怪人協会』への対策会議は、……ただでさえまとまりがなかったが、途中で乱入してきたA級ヒーローのアマイマスクの発言により更に剣呑とし始めていた。

売り言葉に買い言葉で、S級「閃光のフラッシュ」が殺気を発し、一触即発の空気の中────。

 

 

「アマイ!」

「ッ!?」

 

第三者の鋭い声が部屋中に響き渡り、アマイマスクがびくりと肩を震わせた。

 

S級ヒーロー達が入口の方に視線を向けると、そこにはカボチャを被った珍妙な男が仁王立ちしていた。

見覚えがある。A級次席。アトミック侍の弟子たちをひとつ()()()()()()()、2位に位置する男。

 

「パ、パンプキンマン……? 君、今までどこに……」

「ちょっとZ市にな。キングも一緒だったけど着替えに行ってる。ってかそんなことよりお前、また喧嘩売ってただろ!」

 

ずんずんと歩み寄ってきたパンプキンマンは、あろうことかアマイマスクの額を指でつつき、叱責した。

プライドの高い彼のことだ、一体どんな罵詈雑言が飛び出すかと、童帝は顔を顰めて身構えたが────。

意外にも、アマイマスクはつつかれた額を押さえて黙り込んだ。

 

「(あれ……?)」

「(……?)」

 

他のヒーロー達が目を疑う中で、パンプキンマンの説教は続く。

 

「噛みつきゃいいってもんじゃないぞ。言いたいことがあるのは分かるけど、言葉選びは大事だろ」

「…………」

「アマイ」

「…………」

 

アマイマスクは目を逸らして返事をしない。

 

「……ハァ。童帝」

「えっ? はい」

 

呆気にとられていた童帝に、カボチャの顔が向けられた。

 

「悪いな。見ての通り、俺もコイツも指揮とか向かない」

「おい」

「はは……」

「俺も突入するから」

「……え?」

「地上の指揮についてはセキンガルがいれば十分だよ。それに……イアイアン、オカマイタチ、ブシドリルが参加して、アマイが突入を強行するなら、俺だけ除け者にされるのも癪だしなハハハ」

「えぇ……!?」

 

アマイマスクを制御できる人間が現れたはいいが、事態は何も好転していなかったらしい。むしろ悪化している。

 

「フゥ……そう、そもそも彼の実力を見誤っているのが問題だ……この男が度を越して謙虚であることを加味してもまさかこんな重要な作戦を立案する側が彼の本来の実力を把握できていないとはね……彼はこの部屋にいる誰よりもつよ」

「おいふざけんなそのベクトルで喧嘩売ると俺に飛び火するからマジでやめろ」

 

パンプキンマンはアマイマスクの体を無理やり反転させると、背中を押して出口まで歩き出した。

 

「とりあえずこの場は退室するけど、突入はするからそのつもりでよろしくなー。アマイ、お前は向こうで俺とお話しような」

「それを言うなら僕も君に話すことがあるぞ。なぜコンサートを無断で抜け出し……」

「失礼しましたー」

 

扉が閉まり、嵐が去っていく。

 

…………誰も言葉を発さなかったので会議が中断しかけたが、キングが到着したことによりなんとか持ちこたえた。

 

 

 

 

 

 

その後。

 

パンプキンマンは、宣言の通り、怪人協会のアジトの中に突入していた。

 

といっても、通路をうろうろと彷徨い歩き、出てくる怪人を片っ端から殴り飛ばして時間を潰していただけで、それ以外は特に何もしていない。

最初こそアマイマスクと共に行動していたが、早々に手分けすることを勧められて別れ、それからしばらくは上層に留まって地上に出ていきそうな怪人を倒して回っていた。

 

おそらくサイタマやタツマキの攻撃の余波であろう大きな揺れが何度か起こったのを確認してからは中層へと向かった。

その際、幹部"育ちすぎたポチ"がフブキ達を追って暴れ始めたのを見かけ、彼女らと別行動で一人にされたのであろうキングの元へ向かうと、いたく感激され、それが終わればそもそも最初から行動を共にしなかったことを責められ……めんどくさいなと思った。

 

