機動戦士 Gundam GQuuuuuuX ~終戦という名のAct call~   作:ぼっちクリフ

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【本作は機動戦士 Gundam GQuuuuuuXの致命的ネタバレを含みます。未視聴の方はただちに本作の閲覧を中止し本編をご覧ください】


第5章 0080.9.01 目覚める神話

シャリア・ブルは執務室に飾られた絵画を見ながら感嘆を漏らす。

 

「良い絵ですね、東洋の絵画ですか」

「北宋の院体画だよ。徽宗の真作だ」

 

マ・クベは満足そうに頷いた。目の前の男は好かないが、芸術を解するならば話は別だ。なにせジオン軍人は揃いも揃って芸術に対する理解が無い無骨者ばかり。副官のウラガンに至っては白磁の壺と素焼きの壺の区別もつかない程の芸術音痴だ。マ・クベは芸術の話をする相手に餓えていた。

 

「私は芸術には疎いのですが、西洋絵画とは真逆の特徴を持つとか……」

「君はよく勉強しているようだ。その通り、東洋絵画は人間の本質を描く事を目的としており、西洋絵画とは違い背景の『余白』をそのままに……」

 

マ・クベは調子に乗って30分ばかり絵画の講義を続ける。もちろん、時に自身のコレクションを自慢する事も忘れない。シャリア・ブルはにこやかに笑いながら時に相槌を打ち、時に質問を行いマ・クベを喜ばせた。

 

気分を良くしたマ・クベは応接テーブルでシャリア・ブルを歓待する。紅茶を持ってこさせ、これまた自慢のティーセットを使うよう従卒に命じた。

 

「――さて、遅くなったが出世おめでとう、シャリア・ブル特務中佐」

「ありがとうございます。閣下も中将にご昇進、おめでとうございます」

 

白磁のティーカップを傾けながらマ・クベは目を細め目の前の男を観察する。いくら何でも芸術を解する、というだけで目の前の男への警戒を解く事はしない。元シャアの部下で、キシリア派閥に属していると見せながら総帥府直属の任務部隊を率いる男。油断ならざる相手、と見るべきだろう。

 

「それで、今日は何の用かな? まさか私の絵を見に来ただけではあるまい」

「それも目的の一つではありますが、今日は閣下にお願いがあって参上しました」

 

シャリア・ブルが取り出した書類を受け取り目を走らせる。そこには新設の部隊――シャア捜索隊の結成とその概要が書かれていた。艦は一隻のみ、艦長は中佐。艦長とは別に特務中佐シャリア・ブルが戦隊としての司令官となる。

総帥府所属の特務は通常より二階級上として扱われる。シャリア・ブルが率いるこの戦隊は、一艦を将官クラスが率いる特異さだった。

 

「聞こうか、中佐」

「まずは所属のパイロットに関してです。フラナガン・スクールの優秀な生徒を回していただければと……」

「あぁ、ニュータイプか」

 

吐き捨てるように言うマ・クベは二つ返事で了承した。

フラナガン機関は既にキシリア肝煎りの組織としてフラナガン・スクールとして再編。広く国中、いや難民も含めたスペースノイド全体からニュータイプを見つけ、養成する為の文字通り『スクール』として機能し始めていた。

マ・クベにとっては面白くない事だ。彼はニュータイプの存在を一切信じていない。ジオン・ズム・ダイクンがスペースノイド独立の為にぶち上げた新興宗教の類だと冷めた目で見ており、シャアがニュータイプだという事も信じていなかった。例の『ゼクノヴァ』に関しても、どうせガンダムの核融合炉と要塞内にあった爆発物の同時爆発あたりの事象を尾鰭をつけて吹聴した、と考えている。

 

そのマ・クベにしてみればシャア捜索隊などというもの自体が噴飯もののお遊びだが、キシリアにも利がある事なので見逃している。彼は二つ返事でシャリア・ブルの要請を受けた。

 

「好きにすると良い。付け焼刃のパイロットが何処まで役に立つかは知らないが、どうせ戦争も終わっている事だしな」

「ありがとうございます。それと、もう一つ。艦についてなのですが」

「艦? 最新鋭のザンジバルが総帥府から支給されるのだろう」

「そちらを閣下に引き渡す代わりに、あの艦をいただけませんか?」

「あの艦――」

「ソドンです」

 

今度の要請には二つ返事とはいかなかった。

強襲揚陸艦ソドン。かつて赤い彗星シャア・アズナブルとともに独立戦争を戦い抜いた、伝説の艦。それを欲しがるシャリア・ブルをマ・クベは怪訝そうに見つめる。

 

「今更あんな強襲揚陸艦を何に使う気だ」

「やはり慣れている艦を使いたい、と。それに、閣下も持て余されていると聞きます」

 

それはシャリア・ブルの言う通りだった。ソドンは連邦規格で造られた艦であり、ジオン艦との共同作戦に向かない。単艦でないと艦隊行動に支障が出てしまうのだ。戦時ではそうも言ってられないが、平時にはなるべく使わないに越した事はない。

かと言って解体してしまう事も難しい。ソドンの名前自体が英雄伝説の一端となってしまっている以上、解体などしたらどんな反発が起こるか分からない。結果としてキシリア派の軍政を司るマ・クベにとって、ソドンはお荷物となっていた。

 

「それは中佐の言う通りだ。しかし、強襲揚陸艦が戦時下でもないのに飛んでいては不穏に思う者もいよう」

「まさにそれが狙いです」

「なに?」

「あの艦が健在である事を示す。それが、戦争を忘れない事になるのです」

 

マ・クベはしばし首肯する。なるほど、ソドンは生きた伝説だ。今後様々な場所へ寄港するたびに、人々は思い出すだろう。シャア・アズナブルの伝説を。そして共に戦い抜いたソドン戦隊を。それはジオンの、そしてソドンを指揮したキシリアの権威を民衆に示す効果がある。

マ・クベは目の前の人物の評価を改めた。キシリア派、ギレン派双方にとっての利益を示しつつ、自らの立場を高め有用な人材である事を示す。この男は、味方にしておいた方が良いかもしれない。

 

「――なるほどな。良いだろう、ソドンを持って行くと良い」

 

シャリア・ブルはマ・クベに対し深々と礼をする。

マ・クベは機嫌良く、また絵を見に来るが良いと言って彼を送り出した。

 

 

廊下を歩きながらシャリア・ブルは一人呟く。

 

「ええ――忘れさせませんよ、大佐」

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