三月二十日、百鬼舘(なぎりかん)。
既に廃墟となっていて、人一人いないはずのこの洋館だが、何やら食堂の方からざわざわと響めく声が聞こえてくる。
「では…今回の定例会議を始める。」
初老の男性の力強く低い声が、食堂中に響き渡った。
「悪りぃ!遅刻しちまった!!」
「またか!!定例会議には必ず出席しろと言っているのに意識が足らんぞ!!」
会議の開始と同時に、ドアから部屋に詫びながら入ってきた若い男性であろう人物が、中年の男性と思われる者に咎められている。
ここで、先ほどから何故このようにどこか曖昧めいた書き方をしているのかという疑問が頭の中に湧いてきたであろう。
それは何故なら、彼らの姿は全員人間であるとは言えないからだ。
この食堂の大きなテーブルに座り、会議をして、座っている十二人は皆人形や玩具の姿をしている。
そして、彼らは人語を喋り、それを解して会話をしているのだ。
側から見たら異常な光景であろうと言わざるを得まい。
「全くその通りだ。」
「まぁまぁ、落ち着きなさいよ。いつものことでしょ。」
その中年に若々しい青年の声をした者が同調し、若い女性の声がそれを宥めている。
「では、本日までに手に入れられた人間の感情を渡してくれ。」
初老の男性によって命令された、彼らはそれぞれ、ハートを差し出した。
「……二万個…。まだだ…まだ目標である一億個まであと九千九百九十七万八千個もも足りない…!!」
「いちいち個数を言われると、気が遠くなっちゃうんですけど…。」
と、若い青年の声の主が呟いた。
「とにかく!我々の目的にはまだ程遠い。質問のある者はいるか?居なければ会議を閉会する。」
その場の全員が沈黙する。
「ではこれにて定例会議を終了する。よいかお前達、多くの人間の感情を奪い、私に捧げるのだ。我々の理想郷のために…」
「「「「「「「「「「「「承知しました。」」」」」」」」」」」」
ややあって、初老の男性が口を開き、それにテーブルに座る人形達が答えると、彼らはそのまま解散して四方八方へと移動して行った。
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五月中旬、ゴールデンウィークがすっかり終わり、学校という現実へと引き戻されて、生徒達が少しずつ休み気分が抜け始めてきた頃のこと。
私の名前は犬鳴美羽(いぬなきみう)。
この私立礼濃学園中等部に通う二年生だ。
クラスでは学級委員、所属する生物部では部長を務め、勉強にも一生懸命に取り組む真面目でしっかり者の女の子として通っている。
私はいつものように学級委員の仕事と生物部での仕事を済ませて家へと帰宅しようとしていた。
「ふぅ、もうこんな時間。早く帰らないと。」
そう呟いてバッグを肩にかけ、靴を履き、校舎を出ようとすると、
駐輪場の方から何かが倒れた音が聞こえた。
「何?今の音……」
私は何か不安を感じて、その方向へと駆け出した。
私が駐輪場に着くと、そこには私の幼馴染の青木ヶ原龍馬(あおきがはらりょうま)と同級生の八木山悠成(やぎやまゆうせい)君が地面に倒れ伏していた。
「っ!悠成君!?龍馬!?ねぇ大丈夫?しっかりして!!」
私は倒れた二人に駆け寄り起こそうとする。
すると突然、「無駄だよ。その二人はもう目を覚さない。」という男性の声がどこからか聞こえてきた。
「誰!」
私がふと上を見上げると、そこには、等身大の高さのアニメキャラクターか何かのフィギュアが空中に浮かんでいた。
「僕は風見仁郎(かざみじろう)。僕が彼らをそういう状態にしたのさ。」
「フィギュア…?なんで…フィギュアが喋って…」
私は何故フィギュアが人語を話しているのか分からないことに慄き、思わず言葉を漏らした。
「……それよりどういうこと?あなたが二人をこうしたの?!どうしてこんなことをするのよ!!」
そして、慄然しながらも、それに尋ねた。
「どうして?悪いけどそれは言えないね。それに知ったところで君はどうせ、すぐに彼らと同じようになるから。」
すると、風見と名乗るフィギュアはどこからともなくハートを取り出すと、それに黒いもやのようなものが集まっていき、そして唐突に
「愚かな人間の感情など、吸い取ってしまえ!グルーマー!!」
と、声高に叫んだ。
さらに、その叫びと同時にそのもやが駐輪場に停めてあった自転車の一台に集まっていった。
「グルルルルオォォォォォン!!!!」
そして、巨大で真っ黒な自転車の見た目をしたギラギラと輝く鋭い瞳を持つ怪物が私の目の前に現れた。
それの周りからは先ほどの黒いもやが漂っている。
「さぁ、グルーマー。手始めにそこの女の子の感情を奪え!!」
「グルルォォォォン!!!」
彼の指示と同時に、私に向かってその怪物、グルーマーが近づき、突然腕を出現させて私に伸ばして来る。
「いやぁ!助けて!」
このまま、二人と同じようになってしまうのか、そう思い、そっと目を閉じた。
しかし次の瞬間、陰陽太極図の見た目をした丸い円が出現し、怪物の腕を遮ったのだ。
「えっ?えぇぇ!?どういうこと…?」
「……何とか間に合ったな。」
動揺する私の目線の先には、巫覡風の服装に身を包んだ青年が立っていた。
いかがでしたでしょうか、よろしければ評価・感想の方をよろしくお願いします。
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