機動戦士 Gundam GQuuuuuuX ~終戦という名のAct call~ 作:ぼっちクリフ
シャリア・ブルとシャア・アズナブル捜索隊――通称「ソドン戦隊」は公式的には未だ編成準備中となっている。
各所から人材やMSを集め、錬成し部隊として行動できるよう、訓練の最中だ。
そんな戦隊に対し、シャリア・ブルはひとつの命令を通達した。
「ソドンの訓練航海を行います。各員は準備をしておくように」
任務としてではなく、訓練としての航海。要は乗員たちによる試運転のようなものだ。
副官コモリ・ハーコート少尉は怪訝そうにシャリア・ブル中佐を見つめた。
「あの、総帥府からはそのような予定は提示されていませんが……」
「少々私用がありまして、ついでに訓練航海にしてしまえば良いかと」
「はぁ」
何て適当な理由だろう。とはいえ、この隊の運用に関しては総帥府からシャリア・ブルに一任されている。それに、訓練航海をする事自体はこの時期に問題の無い事ではある。コモリ少尉は諦めたようにため息を吐いた。
「それで、目的地は?」
「地球です」
「地球ですか……地球!?」
地球。間違いなくそう言ったのを聞いてコモリ少尉は目を剥いて驚いた。ソドンのクルーたちも声もなくシャリア・ブルを見ている。
「敵地じゃないですか!」
正確には敵地ではない。ジオンと連邦の戦いは終結しており、両国は戦争状態には無い。しかし終戦から1年経ったとはいえ、ジオン公国と地球連邦は潜在的には敵対関係にある。間違っても訓練航海の目的地に選ぶような場所ではない。
「ええ、実はキシリア閣下からとある人物に対して書簡を預かっていまして」
「書簡って、え、要はお使い……?」
「そういう事です。あぁご安心を、先方の了承は取っていますから」
「詳しい目的地を教えていただけますか?」
声を上げたのは操舵士のタンギだ。寡黙だが任務に忠実な彼の事だ、地球が目的地だという事も既に飲み込み、任務についての詳しい説明を求めているのだろう。
シャリア・ブルはそんな彼を見ながらにこやかに告げた。
「北米、ニューヤークです」
結論から言うと、北米ではコモリ少尉が心配したような事は起きなかった。
ソドン入港に対しデモがあったり妨害行為が行われる事はなく、連邦軍の簡単な確認があった後、ソドンのクルーはニューヤーク市への入国を許可された。少々拍子抜けしながらもコモリ少尉は北米に降り立つ。ソドンクルーの中には初めての地球に感動して写真を撮る者、SNSに投稿する者などが居たが、彼女はシャリア・ブルのお供をしてとある人物を表敬訪問する事になっていた。
「やぁ、君がシャリア・ブルか。よく来てくれた」
「お初にお目にかかります、ガルマ様」
「様はよしてくれ、私は既に軍籍もジオンも離れた身だよ」
ガルマ・ザビはニューヤーク郊外にある屋敷でシャリア・ブル中佐とコモリ・ハーコート少尉を出迎えた。シャリア・ブルはにこやかに屋敷の主と握手を交わす。
「早速ですが、此方が姉上、キシリア様からの親書です」
「あぁ、そうだったな。いつまで経っても心配性な事だ、姉上は」
ガルマは苦笑しながら手紙を受け取る。コモリ少尉には想像も出来なかったが、シャリア・ブルには中身の見当がついているようだった。
「ニューヤークの政情不安定につき一度ジオンへ帰国してはどうか、という所ですか」
「あぁ、その通りだ。今回君達ソドンを使ったのも、私が無事に帰れるようにとの事だろう」
「政情不安定……」
呟くコモリ少尉に対し、ガルマは応接室にあるモニターをつけてみせる。そこではある女性が演説をしていた。
「ニューヤーク市民の皆さん、どうか目を覚まして下さい! 私達は地球に閉じこもっては生きていけないのです、今でも工業の維持に必要な物資の輸入は宇宙から行っているではありませんか。確かに難民の問題はありますが、その受け入れ規模に関しては十分許容範囲に収められるようジオンと交渉すべきです。連邦議会がこの問題に対し態度を明確にしない以上、我々ニューヤーク市は独自にサイド6、そしてジオン公国と通商協定を結ぶべきではありませんか!