その後、人質となっていた少年のタレオ君と無事に合流し、地上を目指してかなり長い階段を昇っていたのだが……。

 

「あっ! 見て! エレベーターがある!」

「おっ、良かったなキング」

「ハァ……ハァ……ご……ごめんパンプキン氏……」

 

タレオがパッと表情を明るくして階段脇の廊下へ駆けていく後ろで、パンプキンは早々に体力が尽きてバテたキングの背中を押していた。(……自分が二人を抱えて飛んだ方が絶対に早いが、パンプキンマンはキングの尊厳と、子供の夢を壊さない方を優先した。)

 

「あー、でもこれは……三人は乗れないな」

 

見つけたエレベーターの前に立ってみたが、カゴが丸出しで、しかも大人二人でギリギリという幅だったため、三人で乗ると腕とかがはみ出て安全性が保証されなさそうだ。

この場にいるのは、本当は一般人並な男、人質だった子供、ワンパン手前ヒーローの三人。

このエレベーターに誰が乗るべきかは、考えるべくもない。

 

「キングはタレオ君の護衛を頼む。俺は残るよ」

「あ、ああ……了解」

「パンプキンマン、頑張って……!!」

「うん、ありがとな」

 

「のぼり」と書いてある方のカゴにパンプキンマン以外の二人が乗り込み、キングがエレベーター内のレバーを引くと、釣り合い重りになるバケツに水が注がれ始めた。

地味に時間がかかりそうなそれを三人で眺める。

……。

 

「連絡入れとくか……」

 

パンプキンマンは、童帝に頭を下げて手に入れた通信機を取り出し、スイッチを入れた。

 

「こちらパンプキンマン、今人質を────」

『よるなァアッ!!!』

「うえっ!?」

「は? 何?」

『アマイマスク!?』

 

大音量で流れた悲鳴に、タレオが肩を震わせた。

悲鳴の後に聞こえてきた声はタツマキのもの。

 

『すっすまないつい……パンプキン、聞いているのか!? 至急応援に来てくれ!! 精神攻撃を得意とする厄介な幹部が』

「うわ名指しやめろ」

『厄介な幹部が出たくらいで応援呼ばないでくれない?自力で倒せないなら最初から地上で待機してなさいよ』

『君には言ってない!! ハアッハアッ……パンプキン、僕と相性が悪いと言えば分かるな!?』

「あーもう……分かったから……」

『場所は……!』

 

通信機から爆発音が聞こえて、同時に周囲が揺れ、音声にノイズが走る。

 

『ッ……そんな暇があるなら! 誰でもいいからサッサと人質を救出しなさいよ……!!』

「その事で通信してんだよ! 人質の子と合流できたからキングが地上まで護衛中! アマイが遮るから……」

『────流石だわ、キング』

「タツマキが助けてくれるってよ。良かったな」

 

アジトがまた一際大きくグラグラと揺れた。

振動で壁の一部が崩落し、その岩がエレベーターの釣り合い重りの中に落下したことで、エレベーターが跳ね上がり────キングとタレオは悲鳴を上げながらも高く登っていった。

 

パンプキンマンはというと、エレベーターが登っていった直後、背後から飛びかかってきたベロの裏みたいなにくにくしい何かを反射的に殴り飛ばしたあと、それが"肉の根"と呼ばれるサイコスの一部だったことに気付いた。というか思い出した。

そして、思い出したからなんだという感じで、タツマキのバリアに包まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

地下にあったはずの怪人協会のアジトは、タツマキの手により地上に隆起した。

バリアに乗せられたヒーロー達がアジトの外に吐き出されると、タツマキはZ市全体を捻りながら、アジトごとサイコスと肉の根を地上へと掘り起こし、絞り上げた。

 

もはや建築物だった面影もない、螺旋状の"柱"の上空で、飛行能力を持つタツマキ、ジェノス、駆動騎士が、戦闘機のような姿になったサイコスと激戦を繰り広げている。

 

パンプキンマンはそれを見上げ、何もせずにいた。

 

「うーん……。空は飛べないからなぁ……」

 

瓦礫を投擲することはできるが、バリアに穴が開かないとも限らない。

とりあえずこの場はタツマキ達に任せることにして、頭上で輝く光線から視線を逸らすと、他のヒーローの元へ歩き出した。

 

