カードゲーム世界に転生したけど所持デッキが激ヤバすぎる件   作: 銀猫

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料理も計画も下準備が大切

 帰りは車を使わず、歩いて帰ることにした。

 会話はほとんどなく、ただ彼女が差し出した手を繋いで家まで歩く。

 

「……」

 

 無言の時間が長く続くも、決して嫌な空気ではない。

 自宅に帰る頃には、とっくに日が跨いでいた。明日は昼まで寝ることになるなと思いながらソファーに横になろうとすると、ウミカが袖を引く。

 

「……今日だけ、一緒に寝てくれませんか」

「いや、流石に……」

「一人になると怖くなるんです。今日までの一週間は私の都合のいい夢で、現実では一人ぼっちなんじゃないかって……」

「……背中合わせなら」

 

 一人用のベッドに、二人。

 顔を見ない様に背中合わせの形で横になる。

 背中越しに彼女の温もりを感じながら目を瞑ると、小さな声で話しかけてきた。

 

「寝ちゃいました?」

「もう寝るところ」

 

 話したそうな彼女に早く寝ろと促すと、背中からもぞもぞと動く気配がする。

 ピタリと、ウツロの背中に掌の感触。

 

「……背中合わせって約束だったはずだけど」

「ふふ、ウツロ君が振り向かなければ、シュレディンガーのなんたらってやつです」

 

 後ろ髪に吐息が当たりこそばゆい。

 心臓の音が、高鳴る気がした。

 

「ウミカさ」

「なんです?」

「その恰好、わざとしてるだろ」

「……バレちゃいましたか」

 

 下着の上にYシャツ一枚の煽情的な格好。

 いくら自宅で寝る時は下着だけと言っても、出会ったばかりの男の自宅でする格好では断じてない。

 

「なんで、って聞くのは野暮か?」

「わかってるのに聞くのは野暮です」

 

 夜天ウミカには歌しかない。

 命を救われ、一週間も匿ってもらっている。返しきれない恩を、ウミカはウツロからもらった。

 恩を返したいが、ウミカが持つものはあまりに少なく、唯一恩返しできる歌はうたう事ができない。

 歌をうたえない役立たずなウミカが、それでも恩返しするにはもうこの体以外になかった。アイドルとして人気になれるだけの美貌があることは、鈍いウミカでも理解していた。

 アイドルが関係を持ったなど発覚すればとんでもない問題になるが、どうせ二度と表舞台に立てないなら関係ない。

 

「今からでも、振り向いて良いんですよ」

 

 ウミカの声が、今だけは蠱惑的に聞こえる。

 砂糖菓子のように甘い誘惑が、背中越しに伝わる柔らかい感触と共にやってくる。

 

「やなこった」

 

 甘い甘い誘惑を、一蹴する。

 

「そんなに魅力ないですか私?」

「最後までかっこつけさせろって言ってんの」

 

 ここで振り返ってしまえば、欲望で助けたのと変わらない。

 彼女を助けようと思った気持ちに、下心はない。ただ、彼女の歌が綺麗で、夢が尊いと思ったから助けようと思ったのだ。

 この思いを、今更欲望で汚したくない。

 

「また歌ってるところを見せてくれ。それだけで十分だよ」

「……はい」

 

 疲れていたのだろう、すぐに後ろから寝息が聞こえてきた。

 背中に当たる柔らかい感触と、暖かい熱。寝るには少々、体が火照りすぎた。ベッドを抜け出そうにも、背中をぎゅっと掴まれている。

 この状況に慣れるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 

 目覚めると昼をとうに過ぎていた。

 二人して遅い昼ごはんを食べた後、談笑して時間をつぶす。

 たわいのない会話は時間を加速させ、気が付けば約束の時間。

 

「忘れ物ないか?」

「はい」

 

 会った時と同じ服装に着替えたウミカは、ハルカに買ってきてもらった服と、昨日取ったぬいぐるみを持つ。

 

「一応これ」

 

 夜とは言え、一応を考えて昨夜と同じ帽子をかぶせて準備完了。忘れ物が無いかを確認し、二人で部屋を出て目的地に向かう。

 夜の街を少しの時間歩くと、目的地であるかつてマリアと初めてあった公園にたどり着いた。

 

「おつかれ」

 

 公園の横には黒塗りの車が停めてあり、車に寄りかかるようにマリアが立っていた。

 片手を上げて挨拶したマリアがウミカの前に立つ。

 

