カードゲーム世界に転生したけど所持デッキが激ヤバすぎる件   作: 銀猫

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鬼ごっこという名の逃避行

 言われるがままに逃げ出したはいいものの、特別鍛えているわけでもない人間が走り続ける事などできないわけで。

 

「しつ、こい…!」

 

 吐いた言葉に対して、取り込める酸素が極端に少ない。

 口を開けば二酸化炭素ばかり吐き出して、酸素を取り込むだけの余裕などない。

 

 1人撒けば別の2人が現れて、2人を撒けば3人に追いかけられる。3人から逃走すれば、また別の2人が。

 地の利を生かして逃げ続けるも、限界が近い。

 数の包囲網もさることながら、原因がもう1つ。

 

「はっ…はっ……!」

 

 手を引く彼女の足がふらつく。

 ウツロと出会う前からホムラと逃走劇を繰り広げていた彼女の足は、とうに限界が来ていた。

 

 どこかで休憩しなければ。休憩といかなくても息を整える時間は必要だ。

 

「逃げてんじゃ、ねぇ!!」

「しまっ…!?」

 

 背後に迫る二人組の男。内一人がポケットから闇の結晶を取り出して結界を展開した。

 彼女の為にペースを落とした結果、結界の射程範囲に入ってしまったらしい。

 

「チッ、男の方だけ捕えるつもりだったが巻き込んじまったか」

 

 結界の中にはウツロと彼女と男の3人。

 彼女の手を引きながら走っていたのが功を奏し、彼女1人を残さずに済んだ。

 

「げほっ…、な、なにここ…?」

「まあいい、手間が一個増えただけだ」

 

 見たこともなく暗い空間に怯える彼女。男がデッキを取り出したのを見て、庇うように前に出る。

 

「騎士様気取りかぁ?ガキが、叩き潰してやるよ!フィールドセット!暗黒火山!」

 

 怯える彼女が戦えるとは思えない。非常事態だとデッキを抜き構える。外に応援が来る前にさっさと片付けなければならない。

 あまり良い状況ではないが、彼女が息をつける時間が出来たと捉える事にする。

 

「良いか、目を瞑って休んでろ」

「え、あの…」

「絶対に見るなよ!フィールドセット、海底都市ルル・イエ」

 

 実体化したモンスターを見て倒れられてはたまらない。念入りに念を押してフィールドをセットする。

 

 戦いは簡単に決着がついた。

 所詮は下っ端の1人、態々フィールドを開放するまでもなく、早々に叩き潰す。

 

「形無き悪夢ジョゴズで攻撃」

「あ、あぁ、あぁぁぁぁーー!!」

 

 結界により実体化したジョゴズの攻撃が、男の残った体力を削り取る。

 恐怖に顔が歪み、攻撃の衝撃で体が後に吹き飛ぶ。

 

「なっ!?」

 

 勝敗が決した事で結界が崩れ、吹き飛んだ体は幸運にも結界の外で待機していたもう一人の男に激突する。 

 辺りを見渡すも、増援の気配はない。どうやら手柄を独占しようと連絡していないようだ。追手がいないうちに立ち去ろうと振り向くと、彼女は眼を開いてこちらを見ていた。

 

「凄い……」

「おまっ…!もしかしなくても見てたな!?」

「え?フリじゃないんですか?」

 

 バカみたいな返答を無視して、彼女の瞳をのぞき込む。

 勝負後の対戦相手がしているドンヨリと濁った瞳は無く、曇りない煌めきが瞳に宿っている。

 

「な、なにごと!?」

「とりあえず正気っぽいな」 

 

 理由は分からないが、言動はともかく正気ではあるようだ。

 はぁ、とため息を1つ落として彼女の手を掴む。

 

「走るぞ!」

「はぃ……」

 

 男達が激突した衝撃で気絶している内に、再び走り出す。

 奇跡的にも包囲網に穴が開いた為、少しの間は追手が見失うだろう。その間に少しでも安全な場所を目指す。

 

 走って向かった先は、町で一番賑やかな繁華街。土曜の昼間というだけあって、歩行者天国となって人がごった返しとなっている。

 木を隠すなら森の中。人を隠すなら人ごみの中。ここなら簡単に見つからないだろうし、手を出すにも目撃者が多すぎるはずだ。

 

