灯火、使徒より賜りて 作:今津
ジェノスが無許可で食器を洗っていると、ふと、ウィルが近寄ってきて隣に並んだ。
リビングの方では、サイタマとキングがレースゲームで対戦し、それを見ているアマイマスクが何やら野次を飛ばしている。
「ジェノス、ありがとな」
「いえ、これくらい当然です」
「……」
「…………どうかしましたか?」
「うーん……」
明らかに何かを言い淀んでいる。家事に独自のこだわりがあったのだろうか? そういう風には見えないが。
手を動かしつつ次の言葉を待っていると、しばらくして、彼は口を開いた。
「少し、未来の話をしてもいいか?」
「……!、はい」
泡にまみれた手を止める。
『予知』は、ウィリアムについて最もデリケートな部分の一つだ。万が一にも聞き漏らすようなことは許されない。
これはジェノスの勘だが、彼は『予知』について二度は語らない気がするのだ。
ウィリアムは長い睫毛を伏せて、心を決めたように、瞼を上げた。
「お前は近いうちに、激しい怒りに襲われるかもしれない。人生が揺れるほどの激しい怒りだ」
「……!!? ……っそれは、まさか────」
「まあ聞けよ。でさ、お前はサイタマを頼るだろ。その時、少しでいいから、俺の事を思い出して、二人で動く前に連絡を入れてほしいんだ」
「………………」
「そしたら……お前の大事な人をひとり、守ってやるから」
とん、と、ウィルの拳がジェノスの胸を叩いた。
「……!!!」
裏を返せば。
これは、ジェノスの"大事な人"が近いうちに害されるという警告だ。
それも、サイタマ先生の力だけでは足りず、命に関わる。
「約束してくれるか?」
ウィリアムは多くを語らない。予知能力者の不用意な言葉は周囲を不安に陥れるからだ。そのうえ、最近は『予知』の精度があまり良くないとぼやいていたのを知っている。
そんな彼が、わざわざ言葉にして打ち明けている。……その事の重大さがわからないジェノスではない。
「はい」
聞きたいことは数え切れないほどあった。
詰め寄りたい気持ちもあった。
ジェノスはそれら全てを飲み込み、頷いた。
「約束します」
「うん」
彼は薄く笑って、ジェノスを見つめた。
「借りは返すよ。……必ず」
「…………」
「何コソコソ話してんだ?」
────背後から声が聞こえた。
「ッ──!!? せ、先生ッ!!」
「あ」
慌てて振り向いた拍子に泡で滑り落ちたコップを、サイタマが空中でキャッチする。
「何してんだよ」
「す、すみません先生」
「ちょっと大事な話があってな、ジェノスと話つけてたんだ」
「大事な話ぃ?」
首を傾げるサイタマに、何を思ったか、ウィリアムはにやりと笑った。
「サイタマには秘密」
「は?」
「……」
「え? 何? ……めちゃくちゃ気になるんだけど? ジェノス?」
「先生。申し訳ありません」
「はー!?」
「言っておくが!!」
大声に振り向くと、キッチンの出入口で、アマイマスクがビシリとこちらを指さしていた。
「スキャンダルは厳禁だ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……」
「……ふっ……ウィルさんも貴様には言われたくないだろうな……」
「……!!!!」
「いいぞ〜ジェノス〜言ってやれ〜」
「付き合ってらんねぇ……キング、対戦しようぜ……カワイイ系のモンスター重点的に育てたからさ……」
「ウィル氏さぁ……せっかく気配消してたのに話しかけてくるよね……うん、そういうとこあるよね……」
前編は終了です。
ここまで閲覧ありがとうございます。
あとはアマイマスク視点の中編と、
サイタマ視点の後編です。