カードゲーム世界に転生したけど所持デッキが激ヤバすぎる件   作: 銀猫

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歌と祈り、目覚めるはーー

 歌が聞こえた気がした。

 きっと、今ウミカは夢のステージで歌っているのだろう。

 

「この先には、行かせられない」

 

 200人を超えるチンピラ達がウツロを睨む。これだけ大勢の視線が集まると、大きな圧力になるものだが、睨まれた本人はどこ吹く風で効いていない。

 

「何者だ、お前」

「ただのお節介だよ」

 

 知り合ったばかりの友人の為に、大勢の敵を相手に立ち塞がる程度のお節介だ。名乗るほどの者なんかじゃない。

 

「そんな事より、聞きたい事がある」

「あ?」

 

 先頭に立つリーダー格の男はウツロを酷く警戒している。

 この異常ともとれる状況に置いて、たった一人で立ち塞がりながら欠片も警戒していないウツロは、よっぽどのマヌケか警戒をする必要もないくらいの実力者なのか。

 

「ここから先は、あいつの夢だ。お前たちには、あいつの夢を踏みにじっても叶えたい夢があるのか?願いがあるか?」

「はぁ……?」

 

 ウツロが問うたのは、なんとも青臭く、くだらない質問だった。

 男達がウミカを狙うのは仕事だからで、夢など関係ない。上司には何か目的があるだろうが、男達にとっては金になる仕事だ。

 

「夢って、バカかお前は。あの女攫えば一生遊んで暮らせるだけの金が手に入るんだ。攫う理由なんてそれだけで充分だろ」

「そーだそーだ、夢なんてくだらねえもんの為にここにいるわけねえだろ」

「頭お花畑かぁ?」

 

 次々に口に出される罵倒の数々。この場にいる誰もが、ウミカを金としか見ていない。

 

「……そうか」

 

 彼らの返答を聞いて、ウツロは静かに笑う。

 

「良かったよ」

「あぁ?」

「お前らに夢があるなら、お互いの夢を賭けて戦わないといけなかった」

 

 ウミカを犠牲にしてでも叶えたい夢があるのなら、真正面から打ち砕かねばと思っていた。だが、彼らはただ仕事だから、上司に攫って来いと言われたからここにいる。誰一人として、自分の意志で考えて立っているのではない。

 ならば、

 

「これで態々戦わなくて済む」

「なんだ逃げんのか?この人数相手に怖くなったんだろ」

「ちげーよ雑魚共、これは戦いじゃねえって言ったんだ。今からするのはな――」

 

 これは戦いではない。

 

「――蹂躙だ」

 

 ウミカの夢に群がる害虫共の駆除だ。

 

 ウツロの握るデッキから、闇が広がる。いや、これは闇ではない。どこまでも吸い込まれそうな暗闇の中に、無数の光が灯っている。

 これは、夜だ。

 ウツロと男達200人を、デッキから広がった夜が包み込む。上下左右、どこを見渡しても広がるのは暗闇と星の光。自分たちは宇宙に放り出されたのではと恐怖する。

 

「な、なんだこれはぁ!?」

「お前らの持ってる闇の結晶と同じだよ」

 

 ウミカと出会った日、ホムラは敵が持つ闇の結晶ではなく自分の力でフィールドを展開した。

 この事をヒカリに聞くと、どうやら闇の結晶が作り出すフィールドは、元々精霊達が使う術をもとに作られたらしい。つまり、精霊の力を使えるなら彼らの様に隔離結界を使えるという事。

 ヒカリに直接教えを乞い、ウツロはこの結界を習得した。

 

「普段なら使わないんだが、今回は特別だ」

 

 ウツロは、自分に一つの縛りをかしている。

 身の内に秘める莫大な力を自分の為に使わない事。ウツロが力を振るっていいのは、誰かの為だけ。

 ウツロが襲われるだけなら、力を使わずなんとかするし、できる。だが、周りの誰かに危害が及ぶなら、この力を振るおう。

 

「さあ、全員でかかってこいよ」

「チッ!!まさかここまでとはな!!」

 

 まずリーダー格の男がデッキを取り出す。

 200人を超える数を隔離する力には驚いたが、やることは変わらない。ステラバトルで勝てばいいだけだ。

 

「聞こえなかったか?」

「あ?何言ってんだ」

 

 男がデッキを取り出したにかかわらず、ウツロはバトルを始めようとせず意味不明な事を言う。

 ウツロはデッキを構えず、男の後ろに立つ残り全員に視線を向ける。

 