「とりあえず連絡を」

 

 こういう時の為に、ジョンの連絡先がある。

 スマホを取り出すと、隣にいる彼女が妙にそわそわしているのが気になった。

 

「うぅ、ちょっとまずいかも……」

 

 チラチラと一番大きな街頭ビジョンを見てはしきりに辺りを気にしている。

 釣られてウツロも街頭ビジョンを見る。ウツロだけでなく、多くの通行人が足を止めて流れている映像を見ていた。

 映し出されているのは、水色のポニーテールを元気に揺らし、可愛い衣装を着たアイドルが炭酸飲料の宣伝をしている映像。

 

『疲れた貴方にエナジーチャージ!ときめきチェリーフレーバ発売中!』

 

 とても聞いたことがある声。否、すぐ近くで聞いている声。 

 視線を横に向けると、彼女は慌てて帽子を押さえようとする。しかし、彼女が触れるよりも早く、悪戯な突風が攫ってしまう。

 

「あっ!」

 

 帽子の中に納めていた水色の髪が解ける。

 液晶で見るよりも鮮やかな髪。長い髪が風に揺れる様子は、水面が波打つようだ。

 あっけにとられた彼女と、液晶に映るアイドルの姿が重なる。

 

『君に届け!私のエール!!』

「エールちゃんのCMやっと見れた!」

「ねぇー!」

「あれ誰?」

「先輩知らないんすか!?超絶話題の新星アイドル『ナガレボシエール』っすよ!?」

 

 服も違いメイクもせず、額が汗に濡れても尚映像よりも可愛いく見える彼女の正体は、CMに映るアイドルその人。

 

「まずいまずいバレるぅ…!またマネージャーに怒られる…!!

 

 帽子の消えた頭を手で押さえアタフタ焦っている姿がなんとも情けない。が、周りが話すような超絶人気アイドルなのは間違いないようだ。

 なぜなら、

 

「あれ、エールちゃんじゃね?」

「え!?マジ!?どこ!?」

 

 帽子がどこかに行った結果、素顔を晒す羽目になった彼女に通行人たちが気づき始めた。小さな疑問が大きな波になり、道行く人たちに伝播していく。

 

「おい!あそこだ!」

「こっちだ!!」

 

 ガラの悪い男達がざわざわと揺れる人ごみを押しのけて来るのが見えた。

 こんな人ごみであっても追ってくるとは、今回ばかりはいつもと訳が違うらしい。

 

「まず、行くぞ」

「あっ…」

 

 三度彼女、エールの手を取り人ごみを縫うように走り出す。

 迫りくる追手、エールの正体に気づき始めた周囲の人々。もはやここにいれる状況ではなくなった。

 

「エールちゃん!?」

「何これどういう状況?」

「もしかしてドラマの撮影とか?」

「映画じゃない?確か次エールちゃんが出る作品って」

 

 帽子をなくした今、人通りの多い場所には近づけない。新しい帽子を買っている余裕もなく、どうにか隠れられる場所が必要だ。

 人の出入りもなく、誰にも知られていない無名の場所。しかもよそ様に迷惑がかからないおまけつき。たった1つだけだが、心当たりがある。非常に気乗りしないが、贅沢を言っている余裕はウツロ達にはない。

 とにかく追手を撒く為に、ウツロとエールは走り出した。

 

 走って走って走って、どうにか地の利を生かして追手を撒いた末にたどり着いたのは、とあるマンションの一室。

 

「お、お邪魔します……」

 

 恐る恐る入るエールを迎え入れる。部屋に入る前にどうにか追手を撒けた。当分は大丈夫だとようやく一息ついた。

 高校生1人が住むには大きいマンションの一室。放任主義の親が契約して押し付けていった1LDK。ウツロが一人暮らししている部屋に避難した。

 

 リビングに座り、今日起こった一連の流れを思い返す。

 休日にカードショップに行こうとしただけなのに、沢山の追手に追われ町中を走り回ることになるとは。

 現実逃避気味に思い返し、ふとエールを見ると、借りてきた猫の様に固まっている。

 

「エールさん?」

「あ、ナガレボシエールは芸名で本名は夜天(やてん)ウミカです」

「古守ウツロです」

 