「(参加したって何も出来ないんだよなぁ)」

 

パンプキンマンという異物は、"神"に与えられる視点での全ての情報を得ることができるが、全ての情報を識るからこそ、下手な行動に出られないところがある。

完結していない以上、何がきっかけで事態が好転しているか未知数なのだ。

 

「(存在意義については……最初からそんなもんないとは思ってるけど……)」

 

そもそもどんな敵もサイタマさえいれば事足りる。

後追いにしかならない自分は、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という言葉を体現している。

 

サイタマがヒーロー登録をする前──つまり本編突入前までは、拳ひとつで心置き無くヒーロー業に取り組み、A級のトップランカーにまで上り詰めたが。

近頃は、話の本筋を壊さないように、何が起ころうと黙って見ているようなシチュエーションが多い。

 

「(それってヒーローとしてどうなんだろう……)」

 

圧倒的な力を持ち、それを求める人々がいると理解していてなお、それをあえて持て余しているなど……。

 

 

 

鬱々と考えていて、ふと顔を上げると、前方に誰かが立っていた。

A級3()()のイアイアンだった。

 

彼の視線につられて、パンプキンマンが自分の足元を見ると、見慣れた男がうずくまっていることに気付いた。

あと一歩前に出ていたら蹴っていたかもしれない。

 

「……」

 

その場に屈んで、視線を合わせてみる。

カボチャ越しには視線もクソもなかった。

 

「大丈夫か?」

 

見慣れた男、アマイマスクは、はっと顔を上げてこちらを見た。

パンプキンマンが傍に寄っていたことにも気付かなかったのか、目を見開いている。

 

「ほんとに顔色悪いぞ、お前」

「……!! ふッ……ふぐうう……オオオ……!!」

「おまっ……おお……」

 

パンプキンマンは、突然頭を地面に叩きつけて悶絶しだしたアマイマスクにドン引きしたが、それ以上特に慰めることはせず、イアイアンの方に視線を向けた。

イアイアンは当然だがぽかんとしていた。

 

「イアイ、聞いていいか?」

「え? あ、ああ……」

「こいつ……人殺してないよな?」

「!!」

「あぁ……」

 

もはや土下座のような姿勢になっているアマイがビクリと反応し、イアイは表情を険しくする。

 

「いや……」

 

────嫌な想像が頭をよぎる。

 

「……殺しかけた。止めはしたが……」

 

……二人には悟られないよう、胸を撫で下ろした。

 

「……いったい何のハナシだ? 身に覚えがないな」

「はあっ? イアイが嘘つくわけないだろ。侍だぞ」

「うぐっ……」

「……」

 

パンプキンマンがアマイの頭をべしっと叩く。

(……イアイは、ほぼ面識のないパンプキンマンに愛称で呼ばれ、「侍だから」という理由で信頼されていることに居た堪れなさを覚えた。)

 

「突入前にあんだけ釘刺したのに……。お前の言う正義は過激すぎだ。もっと大衆が求める正義にチューニングしろよ」

「ぐうぅう……」

 

アマイは呻き声を上げるだけで、返事はない。

ぐうの音は出ているようだが。

 

 

……ウィリアムは、覆面の下で目を伏せた。

 

「(…………『オリ主(おれ)』が言ってるんだから、もう少し刺さってほしいもんだが……)」

 

A級トップランカーのライバル(?)として、そして多少の顔見知りとして彼と関わったからには、たとえこの先にどんな未来が待っていようと、少しは気を楽にして生きてほしいと思う。

 

それでも、原作通り(あたりまえ)の行動を咎めるのは、筋違いなのかもしれない。

現に、自分が何度言い聞かせようとアマイマスクの喧嘩腰は直らないし、協会から「拘束しろ」と言われた敵をあえて殺したりする。

 

何も得たものがない。

 

 

 

「……俺が間違ってるのかな……」

「……!!」

 

ため息混じりに小さくこぼれた言葉は、意外にもはっきりと聞こえてしまったのか、アマイがバッと顔を上げて振り向いた。

 

綺麗に形作られた顔が、唇を噛み、眉間に皺を寄せ、なんとも言い難い表情を浮かべている。

 

