カードゲーム世界に転生したけど所持デッキが激ヤバすぎる件 作: 銀猫
ウツロとウミカとの共同生活から2週間が過ぎ、ついにライブ当日。
混雑が予想され開場時間は1時間早くなった。入場ゲートには多くの人だかりができていて、長蛇の列が少しずつ前に進んでいく。
列が中々進まないのは、一人一人個人確認と持ち物検査を念入りに行なっているからだ。
ライブには当たり前のものだが、だとしても過剰に見えるほど徹底した検査がひかれている。
『おい、入れなかったってどう言う事だ』
「いや、だから検査が厳しすぎるんですって」
会場から少し離れた路地裏で、ガラの悪い男がスマホを片手に愚痴をこぼしていた。
「どんな手を使ってもバレて全員弾かれたんすよ」
後から手に入れたチケットは本人確認で弾かれ、スタッフとして潜入した奴らも事前にバレて逆に捕まった。他にも小細工を弄したが、どれもこれも見破られてどうにもできないのが男の現状。
仮に入場できたとしても、入念すぎる手荷物検査によって闇の結晶は持ち込めないし、多すぎる警備員によって碌に身動きも取れないだろう。
まさに八方ふさがりで、仕方なく上司に泣きついた。
『チッ、使えねえな。他のやつら集めて待機しとけ。後で合流しろ』
「うぃっす。……だりー」
待機を言い渡され、手持ち無沙汰になった男は上司に言われた通り他のメンバーに連絡をいれるため、新たに電話番号を打ち込む。
本来はライブ開始後に行う襲撃のサポートが仕事だったが、まさか襲撃メンバーに加わることになるとは思いもしなかった。
ライブが始まればターゲットは逃げも隠れもできない。後は会場を囲んで逃走ルートを塞ぎ、中と外の両方から襲撃して連れ去るだけの簡単な仕事のはずだったが、まさか出鼻から挫かれる事になるとは。
「あ?なんで誰も出ねーんだよ」
「そこの人、ちょっといいか?」
男の他に弾かれたメンバーと誰1人連絡が取れず、眉を顰めていると後ろから声をかけられた。
「今取り込み中だ」
苛立ちながら声を荒げ、後ろを振り向くとひどく良い女が立っていた。美貌をこれでもかと曝け出す露出の高い格好に、思わずにやけそうになる。
「……チッ、取り込み中つったろどっかいけ」
いつもならこんな良い女こっちから逃さないが、今はタイミングが悪すぎた。デカすぎる獲物を涎を垂らしながら追い払うが、肝心の女が移動しない。
「そうはいかない。オレはお前に用があるんだからな」
「あ?何言って……」
「国際警察だ。話を聞かせてもらおうか」
「な!?」
ここに来て、ようやく男は自分の置かれている状況を理解した。ここまで徹底的に弾かれたのも、誰にも連絡つかないのも全てこの女達が原因なのだと。
「お仲間は全員連行させてもらった。お前も大人しくお縄につくんだな」
「クソがクソがクソがぁ!!」
闇の結晶を使うも、男の結果は決まっていた。
ステラバトルでコテンパンに男を叩きのめし、マリアは捕まえた男を仲間に引き渡す。
また一人敵を確保したと、ドームの中で指揮を執るジョンに報告が入る。
「お疲れ様でした」
報告に来た部下に労いをかけ、部屋の椅子に座るもう一人に向き直る。
「これで侵入を試みた連中は大体確保できました。貴方のおかげです天之河さん」
「ウツロ様のお願いですから、当然です」
ヒカリの前にはモニターが設置されており、付近一帯の監視カメラ映像が全て映し出されている。
客席、忙しく動き回るスタッフ、入場ゲートに並ぶ行列等、数多くの人々からヒカリは敵をピタリと言い当てた。
「少し張り切りすぎちゃいました」
笑うヒカリの瞳には、純白の輝きが僅かに漏れ出している。精霊の力を使った視覚の強化によって、体にこびりついた闇の結晶が持つ力の残滓を読み取り一人も逃さず敵を暴き切った。カードの精霊に頼らず、本人が力を持つヒカリだからできる神業だ。
「私としてはありがたいですが、ここまではお願いされてないのでしょう?」
「ウツロ様が少しでも楽をできるならいくらでも力を貸しますよ。そちらこそ、頼まれたのは中の警備だけでは?」
「警察としての仕事をしたまでですよ」
頼まれたのはあくまで警備と保険。お互いウツロに頼まれた仕事以上をこなしているが、彼の負担を少しでも減らそうと自分たちのできる仕事を最大限こなした。
「私たちにできる事はやり切りました。後はウツロ君次第ですね」
潜入を試みた連中は、あくまでこの後に来る本命の為のサポーターでしかない。
ライブを中止にしてウミカに逃げられないよう、本命はライブが始まってから襲撃をかけるはずだ。
今まで隠し通してきたウミカが姿を晒すこの機会を逃すわけがない。きっと多くの手勢を引き連れてこの場所を襲撃するだろう。
