機動戦士 Gundam GQuuuuuuX ~終戦という名のAct call~ 作:ぼっちクリフ
フラナガン・ロム博士は来訪者の中に旧知の顔を見出して顔をほころばせる。
立ち上がり、懐かしげに握手を交わした。
「お久しぶりです、大尉――いえ、今は中佐でしたね」
「お久しぶりです、フラナガン博士」
シャリア・ブル特務中佐に椅子を薦めながらフラナガン博士は彼に随行する副官へと目をやる。真面目そうな女性――いや、少女と言っても良い年齢の士官はしゃちほこばって敬礼する。
「コモリ・ハーコート少尉です。先日付けでシャリア・ブル中佐の副官兼護衛を拝命致しました!」
「おお、そうでしたか。どうぞ、おかけ下さい」
応接室はマ・クベの執務室程の豪奢さは無かったが、綺麗に整っており調度品も良い物を揃えていた。フラナガン博士はコーヒーを3つ用意するように言うと、自分も腰掛ける。
「それで、お願いしていた件は……」
「はい、こちらに」
博士は一枚の書類を中佐に渡す。シャリア・ブルがじっと眺めるその書類を、コモリ少尉は横から覗き見た。
(え、かっこよ……)
書類に書かれていたのはコモリ少尉と同い年の青年のプロフィールだった。
「エグザベ・オリベ少尉。先日我がフラナガン・スクールを首席で卒業した逸材です。ニュータイプ能力もそうですが、MS操縦技術も一級品ですよ」
「ほう、それは素晴らしい」
2人の会話をコモリ少尉は胡乱な目で見ていた。彼女はニュータイプの存在を懐疑的に見ている。何やらエスパーじみた能力を持っていたり『ゼクノヴァ』という謎現象を起こしたりという話だが、正直戦場で生まれた都市伝説だと思っている。
「任官手続きは済んでいます。初出撃までには中佐と合流できるかと」
「ありがとうございます。それに関して、ひとつお願いがありまして」
「何でしょう?」
「彼の機体に関してです」
「機体に関しては軍部で用意される筈ですが……」
フラナガン博士は訝しげにシャリア・ブルを見やった。シャリア・ブルは薄く笑うと、ほんの少しフラナガン博士に顔を近づけ、声を少し抑えて言った。
「――最新式のサイコミュ・システム。貸していただけません?」
フラナガン博士はほんの一瞬、目を見開き、そして再び平静を装う。苦笑しながら表情を繕い。
「中佐。あの『ゼクノヴァ』後、全てのサイコミュは使用停止され開発も禁止されておりますよ」
その通りだ、とコモリ少尉は心の中で頷く。サイコミュ・システムの開発は第2の『ゼクノヴァ』を起こす危険性がある以上、あらゆる分野で禁忌とされている。
「でも、研究してるでしょう? いえ、アナタが研究されないわけがない」
完全に見透かされている事にフラナガン博士は苦い顔をする。元々フラナガン・スクールの前身である機関に居た事のあるシャリア・ブルにはお見通しだった。
「しかし、いくら中佐といえど……」
「どうせ機体に乗せての実働実験はまだでしょう? 戦場帰りのニュータイプとスクール主席のパイロットがいるソドン以上に、実験に相応しい部隊がありますか?」
そう言われれば何も言えない。フラナガンは観念したように立ち上がった。
「分かりました、此方へ」
2人が案内されてきたのはスクールの地下にあるハンガーだった。スクールではMS操縦技術の実習もある。そしてハンガーの一角……コクピット・シミュレーターの多数置いてある場所の奥。『それ』は、そこに鎮座していた。
一見するとただのコクピット・シミュレーター……だが、インターフェースが独特のものだった。通常の機体とは、そもそも設計思想からして違うような。
「最新のサイコミュを使用した操縦システムーー我々はこれを『オメガ・サイコミュ』と呼んでいます」
「『オメガ・サイコミュ』……通常のサイコミュ・システムとはどのような違いが?」