「君は、間違ってないッ……」

 

──何かを堪え、辛うじて絞り出したような、そんな声。

 

「…………そう思ってんなら改めろよ」

「……分かってる……!」

 

アマイは捨て台詞と共に立ち上がり、パンプキンマンを置いて、S級ヒーロー達が集まる方へと歩いていった。

 

その背中を見送り、「ふう」と息をついて腰を上げる。

 

「監督不行届ってやつか……」

「……お前は十分やってるんじゃないか?」

「そうだといいけど。ありがとな、イアイアン」

「いや」

 

イアイアンは首を振った。

 

「少し……安心した」

「………………。あいつは真面目なだけなんだ」

「そうか」

「見てろ、今からクロビカリにキレる」

「キレる?」

 

 

 

イアイアンがパンプキンマンの後について行くと、「心が折れた」と自称し蹲っているクロビカリがいて、アマイマスクはそれを激しく叱咤していた。

 

イアイアンは、「(情操教育をしているんだな……)」とパンプキンマンを改めて見直した。

 

なお、このアマイマスクの言動は原作(もと)からであり、パンプキンマンは関与していないため、少々的外れな評価なのであった。

 

 

 

 

 

 

────────

 

────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャック・オ・ランタンは、血溜まりに浸った人型の肉塊を見下ろしていた。

 

「俺みたいなのは人としての何かが欠落してるらしい」

 

静かに、語りかけるような独り言を呟く。

 

「強くなりすぎると……、喜びとか怒りとかわかんなくなるんだ。……俺みたいなのは、みんなそう。何かに縋らなきゃ、まともな精神じゃいられない」

 

………………。

 

「まったく、生きるのに向いてりゃヒーローには向かないし、ヒーローに向いてりゃ生きるのには向かないな。二者択一だぜ」

 

…………。

 

「…………」

 

……。

 

「………………」

 

……。

 

「………………」

 

……。

 

「……えーと、影響は。クロビカリ……は黄金精子でいいとして。ゾンビマン……、剣聖会……。それから……タンクトップと……童帝と……タツマキと……キングと……あーめんどくさっ、深いこと考えないようにしようかな」

 

「…………、……、」

 

呼び声が聞こえる。

足元から。

 

「…………ああ、俺がすがるものはお前だな」

 

パンプキンマンは、自らのマントを外して、肉塊に被せると。

代名詞と言えるカボチャの覆面を、おざなりに脱ぎ捨てた。

 

「いいトシして……嫌になるぜ」

 

 

 

 

 

「なんだ……独り言か?」

「仲間を殺られてガン無視たぁ……えれぇヒーローがいたもんだな」

 

怪人協会幹部、"ホームレス帝"と"黒い精子"は、この時ばかりは「困惑」で心をひとつにした。

 

童帝、ゾンビマン、アマイマスクの三名は、それぞれホームレス帝の巨大光球に消され、ブサイク大総統に踏み潰され、引き裂かれて肉塊と化している。

その戦闘とも言えぬ一方的な殺戮の中でも、アジトだったものが巨大な光の槍になって地面にめり込んだ時にも、そのカボチャ頭の男は、何のモーションを取ることもしなかった。

仲間の成れ果ての近くに寄り、でかい独り言を呟いていただけだ。

 

瓦礫がボゴッと盛り上がり、その下から幹部の"ブサイク大総統"が姿を見せる。童帝を仕留める直前でホームレス帝に水を差されたことで腹を立てていた。

 

「てめ〜いい所で獲物横取りしやがって……」

「やりたい放題なんだろ? それより……見ろよ、協会のデータにもなかったパンプキンマンの素顔だ」

「ああ?お前……」

 

ホームレス帝が、カボチャを脱ぎ捨てたパンプキンマンを指差す。

パンプキンでなくなった今、残ったのはただの(マン)だが。

その姿を捉えたブサイク大総統は、巨体を歓喜に震わせた。

 

「中身糞イケメンじゃねぇか!だせぇヘルメットでわざわざ隠すとかふざけたことしやがって……イケメンにはイケメンなりの苦労があるだとかほざくんだろうなァ〜!」

「……」

「ヒヒヒ……アマイマスクはもう殺っちまったからなァ……テメェはたった今、俺の嫌いなヒーローランキングのトップに躍り出たぜェ」

 