「国際警察所属、マリア・ヘルメスです」

「夜天ウミカです、お世話になります」

 

 挨拶を交わし、握手をする二人を見てウツロの仕事が終わった。

 

「後は任せた」

「任された。迷惑かけて悪かったな。本来はオレ達の仕事なんだが」

「そっちも忙しかったんだろ?しょうがないって」

 

 気まずそうにこちらを見るマリアは、いつもと違い髪がボサついており声に張りがない。

 大変な仕事だと分かるくらいに、マリアは消耗している。

 

「ありがと、本当に助かった」

 

 マリアは車の扉を開けウミカを誘導すると、ウミカはウツロの元に走って近寄る。

 

「あの、これ、借りても良い?」

 

 ウミカが被っていた帽子を脱いで手に取り、胸元でぎゅっと握る。

 

「次会う時に、返すから……」

「じゃあ、預けた」

「……はいっ!」

 

 またいつか。言葉にださない別れの言葉を帽子に預け。最後に一番の笑顔を見せた彼女が車に乗るのを見送る。

 車が見えなくなると、近くのベンチに座りスマホを取り出す。

 

『お疲れ様でしたウツロ君』

 

 ワンコールで繋がった通話は、相手からの労いの言葉で始まった。

 

『ただ、あまり私たち驚かせないでください』

「あー、昨日の事バレてます?」

『監視対象達の動きで大体わかります。ウツロ君なら心配いらないと思いますが、次からは事前に一言ぐらいください』

「すいません」

 

 通話相手、ジョンさんからお小言を貰ってしまった。

 保護対象を外に連れまわした挙句、わざと追手をおびき寄せると同時に彼女の力を体験した。ウミカだけでなくウツロの事情を知るジョンからすれば、心配もするのも当然のため甘んじて受け入れる。

 

 右手を見てあの夜の感覚を思い出す。

 強化されるのはウミカが歌っている間だけだが、ウツロが無意識に抑制していた力を意識して霧散させるほどの上り幅。マイクも楽曲も通さず、ただのアカペラであの上がりよう。

 組織が血眼で探す理由が分かった。だとしても、もう一度歌わせるとウミカと約束したのだ。

 

『それで、何か要件があるんじゃないですか?』

「貸しを返してもらおうかと思って」

 

 約束を叶えるには、ウツロの力だけでは足りない。だから、ここで力を貸してもうとする。

 

「まず1つ、次のドームライブ開催してもらいます」

『……何を言っているのか、理解していらっしゃるんですよね?』

「もちろん」

 

 ライブの中止を要請したのは間違いなく国際警察側のはず。ライブをするには、まず国際警察側を崩す必要がある。

 都合よく、ウツロには彼等に対して貸しがある。

 

『本気ですか?』

「――えぇ、本気です」

『分かりました。開催はこちら側で何とかしましょう』

 

 ウツロの想像していたよりも、ジョンはあっさりと事を受け入れた。

 

「2つ目、ドーム内の警備をお願いします。外からの敵は全て対処しますが、一応」

『1つだけ聞かせてください。何故ここまでするのですか?』

「あの歌声に惚れたんですよ、きっとね」

 

 彼女の夢は守りたいと思える程綺麗なモノだった。もう一度歌ってほしい、この気持ちだけで手を貸す理由には十分だ。

 

『分かりました、こちらも全力を尽くしましょう』

「助かります」

『ですが、返せる借りは1つだけですね』

 

 悪戯が成功した子供の様に、ジョンは声のトーンを一つ上げる。

 

『市民を守るのは我々の使命です。貴方に頼られずとも、ドームの警備は我々が担当しましょう』

「本当に、ありがとうございます」

 

 感謝を伝え、通話を切る。

 これで布石を1つ。更に盤面を盤石にし、もしもすら起こらないようにするため、もう1人の協力者を求めて番号を打つ。

 ステラバトルや精霊に関して、ウツロが最も信頼できる相手。

 

「もしもし、急で悪いんだけど頼みがあって」

 

 現状までの流れと頼みたい事を話すと、通話相手は全てを快く引き受けてくれた。

 

「ありがとう、天乃河」

 

 

************

 

 ウミカ達を乗せた黒い車が向かった先は、ウミカの所属するスペースプロダクションの事務所。車から降り建物に入ると、眼鏡をかけた男性がウミカを迎える。

 

「エールさん!大丈夫でしたか!?」

「大丈夫ですよハカリさん」

 

