カードゲーム世界に転生したけど所持デッキが激ヤバすぎる件 作: 銀猫
ルルブだけ持ってるエアプです。この作品はフィーリングでお楽しみください。
勝てる筈だった。
いつものように、何も知らないガキを引き摺り込んで。こんな異常な空間で本領を発揮出来るわけがない。こいつのデッキを奪ってやるんだと男は下衆な笑みを浮かべていた。
なのに、目の前のガキは平然とバトルをしている。それどころか、こっち側ですら知らないカードを使っているじゃないか。
6属性で成り立つステラバトル。その7つ目。属性と呼ぶべきかすら分からないナニカ。
「な、んだ、なんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだそれはぁ!!!!!!」
蠢くモノ。冒涜せしモノ。深淵なるモノ。無形なるモノ。
見たことのない怪物達。対処しても対処しても溢れ出すバケモノ達に恐怖を覚える。
それを操る少年に、狂気すら感じる。
なぜ、あんなモノを使って平然としてるんだ?と。
「俺のターン、ドロー」
今にも崩れ落ちそうな男を対面にして、古守ウツロは、
「エナジーチャージ、虚無5マナ」
ゲームを楽しんでいた。
「形なき悪夢ジョコズを召喚」
『形なき悪夢ジョコズ 1/1』
黒いヘドロのようなモノが地面から湧き出る。ソレはボコボコと泡を立てて、浮遊しながら球体の形に変形するとウツロの後ろに佇む。
真っ黒な球体。ただそれだけなのに、対面する男の背に悪寒が走る。
「ジョコズの召喚時効果。このカードの召喚時、相手のモンスターを一体指定する。ジョコズのステータスは指定したモンスターの数値分アップする。暗黒の牙ガルクを指定」
『暗黒の牙ガルク 5/4』
『形なき悪夢ジョコズ 1/1→6/5』
黒い球体が泡をボコボコとたて、肥大化する。あまりに悍ましい変化の前触れ。黒の泡は形を得る。暗黒の牙を持つ狼の姿。
(割とカードだとデフォルメされてるんだよな)
ジョコズの変形を見ながらぼんやりと考える。
カードのイラストや召喚した姿は、本来の、伝承されている姿のままではない。マンガやアニメに出せそうなくらいにはキャラクターチックに見えるし、いくつかは擬人化してるものもある。普通のカードと変わらない。
実際に対面する相手以外には、だが。
「ジョコズを召喚した時、海底都市ルル・イエの効果が発動」
対戦相手の目の前にサイコロが1つ現れる。
「自分フィールドに虚無属性のモンスターを召喚した時、相手はサイコロを振るう。その出た目の数だけ、このカードに乗っているカウントを取り除く」
「う、うわぁぁ!?」
投げ捨てるようにサイコロを放る。恐怖に支配された振り手を、ダイスの神様は嘲笑う。
出た目は、6。
「致命的だな」
ルル・イエに残されたカウントは、6。
「フィールド解放、海底都市ルル・イエ」
海の底に沈んだ都市の封印が解かれた。
「海底都市ルル・イエの開放時効果。自分のデッキからエナジーゾーンに置かれているエナジーカード以下のコストを持つ虚無属性のカードを1枚、手札に加える」
深淵からの呼び声、それは旧き支配者の呼び水。現在ウツロには8枚のエナジーカードが置かれている。
山札から1枚のカードが浮かび上がり、ウツロの手に加わる。
「ルル・イエの効果。このカードが解放されている時、ゲーム中一度だけ手札の虚無属性カード1枚を選び、そのコストを0にする」
たった今、手札に加えたカードを掲げる。
カードショップでホムラの手に炎を幻視したように、カードを掲げるウツロの手もナニカを纏う。ソレは闇に似て、されど冒涜的で、あるいは玉虫色のソレ。
「黄衣の支配者ハストー」
『黄衣の支配者ハストー8/8』
ソレは名状し難いものだった。
黄色いローブに身を包んだ人型。金色の錫杖を持つ左手は確かに人の形をしているが、右の裾から伸びるのは、数本のタコのような触手が唸っている。
深く深く垂れ下がったフードからはその素顔を見ることは出来ない。
「ハストーの召喚時効果--」
黄色い風が渦巻く。
風の余波が男の肌を撫でる。触れるだけで吐いてしまいそうだと、男は口を無理やり抑える。
この空間では、召喚するモンスター達は実体を持つ。本来才能や精霊との絆が必要とされる実体化を、あの宝石は本人達の意思を無視して無理やり引き起こす。何も知らない素人にダメージを与えて心を折るための機能が、ここに来て使い手に牙を剥く。
受けるダメージのフィードバック、なんてものじゃない。あのバケモノの一挙手一投足が男の何かを削っていく感覚。
「あ、あぁ、あぁあぁぁぁーー!?」