ブサイク大総統が男に迫り、はるか頭上からその顔を見下ろす。

長い睫毛が滑らかな頬に影を落としている。

 

「テメェも俺と同じツラにして……その御尊顔を隠す理由を変えてやるよ!!」

「うるさい」

 

突如、"ドンッ"という音がして────醜悪な巨体の腹に大きな風穴が開き、瓦礫の上に何かの体液がビシャリと飛び散った。

 

「──あ……?」

 

ブサイク大総統は、自らの内臓を目撃した後、その場に崩れ落ち、絶命した。

 

「「は?」」

 

残された幹部二名は、唖然とした。

怪人協会で幹部と認められる怪人は、ギョロギョロの審美眼で災害レベル『竜』相当と認められた者のみ。ブサイク大総統もその一人だ。

 

パンプキンマンはその場で拳を突き出していた。

 

技名も、気合いの雄叫びを上げることも無く。

ただ普通に()()()()()

 

目の前の死骸を見下ろしていた男が、ゆらりと振り向く。

ホームレス帝と黒い精子は、すぐに男に対する警戒を強め、身構えた。

冷や汗が吹き出し、本能が警鐘を鳴らす。今まで感じたことの無い規模の、得体の知れない『圧』────こいつはマズい奴だと!!

 

「深く考えるのはやめるわ……。あー……黒い精子、今はまだ見逃してやるからどっかいけ。ホームレス帝、お前はここで消す」

「……おい、ご指名だぞお前」

「っ……何を────」

 

ホームレス帝の光パワーは"カミ"の力に拠る。常人が触れれば蒸発する代物だ。どれだけ膂力の凄まじい人間であろうが、こちらの攻撃が当たりさえすれば関係ない──。

頭上に掲げた手に集まったエネルギーが、元カボチャ男に向かって急速に飛んでいく!

 

「弾幕じゃねーのか?やる気出せよ」

「は?」

 

男は、飛んできた光球を指でぺちんと弾いた。

軌道を曲げられた光の玉はホームレス帝を掠めてすぐ横を消し飛ばす。黒い精子がいた場所だが、跡形もない。

ホームレス帝は思った──光パワーって、触れるのか?

 

「細胞……54兆もありゃ大して減ってねーだろ」

「クッ、ブサイクは我々の中でも最弱────」

「服燃えるからやめろ」

「ぐえッ!?」

 

ホームレス帝は、『神通力』を除けば一般人くらいのスペックしか持っていない。

ただの生身では、()の速ささえ超えて間合いを詰めてきた元カボチャ男に対応出来るはずもなく、無抵抗に首を掴まれ瓦礫に叩きつけられた。光パワーに耐えうる肉体ではないため、間合いを詰められた時点でホームレス帝に攻撃手段はなくなる。

 

男の手が、首をキリキリと絞める。

血流が、酸素が────。

 

「祈れよ」

「えっ、?」

 

男はそんなことを言いだした。

影の落ちた端正な顔が、血管を浮き上がらせながらも笑顔に歪む。

 

「救われたいって気持ちには理解があるつもりだからな。俺は宗教家には親切なんだ。それに、神通力以外普通の人間って奴の首を手折るのも気が引けるんだぜ……」

「は……、ひ、ヒィ……ッ!」

 

影の中で、両の瞳がギラギラと輝いている。

およそヒーローの顔ではない。

 

「さあ、聞かせてくれ。信ずるものの名を唱えろ。俺に説法してみろよ。さすれば、汝、救われん」

 

──これは、尋問だ。

 

「ひ、ッか、っか……!! ……かっ……"神"……は……ッ!」

「カミ……ね」

「……!!!」

 

帝は怯えに表情を歪ませ。

 

彷徨える魂(ウィル・オ・ウィスプ)は、笑みを消した。

 

 

 

 

 

 

 

ウィリアムは、塩の山を踏みにじり、立ち上がった。

手袋についた粒もぱっぱと払い、首を回して、ため息を吐く。

 

「……これがこの後どう響くかだな…………」

 

…………。

 