私をザビ家の手先と揶揄する方が居るのは仕方のない事です。夫は確かにザビ家の男です。しかし、どうか現実を見て下さい! 連邦内での限定的な通商だけではこの北米大陸の経済を維持していけません! また、連邦が飢餓対策を理由に食料を不当に安く買い叩いているのも事実ではありませんか! 先の不幸な大戦を忘れろと言うのではありません、ザビ家に降伏するのでもありません! 私達が生きていく為に、歴史は歴史として、経済は経済として交流を再開し……」
「奥様はなかなかの演説家のようですね、ギレン閣下に勝るとも劣らないのでは」
「からかわないでくれ、シャリア・ブル」
恥ずかしそうに言うガルマを見てコモリ少尉はようやく思い出した。
先ほど演説していた金髪の女性はイセリナ・エッシェンバッハ、ガルマの妻だ。確か元ニューヤーク市長の娘で今は市長選に出ている最中だった筈。先ほどの演説はその市長選の為のもの、というわけだ。
「奥様は独立派の急先鋒と言われているそうですね」
「穿った見方だよ。妻はあくまでスペースノイドへの鎖国を解き、地球と宇宙の交流を再開すべきと言っているだけだ。連邦からの独立云々は政敵が彼女を攻撃する口実に過ぎない」
「しかし反対派は奥様をザビ家の手先で、北米を連邦から分離独立させようとする危険分子だと煽っている」
「――不愉快な極まりない事だ」
吐き捨てるように言うガルマを見てコモリ少尉は理解した。
現在、連邦はスペースノイドに対し門戸を閉ざし最低限の物資以外の輸出入を認めていない。しかしこれは流通を鈍化させ戦後経済の大きな足枷となっており、連邦軍の軍縮による失業者問題と同程度の悪影響を与えている。連邦は対策として北米大陸の食料を安く買い叩き、世界各地の食料価格の高騰を抑える事で市民の不満をギリギリまで抑えているのが現状だ。ニューヤークを含めた北米地域はジオン占領地域で甚大な被害を受けたにも関わらず連邦でもっとも割りを食った地域となっていた。
新市長候補イセリナ・エッシェンバッハはこの現状を打破する為に連邦の方針に反したスペースノイドとの交流・通商の再開を公約として選挙に打って出ている。賛成派は連邦に付き合っていては最早北米は搾取されるだけだと言い、反対派はそもそもジオンに降伏したエッシェンバッハ家の女、しかもザビ家の男と結婚した裏切り者とイセリナを糾弾していた。両者は一触即発の状況にあり、北米の政情はあまりにも不安定だった。
「ジオンに戻る気は?」
「妻は最後まで戦う気でいる。なら、私が妻を置いて逃げる事など断じて出来ない」
良い旦那さんだな、とコモリ少尉は素朴に思う。少し童顔だが顔も良い――エグザベ少尉とは違ったタイプのイケメンだ。
シャリア・ブルは少しだけ考えると、ガルマに話しかける
「なら、いっその事本当にジオンの手先になるのはいかがでしょう?」
「――どういう意味だ?」
ガルマが低い声で訪ねる。シャリア・ブルはしれっと説明を始めた。
「受け入れてしまえば良いのですよ、難民を。そしてその代償としてジオンは通商の再開を行う、簡単な話ではないですか」
「馬鹿な! そんな事をすれば勝手に連邦の方針に反したとして、妻は……」
「ええ、ですので表面上文句をつけようの無い名目を立てます」
「……なに?」
「難民を受け入れる。ただし、それは『5歳までの戦争孤児のみ』を一定数。これならば人道の観点から文句は付けられないでしょう」
コモリ少尉は絶句してシャリア・ブルを見つめる。一体誰の許可を取ってそんな献策をしているのか。総帥府か、キシリア様か、あるいは……?
「確かに、戦争孤児の受け入れなら反対は出来ないだろうが――」
「ジオンはニューヤークと通商条約を結ぶ、特に北米産の食料のうち粉ミルクや幼児食などを表に出しましょう。『戦争孤児を助けるための相互通商条約』。人道上、これに反対する事は不可能です」
「……確かに」
「その難民の子供達は我らソドンが運びましょう。まさか我々に喧嘩を売ろうとする市民団体も居ないでしょうから」
かの「赤い彗星」が率いていたソドン戦隊、伝説の象徴。イセリナのバックにそんな部隊がついているとなれば、反対派も実力に打って出るのは躊躇する。下手に逆らえば人道上の問題からジオンに連邦へ介入する口実を与えかねない。あくまで「ザビ家の手先が本性を現した」と論陣を張る筈だ。それに対してイセリナは「戦争孤児の救済事業であり、しかも連邦よりも適正価格で買ってくれるジオンに反対する意味が何処にある」と反論できる。
「考えたなシャリア・ブル。流石はシャアの親友というだけはある」
「恐縮です。その代わり、例のソドンの補給に関してですが……」
「あぁ、ニューヤーク市内には友人が多い、それに関しては心配しなくて良いとも。戦争孤児救済事業に携わる艦を無下には扱わせないさ」
「ありがとうございます、ガルマ様」
「さっきも言ったが様はやめてくれ。ガルマと呼んでくれ、シャリア・ブル」
上機嫌にシャリア・ブルの手を取るガルマに対し、シャリア・ブルはほほ笑みながらその手を握り返した。
「今度は孤児運びですか――」
「しばらく部隊編成はお預けです、連邦領内にMSを持ち込むわけにはいきませんので」
シャリア・ブルに告げられたコモリは意外そうに上司を見る。あまりこういった人助けを進んでするような人物には見えなかったが……
「ご友人だからですか?」
「はい?」
「いえ、ガルマ様ってシャア大佐の御友人だったんでしょう? だから助けて差し上げるのかな、って」
「――友人ね」
薄く笑うシャリア・ブルにコモリ少尉は寒気を感じる。まるで、オメガサイコミュを持ち出す約束の時のような……
「昔、一度だけ大佐がガルマ様の事を話していた事があります」
「は、はぁ」
「その時大佐は言っていましたよ」
「あれほど扱いやすい坊やはいない、と」