カードゲーム世界に転生したけど所持デッキが激ヤバすぎる件   作: 銀猫

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出会いとトラブルはいつも突然に

 今更になるが、この世界は結構治安が悪い。

 実在するオカルト。オカルトにまつわる事件の数々。世界的人気故に発生するカード強盗諸々。カードゲームが覇権を取った結果、カード一枚に命をかける馬鹿どもが沢山。

 なにやら謎の組織も暗躍しているし、それを捜査する秘密警察的な存在もいるらしい。

 

「カード1枚で世界が滅びかけるんだ。そりゃこんな馬鹿も増えるか」

 

 はぁ、とため息をつきながら、気絶した男の足をズルズルと引きずり移動させる。

 目指す場所は公園の隅っこ。太陽は落ち、薄暗い月が照らす光では、あまり見えない影。ぽつんと立つ一本の街灯ではカバーしきれない光の死角。そこに男を放り投げる。

 

「ふぅ」

 

 やりきった、とウツロは息を吐き放り投げた男を見る。そこには男の他にも10人を超える別の男達がぐったりと横になっていた。

 見るからに事件性の塊。死体にすら見えるが、全員外傷もなくただ気絶しているだけのようだ。

 

「まったく、アイス溶けちゃったよ」

 

 ベンチに置いてあったビニール袋を開け、中からアイスのパッケージを取り出す。買ってから1時間以上外に放置されたアイスは、固形から液体へと完全に変形していた。いくら夜といえど、暖かくなった春にはかなわなかったらしい。

 

「はぁ……、どうすっかなぁ……」

 

 アイスをビニール袋に戻し、ベンチに腰をつけると大きくため息を吐く。

 もう一度コンビニに買いに戻るのも疲れて億劫だが、このまま帰ったらただ疲れただけだ。せめて買ったアイスがカップの物ならよかったが、今回買ったのはアイスとかき氷の二層で出来た棒付きアイスのガキガキ君。冷凍庫に入れても別物にしかならない。

 かといってもう一度コンビニに行くには面倒が勝つ。それもこれも全部、

 

「最近多いんだよなぁ、こういった連中」

 

 男達を放置した公園の隅を見る。

 コンビニでアイスを買い、家までの帰り道。近道だからと公園を横切ろうとした所、公園にたむろしていた男達に囲まれた。どうやらアングラな一団のようで、全員が例の隔離結界の宝石持ちときた。

 

 まあ全員返り討ちにしたのだが。

 それにしても最近こういう輩が多いんだよなぁ、とウツロはウンウンと頭を悩ませる。今月に入ってからやたらと絡まれているのだ。バトルできるのは嬉しいが、流石に時間を考えてほしい。

 春は不審者が増えると言うが、本当みたいだ。

 

 ーーこれはウツロの知らない事だが、最近カードを奪う犯罪組織が大量に現れた。彼等はレアカードではなく、精霊の宿ったカードを狙っている。そして彼等は独自にカードが持つパワーを探知するセンサーを開発し、より効率的に精霊のカードを狩り始めた。

 勿論精霊のカードを持つバトラー達もこれを把握、全員が一丸となって対処に臨んでいるが、コミュニティから距離を置いているウツロはその事を知らない。

 さらに、どうやら連中はより巨大パワーを持つカードを狙っているようで、力が強ければ強いほど狙われやすいらしい。

 

「こりゃ、またなんか始まりそうだな」

 

 既に色々巻き込まれている事を露知らず、ベンチから立ち上がる。

 目的地はコンビニ。溶けたアイスの代わりを買うべく、歩き出す。

 

「Stop。そこのお前」

 

 二歩三歩、と歩き出した所で後ろから抑止の声。

 また絡まれたのか、と嫌々ながら後ろを向く。そこで目に入ったのは、眩く輝いているような女性だった。

 

