機動戦士 Gundam GQuuuuuuX ~終戦という名のAct call~ 作:ぼっちクリフ
「酷いものですね」
総帥府第一秘書セシリア・アイリーンはモニターを見て深くため息を吐いた。
TVでは戦勝の祝いとして歓喜を爆発させるサイド3の民衆が映されている。彼らは道に出て踊り、紙吹雪を撒き散らしジオンの旗を振り、そして酒場に集まりグラスを掲げていた。そんな酒場のひとつの中継で、酔った客たちはジョッキを手に我先にリポーターのインタビューに答えていた。
『ジーク・ジオン! 公国独立万歳!』
『くたばれアースノイド! ついに俺達スペースノイドの時代が始まるんだ!』
『公国軍に乾杯! 散っていった英霊たちに乾杯!』
『そして、その身を挺してジオンを救った英雄……』
そこで人々は一瞬目を伏せ、深い哀悼の意を示す。先ほどまでの喧騒が一瞬で静まり、人々は静かに何かを祈った。そして一瞬の後、目を見開いた酒場の全員が大きくグラスを掲げ、叫んだ。
『『『シャア・アズナブルに乾杯!!!』』』
頭を軽く抑えながらセシリアはモニターを消した。部下のエリース・アン・フィネガンが苦笑しながらセシリアのデスクに紅茶を置く。
「すっかりシャア・ブームですね。赤い彗星は文字通り、彗星の如く独立戦争を駆け抜けていった……」
「英雄は死んでこそ完成する。ですが、流石にこれは問題です」
セシリアは紅茶に口をつけながら忌々しそうに呟く。
グラナダにおけるソロモン落とし阻止防衛戦、そして『ゼクノヴァ』の光。さらにはガンダムを駆るシャア・アズナブルがその光の中に消えたという事実。公国の人々はこれを『シャアとソドン戦隊が身を挺しソロモン落としを阻止しようと奮戦し、そして奇跡が起きた』と解釈した。シャアに対する称賛はすぐさま信仰にまで発展し、英雄シャア・アズナブルはジオン独立戦争のシンボルとなった。
ギレン総帥を筆頭とするギレン派はこれが面白くなかった。神の如き奇跡を起こしたシャアとその奇跡の立役者たるソドン戦隊、そしてそれをソロモン落としで壊滅寸前のグラナダに留まり指揮したキシリア・ザビ。その名声は日増しに高まっている。一方ギレンはこの奇跡に何も関りが無い。それどころか『総帥はグラナダに援軍を送らなかった』と陰口を叩くものまで居る始末。ギレンの人気にはソロモン落とし以降、翳りが見えていた。
「この戦争を指揮し、勝利に導いたのは総帥の手腕です。ですが、大衆というものは分かりやすい『英雄』が好きですからね」
セシリアは紅茶のカップを置きながら書類を眺める。エリースはその姿を見ながら気になる情報がある、と切り出した。
「――キャスバル・レム・ダイクン?」
「旧ダイクン派が言いふらしてるみたいですね。『シャア・アズナブルはジオン・ズム・ダイクンの忘れ形見キャスバル・レム・ダイクンであり、ジオンの息子はその身を挺してジオンを救ったのだ』とか」
「馬鹿馬鹿しい」
セシリアはそう言って噂を一蹴した。そのような噂が出てくる事自体が、公国の箍が緩んでいる証拠だろう。怒りとともにセシリアは手元の書類をエリースへと見せる。
「そもそも総帥の意志は平和にありません、この休戦はあくまで一時のもの。連邦を完全に屈服させ、地球圏を統一するその日まで、我々は総帥の理想を掲げ続けます」
「……はぁ」
曖昧に返事をするエリース。彼女はそこまでギレンの提唱するジオニズムの信奉者ではない。折角勝ったのだから、それで良いではないかと思って居るのがありありと見えた。しかしセシリアはそんな彼女を無視して続ける。
「この休戦の最中に連邦との差をさらに広げ、来るべき最終戦争に備える、筈だったのですが……」
エリースは苦々しく呟くセシリアの持つ資料を覗き込む。そこには先日締結された終戦協定の内容が記されていた。
「休戦はキシリア・ザビ主導で行われた。彼女は総帥の意志を無視して、公王の承認を盾に勝手に終戦協定を結んでしまった」
「現実的だと思いますけどね。総帥の考えられた終戦協定案を連邦が認めるとはとても……」
ジロリとセシリアに睨まれたエリースは視線を逸らす。セシリアはひとつ咳払いする。
「キシリアの専横は目に余ります。『ソロモン落としを阻止した英雄』の名を使い、軍部の大半をまとめ一大勢力を築き総帥に公然と対決姿勢を示している。由々しき事態です」
「今のところ対抗策は無いと思いますけど」
エリースの言う通り、現在のギレンにキシリアを止める手段は無かった。故ドズルの部下である宇宙攻撃軍の大半はグラナダを死守したキシリアを支持しその派閥へ入り、軍部の中でギレンシンパと呼べるのは親衛隊と本国防空隊の一部のみ。いくら本国政府および行政システムを握っているとはいえ、ギレン派の力のみでキシリア派の軍事力に対抗するのは無理があった。
「――ですので、総帥は一旦キシリアの終戦協定案を飲みました。連邦とは一時休戦し、その間に軍部内にも総帥の賛同者を増やさねばなりません」
「アテがあるんですか?」
「もちろんです」
その言葉と同時に伝令が部屋へと入って来る。彼は敬礼すると大きな声で告げた。
「シャリア・ブル少佐がいらっしゃいました!」