「……ま、なんとかなるだろ。気にしない気にしない」

 

深く考えないことにしたばかりだ。

辻褄が合うことを祈るしかない。

 

瓦礫の上に転がっていたジャック・オ・ランタンを拾い上げ、もう一度、頭に被り直す。

 

「パンプキンマン再開」

 

そうだ、自分はヒーローなのだから。

人命は救われた方がいいし、痛みは少ない方がいい。

たとえ羽ばたくものが現れたとしても。

きっと、……そうに違いない。

 

「……アトミック侍とイアイがエビル天然水……マスターと豚神がハグキ……イサムはプリズナーが見つけてくれるとして……タツマキが心配だ……」

 

今後の動向を指折り数えて思案していると。

 

「パンプキン」

「……復活早いな」

 

後ろから声をかけられ、振り返る。

瓦礫に凭れた男の体は、皮膚もなく大半が欠損していたが、声を発する器官は回復したようで、目玉だけはしっかりとカボチャ頭を捉えていた。

 

「ゾンビマン」

「一分もかからず決着をつけた男が言うことか?」

「ここは片付いた。童帝は無事だが、瓦礫に埋まっているようだからプリズナーに任せよう。俺は向こうに加勢に行く。お前も完治次第来いよ」

「まあ聞けよ。あとしばらくかかる。流石に死ぬかと思ったぜ」

「……はあ」

 

思考を回す。

パンプキンマンがブサイク大総統を始末したことで、(ゲロ)ブサイク大総統の出現は防がれたため、剣士系のヒーローがフリーになるはずだ。剣聖会は勿論、弟子のバネヒゲたちも戦力に数えて申し分ないと考えられる。

ホームレス帝の退場が早まったことで、タツマキの負担も減ると見ていい。

 

……焦るほどでもないか……。

 

「……それで?」

「色々と聞きたいことがあるんだが」

「聞けっつったり聞きたいっつったりお前……どっちだよ」

「悪い悪い。教えてくれないか?」

「なにが」

「お前が知っていることを全て」

「………………はぁ?」

 

────さすがの転生者(ウィリアム)も、これには度肝を抜かれた。

ゾンビマンは薄らと微笑んだまま見つめてくる(口角が回復している)。不死身の余裕により放たれた、あからさまな懐疑心。

 

「…………」

 

パンプキンマンは様々な言葉を飲み込み、うーん、と唸った。

 

「それは、この世の全てだぞ」

「ああ、そうなんだろうな」

「冗談に決まってんだろ」

「冗談? ははは」

「頭大丈夫か!? ……あ、まだ治りきってねーか」

 

どう考えても無駄話をしている場合ではないのは、ゾンビマンも分かっているだろう。

すなわち奴はこの会話に何かしらの価値を見出しているということだ。

……()()を知っているなどとフかす男をまともに取り合うなと言いたい。これも全てはこの世界にガチ予言者なんかが存在するせいだ。恨むぞシババワ。

 

「……"全て"を識ることが必ずしも最善の結果に繋がるとは限らないんだよ、6()6()()

 

…………。どう答えるかと迷った末、ゾンビマンならと、正直に打ち明けることにした。

 

「……!」

「お前は俺と違って祝福を受けて生まれた存在なんだから、原作通り(ありのまま)動いた方がこの世のためだ。そこに余計なノイズは不要」

「…………」

「それに……俺のコレは万能じゃないんだよ」

 

ウィリアムのこれは、予言ではなくただの「知識」である。

そのため、変に知識を得たキャラが原作(シナリオ)と違う行動を取ってしまっては困る。

 

「……分かった」

「それでいい」

「だが……」

「"だが"?」

「せめて……ホームレス帝の言っていた"カミ"とやらについて……言える範囲で情報をくれないか?」

 

……。

 

「ゾンビマン」

「奴が言っていたことが真実なら、対策は必要だ」

「ドア・イン・ザ・フェイスはやめろ」

 

……ゾンビマンは、静かに、筋肉剥き出しの口角を上げた。

 

「ダメか」

「教えるけど」

「俺が言うのもなんだがお前それでいいのか……?」

「必要だろ……?」

「どういう基準なんだ……」

 

 

 

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