灯火、使徒より賜りて 作:今津
以降、2025年1月31日時点で村田版が未到達の部分です。
ネタバレにご注意ください。
◆◆◆
「大丈夫か?」
カボチャで顔を隠した男が、尻餅を着いた████の前に屈んで、そう言った。
◆◆◆
「大丈夫か?」
カボチャを被ってマントを翻した男が、倒れ伏したシークレット仮面を背に庇って、そう言った。
◆◆◆
「大丈夫か?」
カボチャで顔を隠してマントを翻した男が、うずくまるアマイマスクの前に屈んで、そう言った。
……。
アマイは、震えながら、なぜ助けたのかと問うた。
僕は君より順位が上で、君よりも強い。
「でも、苦手なんだろ。こういうの」
図星だった。
「無理はすんなよ」
男はそれだけを言うと、凄まじい脚力でどこかへと飛び去った。
◆◆◆
CDショップの店頭で、アマイマスクのシングルCDが陳列されていた。
アマイが変装して様子を見ていると、偶然、キャップの上にフードを被った男がやってきて、サンプル映像を眺め始めた。
男のファンは希少だ。アマイの目に留まった。
メロディを口ずさむその声に聞き覚えがあった。
「パンプキンマンか?」
────男はぎくりと体を強ばらせて、帽子の下の美しい顔を青ざめさせた。
◆◆◆
「強くなれる秘訣を教えてやろうか」
「それは、君のようにか?」
「いいや。正確に言えば、"並外れて強い者が持つべき心構え"ってとこかな」
「……そうだな、参考程度に聞いておこう」
「それは────」
────『いざという時に、誰かが助けてくれると思ってはいけない』。
「……ま、受け売りなんだけどな」
………………
…………
……
…
『イケメン仮面』アマイマスクの正体は、容姿へのコンプレックスが生んだ怪人だ。
「あっ、パンプキンマン!!」
倒れて壊れた観覧車の周囲で、誰かが声を上げた。
人混みが、海を割るように道を開ける。その奥にカボチャ頭のヒーローがいた。
「すごい野次馬だな」
壮絶な破壊痕と怪人の姿が見えているのにも拘らず、怯むことなく歩いていくパンプキンマンに、人々は安堵と希望を見出した。
「パンプキンマン! ア……アマイマスクが怪人だったんです」
「怪人がアマイマスクに化けてたんじゃなくて?」
「いやあれは興奮して本能出ちゃった感じだっただろ」
「凶暴性半端じゃなかったもんな……」
「でも今静止してるぞ」
「本性バレたからヒーローを警戒してるんじゃない!?」
「でもパンプキンとアマイマスクは友達なんだって」
「じゃあ騙されてたってこと?可哀想……」
「彼はヒーローです、命懸けで私達を守ってくれたんです」
「話し合える理性が残ってるのかな……」
「どこがイケメンだよ」
「もっとヒーローを呼んで包囲した方がいいよ!」
「また人間に化けて町に潜り込むかもしれない!!」
「退治してください!!」
「そんなこと言うなよ……」
「やっちゃってくれパンプキンマン!!」
「怖い……」
「大丈夫だよ、パンプキンが負けてるの見たことない」
「勝率100%なんだっけ?」
「娘はアレのコンサートにも行ってたんだ、畜生が許せねぇ……誘き寄せて食う気だったんじゃないだろうな」
「人間の味方をする怪人なんじゃない……?」
「人気者ぶって他のヒーローを見下してたし悪意の塊じゃねぇか」
「じゃあ本当はパンプキンマンが1位だったってことか」
「別れた彼女が大ファンだったの思い出してめちゃくちゃムカついてきたぜ」
「いけーパンプキンマン!」
「頑張れー!!」
「退治してくれー!!」
「ぶちのめせー!!」
「パンプキン!」
「パンプキン! パンプキン!」
「うわー……」
パンプキンマンが沈黙している間に、野次馬はパンプキンコールを始めてしまった。
「(避難しろよ……)」
パンプキンマンはA級2位だ。それなりの知名度と、それなりの人気度。
遊園地の客がそっくりそのまま野次馬になってしまっている。コールに警報が掻き消されるさまは、ついさっきアマイマスクが避難誘導に失敗したのと全く同じシチュエーションのように思えた。
ちゃんと避難してくれさえすればやりようもある。群衆さえいなければ、もし相手が凶悪な怪人だったとしても、手加減などせず
「(そう思えば、抱える悩みも同じだな……)」
パンプキンマンが怪人の前に立つ。
それだけで歓声が上がった。
「パンプキンマン」
人より一回りも二回りも大きな姿。デコボコに隆起した肌。牙が非対称に生えた大きな口から発された声は、掠れてくぐもっていた。いつも歌を響かせている美声とは程遠い。
"アイドル"のアマイマスクは、影も形もない。
「ふっ……君は僕がどうこうしなくたって人気者だね」