 メリハリの付いた体にスラッと長い足。美しい肢体を見せつけるようにローライズの短パンに臍だしファッション。

 派手な服装だが、それ以上に目を奪われるのは、まるで光に照らされたように輝いて見えるショートカットのプラチナブロンドとサファイアのような蒼い瞳。

 公園の一角。薄暗く街灯が一本だけ。公園の寂れた一角が、酷く煌びやかに彩られる。薄暗いはずなのに、そこにだけ綺羅星が落ちてきたような輝き。酷く夜が似合う女がそこにはいた。

 

「えっと」

 

 カツカツと、ブーツが地面を蹴る。

 派手な服装、だが、いくつか似合わないアイテムがある。ネオン煌めく繁華街が似合いそうな彼女だが、そんな彼女の肩には紺色の上着が羽織られている。

 はためく袖には、腕章のようなものがついており、どこか重たい雰囲気を持つ。彼女の着ている服と、袖を通さず肩に羽織っている上着とではあまりに印象が違いすぎた。手に持っているアタッシュケースもそれを助長させる。

 

「ここで何してた」

「特になにも。ただコンビニの帰りで」

 

 手に持っていたコンビニ袋をかかげる。

 

「……なるほど」

 

 それを見てウツロの言葉に納得したのか、彼女の纏っている雰囲気が少し和らいだ気がした。

 

「先程この辺りで不審者の集団の目撃情報があった。何かそれっぽいものを見かけたか?」

 

 彼女の問いに、ドキリと心臓が跳ねる。

 その集団なら今し方公園の隅に固めて放り投げておきました。なんて正直に言えるわけもなく。

 

「いやー、みてないっすね」

 

 動揺を顔に出さないように、咄嗟の嘘で誤魔化しておく。

 

「OK、ならさっさとここから離れるぞ」

 

 特に疑う事もなく信じてくれたようで、彼女は追求もなくあっさりと切り上げ、ここから移動しようと提案する。

 あまりに堂々とした姿。慣れた手つきからしてもただものではないらしい。彼女の正体が気になって今度はこちらから質問をかけようとした所。

 

「見つけたぜ」

 

 まったく別の第三者の声が場を支配した。

 

「てめえらか。うちのやつらノシたの」

「ah?何言ってんだお前ーー」

「おかげで大赤字だクソ野郎。だからさぁ」

 

 怪訝な顔で男をみる彼女だったが、男が取り出した物を見て表情を一変させる。

 

「貴様…!」

「損失、取り返させてもらおうか」

 

 男がかかげたのは黒い宝石。溢れ出る闇が3人を包み込み、黒い結界で外界と隔離される。

 

「先に俺に狩られるのはどっちだ?あぁ?」

 

 結界に取り込んだ時点で勝ちを確信した男は、ニタニタと笑いながらデッキを取り出す。この闇の重圧の中では、大抵のバトラーは恐怖に負けてまともにバトルできないはずだ。

 

(まずいな)

 

 既に10人以上倒した後だから疲労が、なんてことではなく。ただ巻き込まれたこの女性にバトルを見せるのがまずい。

 ただの立体映像なら問題ないが、ここは強制的にモンスターを実体化させてしまう。ウツロの実体化したモンスターを見せては何が起こるかわからないし、一般人では精神に異常をきたす可能性が大いにある。

 

 だが、目の前の相手を倒さなければならないのも確かな事で、

 

「下がっていろ」

 

 あーだこーだと葛藤していると、ウツロを庇うように彼女が前へ出る。

 

「ちょっ」

「安心しろ、オレはプロだからな」

 

 彼女はデッキを取り出し男と相対する。

 

「おいおい、良いのかよ守ってもらわなくて?泣いて土下座でもすりゃ少しは優しくしてやっても良いんだぜぇ?」

 

 下衆な笑みを浮かべる男に、彼女はため息を一つ落とした後呆れた顔で男を睨みつける。

 

「まったく、馬鹿なやつだ。狩られる立場がどっちか分かってねえ」

 