「通常とは違いかなり特殊な物、としか説明できません。現在このシステムに合わせた新型機がサハリン技術中将のもとで開発されていますが、『オメガ・サイコミュ』はその機体そのものを脳波コントロールで制動させるものになるかと」
「一体どのような経緯で開発を?」
「中佐といえども、それはお話できません。これは極秘中の極秘なのです」
「そ、そんな物持って行けるわけないじゃないですか!」
コモリ少尉は悲鳴のような声を上げる。謎の多いフラナガン・スクールの責任者すら『極秘中の極秘』と呼ぶ、禁断のサイコミュ・システム。そんな物を持ちだしたら命がいくつあっても足りない。あっという間にマ・クベ中将の軍事法廷に呼び出されておしまいだ。
だがシャリア・ブル中佐はお構いなしに質問を続ける。
「なるほど、機体の出来は?」
「設計は済み、各部組み立てとオメガ・サイコミュとのシンクロ実験を平行して進めています。ただ、ひとつ問題が――」
「問題?」
「起動できないのです、誰も」
「はぁ!?」
ニュータイプというオカルトを信じていないコモリ少尉は素っ頓狂な声を上げた。起動できないシステムとは何だ。それは……
「欠陥システムじゃないですか!」
「少尉」
嗜めるようにシャリア・ブルがコモリ少尉に声をかける。フラナガン博士はばつが悪そうに頭をかいた。
「ええ、理論上はこのシステムで従来のMSとは文字通り段違いの機動を行える筈なのです。しかし、スクールのどのニュータイプが起動しようとしても、全く反応せず――」
「エグザベ・オリベ少尉は?」
「彼はまだ先日まで学生でしたので。しかし、可能性は一番高いかと」
「やめましょうよ中佐、無茶苦茶ですよ~」
泣き言を言うコモリ少尉。だが、シャリア・ブル中佐は面白そうに笑うと上着を脱ぎ、コモリに押し付ける。
「少尉、ちょっと持ってて下さい」
「――中佐!?」
「博士、これ、シミュレーターに繋がっているんですよね」
「そうですが――まさか、中佐!?」
博士が制止しようとするのを無視してシャリア・ブルはコクピットシートに座る
「起動はこちらのスイッチを?」
「中佐、お待ちください! オメガはまだデータが足りず……」
「ですので、データを提供しようと。レンタル料と思って下さい」
あっけにとられるフラナガン博士を尻目にシャリア・ブルは手慣れた様子でシステム起動シーケンスを開始する。コモリ少尉はこの時自分の上官がとんでもない人間だという事を理解した。
低い駆動音が鳴り響き――そのまま、アイドリング状態を維持する。
『システム・ロック』
無情な赤い文字が示される。シャリア・ブルでもオメガ・サイコミュの起動は出来なかった。
「なるほど、なかなかじゃじゃ馬なようですね」
ケロっとした顔をしながら立ち上がったシャリア・ブルはコモリ少尉より上着を受け取る。ちょっと投げつけるようだったのは気のせいだと思う事にしよう。
「それで中佐――」
「ええ、お借りしますよ。もちろん、データは全てお送りします」
「――ひとつだけお約束下さい。決してオメガ・サイコミュの起動は行わないと。バックアップ体制のあるこの実験場ならともかく、現場でいきなり使えば何が起こるか予想もつきません」
「…………」
薄く笑うシャリア・ブルにフラナガン博士は真剣な表情で食ってかかる。
「エグザベ君は私の大事な生徒でもあります。彼を無意味な危険に晒すような事は、私は一人の教育者として断じて――!」
「分かりました。サイコミュは使用しません」
しれっと言うシャリア・ブルに懐疑的な目を向けながらも、フラナガン博士はしぶしぶオメガ・サイコミュの貸し出しを許可する。中佐はシステムを見ながら言った。
「それで、機体の名前は何と言うのですか?」
「まだ決まっていません。開発ネームは……」
「【QuuuuuuX】、ガンダム・クァックスです」