「そうかな。早く避難してほしい以外思わねーけど」
「僕にとっては都合がいいよ。キミは、友人である僕に騙されていたんだ。今僕を仕留めれば、キミは悲劇のヒーローだ。人気にも拍車がかかる」
「……」
「あとは素顔を見せてくれさえすれば、僕のファンが流れるかもしれない……まあ、僕もそこまでは求めないが」
「……友人……?」
「精神攻撃はやめてくれ」
増援に駆けつけたブルーファイアが、野次馬の中で戸惑っている。パンプキンコールのせいで周囲に気付かれていないようだ。
「キミは、怪人は精神性によるんだと教えてくれたけど。見ての通り、僕はもう手遅れだ」
「……本当にそう思うのか?」
「……」
「なあ、俺が……こうなることを知ってて、お前を試したって言ったらどうする?」
俺が何度も育成を断るから、焦って、サイタマにまで声をかけて、案の定逃げられて。
ピエロの怪人に遭遇して、ボコボコにやられて……。
何かあれば助けに来てくれた「パンプキンマン」という存在を得ていて尚、自らのヒーローとしての在り方のために、その場で『変身を解除する』と選択できるのか。
いざと言うときに、誰かが助けてくれると思ってはいけない。
「疑ってごめんな」
アマイマスクの性根のところは、変わらなかった。
「…………僕は、キミの言葉を何度も無下にした。信用されていなくてもしょうがない」
「……そんなこと言わせるためにやってたんじゃなかったんだけど」
パンプキンマンは首の後ろを掻いた。
「もう少し縮める?」
「……やってみるよ」
アマイの体が、骨格からゴキゴキと変形する。
同じくらいの背丈になったところで、変形を止めた。
「俺はお前がどんなやつか知ってるから、顔がどんなでもどうでもいいと思うけど、それは他でもないお前自身が嫌なんだろうな」
「……」
「どんな設定だったか思い出せないなら、とりあえず、今は俺の顔に化けたら? これ貸してやるから」
「え?」
そう言うと、パンプキンマンはカボチャを脱ぎ、アマイの頭に被せてやった。
「お前は知らないかもしれないけど、俺のこれはお前の顔だよ」
黒い短髪に長い睫毛。
普段、陽の光を浴びることのない白い肌。
野次馬がコールをやめて、次第にざわめき出す。
「"覆面ヒーローの素顔がイケメンだった"なんて、どっかで聞いたような話だ」
♢
人型の大きさまで縮んで、カボチャ頭を被せられても抵抗しない怪人を、人々は「パンプキンマンに捕獲された」と解釈してくれた。勿論カボチャの被り物にそんな特殊効果はない。
素顔を晒したパンプキンマンは、アマイマスクを俵担ぎにしてその場から姿を消した。
"アマイマスクの本性"については、『退治』という結末を迎えたため、世論の話題は今まで完全に秘匿されていたパンプキンマンの素顔のことに移った。
「本当はパンプキンマンの正体がアマイマスクで、あの怪人は偽物だったんじゃないか」とか、「パンプキンマンも怪人なんじゃないか」とか、根も葉もない噂も広まったが、
後日、顔を隠すカボチャヘルメットではなく、顔を晒すカボチャ頭巾姿になったパンプキンマンが怪人退治に現れたため、長続きはしなかった。
ヒーロー協会やスポンサーは、ただでさえネオヒーローズの台頭に焦っていた。アマイマスクが抜けた穴を一刻も早く埋めるべく、一躍
「目立ちすぎだろ!」
サイタマがテレビ画面にツッコミを入れた。
M市某所、まだかろうじてバレていないウィルの自宅。
テレビをつけると、報道ニュースですらパンプキンマンについて特集を組んでいた。
それもすぐにリモコンで切り替えられ、ゲームの開始画面が映る。
「ウィル氏……大丈夫なのこれ?」
「……イアイとフブキと……あと、移籍した
ウィリアムは死んだ目をしながら操作キャラを選んだ。
キングは可愛い女子キャラ、サイタマは技が大振りのパワーキャラ、ウィリアムは中長距離の攻撃が強みのキャラクターを選びがちだ。
「周りが心配するほどは忙しくねーけど、本部に居づらくなったのがな」
「職員に囲まれてたもんね」
「サイタマん家に行けなくなるなぁ」
「いや別に来なくていいよ、こっちのが広いし……」
「お疲れ様です」
「うん、ありがとな」
ジェノスがお盆を持って現れ、テーブルに人数分のレモネードを差し出す。
「これ美味いよ、オススメ」
「へー」
「おま……当然のように台所に……」
「許可はいただきました」
画面はローディング中と表示されている。
「盛り上がりは長続きしないからちょっとの辛抱だ」
「そうですね、ネオヒーローズの活躍が続けば、あるいは」