 彼女が持っていたアタッシュケース。その取手についていたボタンを押す。すると、アタッシュケースからモーターの駆動音が鳴り響き、白い光が放たれた。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 男が驚く。

 白い光が闇を塗りつぶし、重くのしかかっていた闇の重圧が嘘のように消えた。

 

「自己紹介といこうか」

 

 彼女が取り出し、掲げたのは何かの手帳。それについている紋章を見せつける。

 それを見た男は目を丸くし、口をわなわなと歪ませた。

 

「お、お前、まさか!?」

「そのまさかさ」

 

 動揺を隠せない男に、彼女はニヤリと笑う。

 

「オレは国際警察特務事象対策課。マリア・ヘルメス。お前達を狩る者だよ」

 

 マリアと名乗った女性はデッキをフィールドにセットする。

 

「フィールドセット、ダイスオブハート」

 

 国際警察が開発した、闇の結界の対策。

 結界を内側から塗りつぶし、主導権を奪う。結界の無力化に重きを置いた対闇の組織用決戦兵器だ。闇の結晶と違い結界を張る力はないが、闇の結界を無力化、モンスターの実体化効果を消し去り対戦相手を逃さない事に特化させる効果を持つ。

 

「クソ!クソ!クソ!!フィールドセットォ!!暗黒樹林!!!!」

 

 もはやヤケクソでフィールドをセットする。2人の戦いが成立した。

 

「オレのターン、エナジーをチャージしてターンエンド」

「俺のターン!エナジーチャージ!大地1エナジー!トリプルホーンを召喚!ターンエンドだ」

『トリプルホーン 1/2』

「オレのターンだ、ドローフェイズ」

 

 マリアがデッキの上に手を置き、高らかに宣言する。

 

「フィールド、ダイスオブハートの効果!ダイスオブハートの効果以外でオレがデッキからカードをドローする時、カード名を宣言する。オレは手品師アビーを宣言!!」

 

 マリアがデッキから一枚ドローし、引いたカードを公開する。

 

「宣言後、ドローしたカードをお互いに公開する。公開したカードが宣言したカードではない場合、プレイヤーは1ダメージを受ける」

 

 公開したカードは、手品師アビー。マリアが宣言したカードだ。

 

「公開したカードが宣言したカードだった場合、オレは追加でカードを1枚ドローできる!ドロー!そしてエナジーチャージ。水2エナジーを払い、手品師アビーを召喚!」

『手品師アビー 1/1』

 

 カードをドローする時、そのカードを当てる事が出来れば追加で1枚ドロー。当てる事が出来なければダメージを受け、尚且つ手札の内が把握され続ける。まさにハイリスクハイリターン。

 

(な、なんてギャンブルデッキ……!)

 

 国際警察所属なんてお堅い肩書きを持ちながら、バチバチなファッションを着こなし使うデッキはギャンブルデッキ。どうやらマリアはとんでもなく破天荒な性格のようだ。

 ウツロは静かにドン引きしていた。




今日のカード
『ダイスオブハート』フィールドカード
解放条件:このカードの効果で10枚以上カードをドローしている場合。
このカードのプレイヤーがこのカードの効果以外でデッキからカードを引く時、引くカード1枚につきカード名を1つ宣言する。宣言後、カードを引きそのカードをお互いに公開する。
公開したカードが宣言したカードでない場合、自分は引いたカード1枚につき1ダメージを受ける。
公開したカードが宣言したカードであった場合、デッキからカードを1枚ドローできる
フィールド解放時、デッキの上からカードを2枚見る。その後、1枚を手札に加え、残りのカードをデッキの一番上に置く。
このフィールドが解放されている場合、このカードの効果でカードを引いた時、相手プレイヤーに1ダメージを与える。

水2エナジー「手品師アビー」1/1
このカードが破壊された時、デッキの上からカードを1枚確認する。その後、そのカードをデッキの上か下に置く。
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