カードゲーム世界に転生したけど所持デッキが激ヤバすぎる件 作: 銀猫
――夜天ウミカは幸運である。
小さい頃、両親を交通事故で亡くした。
でも大丈夫、大好きなおばあちゃんが引き取ってくれた。まだ私を愛してくる人がいる。私は幸運だ。
「ウミカの歌は綺麗だねぇ、おばあちゃん大好きだよ」
勉強も運動も中々上手くできない。友人だってできたためしがない。だって私は愚図でノロマだから。
でも大丈夫、私には歌がある。おばあちゃんも沢山褒めてくれた。得意な事があるなんて、私は幸運だ。
「なにたっくんに色目使ってんだよノロマ」
中学に上がった。男子からよく話しかけられるようになったけど、下心ばかりを感じて避けてしまう。
男子を避ければ女子からは調子に乗っていると無視されて、私は相変わらず友達はできなかった。でも大丈夫、最近動画サイトで私の歌を褒めてくれる人たちがいる。大好きな歌を認められる。私は幸運だ。
「夜天ウミカさん、ウチで歌いませんか?」
動画サイトで少し有名になった頃、事務所から声をかけられた。
やっぱり私は幸運だ。
最初は歌手だと思っていたけど、歌って踊るアイドルとしてデビューが決定した。運動は得意じゃないけど、頑張って沢山沢山沢山練習した。
これから私の歌で沢山の人に元気を届けたい。
あの頃の私を元気づけてくれた歌を、今度は私が皆に届けるんだ。
「恐らく、狙いはウミカさんですね」
最近私の周りで不審な事が多く起きた。マネージャーに相談すると、国際警察を名乗る人たちが訪ねてきて、私が狙われていると話してくれた。
どうやら、私の歌には精霊?を強化する力があるらしく、この力を狙って沢山の悪者が私を狙っているらしい。
……私は幸運だ。危ない事が起こる前に知れたのだから。
「ドームライブは中止になりました」
私を狙う相手は手段を選ばないらしい。仕事先にも手が及んでいるらしく、当分休業することになるそうだ。
……分かっている。休業なんて建前だ。私に力がある限り、二度と人前で歌うことはできない。
でも、私は幸運だ。だって、多くの人が私を守ってくるのだから。
私は幸運だ。私は、私は、私はきっと、幸運なはずなんだ。
「――お前の夢は、誰にも邪魔させない」
暗い闇の中で、星を見た。
どれだけ藻掻いても抜け出せない暗闇の中で、彼は私の手を掴んでくれた。
私の夢を守ってくれる。もう一度、私に歌わせてくれる。彼がどう思っているのかはわからないけれど、あの夜にくれた言葉は、私が生きてきた中で一番嬉しかった。
どれだけ感謝してもしきれない。
――やはり、私は幸運だ。だって大好きな男の子が出来たのだから。
**********
夢のような一週間だった。
初めて友達の家に泊まった。
初めて友達と買い食いをした。
初めて友達とゲームセンターで遊んだ。
――初めて、好きな人が出来た。
彼と別れ、事務所に帰ってきてすぐ、私は初めてマネージャーに無理な我儘を言った。
「ライブまで後2週間ですよ?今から新曲なんて……」
「お願いします!!これが最後のライブになるから、どうしても私の歌を歌いたいんです!!」
深く頭を下げた私を見て、マネージャーはため息を吐いてメモを開く。
「……はぁ、分かりました。どうにかします」
「ありがとうございます!!」
この日から、沢山沢山頑張った。私は初めて、自分で歌詞を書いた。今までは私のイメージに合った曲を作ってもらっていたけど、これは違う。
私らしい歌じゃない。私が歌いたい歌。私が伝えたい気持ちの結晶。
――私だけの歌だ。
歌を作っていると、あっという間に時間が過ぎていた。
気が付けばもう本番当日。慌ただしくスタッフが動く中、最後のリハーサルを終え私は控室で待機する。
「……大丈夫、きっと大丈夫」
あの日以降、彼とは一度も会っていない。
一度掴んだ明かりを手放したようで、毎日不安に苛まれる。
