灯火、使徒より賜りて 作:今津
『ありがとう……』
放射能汚染された死の土地に独り残されたウィリアムは、何をするでもなく、ただ
雨は止んで、霞みがかった月が輝いている。
背後には、愛する者たちの折り重なった遺体。
「……あっはっはっはっは……」
暗闇と静寂の中、わざとらしい笑い声が響く。
「いや〜……『ありがとう』だって……そこまで言われちゃ、今の俺にできることなんて何もねーよ」
誰に聞かせるでもない、要領を得ない独り言は、いま口にした全てはいずれ時空の狭間に消えるという確信によるものだった。
誰もが倒れ、誰もが去り、誰も見ない。
正真正銘、独りきり。
「『何してんだ』って、言ったってお前は忘れるだろうに。全部終わった後に見る
知らなかったなら、何でも言っただろう。
いや、それ以前に、知らなかったなら懸命に闘っただろう。
目を凝らせば、遠い闇の彼方──木星の傍に、眼に刺さる鮮烈な輝きが視える。
「(『間に合わない』わけじゃない)」
無理に浮かべた笑みが消える。
髪に伝った黒い雨が毛先から滴り落ちる。
「(間に合わせる気がないだけだ……)」
名前も顔も知らぬ
名前も顔も識った
目を閉じて、宙の輝きを視界から消した。
腹の奥から込み上げるものを抑えるように、胸いっぱいに息を吸う。
────そんなのヒーローじゃない!
「俺は……、……ッ!!!」
ウィリアムという男は、全てを
ヒーローである前に、予知者であり、運命論者だった。
声は虚空に消え、やがてまた、静寂が訪れる。
噛み締めた下唇から血が滲んだ。
濡れた髪を両手で掻き乱し、力任せに握れば、根元からブチブチと音がする。
言葉にもならないこの怒りも、失望も、恥も、不甲斐なさも。
────因果は逆転し、すべてなかったことになる。
『ありが……』
「────!!」
一瞬時が飛んだような心地がして、ハッ、と気を取り直した時には全てが終わっていた。
何も無かった空間から突然現れた男が、"カミ"の手先となったガロウを異常な威力で殴り飛ばしていた。
それは、どんな絶望をも塗り替えるデウス・エクス・マキナ。
彼が
「(サイタマ……!!)」
ウィリアムの眼は全てを捉えた。
そして、痛みを伴って心に刻んだ。
────自分のような紛い物がいくら後を追っても、血反吐を吐いて死に物狂いで手を伸ばしても。
あの眩しさには、遠く及ばないのだと。
「(……肉眼だとモザイク無いのか。どうしようもないけど地味に嫌だな……)」