機動戦士 Gundam GQuuuuuuX ~終戦という名のAct call~ 作:ぼっちクリフ
「酷いものだねぇ」
連邦軍統合参謀本部議長ゴップ大将は終戦協定に関する議論をする連邦議会の様子をモニターで眺めながら呟いた。対スペースノイド強硬派の議員たちが内閣に対しあらん限りの罵声を浴びせ、中には机の上に置いた物を投げる者までいる。
『連邦軍はまだ戦える!』
『こんな屈辱的な条件を勝手に飲んだのか!』
『戦って死んだ者たちに何と申し開きをするつもりだ!!!』
『ジオンの連中がした事を忘れたのか!!!』
議長が平静を呼びかけるも怒声は一切やまず、ゴップはチャンネルを切り替えた。
『ダカールの議会前です。終戦協定が発表されて以降連日デモが続いており、参加者は日に日に増加傾向にあります。特に目を引くのがオーストラリアでコロニー落としの被害にあった人たちの遺族で、彼らはジオンに対する徹底抗戦を主張し……』
ふぅ、とため息を一つ吐いてゴップはモニターを消した。傍らに居た副官が暗い表情でゴップの方を見ている。
「彼らの気持ちも分かります。まだ連邦軍全てが壊滅したわけではありませんし、ここから挽回できる可能性も……」
「やれば勝てるさ」
呟いていた副官が驚いてゴップの顔を見直す。ゴップは事もなげに続けた。
「勝てるとも。ジオンと我が方の国力差が何倍だと思っている。続ければ勝てる、これは数字の上でも確実だ」
副官が何故、という言葉を発する前にゴップは続けた。
「連邦が死力を尽くし、国力を振り絞り、子供から老人まで徴兵し前線にぶち込んで、人類の総人口をあと3分の1まで減らす覚悟をもって戦えば勝てる。だがね、そこまでして勝って何になるのかね?」
副官は唖然として声も出なかった。勝てはする、しかし勝つ為には地球圏そのものを破壊する覚悟で戦わねばならない。
「要はマシな地獄を選んだ、という事さ。それに、この乱痴気騒ぎは利用も出来る」
トントンと指で書類を叩く。副官はその個所を覗き込んだ。
「コロニー公社への開業資金提供……」
「実質的な賠償金だな。ま、こんな状況で予算が執行できる筈もない。暫くは支払いを延期出来るだろう」
「しばらく、とは」
「私が生きている内は執行できんさ」
薄く笑ったゴップは別の書類を手に取る。これから連邦軍には気が重い作業が待っていた。
「それは……」
「人事の再編案だ。レビル君には気の毒だが、更迭は免れん」
戦争開始前にV作戦を通しレビル更迭論を封じ込めたゴップだが、今回ばかりは庇いきる事は出来なかった。ジオンからのソロモン落とし主犯としての身柄引き渡し要請を拒絶するので精一杯だった。
「レビル君は更迭し宇宙軍および宇宙軍省は解体、大幅な軍縮をせにゃならん」
「ソロモン落としの責任は……」
「現場の暴走であり連邦軍の意志ではないとする。ワッケイン君にはすまない事だ」
ゴップは静かに瞑目する。ワッケイン自身も覚悟はしているだろう。彼を生贄に捧げなければ、連邦軍全体が生き残れない。ゴップは大きく息を吐くと背もたれに体重をかけ天井を仰ぎ見る
「もっとも、彼らの方が幸せかもしれんな」
「は?」
「これからの地獄を思えば、な」
荒廃しきった地球。ボロボロの官民。多くの人間は敗戦に打ちひしがれて気力を失い、再建の道筋は立たない。更にはこれからやって来る、多くの軍人や軍需産業関係者が路頭に迷う『軍縮』という枷。道のりは、あまりに長く果てしない。
「我々は、何故、負けたのでしょう」
搾り出すようにつぶやく副官。ゴップは天を仰ぎ見ながら言った。
「我々には英雄が居なかった」
「英雄?」
「ああ」
ルウム戦役後、連邦軍はレビルという英雄を得た。その勢いのまま戦線を立て直したが、結局それ以降、英雄と呼べる者は現れなかった。
対してジオンには綺羅星の如き英雄が揃っていた。パーソナルカラーを持つエースパイロットたち、ソロモンと運命を共にしたドズル・ザビ、最後までグラナダを捨てようとしなかったキシリア・ザビ、ソロモン落としを阻止した英雄ソドン戦隊、そして――『赤い彗星』シャア・アズナブル。
「閣下にしてはロマンチックなお答えですね」
「私は数字と書類に生きる人間だ。しかし、だからこそ数字と書類が全てを決めない事を知っている」
連邦軍の戦いはまさに数字と書類の戦いだった。必要な戦力と物資を必要な場所に集め、叩きつける。多くの戦線でそれは成功し、被害を出しながらも北米、オデッサ、ソロモンとジオン軍を押し返した。しかしそれは数字と書類上での成功であり、連邦の人々の心に火を点ける物語となる事はなかった。
対してジオンは物語で戦った。ルウムでの大勝、V作戦の奪取、ドズル玉砕、ソロモン落としを前にして一歩も引かぬキシリア、シャア・アズナブルとソドン戦隊の起こした奇跡――――
敗戦は、数字と書類の上で負けたのではない。連邦はジオンの「物語」に屈した。これ以上犠牲を出しながら物語の「やられ役」を演じる事に、連邦と市民は耐えられなかったのだ。
ゴップは天井を見ながらもう一度大きく息を吐いた。
「我々には、英雄が居なかったのだ」