 あっさり本名を言っていいのかとツッコミを入れようか迷っていると、スマホの着信音が鳴る。

 

「あっ、もしもし!」

 

 エールもといウミカのスマホからだ。画面に表示された相手を見て、すぐさま電話に出るウミカ。

 

「はい、沢山助けてもらってなんとか、え、彼にですか?はい、わかりました」

 

 数分やり取りをしていると、何故かウミカからスマホを渡された。どうやら着信相手がウツロに用があるらしい。

 ウミカのスマホを手に取り耳に当てる。

 

『もしもし、私エールのマネージャーのハカリと申します』

 

 聞こえてきたのは男の声。正体はウミカのマネージャーだった。

 

『エールを助けていただき、本当にありがとうございます…!』

「感謝されるにはまだ早いです、これからどうするんですか」

 

 問題は解決していない。今はどうにか追手を撒いて隠れているだけだ。根本を解決しなければ意味がない。

 

『そのことなんですが、このまま匿っていただけませんか』

「いやダメでしょ。アイドルを知らない男の家に泊めるなんて」

『こちらとしても苦渋の決断なんです…!』

 

 通話越しでも伝わるマネージャーの悔しさ。思いっきり唇を噛んで血を流している姿がたやすく想像できてしまう。

 

『あの方が貴方の近くなら安全だとおっしゃっるので…』

「あの人?」

『私ですよ』

 

 通話相手がいきなり変わる。若い男の声から渋い男の声に。

 さっき連絡しようとした相手。

 

『お久しぶり、でもないですね』

「ジョンさんか」

 

 ジョン・タイラー。国際警察のお偉方が電話相手のすぐ近くにいるということは、ウミカを取り巻く事件はよほど大きいらしい。

 

『ウツロ君には申し訳ないですが、彼女を一週間ほど匿ってくれませんか』

「そっちでどうにかできないんですか?」

『本当は事務所で匿うつもりだったんですけどね。どうもネズミがそこらかしこにいて安全とは程遠いのですよ』

 

 国際警察をしても安全が確保できていない。頭が痛すぎる問題だ。

 

「そっちで無理ならウチも無理だと思いますが」

『ウツロ君の隣以上に安全な場所なんてないですよ』

 

 そんなわけがない、と彼女を送り付ける事は簡単だ。

 だが、危険と分かっている場所に送り付けるなどウミカを見捨てたも同然。知り合って間もない彼女だが、簡単に見捨てれるほどウツロは悪人ではない。

 少なくともウツロの家はまだバレてない。現状一番安全なのは確かだ。

 

「…りょーかい。これで貸し2ですからね」

『えぇ、わかっています』

 

 公園でのバトルと合わせて貸し2で手を打つ。

 人助けをしつつ貸しが作れるなら悪くない、と自分を納得させるウツロ。

 

『これ以上は盗聴の危険がありますので、この辺で』

「最後に1つだけ」

 

 本当はなんで狙われているのか、誰に狙われているのかなど聞きたいことは山ほどあるが、当面の心配事を最後に聞いておくことにした。

 ウツロのバトル、それも実体化したモンスターを生で見た事を話す。

 ジョンは少しの間黙ると、これは私の推理ですがと考えを纏めてくれる。

 

『ウミカさんは精霊持ちです。おそらく精霊の力がフィルターのような役割をはたすのではないでしょうか。天之河ヒカリさんの時のように』

 

 ジョンの話を聞いて納得する。同じ精霊の力なら相殺ができても不思議ではない。

 

『あくまでウツロ君が限界まで力を抑えているから成り立っているだけです。気を付けるに越したことはありません』

 

 最後に念を押され、マネージャーを交代した。

 

『良いですか、少し、ほんの少しの役得には目を瞑りますが、彼女を傷物にしてみろ…!それとこれとは話が別だからな……!!』

 

 交代したマネージャーは相変わらず怨念が篭ったような話し方で念を押してくる。

 これ以上ないくらい釘を刺された後、通話の切れたスマホをウミカに返す。

 

「よ、よろしくお願いしますぅ…。え、えへへぇ……」

 

 ジョンから聞いた期間は1週間ほど。

 想像もしなかった避難生活が幕を開けた。

 

 

 

 

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