不安を紛らわせるように預かった帽子を胸に抱える。こうすると、彼の温もりを思い出せる気がして落ち着くのだ。
気持ちを落ち着かせていると、ノックがあった。帽子を机の上に置いて扉を開ける。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのはスタッフでもマネージャーでもなくて、可憐で可愛いく、どこか幻想的な雰囲気を纏う少女、天乃河ヒカリちゃん。
彼が助けを要請した協力者。
……少しだけ、彼女が羨ましい。ヒカリちゃんは、彼から頼ってもいいと思われている。守られるだけの私と違う。
「緊張されてますか?」
「いや、えっと、はい……」
幻想的な白い美貌に、同性の私でも思わず見とれてしまう。
「大丈夫ですよ。貴方なら、わかるでしょう?」
「……はい」
大丈夫。そうだ、大丈夫だ。だって、彼が言ったじゃないか。
あの夜を思い出せば、胸の奥に熱が灯る。不思議と、不安は消えていた。
「あの、ありがとうございます」
「私は何もしてませんよ」
ニコニコと笑うヒカリちゃん。
ふと、私は気になった。どうしてここまで親切にしてくれるのかと。だから、口下手な私は言葉を直接相手に伝える。
「どうして、ですか。そうですね、私も貴方の歌のファンだからでしょうか?」
「えっと、どうも……?」
「ふふ、だから歌ってください。私も彼も、上手くいくように願っています」
私の様子を見に来てくれたのだろう。もう大丈夫だと分かると、ヒカリちゃんは部屋を出ていく。
「……あの!」
「どうかしましたか?」
「私、負けませんから!!!!」
とても可愛くて、私よりも関係が長くて、彼から巻き込んでも良いと思われるくらい信頼されている。
私じゃ何一つ勝てないかもしれなけれど、この気持ちだけは負けてはいないはずだ。
「――ええ、私も負けるつもりはありません」
これは宣戦布告だ。私の宣言をヒカリちゃんは真正面から受け止めてくれた。
よし、と改めて気合を入れる。ライバルな彼女に、無様な姿はさらせない。
ここまで助けてくれた彼の為に、後悔は残せない。
「エールさん準備お願いしまーす」
「はい!!」
奈落。ステージの下に私は立つ。暗くて、一人で、上から降る光だけが私を照らす。
この上が、私の夢。もう二度と上がれないと思っていた。でも、私は今日もう一度上がるのだ。
音楽が鳴り、迫りが上昇する。
「みんなー!!いっくよーー!!」
ステージに上がると、目の前に青い光が広がっている。私を応援してくれる皆が作ってくれた、私だけの海。
心に火が付く。今日、ここにいる全員に、私の全てを刻み込んでやるのだ。
一曲目から全力で歌う。二曲目も、三曲目も。私の全力で会場を包む。
「ここで、新曲を歌います!」
「「「うおぉーーーー!!」」」
「この曲は、初めて私が一から作詞した、私の曲です。聞いてください、『私のステラ』」
今まで歌ってきた曲とは180度逆。誰かを応援するような楽しい曲調ではなく、しっとりとしたバラード調。この曲には可愛い振付も、激しいダンスもない。ただ純粋に歌だけで届ける。
ナガレボシエールのイメージとかけ離れた曲に、観客も驚いているのが見えた。
「暗闇が私を飲み込んだ。ここは月の光も届かない、無限の奈落」
「私はどこまでも落ちていく。溺れるように藻掻くこの手を、貴方だけが掴んでくれた」
ファンの皆、ごめんなさい。今まで私は皆の為に歌ってました。
けど、この曲だけは違います。この歌だけは、どこかの誰かにじゃない、貴方の為に歌います。私の思いを、この気持ちを歌にして。
「手を引いてくれる貴方は、どんな星よりも眩しくて」
「この世界を誰もが暗闇と嘆くけれど、私は星空と歌います」
アイドル失格の我儘だけど、今日だけは許してください。
この歌はアイドル『ナガレボシエール』としてではなく、ただの夜天ウミカとして歌います。
「闇を切り裂く、私のステラ。どうかこの手を離さないで」
どうか、この歌が貴方に届きますように。