「大丈夫ですよ」
これまでにない大がかりな襲撃を予感しながらも、精霊の力を宿す少女は疑わない。
きっと、今回も全て上手く行くと信じている。かつての自分の時と同じように。
「ウツロ様が任せろと言ったのですから、全て上手くいきます」
「ええ、その通りです」
時は進む。
なんとか時間内に入場は終わり、ついにライブが始まる時間。
席に座る観客はウミカの登場を今か今かと待っている。
「みんなー!!いっくよーー!!」
「「「ウォーーーー!!!!」」」
「最初はこの曲!フレフレサンシャイン!!」
この日の為に用意した衣装を身に着け、ナガレボシエールがステージに立つ。
エールの登場に座っていた観客は立ち上がり、彼女を象徴する青のペンライトが客席を覆ってドームに輝く海が現れる。ファンの熱狂はドームを突き破り、世界を揺らすんじゃないかと錯覚してしまう。
大きな大きな歓声と共に、一曲目が披露される。
ナガレボシエールの、夜天ウミカの夢が始まった。
「ようやく始まったか、行くぞてめえら」
「……対象に動きアリ。皆さん行きましょう」
ライブを皮切りに、二つの陣営が動き出す。
片方はウミカを狙う悪の組織連合。仲間意識もチームワークも欠片もない烏合の集だが、100人を軽く超える数がドームに向かって進軍する。
対するは国際警察。警備に十分な数を残し、少数精鋭でドームを取り囲まんとする連中の本拠地に急襲をかける。襲撃に戦力のほとんどを割いているこの隙をつき、一つでも多くの組織を壊滅させるため動き出した。
二つの陣営が動き出す中、まったく別の第三陣営も動き出していた。
「本当についてくるのか?」
「もちろん、ホムラだけじゃ心配だし」
「これでも部長だからね、君たちだけに危ない事はさせられないよ」
ウツロとマリアを除いた綺羅星高校ステラバトル部もまた、ライブ会場の近くに来ていた。
最初に追われているウミカを助けたホムラは、彼女がライブをやると知りまた追手が来ると確信して会場近くに足を運んだ。ウミカの着替えを買った事で、薄っすらと事情を知ったハルカは部長のダイチと相談し、ホムラの加勢に駆け付けた。
「良いか、無理はするなよ!」
「ホムラこそ!」
「来たよ、二人とも」
三人の前に、あからさまにガラの悪い集団が現れた。
敵は数多いが、全員が全員纏まって動いているわけではない。目の前の連中の様に少人数がバラバラに動いている場合もある。
ホムラ達の前に現れたのも、本隊から外れて行動する別動隊だ。敵に対し、ホムラがフィールドを展開する。誰よりも早く、戦いの火ぶたは切られた。
ホムラが小規模な別動隊を相手にし、マリア達精鋭部隊が敵の本拠地を攻める。
二つの戦力がベストを尽くすも、100人を超える本隊はウミカを狙い進軍を続ける。
また一つ、また一つと途中で他グループと合流し、ついに200人を超える大所帯となりライブが開催されているドーム目前にまで迫った。
「……まて、おかしくないか?」
先頭に立つリーダー格の男が立ち止まる。
目的地目前という所で、違和感のようなものを感じた。ここにいる人数が多すぎるのだ。
持ち場こそ決めていないが、ドームを囲むようにして逃げ場を塞ぐ手筈であった。だが、ほぼ全ての人員が正面に集結している。
何かが、おかしい。
「チッ、まあいい行くぞ」
異変を感じるも、目的の場所はもう目の前にある。ここで時間を潰す方がもったいないと考え、囲うのはついてから人数を分ければいいと進軍を続けることにした。
ガラの悪い200人を超える集団が歩いているから、ドームに続く道には人っ子一人も見えない。車もバイクも通らず、これ幸いと車道のど真ん中を突っ切って歩いていると、彼らの正面に初めて人影を見た。
「良かった、こういう使い方は初めてだから少し心配したけど上手く集まってくれたか」
200人を超える敵にビビるどころか、安堵の息を漏らすのは古守ウツロ。
「ひいふうみい、ざっと200って所か?予想より少ないな」
「おい、ガキ、ここで何してんだ」
「うん?分からない?」
彼らの道を遮るように立つウツロに、集団の一人が問いかける。
1対200以上の構図でありながら、ビビる様子のない姿に男達は苛立ちを覚えているが、苛立つのはウツロも同じだった。
ウツロの右手には既に、デッキが握られている。
「待ってたんだよ。お前ら全員叩き潰すためにな」
ここから先はウミカの聖域。目の前の薄汚れた悪党共が足を踏み入れて良い場所では断じてない。
彼らの汚らわしい手で彼女の夢を傷つけさせない為に、ウツロが立ち塞がる。
――有象無象が目指す先には、魔王が立つ。