「全員纏めて潰してやるって言ったんだ」

「……ば、バカかお前!わ、笑わすんじゃねえ!」

 

 ステラバトルは1対1で戦うカードゲーム。複数人対戦など想定していない。

 しかも、1対200など始まる前から勝負が決まっているようなもの。どれだけイカサマをしようが、勝てるはずがない。

 男達は腹を抱えて大笑いし、ウツロを心底馬鹿にした目で見ている。

 

「てめえが言ったんだからな!?もう後には引けねえぞ!フィールドセットォ!!」

「フィールドセット、海底都市ルル・イエ」

 

 ウツロvs200人の敵。

 敵も全員フィールドをセットし、戦いが始まる。

 

「後は頼んだ、天乃河」

 

 ウツロが一番懸念した事は、力を使う事で無関係な周りに被害が出る事だ。これを防ぐ為に、ヒカリに協力を要請した。

 

「お任せください、ウツロ様」

 

 ウツロと遠く離れたステージの裏側で、ヒカリは祈る様に両手を合わせて目を瞑る。すると、彼女の背中に精霊を宿す者にしか見えない三対六枚、純白の翼が現れた。

 

 ヒカリとしては、ウツロに力など振るってほしくない。代われるならヒカリが代わりに事件を解決したいが、今はまだ力が足りない。

 だから祈る。ウツロの力が無垢な民を巻き込まないように。

 

 ウツロの結界を覆う様に、ヒカリの力でさらに結界で隔離する。今ヒカリはステージの近くにいる為、ウミカのバフをもろに受けている状態だ。

 最後かもしれないライブで、過去一番のパフォーマンスを発揮しているウミカの歌により、ヒカリの力は極限にまで高まっている。

 

 少女の歌が、少女の祈りが形となる。

 これで、ウツロが力を振るうのに何の懸念もない。

 

「これはせめてもの慈悲だ。先攻はくれてやる」

「クハハハ!!死にたいなら先に言ってくれよ!!エナジーチャージ!大地1エナジー!ミニゴブリンを召喚!!」

『ミニゴブリン 1/2』

 

 200人の内、半分以上が1コストのモンスターを召喚する。全員が1しかない攻撃力だが、次のターンに一斉攻撃されれば20しかないウツロの体力など、いとも簡単に吹き飛んでしまう。

 

「俺のターン」

 

 1対200。どんなバトラーでも勝てる筈がない圧倒的戦力差だ。ここまでくればどんな戦略もプレイングも意味をなさない。次のターン全員から攻撃されれば負ける。

 ただし――

 

「ドロー」

 

 ――ウツロを除いて。

 

「来たか」

 

 ウツロに捧げる、少女の祈りがあった。

 ウツロに捧げる、少女の歌があった。

 ならば、このカードを引くのは当然で、結末は始まる前から定まっている。

 

「エナジーチャージ、虚無1エナジー」

 

 ウツロと戦う者は、勇気ある者でなければならない。

 なぜなら、ウツロの前に立つという事には、恐怖に立ち向かう事と同義。恐怖に抗う方法は、己の意志以外にあり得ない。

 意思無き者では、ウツロの前に立つ資格はない。数の力は無意味で、ただ敗北を早めるだけ。

 

 故に、これから起こることは、全て既定路線である。

 

「異界生命体ミルゴを召喚」

『異界生命体ミルゴ 1/1』

 

 まるで人型のような、羽の生えたサソリが現れた。

 虚無属性モンスターの召喚により、ルル・イエの効果が発動する。

 

「海底都市ルル・イエの効果。虚無属性のモンスターが場に出た時、相手プレイヤーはダイスを振る」

 

 男達の手元にダイスが現れる。

 ルル・イエは、敵対する者に恐怖と覚悟を問う。誰であろうと、何人だろうと、ウツロと相対する者全てに訪れる試練。

 

「ダイスを振り、出た目の数だけカウンターを取り除く」

 

 ルル・イエの封印は強力で、相手によっては解放できずに終わることも多い。

 だが、相手に覚悟なき有象無象が集まったならば、出す目が何だろうが関係ない。自分の意志でなく、言われるがままに数で挑んだ時点で、この結末は決まっていた。

 

「フィールド解放」

 

 封印されし都市が浮上する。

 

「海底都市ルル・イエの効果、手札の虚無属性カード1枚のコストを0にする」

 

 手札の内1枚に、混沌の光が宿る。

  