「問題は協会の方だ。俺はアイドルじゃないから、アマイのやってたこと全ては引き継げないんだけど……協会からの期待がすごくて」
アマイマスクは使命感からヒーロー協会を育て上げ、政・官・財のあらゆる方面にパイプを繋げていたが、ウィリアムにそこまでの情熱は無い。
協会に伝えていた仕事用の電話番号は鳴りっぱなしなので、早々に携帯の電源を切った。友人と連絡する個人用の携帯もあるし、怪人の出現通知自体は別の端末からも来るので不便は無い。
ローディングが終わり、試合が始まる。
「マッコイとかホント……妨害……ダル……ちょっ、やめろ、オラッ」
「おっ、あっ、上ハメやめろ!! 俺らで争っても意味ねーから! キング狙え!」
「いーよ2対1でも」
「戦力にならんわ!」
「お前ジャスガだけ上手いのなんなんだよッ」
「サイタマもすればいいじゃん」
「あ゛?」
「オッ、煽りますな〜」
「ウィルさん、クッキーが焼けたようです」
「サンキュ、オーブンから出して置いといて」
「はい。……?」
「隙あり」
「アッ死ッ、あッ!」
キングの攻撃によって、ウィルの操作キャラが画面外へ消える。
残機がゼロになり、できることがなくなったため、ウィルはコントローラーを置いた。
視線を移せば、ジェノスが立ち上がりかけた姿勢のまま固まっている。
「どうした?」
「玄関の前に生体反応が」
「ああ……アマイじゃね? ほっとけ。勝手に入ってくるから」
「へー、鍵渡してるんだ」
「いや、勝手に合鍵作られた。結構前に」
「は?」
「リスキルやめろって!!」
まだ残機のあるサイタマが騒いでいるが、キングはノールックでそれを倒した。
玄関が開く音の後、廊下を歩く足音がして、何者かがリビングの扉を開ける。
現れたのは案の定、見慣れた男だった。
見慣れたといっても、またちょっと整形した感じになっているが。
「……何をしてるんだ、キミ達は……」
「先生方は仮想バトルを行っている最中だ。一体何の用だアマイマスク」
「…………まあいい……。ウィリアム、今日はキミに用があって来たんだ」
「おう、クッキー焼いたから食っていいぞ。まだ焼きたてだけど。今持ってくる」
「だそうだ。食え」
「……キミはどの立場でものを言ってるんだ? 鬼サイボーグ」
「あと俺ん家でギスんないでくれる? お前ら平気で家具とか壊しそう」
「すみません」
「………………」
ウィルがキッチンに向かい、器に山盛りのカボチャクッキーを持って戻ってきた。
それをテーブルの真ん中に置くと、サイタマとキングがのそのそと寄ってきてつまみ始める。
「で? 何か用? ビュウト」
「……キミ、仕事用の携帯の電源を切ってるだろ」
「あっ…………うん……」
「キミにどんな説得をしても無駄だというのはもう理解しているよ。キミにはキミのやり方というものがあるのだろうしプライベートを確保したい気持ちも分かる」
「その話長い?」
「人々は『イケメン仮面』に次ぐ理想のヒーローの出現を求めている。ウェビギャザは僕の後釜を狙っているようだがネオヒーローズという組織そのものが新興で協会よりもキナ臭いところがあるしあのサイボーグの体も長くはもたないだろう。僕は今までの活動で沢山の経験を積んできた。だからそのノウハウを活かしてキミの影となりプロデュースしたいんだ。取捨選択は僕に任せてキミは与えられた仕事だけこなせばいい。ヒーロー業に支障が出るような配分はしないし『パンプキンマン』のキャラクターイメージを損なうような仕事も受けないから安心してくれ。要は僕がキミのマネージャーになるってことだよ。僕ならキミの影武者になって代わりに働くことだってできるんだ、あくまで最終手段だけどね。どうだい?手始めに僕が在籍していた事務所に入所してみるのは。スカウトは来てるんだろ?」
「断る!」
ウィリアムは力強く却下した。
三人は「(でしょうね)」という顔でアマイを見る。
「……ッ……収入も……今以上に増えるよ?」
「いやお前ストレス溜めるじゃん。そういうとこが心配」
「……………………」
「せっかくヒマになったんだから養生しろよ。そういや口座凍結してんだっけ? 生活費とかどうしてんの?」
「……………………」
「なんならウチに居候してもいいけど」
「ぐっ……ううう……ッ、……、……!!」
「え、何、急に腹痛くなった?」
「見ろ、ジェノス……歴史的勝利だ」
「そうですね」
「ハハ……」
アマイマスクによる地獄の強化合宿を経ていたサイタマは、友の得難き勝利を心から称えた。
キングは半笑いだった。
オリ主の容姿は、(キリッとしていれば)村田版ワンパンマン第235話時点のアマイマスクとほぼ同じという設定です。