 重居ハカリ、ウミカのマネージャー。

 心配からか、沢山質問するマネージャーを落ち着くかせながら社長室に向かう。部屋の中に入ると、スペースプロダクション社長が椅子に腰かけて待っていた。

 

「なんともないようで良かった」

「おかげさまで」

 

 初老の男性は、安堵の息を吐き背もたれに寄りかかる。

 

「これからの事は警察の方から説明がある。それまで休んでなさい」

「そのことなんですが社長、お願いがあるんです」

 

 ウツロが約束してくれたウミカの夢を、彼に任せるだけでなく自分の言葉で形にしたい。

 

「私、ドームライブやります」

「エールさん……」

 

 ハカリの言葉が詰まる。

 彼としても叶えさせてやりたい夢であった。マネージャーとしてウミカをここまで支え、共に夢に向かって頑張ってきたのだ。だが、子供を守る義務が大人にはある。

 

「残念ですがライブはできません。エールさんだって納得したじゃないですか」

「確かに、あの時は納得しました」

 

 マネージャーの言葉がウミカの胸に突き刺さる。

 確かに、一度は納得した話だ。ウミカだけじゃない、観客にだって被害が出るかもしれない。考えただけで目の前に闇が広がり、怖くて一歩も前に進めなくなる。

 けれど、

 

『――お前の夢は、誰にも邪魔させない』

 

 今は、星が歩きたい道を照らしてくれる。

 

「今は、違います。迷惑だってわかってます、けど、最後にもう一度歌いたいんです……!」

「私だって歌わせてやりたいがね、警察の方々とも協議した結果なのだよ。すまないが諦めてくれ」

 

 社長がウミカのお願いをバッサリと切り捨てる。一企業のトップとして社員を守る為でもあり、被害が出た際に起こるであろうバッシングから会社を守る為にライブはできない。

 

「良いですね、やりましょうかライブ」

 

 新たな来訪者が、部屋に入るなりウミカを援護する発言をした。

 

「何を言っているんですかタイラーさん。貴方が中止を要請してきたんじゃありませんか」

 

 今回の事件の総指揮を取りライブの中止を要請してきた男が、今度はライブをしようと話を持ち掛けてきた。これには社長も流石に眉を顰める。

 

「風向きが変わりまして、私共としてもライブをやってもらった方が好都合なんですよ」

 

 ジョンがこちらに向かってこっそりウインクを送った。

 ウミカはウツロが何かしてくれたのだと気づく。ただの励ましなんかじゃない、ウツロは本当にウミカの夢を叶えさせてくれようとしてる。

 胸の奥が、暖かくなったのが分かった。

 

「しかしねぇ、私達にも立場があるんですよ。事件が起こると分かっていて開催して、もしも観客に被害が出たらどうするつもりなんですか?」

「安心してください。我々が警備について目を光らせます。万が一も起こりませんよ」

 

 ジョンとウミカが何故自身満々なのか、社長には理解できない。

 

「スポンサーの方々も今回は中止で納得してくださった。今更やるといっても」

「そちらは問題ありません。既に説得済みです」

 

 上品で美しい声が新たに加わる。可憐で儚い、脆く綺麗な砂糖細工のような少女がジョンに続いて部屋に入ってきた。

 

「お久しぶりです天之河さん。もしや貴方も?」

「はい、全力で協力させていただきます」

「天之河?まさか、あの天の川グループの……!?」

 

 ここに来て関係のない人物の乱入に場が混乱。ただジョンとヒカリは通じ合っているようで、二人の様子を見てウミカも納得する。

 

「社長、まだ何か問題がありますか?」

「……わかりました」

 

 国際警察に加え、大企業天の川グループまで出張ってこられては頷かざるを得ない。

 社長を大きくため息を吐き首を縦に振った。

 

「では色々詰めましょうか。天之河さんもご同席願えますか?」

「はい、もちろん」

 

 社長とジョン、ヒカリがライブの計画について話し合う為、ウミカとマネージャーは部屋を出る。あまりの急展開にマネージャーは話についていけてず未だに混乱している。

 

「マネージャー、話があります」

「なんでしょう?」

 

 多くの人がウミカに力を貸してくれる。彼らに頼んでくれたであろうウツロに報いるため、この胸の鼓動を形にしたい。悔いを残したくない。

 

「歌を、作りたいんです」

 

 この思いを歌いたい。

 

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