「現れろ、大いなる化身クトゥルガ」

『虚無10 大いなる化身クトゥルガ 10/10』

 

 後攻1ターン目にして1コストと10コストのモンスターが場に現れる。なにより、フィールドが解放されているのだ。盤面をひっくり返すのも可能だろう。

 だが、解放されたフィールドはただのフィールドではない。

 

「見せてやる、覚醒を超える覚醒を」

 

 ただのフィールドならば、盤面をひっくり返すだけで終わるだろう。

 しかし、解放されたのは海底都市ルル・イエ。

 

「生贄(サクリファイス)!!」

 

 クトゥルガとミルゴが、地面に現れた黒い渦に吸い込まれていく。

 

「このカードは、このカードの効果でしか場に出すことができない」

 

 このカードはウツロのデッキに1枚しか存在せず、ルル・イエの効果でサーチもできない。厳しすぎる条件をクリアし、ルル・イエを解放して初めて、このカードを場に出す事ができる。

 

「海底都市ルル・イエが解放されており、フィールドに存在するモンスターの合計コストが11以上かつ、『覚醒』効果を持つモンスターがいる場合に召喚条件を満たす」

 

 祈りが捧げられた。歌が捧げられた。大量の恐怖が捧げられた。

 ならば、このカードを引くことは必然だ。

 

「フィールドの覚醒モンスターを含め、コストが11以上になるようにモンスターを生贄に捧げる事で、このカードを手札から場に出す事が出来る」

 

 闇が、混沌が、恐怖が集まる。

 ソレは宇宙の始まりにして万物の王。

 混沌の化身にして暗黒の擬人化。

 

「『超覚醒』」

 

 混沌の中心に、玉座に眠る魔王が現れる。

 

「――目覚めろ、白痴魔皇アザ・トール!!」

『白痴魔皇アザ・トール 13/13』

 

 この世全ての言葉、ありとあらゆる混沌をもってしても言い表せないソレが、今目覚める。

 ここに、試合は決した。

 

「アザ・トールの効果、このカードの召喚時、又は自分のターン開始時に発動できる。相手プレイヤーはダイスをふり、出た目の数だけ相手プレイヤーのモンスターを選択し、選んだモンスターの攻撃力、体力をー99/99する」

 

 魔王の目が開かれ、敵対する者の手にダイスが現れる。

 

「出た目の数が相手モンスターの数より多い場合、相手プレイヤーの体力をー99する」

 

 手に持つダイスに、己の命運が託された。男の場には1体のモンスターのみ、6分の5の確率で男達は敗北する。

 

「どうした?1を出せば生き残れるぞ?ほら、頑張れよ」

「あ、あぁ、あああああああああああああああぁぁぁぁーー!!!!!!!」

 

 男達はダイスを放り投げる。出た目は――

 

「コールオブアビス」

 

 魔王の目が開く。

 恐怖に負けた者に、ウツロの前に立つ資格はない。男達の足元に、無数の手が忍び寄る。

 

「――深淵に沈め」

 

 深淵からの呼び声に、男達の意識は暗闇へと沈む。

 あたりを見渡すと、200人もいた数は10人ほどに減っている。

 残った者は恐怖に打ち勝ったのか、あるいはただの幸運か。

 

「へぇ、結構残ったな」

 

 生き残った敵にターンが渡るが、彼等の手に打開策は無い。

 果たして、彼らは幸運だったのだろうか?モンスターを召喚できれば、次のターンまで生き残る可能性が出てくるが、それはウツロと戦う時間が伸びると言う事。

 

「さあ、お前達のターンだ。足掻いてみせろよ」

 

 封印された都市は浮上し、魔王は目覚めた。

 勇気ある者よ、恐怖に打ち勝ち魔王に挑め。

 意思無き者よ、恐怖に犯され深淵に沈め。




今日のカード
虚無∞『白痴魔皇アザ・トール 13/13』

このカードは、このカードの効果以外では場に出す事はできない。
『超覚醒』
『海底都市ルル・イエ』が解放されている。
自分フィールドの覚醒効果を持つモンスターを含め、コストが11以上になるようにモンスターを墓地に送る事で、このカードを手札から場に出しても良い。

このカードは効果で破壊されない。

このカードの召喚時、又は自分のターン開始時に発動できる。
相手プレイヤーはサイコロを振る。出た目の数だけ相手モンスターを選択し、選択したモンスターを-99/99する。
出た目が相手モンスターの数より多い場合、相手プレイヤーの体力を-99する。
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