黄色い風が男を襲う。
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「ふー!すっきり!」
バトルが終わり、暗闇の空間が解け外に出る。
紅く染まった光が一際眩しい。哀愁が似合う色合いだが、今のウツロには晴れ晴れとした青空にだって見える。
久々のバトル。それも遠慮無しでの勝負とくれば、中々に満たされた。欲を言えばもう少し相手に歯応えがあればなと、対戦相手を見る。
「 」
地面に倒れ伏す男。意識はあるが、見開く目は現実を見ていない。何かに取り憑かれたような、ナニかを失ったような。
「まあ、自業自得ということで」
男のポケットからデッキを二つ取り出す。
する気のない実体化を無理矢理させてきたのだ。これくらい痛い目を見てもしょうがないだろう。
「振る必要のないダイスを振ったお前が悪い」
何より、引いた出目が最悪だった。
致命的に失敗した男を残して帰り道へ。男が見つかるまでそう時間はかからないだろう。カード泥棒はこの世界では重罪だ。この町の警察も無能じゃない。
ただまあ、今は春。昼間は暖かいが夜は冷える。風邪を引くか引かないか、もう一度だけダイスを振ってもらおう。それくらいのバチは当たってもいい。
決して通報が面倒だとかじゃないと自分に言い訳しながら歩いていると、ぐすんぐすんと涙が落ちる音。
「少年、落とし物だぞ」
べそべそに泣く赤髪の少年に、自分も涙目になりながら励ます緑髪の少年。
2人に目線を合わせるように屈み、取り返したデッキを渡す。
それが自分達のデッキだと分かると、少年達は大きく喜んだ後、大きく頭を下げる。
「お兄ちゃんありがとう!!」
「ありがとうございます!!」
子供の純粋な感謝に、なんだか気恥ずかしくなった。照れ隠しのついでに、今日という日を、ステラバトルを始めた記念日を悲しい出来事で締めて欲しくなくて、ウツロは2枚のカードを少年達に渡す。
『赤目の蛮竜バッドザウルス』『新緑のグランドタートル』
せめて最後は幸せな記憶で。
「もう遅い時間だから、気をつけて帰れよー」
喜びはしゃぐ少年達を見送る。遠くからでもよく聞こえる二重のありがとう。満たされた気持ちでいざ自分も帰ろうと--
「ご機嫌よう、ウツロ様」
--した所で、声がかかる。
透き通るようなソプラノ声。気品のある、少しの幼さを残した声音。
「久しぶり、天之河」
純白のドレスに身を包んだ、硝子細工のように儚げなアルビノの少女。天之河ヒカリ。
超大企業、天の川グループの一人娘にして、おそらくメインキャラの1人。
「また、使われたのですね」
ヒカリはウツロの上着、デッキの入っている場所に意味ありげな視線を向ける。
「まあ、な」
彼女には、デッキの事がバレている。
去年の夏頃、彼女を中心として起こった大事件。特殊な体質故長いこと眠りについていたヒカリを、大企業の力を使い組織と手を組んでまで治そうとした彼女の父。多くのバトラーを巻き込んだ一件で、ウツロとヒカリはバトルをした。
それも、先ほどのような特殊なフィールドで。
「私、諦めておりませんから」
あの戦い以降、何かと接触してくる彼女。
幻想的で儚げな容姿。それと裏腹な、確かに芯を感じさせる決意を秘めた瞳。
「きっと、解放してみせます。貴方を」
それだけ言い残すと、側に仕えていた老執事に連れられ、いかにもな高級車で帰って行った。
残されたウツロは、
「……ま、帰るか!」
何もなかった事にして家に帰る。
きっと明日の自分が解決してるだろうと信じて。
今日のカード
『海底都市ルル・イエ』フィールドカード
解放条件:自分のターン中、このカードに乗っているカウンターが0の場合。
ゲーム開始時、このカードにカウンターを99乗せる。
自分フィールドに虚無属性のモンスターが出た時、又は虚無属性のモンスターが相手プレイヤーにダメージを与えた時、相手プレイヤーはダイスを一度振るう。その出た目と同じ数のカウンターを、このカードの上から取り除く。
このカードのカウンターが0の場合、相手プレイヤーのエナジーカードを出た目と同じ枚数裏向きに出来る。
(裏向きのエナジーは使用可能だが属性は生まない。エナジーチャージの時、プレイヤーは新たにエナジーカードを置くか、置く代わりに裏向きのエナジーを1枚表向きにする事ができる。)
フィールド解放時、自分の山札からエナジーゾーンに置いてあるエナジーの数以下のコストを持つ虚無属性のカードを一枚手札に加えてもよい。
このフィールドが解放している時、ゲーム中に一度手札の虚無属性カード一枚のコストを0にする。